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9話 舞踏会②

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ダン様は視線を、私から外さずにツカツカと足音を立てながらこちらに歩いて向かってきている。

「あら?ダン様はこちらに向いて歩いてきてるわね?私達の他に誰かいるのかしら?」

 フローラは不思議そうに言ってキョロキョロと周りを見た。

「フローラじゃない?だって貴方、有力候補の一人でしょ?」

 マリアはダン様には興味ないらしくジュースのグラスを持った。

「まさか!候補は御姉様達よ!冗談じゃないわ!もしそうならヤバいわ!誘われたりしたら御姉様達に何を言われるか分からない!!」

 フローラは顔を真っ青にしている。

 周りも窓際辺りに向かっているダン様を見てザワザワとし始めていた。

 私達の所まであと2メートル程まで近づいた時にスッとダン様の行く手に立ちはだかる人がいた。

 それは皇太子の妹君のエンジェレ様だった。

「あらアンドリエ公爵はどこに行かれるのかしら?」

 ダン様はエンジェレ様を見ると一瞬眉間に皺を寄せたが直ぐに元の無表情に戻った。

「お兄様との踊りが終わったら、アンドリエ公爵が踊りのお誘いにくると思って待ってましたのに来ないんですもの、痺れを切らして探しきましたわ。」

 エンジェレ様はニッコリと笑って手をダン様の腕に絡ませた。·······。
エンジェレ様は嬉しいそうにダン様に豊満と言っていい胸を腕に押し付けいる。

「エンジェレ様ね·····ダン様に好意を持っているのかいつもあんな感じだわ。エンジェレ様が出てきたら他のご令嬢もただ黙って見てるだけね。まあ、エンジェレ様が居なくなった途端にまたダン様に群がるんだけど。」

 フローラは呆れたように目の前の光景を見て言った。

 やはりダン様はモテモテなんですわ。ダン様は美形、エンジェレ様はきれいな顔立ちをしていて背も高く、背の高いダン様と並んでもちょうどいい感じだ。すごくお似合いだわ!

 その当事者のダン様は少し間を置いてエンジェレ様が腕に絡ませていた手を手解ほどき、いきなりお辞儀をした。そして後ろを向き、自分の後ろにいた、ニヤニヤした顔をしたカールマイヤー様の襟首を掴み、ズルズルと引きずるようにしてエンジェレ様の前に立たせた。

 「???」
 カールマイヤー様は訳が分からない顔している。
 当然でしょう。いきなりエンジェレ様の所に連れて来られたのだから。

 そしてダン様が口を開いた。

「エンジェレ様、嬉しいお言葉ですが私は公爵の身です。他の人よりも先にエンジェレ様のお相手には相応しくないと思います。やはりエンジェレ様のお相手は身分相応の大公爵であるラドリクス大公爵の方が相応しいと存じます。」

 その言葉に、エンジェレ様もカールマイヤー様はポカーン。

 ですが、カールマイヤー様は気を取り戻し対応した。

 キザったらしく、片足を床に突き左手を胸に当て右手はエンジェレ様の方に差しのべた。

「エンジェレ様、ただいまアンドリエ公爵に言わるまで気づかずに申し訳ございません。ぜひわたくし、カールマイヤー・ダリス・ラドリクスと踊っていただけませんか?」

 まあ!!物語の王子様みたいですわ!

「くさっ!!」

 ご令嬢らしからぬ言葉がマリアの口からこぼれたのは聞かなかったことにする。それにウンウンと頷いているフローラ。

 実はその「くさい」言葉に少し憧れてるのは内緒ですわ!

 エンジェレ様もさすがに英雄であり、ダン様より身分の上の者に誘われたら断れない。

 エンジェレ様は顔を引きつらせながら笑顔で

「よろしくてよ。」

 と踊りの申し込みを受け入れ、カールマイヤー様の手を取った。

 カールマイヤー様は笑顔でエンジェレ様をエスコートし、ダンスホーへと向かう。その際にダン様とすれ違う時に耳に何か言って去っていった。

 耳打ちされたダン様は一瞬嫌な顔をしたが、気を取り直したようで視線をこちらに向け再びこちらに向かって歩きだした。

 そして私の目の前にダン様が立つ。

 すると固唾を飲んで見ていた周りがまたザワザワとしだした。

「あら?ミチルダ目当て?」
「びっくりね!さすがはダン様!やはりミチルダの良さが分かるのね!」
「でも一直線にきたわ。何でミチルダのこと知っているのかしら?ミチルダは舞踏会とか参加したことないはずなのに。」

 などと、隣でフローラとマリアがヒソヒソと話しをしているのが聞こえた。

 ダン様はフローラやマリアに踊りを申し込みに来たのではないの?

