83 / 99
3章、ハッピーエンドは譲れない。
番外編 Dom/Sub+分裂=謎プレイ!(1)
しおりを挟む
これは、とある平穏な日の混沌としたプレイの記録。
ことの発端は、マッドサイエンティストな兎のお兄さん泰然だ。だいたい変なプレイの原因はこのお兄さんだ。お約束と言ってもいい。
「先日、音繰様が刺激的な異世界話をしてくださったではありませんか? ほら、ドムサブユニバース……という」
泰然が兎耳をぴょこりとさせて術を紡ぐ。
「開発してみました」
「『疯狂』!」
「泰然!」
二人分の声が揃う中、問答無用で術が人体を変容させていく――音繰が湊経由で知ったもう一つの流行バース――『DOM/SUBユニバース』のバースへと。
「お楽しみください~」
ひらひらと手を振り、泰然はさっさと退散してしまった。
「あの男は一度懲らしめてやった方がよいのでは……ところで今回の術はどのようなものなのか」
憂炎が拳を握ってわなわなと震えていると、扉の隙間からお茶を差し入れにきた更夜が解説書を渡してくれる。
おんぶ紐で胸の辺りに赤子を抱えた更夜は、手渡す一瞬威圧するように憂炎を睨みつけた。
「緋家の当主殿がヘタレだからランが気を利かせて楽しいプレイの手伝いをしてやろうというのに、何がご不満なのか」
「へ……っ、ヘタレというな! 私とて音繰を悦ばせるために日々努力をしている!」
「ほう。どんな?」
「複数人プレイを嗜んでいた音繰を満足させるために自分を二人に分裂させる術を研究開発したり……」
(なんかすごいことを言っている)
音繰はそっと狼耳を伏せて聞かなかったことにした。
「ならば成果を見せてみろ」
「おお……」
(あっ、やる気にさせられてる)
単純だ。単純ヘタレワンコだ。
(でもそんな君が私は好きだよ)
ここにバカップルがいた。
パタンと扉が閉まり、居住いを正した憂炎が床に正座している。
「私がSUBだから、私が座るんじゃないかな」
音繰はそっと意見を呈した。
「ふむ……」
憂炎が解説書を手に頭をかしげる。
男女の性とは異なる性(Dom、Sub)。
DomはSubに対して命令をして、Subは命令を遂行する。それがプレイだ。
Domは命令をして言いなりにさせることで気持ち良くなり、Subは命令してもらって言いなりになることで気持ち良くなる。
そんなウィンウィンの関係がDomとSubらしい。
「お師……音繰」
「うん、何かな?」
「私はヘタレではない」
「あっ。気にしてたんだ……」
音繰は試しに解説書の命令をひとつ指差した。
「憂炎、これを命令してみてくれないかな?」
期待にワクワクと尻尾が騒いでしまう。
生まれながら尚山魔教の後継であった音繰は、当然ながら命令されるより命令する側の人間だ。
(私が憂炎に命令されるなんて過去の私だったら許さなかっただろうな)
けれど、今は――、
(術の影響もあるだろうけど……とても命令されたいっ……!)
期待に鼓動を高鳴らせていると、憂炎がぎこちなく命令をしてくれる。
「お……《お座り》だ、音繰」
「――!!」
へたりと床に膝を折り、お座りする音繰の頬が高揚にほわほわと上気する。
同時に、それを見た憂炎も目を見開いて胸元を押さえた。
「……、め、命令された。きゅんってなった」
「お、音繰が私の言いなりに……か……可愛い……」
二人はそれぞれ未知の悦びを感じて、同じリズムで尻尾をパタパタとはしゃがせたのだった。
ことの発端は、マッドサイエンティストな兎のお兄さん泰然だ。だいたい変なプレイの原因はこのお兄さんだ。お約束と言ってもいい。
「先日、音繰様が刺激的な異世界話をしてくださったではありませんか? ほら、ドムサブユニバース……という」
泰然が兎耳をぴょこりとさせて術を紡ぐ。
「開発してみました」
「『疯狂』!」
「泰然!」
二人分の声が揃う中、問答無用で術が人体を変容させていく――音繰が湊経由で知ったもう一つの流行バース――『DOM/SUBユニバース』のバースへと。
「お楽しみください~」
ひらひらと手を振り、泰然はさっさと退散してしまった。
「あの男は一度懲らしめてやった方がよいのでは……ところで今回の術はどのようなものなのか」
憂炎が拳を握ってわなわなと震えていると、扉の隙間からお茶を差し入れにきた更夜が解説書を渡してくれる。
おんぶ紐で胸の辺りに赤子を抱えた更夜は、手渡す一瞬威圧するように憂炎を睨みつけた。
「緋家の当主殿がヘタレだからランが気を利かせて楽しいプレイの手伝いをしてやろうというのに、何がご不満なのか」
「へ……っ、ヘタレというな! 私とて音繰を悦ばせるために日々努力をしている!」
「ほう。どんな?」
「複数人プレイを嗜んでいた音繰を満足させるために自分を二人に分裂させる術を研究開発したり……」
(なんかすごいことを言っている)
音繰はそっと狼耳を伏せて聞かなかったことにした。
「ならば成果を見せてみろ」
「おお……」
(あっ、やる気にさせられてる)
単純だ。単純ヘタレワンコだ。
(でもそんな君が私は好きだよ)
ここにバカップルがいた。
パタンと扉が閉まり、居住いを正した憂炎が床に正座している。
「私がSUBだから、私が座るんじゃないかな」
音繰はそっと意見を呈した。
「ふむ……」
憂炎が解説書を手に頭をかしげる。
男女の性とは異なる性(Dom、Sub)。
DomはSubに対して命令をして、Subは命令を遂行する。それがプレイだ。
Domは命令をして言いなりにさせることで気持ち良くなり、Subは命令してもらって言いなりになることで気持ち良くなる。
そんなウィンウィンの関係がDomとSubらしい。
「お師……音繰」
「うん、何かな?」
「私はヘタレではない」
「あっ。気にしてたんだ……」
音繰は試しに解説書の命令をひとつ指差した。
「憂炎、これを命令してみてくれないかな?」
期待にワクワクと尻尾が騒いでしまう。
生まれながら尚山魔教の後継であった音繰は、当然ながら命令されるより命令する側の人間だ。
(私が憂炎に命令されるなんて過去の私だったら許さなかっただろうな)
けれど、今は――、
(術の影響もあるだろうけど……とても命令されたいっ……!)
期待に鼓動を高鳴らせていると、憂炎がぎこちなく命令をしてくれる。
「お……《お座り》だ、音繰」
「――!!」
へたりと床に膝を折り、お座りする音繰の頬が高揚にほわほわと上気する。
同時に、それを見た憂炎も目を見開いて胸元を押さえた。
「……、め、命令された。きゅんってなった」
「お、音繰が私の言いなりに……か……可愛い……」
二人はそれぞれ未知の悦びを感じて、同じリズムで尻尾をパタパタとはしゃがせたのだった。
0
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
表紙絵
⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人
「後1年、か……」
レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる