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4話 クールミパン
しおりを挟む彼は差し出したパンを見て驚いていた。
そして私の顔をじっと見る。
「······このパンは·····」
「お気になさらないで。お兄様におやつにと焼いてきたパンですの。中にクールミの実が入ってますの。お口に合えばいいのですど·····。家族には美味しいと評判なので味は大丈夫だと思いますわ。」
パン作りは私の得意料理の一つだった。
男爵家でも、どちらかというと貧乏だったのでお抱えの料理人も居ない。その為、メイドが料理も行っていた。私は料理というものに興味を持ち、小さい頃からメイドと一緒に料理をしていた。
だから大概の料理は出来る。
彼は袋からパンを出し、じっと見つめてパクりと齧じった。
「旨いな······。」
彼は一言呟き、パンをバクバクと食べてた。
その姿を見て良かったと思い、言いかけていたことの続きを話した。
「すみませんが、高等部の校舎の行き方を教えていただけませんか?実は迷子になってしまったんです。」
もう13歳なのに迷子になるなんて恥ずかしいですが······。
彼はパンを齧りながら聞いてくる。
「何をしに高等部へ?」
「兄がいるのです。兄がお弁当を忘れて行ったので届けにきたのですが·····。」
「兄?」
彼はピクリと反応し、パンを食べるのを止めた。
「はい。ご存知でしょうか?ケージー・ハン・ルカーサーと申す者です。」
「ケージー?ケージーの妹なのか!?」
彼はまたもや驚いたように聞いてくる。
「はい。兄をご存知ですか?」
私がそういうと彼は私を凝視してくる。
???
どうなさったのでしょう?
「ケージーの妹·····ならあのときの······」
美青年がボソッと何かを言ったと思ったらいきなり私の右手を掴んできた。
「え?」
私は驚いて身を引いたけれど、がっちりと右手を掴まれていて後ろに下がれなかった。
美青年は私から視線を全然逸らすこともなく、掴んでいる手を離さない。
私、何かしたのかしら······。
色々と失礼なことをしていないか考えたけれど、寝ているのをお邪魔したことした思い浮かばない。
でもちゃんと謝ったわ······。
あっ!まだ名前を名乗っていませんでしたわ!
私は慌てて
「私の名前はミチ······「ミチルダ!!」」
私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
声がする方を見ると、ケージーお兄様が走ってこちらに向かっているのが見えた。
すると美青年が掴んでいた手を離した。
ケージーお兄様は余程急いで来たのかハアハアと肩を上下に動かしながら私の所まできて青い顔して私の両肩をガシッと持ち
「ミチルダ!なかなか来ないから心配したぞ!」
「ごめんなさい。途中で道が分からなくて迷ってしまったみたいで·····少し怖かったですわ。」
私は兄の姿を見て安心したのか涙がボロボロとでてきた。
ケージーお兄様はそんな私を優しく抱きしめて落ち着くまで頭を撫でてくれた。
兄は私の頭を撫でながら、こちらを見ていた美青年に話しかけた。
「ダン、こんな所にいたのか。授業をサボって何にしてだよ?」
ん?ダン?
「先生達が探してたぞ。早く教室に行け。全く·····いくら先生よりも出来るからってサボるのは良くないぞ。おい!聞いてるのか!ダン!」
やっぱり!ケージーお兄様がダンって言ってるわ!ダンって、あのダン様!?
私は顔を上げて美青年の彼を見る。
彼は私と目が合うとプイッと横を向き視線を逸らした。
「ケージーお兄様、ダンって·····」
「うん?ああ、そこにいるのがダン・フィン・アンドリエだ。我が国の英雄だ。」
ケージーお兄様はニヤリとした。
ダン様は嫌そうな顔をしている。
「ケージー、その呼び方は辞めろ。」
「本当じゃないか。」
「········。」
私は驚きで身体が固まったように動かなかった。
この方がダン様·····。長髪の銀髪でサラサラしていて真っ直ぐに伸びている。切れ長のくっきり二重瞼で深い碧色の瞳。何とも羨ましい顔をしている。格好いいと言うより綺麗な感じだ。
身体も思ったより細身で驚いた。ケージーお兄様はがっちりしているので、てっきりケージーお兄様のようにがっちりしていると思っていた。
私がダン様を凝視していると、ケージーお兄様は変な勘違いをした。
「ダン·····もしかしてうちの妹を·····」
「ケージーお兄様!違いますわ!変な勘違いは止めてください!」
「そ、そうか?あっ!」
ケージーお兄様はダン様の食べていたクールミパンを指を指した。
「それはミチルダ特製のクールミパンじゃないか!!何故ダンが食べているんだ!?」
そういうとケージーお兄様はダン様からパンと袋を引ったくった。
ケージーお兄様·······。
ケージーお兄様はクールミパンが大好きだった。
◆□◆□◆▷◆▷◆□◆□◆▷◆□◆□◆▷◆□
「ダン!ミチルダを門まで送ったら迎えにくるからそこを動くなよ!分かったな!」
「分かった。」
ダン様は返事をするとまた芝生の上に寝転んだ。
私はタッタッタとダン様のそばへ行き、自分が羽織っていたストールをダン様に掛けた。
「ダン様、木陰は少し寒いですわ。横になられるのでしたら風邪を引いてはいけませんから、こちらをお掛けになってくださいませ。」
私はニッコリとして、先ほどケージーお兄様が大人げなく奪い取ったクールミパンが入った袋を横に置いた。
「これもよろしければ後で食べくださいませ。」
「·····だがそれはケージーのだろう?」
「そのつもりでしたが、ダン様にお渡ししたのですから遠慮なく食べてください。ケージーお兄様にはまた焼きますから。」
ダン様は起き上がりお礼を言ってくれた。
「ありがとう······。」
無表情でしたが目が少し優しい感じになっていた気がした。
「あっ!」
そしてダン様はまたいきなり手を握ってきて、綺麗な瞳で私をじっと見つめてきた。
綺麗な方に見つめられると、何かドキドキします。
しかも視線が逸らせないわ。
だが不意に視界が変わった。
ヒョイッとケージーお兄様に抱き上げられたのです。
「はーい、終わり!ミチルダ行くぞ。」
私は抱き上げられた状態で門まで送って貰ったが、後ろを振り向くと、私達が見えなくなるまでダン様はこちらをずっと見ていた。
初めてお会いした英雄は噂通りの美青年だった。
凄いオーラも出ていて威圧感も凄かった。無表情というか不機嫌そうな顔していたから少し怖かったけれど。
そう、初めてお会いしたと思っていたのけれど······ケージーお兄様の一言に驚愕したのだ。
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