 私に何か用事でもあるのかしら?

 ダン様は黙って手を差し出した。

「???」

 何かしら?
 もしかして!クールミパンを気に入ってくれて欲しいとか?でも今日はクールミパンは持ってないですわ。どうしよう·····

 などと考えていたら

「ダン、それではミチルダはわからん。」

 いつの間にか少し息が上がっているケージーお兄様が来ていた。

 そして「遅かったか······」と、ボソリと呟いた。

 ダン様は一回深呼吸して言葉を発した。

「·······ミチルダ·····私と踊っていただけませんか?」

「え······?」

 ダン様から踊りのお誘い?私が??

 私はあまりの出来事で驚いて身体が固まってしまった。

 どうしよう······踊りなんて学校の授業でしかしたことないわ·····。しかもワルツだけ。それも上手く踊れずいつも居残り練習をしていたほどの下手くそぶりだ。

 本来なら貴族は舞踏会とかの為に小さい時から踊りを習うのが普通ですが、何せルカーサー男爵家は貧乏貴族なので習うことも出来ず。ケージーお兄様の先の戦争での活躍で多少の資金の余裕はできたから、ケージーお兄様が習い事をするか?と聞かれたけれど将来の為に残すべきと考え断ったのだ。
 もともと、大勢の集まる所は苦手なので舞踏会やお茶会もあまり参加するつもりもなかったのもある。それにお誘いなんか来ないだろうと思っていた。

 今になってやはりあの時ケージーお兄様の言葉に甘えて踊りは習うべきだったと少し後悔した。

「ダン、ミチルダは多分踊りが下手くそだぞ?」

 ケージーお兄様よくご存知で·····。多分ではないです。すごく下手くそですわ。

「ダン様、ケージーお兄様の言う通り踊りはできなんです。しかも踊れてもワルツしか踊れないのです。きっと私と踊っても迷惑をおかけするだけだと思います。」

 私は必死で言ったが、ダン様は首を振り

「大丈夫だ」

 と言ってお誘いの手を下ろしてくれません。

「私なんかはダン様と踊るのには·····「そんなこと言うな!」」

 突然、ダン様は私の言葉を遮り大きな声を出した。
 思わず身体がビクッとなってしまった。

 それを見てダン様は少し目を反らして謝ってきた。

「急に大きな声を出してすまない。自分を卑下にするようなことを言うな。それに踊りが苦手な人はいる。次がワルツだから一緒に踊ろう。」

 ダン様は私の右手を握ってきて、ダンスホールへ向かおうとしたら

「おい、ダン。」

 ケージーお兄様がダン様の肩を持ち、引き止めてきた。
 ケージーお兄様は怒ったような顔している。少し雰囲気がピリッとした。
 ダン様は静かにケージーお兄様に向かって言った。

「·······無理矢理ではない·····。」

 ケージーお兄様は目を細めた。(元々細い目だから正直目を瞑っている感じしか見えない)

「そうか?無理矢理ミチルダの手を取ったように見えたが。ミチルダはどうだ?ダンと踊ってもいいのか?」

 今度は私の方に聞いてきた。

 私は·····正直、踊りに自信はないけれど大丈夫だと言っていただいたし、下手くそな私をリードしてくださるに違いないわ。きっと誰も私を誘わないだろうから可哀想だと思ってお誘い下さったのだわ。

 それに私に付き合って側にいるフローラやマリアにも悪いし。

「はい。ケージーお兄様、無理矢理ではないですわ。」

 ケージーお兄様は少し驚いた顔したが「分かった。それならいい。」と言ってダン様の肩から手を除けた。

 ダン様も私の言葉に安心したような顔して、そのままダンスホールへと私を連れて行った。

 上手く踊れますように!ダン様に恥を欠かせませんように!
 と私の祈りと伴に·······。





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