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外伝、冷血な魔教の君は令和の倫理とハピエン主義に目覚められたようで
5、俺様がおぎゃるのが止まらない。
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明彧が赤ん坊になってからすぐに、明散は行方不明になった。
「音彧様、音彧様は【魔教】の次期教主様となるのですよ」
新たな人生で『音彧』という名を与えられた元明彧は、自分が【魔教】という名の新興魔教団の次期教主様だと教えられた。
驚くべきこともわかった。
自分が死んでから赤ん坊として再誕するまでの間には途方もない時間が過ぎていたこと。
教主である祁家は明彧の子孫の家系だったこと。
(俺様の子孫は魔教という組織をつくったのか。俺様は子孫の家系に生まれ変わったのか。父親が明散だったのが若干気になったが……あいつは、何なんだっ?)
調べると、【魔教】の創始者は神仙だったといわれている。
当時『魔盗団』と呼ばれていた組織が潰走の憂き目に遭った時。
明彧の血を受けた子が路頭に迷っていた大ピンチの時に「私が助けてあげようか」と手を差し伸べたのが祁家という家に出自を持つ神仙だったのだとか。
彼は明彧の子を【尚山】という山へと導いた。
そこで隠れ住むようにと言いつけ、生きるために必要な術を教えてくれた……。
それから数代を経て、祁家の子孫は外に出た。
外の世界で罪を犯した者や、行き場のない荒くれ者、人の道を踏み外した外れ者、群れから離れたはぐれ者――ありとあらゆる浮草を匿って、尚山に隠れ住む人を増やしていった。
人が集まれば、組織もできる。
祁家の子孫は神仙を唯一絶対の教主様と決めた。
自分たち祁家は神仙教主様の門弟の一族、神仙教主様にお仕えし、組織運営を代行する神仕(巫女)の家だと名乗った。
「神仙教主様の姓である『祁』の姓はみだりに名乗ることなく、代わりに普段は『音』を名乗る……それで俺様は音彧というわけだ。というか、その神仙が明散なんだろう。俺様にはわかっちまったぞ」
音彧は現実を少しずつ受け入れて、肉体的な成長を遂げた。
成熟し後継ぎをつくり……やがて、孫たちに囲まれて生涯を終えた。
(なんでもう一回人生を送ることになったのかはわからないが、なかなか良い生涯だった)
血を分けた子供たちも孫たちも、血のつながりはないが家族のように感じている門弟たちも、自分のためにおいおいと泣いてくれる。
音彧は満たされた気分であった。
「おぎゃあー、おぎゃあー!!」
「おお、我らが小教主様は元気いっぱいでいらっしゃる……健康な男児でございます」
……あれっ?
「名は、彧と付けるように」
(は?)
「神仙に名を賜るとは、我が子は幸せ者でございます。彧というのは、数代前の教主代行の名前でもございますね……きっと名に恥じぬ高手に成長することでしょう」
二度めの生涯に幕を降ろした音彧は、次の瞬間また数代後の魔教の直系男子として生まれ変わっていた。
父親は、今度は明散ではなく別の人間だった。
だが、父親の隣には神仙と呼ばれる明散がいて「この赤子の名は彧」と名付けをするだけして、また姿を見せなくなってしまったのだった。
「は、はああああぁぁああ!?」
――そんな人生が、三度、四度……延々と繰り返された。
音彧は何度も生まれ、亡くなった。
死んでは生まれ、都度明散に「この赤子の名は彧」と名付けられる。
「も、もう、うんざりだ~~っ!! 明散、明散、もう許してくれ!!」
何度目かの生まれ変わりの末に、音彧は生まれ変わりを繰り返す人生がすっかり嫌になって音を上げたのだった。
「音彧様、音彧様は【魔教】の次期教主様となるのですよ」
新たな人生で『音彧』という名を与えられた元明彧は、自分が【魔教】という名の新興魔教団の次期教主様だと教えられた。
驚くべきこともわかった。
自分が死んでから赤ん坊として再誕するまでの間には途方もない時間が過ぎていたこと。
教主である祁家は明彧の子孫の家系だったこと。
(俺様の子孫は魔教という組織をつくったのか。俺様は子孫の家系に生まれ変わったのか。父親が明散だったのが若干気になったが……あいつは、何なんだっ?)
調べると、【魔教】の創始者は神仙だったといわれている。
当時『魔盗団』と呼ばれていた組織が潰走の憂き目に遭った時。
明彧の血を受けた子が路頭に迷っていた大ピンチの時に「私が助けてあげようか」と手を差し伸べたのが祁家という家に出自を持つ神仙だったのだとか。
彼は明彧の子を【尚山】という山へと導いた。
そこで隠れ住むようにと言いつけ、生きるために必要な術を教えてくれた……。
それから数代を経て、祁家の子孫は外に出た。
外の世界で罪を犯した者や、行き場のない荒くれ者、人の道を踏み外した外れ者、群れから離れたはぐれ者――ありとあらゆる浮草を匿って、尚山に隠れ住む人を増やしていった。
人が集まれば、組織もできる。
祁家の子孫は神仙を唯一絶対の教主様と決めた。
自分たち祁家は神仙教主様の門弟の一族、神仙教主様にお仕えし、組織運営を代行する神仕(巫女)の家だと名乗った。
「神仙教主様の姓である『祁』の姓はみだりに名乗ることなく、代わりに普段は『音』を名乗る……それで俺様は音彧というわけだ。というか、その神仙が明散なんだろう。俺様にはわかっちまったぞ」
音彧は現実を少しずつ受け入れて、肉体的な成長を遂げた。
成熟し後継ぎをつくり……やがて、孫たちに囲まれて生涯を終えた。
(なんでもう一回人生を送ることになったのかはわからないが、なかなか良い生涯だった)
血を分けた子供たちも孫たちも、血のつながりはないが家族のように感じている門弟たちも、自分のためにおいおいと泣いてくれる。
音彧は満たされた気分であった。
「おぎゃあー、おぎゃあー!!」
「おお、我らが小教主様は元気いっぱいでいらっしゃる……健康な男児でございます」
……あれっ?
「名は、彧と付けるように」
(は?)
「神仙に名を賜るとは、我が子は幸せ者でございます。彧というのは、数代前の教主代行の名前でもございますね……きっと名に恥じぬ高手に成長することでしょう」
二度めの生涯に幕を降ろした音彧は、次の瞬間また数代後の魔教の直系男子として生まれ変わっていた。
父親は、今度は明散ではなく別の人間だった。
だが、父親の隣には神仙と呼ばれる明散がいて「この赤子の名は彧」と名付けをするだけして、また姿を見せなくなってしまったのだった。
「は、はああああぁぁああ!?」
――そんな人生が、三度、四度……延々と繰り返された。
音彧は何度も生まれ、亡くなった。
死んでは生まれ、都度明散に「この赤子の名は彧」と名付けられる。
「も、もう、うんざりだ~~っ!! 明散、明散、もう許してくれ!!」
何度目かの生まれ変わりの末に、音彧は生まれ変わりを繰り返す人生がすっかり嫌になって音を上げたのだった。
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