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3章、ハッピーエンドは譲れない。

番外編 我も彼も人なり

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   SIDE:将山派の勝峰ションフォン



 ――【影の里】。
 
 ここは魔人傘下の集落のひとつで、最近病が流行っている。

 【影の里】をおとなう魔人達へと姿を現して、将山派の勝峰ションフォンが挨拶をする。

「将山派から参りました。勝峰ションフォンです」
 術を得手とする将山派の勝峰ションフォンは、礼儀正しく名乗りあげ、美しい魔教の君にしばし見惚れた。

 凍月だか魅月だか、とにかく月に例えられる麗しの魔人。
 
『邪悪、外道の魔人たちは変わったというが、果たして信じてよいものか。安心して付き合えるものだろうか。魔教の小香主、音繰オンソウやその周囲の人物について見定めよ』

 お仕えする将山派護法ごほう(えらいひと)がそう命じたので、勝峰ションフォンはこうして魔人たちに付きまとい、「貴方達のことを知るために参りましたよ」と挨拶したのだ。

「こっそりしていたらバレたとき怖いなと思いまして」
「そのお考えは良いですね、気が合うのでは」 
 博文ブォウェンと名乗る魔人が接待役を買って出て、聞いてもいないことをぺらぺらと教えてくれる。

「あちらの憂炎ユーエン様が有名なワンコ様です」
「自分のお仕えする方をワンコなどとっ……?」
「愛をこめて呼んでおります、爺やなので」
「貴殿、お若くみえるがお歳であられましたか」
「いえ? 若いですよ。貴方より若いかも」
「あ、さようでございましたか……」

 ――これはいけない。
 うっかり爺やを名乗る博文ブォウェンに気を取られそうになる。
 そうか、こうして情報収集を邪魔する作戦なのか?

 勝峰ションフォンはハッとして、任務に集中した。なお、ワンコ様は緋家の生き残り後継様で、諸葛家の後ろ盾を得てこれからお家再興となるらしい。

音繰オンソウ様は、元々冷血とか言われてましたが爺やが公子様から聞いた話だとそうでもなかったんじゃないかなって思う節もありますよ」

 博文ブォウェンが語る。
 小さな子供が視線の先で音繰オンソウの袖を引いていた。

「母ちゃんを治して! 音繰オンソウ様!」
「うん、すぐによくなるから安心するといい」

 ふわふわと梅の香りを含んだ風が吹く。

「あのワン……公子様も、おちいさい時に音繰オンソウ様に拾われたんですよ。それですっかり懐柔されちゃって、はは」
 博文ブォウェンが語る声は柔らかで、視線は微笑ましい温度感だった。
 
(ふうむ。この里の人々に対する態度や仲間について語る雰囲気など、思っていた魔人のイメージと大分違うな)

 ――普通の人間のようだ。

「ちなみに、私は元々正派道士。九山派でした。というのは、ご存じでした?」
 博文ブォウェンがふわりと微笑む。
 
「あ、いや。さようでございましたか」
「魔教自体も、元々は九山派で――このお話、これから何度もするのでしょうね。いろいろな人に」

 諸葛家の伝手を頼り、情報拡散や世論操作でもしてもらいましょうか――博文ブォウェンがふわふわと笑む声がゆっくりと順序だてて魔教の歴史を教えてくれる。


(なるほどなあ。我も彼も人なり、病に苦しむ母もいれば母を案ずる子供もいる、病は治ってよかったよかった、……と) 
 勝峰ションフォンは魔教への理解度を少しずつ深めて、胸の内で将山派護法ごほうへの報告書の文面を考えるのだった。
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