上 下
4 / 29

4話 クールミパン

しおりを挟む
 
 彼は差し出したパンを見て驚いていた。
 そして私の顔をじっと見る。

「······このパンは·····」

「お気になさらないで。お兄様におやつにと焼いてきたパンですの。中にクールミの実が入ってますの。お口に合えばいいのですど·····。家族には美味しいと評判なので味は大丈夫だと思いますわ。」

 パン作りは私の得意料理の一つだった。

 男爵家でも、どちらかというと貧乏だったのでお抱えの料理人も居ない。その為、メイドが料理も行っていた。私は料理というものに興味を持ち、小さい頃からメイドと一緒に料理をしていた。
 だから大概の料理は出来る。


 彼は袋からパンを出し、じっと見つめてパクりとじった。

「旨いな······。」

 彼は一言呟き、パンをバクバクと食べてた。

 その姿を見て良かったと思い、言いかけていたことの続きを話した。

「すみませんが、高等部の校舎の行き方を教えていただけませんか?実は迷子になってしまったんです。」

 もう13歳なのに迷子になるなんて恥ずかしいですが······。

 彼はパンをかじりながら聞いてくる。

「何をしに高等部へ?」

「兄がいるのです。兄がお弁当を忘れて行ったので届けにきたのですが·····。」

「兄?」

 彼はピクリと反応し、パンを食べるのを止めた。

「はい。ご存知でしょうか?ケージー・ハン・ルカーサーと申す者です。」

「ケージー?ケージーの妹なのか!?」

 彼はまたもや驚いたように聞いてくる。

「はい。兄をご存知ですか?」

 私がそういうと彼は私を凝視してくる。

 ???

 どうなさったのでしょう?

 「ケージーの妹·····ならあのときの······」

 美青年がボソッと何かを言ったと思ったらいきなり私の右手を掴んできた。

 「え?」

 私は驚いて身を引いたけれど、がっちりと右手を掴まれていて後ろに下がれなかった。
 美青年は私から視線を全然らすこともなく、掴んでいる手を離さない。

 私、何かしたのかしら······。

 色々と失礼なことをしていないか考えたけれど、寝ているのをお邪魔したことした思い浮かばない。

 でもちゃんと謝ったわ······。

 あっ!まだ名前を名乗っていませんでしたわ!


 私は慌てて

「私の名前はミチ······「ミチルダ!!」」

 私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 声がする方を見ると、ケージーお兄様が走ってこちらに向かっているのが見えた。
 すると美青年が掴んでいた手を離した。

 ケージーお兄様は余程急いで来たのかハアハアと肩を上下に動かしながら私の所まできて青い顔して私の両肩をガシッと持ち

「ミチルダ!なかなか来ないから心配したぞ!」

「ごめんなさい。途中で道が分からなくて迷ってしまったみたいで·····少し怖かったですわ。」

 私は兄の姿を見て安心したのか涙がボロボロとでてきた。
 ケージーお兄様はそんな私を優しく抱きしめて落ち着くまで頭を撫でてくれた。
 兄は私の頭を撫でながら、こちらを見ていた美青年に話しかけた。

「ダン、こんな所にいたのか。授業をサボって何にしてだよ?」

 ん?ダン?

「先生達が探してたぞ。早く教室に行け。全く·····いくら先生よりも出来るからってサボるのは良くないぞ。おい!聞いてるのか!ダン!」

 やっぱり!ケージーお兄様がダンって言ってるわ!ダンって、あのダン様!?

 私は顔を上げて美青年の彼を見る。
 彼は私と目が合うとプイッと横を向き視線をらした。

「ケージーお兄様、ダンって·····」

「うん?ああ、そこにいるのがダン・フィン・アンドリエだ。我が国の英雄だ。」

 ケージーお兄様はニヤリとした。
 ダン様は嫌そうな顔をしている。

「ケージー、その呼び方は辞めろ。」

「本当じゃないか。」

「········。」

 私は驚きで身体が固まったように動かなかった。
 この方がダン様·····。長髪の銀髪でサラサラしていて真っ直ぐに伸びている。切れ長のくっきり二重瞼で深い碧色の瞳。何とも羨ましい顔をしている。格好いいと言うより綺麗な感じだ。
 身体も思ったより細身で驚いた。ケージーお兄様はがっちりしているので、てっきりケージーお兄様のようにがっちりしていると思っていた。

 私がダン様を凝視していると、ケージーお兄様は変な勘違いをした。

「ダン·····もしかしてうちの妹を·····」

「ケージーお兄様!違いますわ!変な勘違いは止めてください!」

「そ、そうか?あっ!」

 ケージーお兄様はダン様の食べていたクールミパンを指を指した。

「それはミチルダ特製のクールミパンじゃないか!!何故ダンが食べているんだ!?」

 そういうとケージーお兄様はダン様からパンと袋を引ったくった。

 ケージーお兄様·······。

 ケージーお兄様はクールミパンが大好きだった。




 ◆□◆□◆▷◆▷◆□◆□◆▷◆□◆□◆▷◆□


「ダン!ミチルダを門まで送ったら迎えにくるからそこを動くなよ!分かったな!」

「分かった。」

 ダン様は返事をするとまた芝生の上に寝転んだ。

 私はタッタッタとダン様のそばへ行き、自分が羽織っていたストールをダン様に掛けた。

「ダン様、木陰は少し寒いですわ。横になられるのでしたら風邪を引いてはいけませんから、こちらをお掛けになってくださいませ。」

 私はニッコリとして、先ほどケージーお兄様が大人げなく奪い取ったクールミパンが入った袋を横に置いた。

「これもよろしければ後で食べくださいませ。」

「·····だがそれはケージーのだろう?」

「そのつもりでしたが、ダン様にお渡ししたのですから遠慮なく食べてください。ケージーお兄様にはまた焼きますから。」

 ダン様は起き上がりお礼を言ってくれた。

「ありがとう······。」

 無表情でしたが目が少し優しい感じになっていた気がした。

「あっ!」

 そしてダン様はまたいきなり手を握ってきて、綺麗な瞳で私をじっと見つめてきた。

 綺麗な方に見つめられると、何かドキドキします。
 しかも視線がらせないわ。

 だが不意に視界が変わった。
 ヒョイッとケージーお兄様に抱き上げられたのです。

「はーい、終わり!ミチルダ行くぞ。」

 私は抱き上げられた状態で門まで送って貰ったが、後ろを振り向くと、私達が見えなくなるまでダン様はこちらをずっと見ていた。

 初めてお会いした英雄は噂通りの美青年だった。
 凄いオーラも出ていて威圧感も凄かった。無表情というか不機嫌そうな顔していたから少し怖かったけれど。

 そう、初めてお会いしたと思っていたのけれど······ケージーお兄様の一言に驚愕したのだ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...