冷血な魔教の君は令和の倫理とハピエン主義に目覚められたようで

浅草ゆうひ

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3章、ハッピーエンドは譲れない。

番外編 オメガバースは終わらない(3)

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「ぅ、ん……」
 柔らかな抱擁で微睡んでいる。

 朝、昼、夜、時間の感覚も朧げになる蜜月の巣篭もりに、何度目かの蕩けるようなまぐあいの果て。
 番いの腕に守られて、体と心を眠らせて――また目が覚める。

 ふわふわと、安心する匂いが満ちている。
(……だいぶ、落ち着いた……)
 密着した体温が、心地よい。
 二人だけの巣の中で、大切に抱かれている感覚が幸せだ。

「目が覚めたのか、……目覚められたのですね」

 憂炎ユーエンが言い直す声がもどかしい。

 ぎゅっと抱きしめられて間近に感じる憂炎ユーエンの腕は骨太で、がっちりとした筋肉がついていて、硬い。
 逞しい胸板は色気があって、頼もしい。

 音繰オンソウはすりすりと胸板に頰を寄せた。
 この雄が今、他の誰でもない自分のものなのだ――自分だけのつがいなのだと思うと、幸せでならなかった。

「しょ、衝動のまま乱暴してしまい……申し訳……」
憂炎ユーエン

 声を遮って、手を伸ばす。
 腕を首にまわして、後頭部を手のひらで包み込んで、自分の顔に引き寄せるようにする。

 ああ、自分が別の生き物になったよう。
 けれど、それが心地よい――そんな自分が、くすぐったいような、嬉しいような感じなのだ。

「私に敬語を使わないで。二人きりなのだもの――だめ? 私を、君の番だと扱って……」

 甘えてしまう。
 雨露期の影響だとか、後朝の巣にいるからだとか、言い訳しようと思えばいくらでもできる。

 だけど、音繰オンソウにはもうわかっていた。

「オメガバースの術のせいじゃない。私は、君が好きなんだ。術関係なく、君の番でいたい」

 頬を桜色に染めて愛しく甘やかに囁けば、鼻先が仔犬同士のあいさつみたいに柔らかに爽やかにくすぐられる。

「私も……」
 夢見るような憂炎ユーエンの声が、心地よい。

「愛している。好きだ。術のせいではなく、元から――ずっとずっと以前から」

 頬に手が添えられて、するすると優しく撫でられる。
 唇が合わせられると、精気がふわふわと吹き込まれる。

 蜜のように甘やかで、形のないそれは幸せの奔流となって身体の内側に浸透していく。
 全身に活力が満ちていく――正派の気だ。清浄な精気だ。

 まるで、内側から清められていくよう。
 まるで、憂炎ユーエンの腕の中で少しずつ別の生き物に生まれ変わっていくよう。

「……ふ……」
 うっとりと吐息をこぼして唇をはなし、見つめ合う。

 ――言葉はもう、必要なかった。
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