冷血な魔教の君は令和の倫理とハピエン主義に目覚められたようで

浅草ゆうひ

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3章、ハッピーエンドは譲れない。

番外編 Dom/Sub+分裂=謎プレイ!(1)

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 これは、とある平穏な日の混沌としたプレイの記録。

 ことの発端は、マッドサイエンティストな兎のお兄さん泰然タイランだ。だいたい変なプレイの原因はこのお兄さんだ。お約束と言ってもいい。

「先日、音繰オンソウ様が刺激的な異世界話をしてくださったではありませんか? ほら、ドムサブユニバース……という」

 泰然タイランが兎耳をぴょこりとさせて術を紡ぐ。
「開発してみました」

「『疯狂ファンクァン』!」

泰然タイラン!」

 二人分の声が揃う中、問答無用で術が人体を変容させていく――音繰オンソウみなと経由で知ったもう一つの流行バース――『DOM/SUBユニバース』のバースへと。

「お楽しみください~」

 ひらひらと手を振り、泰然タイランはさっさと退散してしまった。

「あの男は一度懲らしめてやった方がよいのでは……ところで今回の術はどのようなものなのか」

 憂炎ユーエンが拳を握ってわなわなと震えていると、扉の隙間からお茶を差し入れにきた更夜こうやが解説書を渡してくれる。
 おんぶ紐で胸の辺りに赤子を抱えた更夜こうやは、手渡す一瞬威圧するように憂炎ユーエンを睨みつけた。

「緋家の当主殿がヘタレだからランが気を利かせて楽しいプレイの手伝いをしてやろうというのに、何がご不満なのか」

「へ……っ、ヘタレというな! 私とて音繰オンソウを悦ばせるために日々努力をしている!」
「ほう。どんな?」
「複数人プレイを嗜んでいた音繰オンソウを満足させるために自分を二人に分裂させる術を研究開発したり……」

(なんかすごいことを言っている)
 音繰オンソウはそっと狼耳を伏せて聞かなかったことにした。

「ならば成果を見せてみろ」
「おお……」

(あっ、やる気にさせられてる)
 単純だ。単純ヘタレワンコだ。
(でもそんな君が私は好きだよ)

 ここにバカップルがいた。

 パタンと扉が閉まり、居住いを正した憂炎ユーエンが床に正座している。

「私がSUBだから、私が座るんじゃないかな」
 音繰オンソウはそっと意見を呈した。

「ふむ……」
 憂炎ユーエンが解説書を手に頭をかしげる。

 男女の性とは異なる性(Dom、Sub)。
 
 DomはSubに対して命令をして、Subは命令コマンドを遂行する。それがプレイだ。
 Domは命令をして言いなりにさせることで気持ち良くなり、Subは命令してもらって言いなりになることで気持ち良くなる。
 そんなウィンウィンの関係がDomとSubらしい。
 
「お師……音繰オンソウ
「うん、何かな?」

「私はヘタレではない」
「あっ。気にしてたんだ……」

 音繰オンソウは試しに解説書の命令をひとつ指差した。

憂炎ユーエン、これを命令してみてくれないかな?」
 期待にワクワクと尻尾が騒いでしまう。
 生まれながら尚山魔教の後継であった音繰オンソウは、当然ながら命令されるより命令する側の人間だ。

(私が憂炎ユーエンに命令されるなんて過去の私だったら許さなかっただろうな)
 けれど、今は――、
(術の影響もあるだろうけど……とても命令されたいっ……!)

 期待に鼓動を高鳴らせていると、憂炎ユーエンがぎこちなく命令をしてくれる。

「お……《お座り》だ、音繰オンソウ

「――!!」

 へたりと床に膝を折り、お座りする音繰オンソウの頬が高揚にほわほわと上気する。

 同時に、それを見た憂炎ユーエンも目を見開いて胸元を押さえた。

「……、め、命令された。きゅんってなった」
「お、音繰オンソウが私の言いなりに……か……可愛い……」

 二人はそれぞれ未知の悦びを感じて、同じリズムで尻尾をパタパタとはしゃがせたのだった。
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