冷血な魔教の君は令和の倫理とハピエン主義に目覚められたようで

浅草ゆうひ

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1章、悪役は覆水を盆に返したい。

番外編 冷血な魔教の君はイメージを変えたくて(2)(軽☆?)

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 扉の前で気配を潜める憂炎ユーエンの耳に、あやしげな会話が聞こえてくる……。

「それでは音繰オンソウ様~、そちらは任せましたよ~、まぁるくコロコロしてくださぁい」

(むむっ。コロコロとは殺すという意味ではあるまいか……この扉の向こうで大変な悪行がなされている……?)

「こんな感じかな」

「素晴らしいです~、さすがは音繰オンソウ様」

「ふふ、これくらい簡単さ」

(ああ、音繰オンソウ。やはり悪は悪……変わったと思ったが……そんな風に簡単に人の命を奪うのだな、貴方は)

 憂炎ユーエンの瞳には失意の色が薄くのぼった。

(当たり前ではないか。何をがっかりする? 何を勘違いしていた。変わったなど――人がそう簡単に変わるものか。師の本質は変わらない……)

「私はお湯を注ぎます~、音繰オンソウ様はミルクを注いでくださいね~」
「こうだね、ふふ。楽しいじゃないか」

(み……、)

 ……!!

 それはつまり、アレではないか。
 
 秘められた魅惑の雄蕊おしべから溢れる白濁の蜜を指す隠語ではないか。
 
 憂炎ユーエンは師のミルクを想像して喉をこくりと鳴らした。
(ああ、師よ! 貴方のミルクを……そんな軽いノリで注いでしまうのか。どこに? 誰に!? ――そうだ。我が師はそういう方だった……最近は慎んでおられると思っていたが、やはり……)

 憂炎ユーエンは涙目になってフルフルと震えた。

「このあとは30分も待つのか。なかなか焦ったいね」
「ウフフ、待つのも楽しいのですよ、音繰オンソウ様~。この待ち時間に他のことを楽しむのも一興」

「な、何をしているのかぁっ!!」

 悶々と扉の前で悩んだ憂炎ユーエンは、深呼吸をして気を落ち着かせようとして――気づいたら扉を開けて中に押し入っていた。

 中には、お揃いのエプロン姿で仲睦まじく料理を楽しむ泰然タイラン音繰オンソウがいた。

「……ふぁっ?」
 憂炎ユーエンの口から間抜けな声が溢れでる。

憂炎ユーエンじゃないか」
 音繰オンソウが驚いた様子で目を丸くしている。全くいかがわしい気配なく、健全そのもののエプロン姿で――なかなか似合っていて、新鮮だ。憂炎ユーエンは状況を忘れてしばし見惚れた。
 
憂炎ユーエン様も桃饅頭、一緒に作ります~? くすくす……」
 泰然タイランは楽しそうに笑い、エプロンをもう一着出してきてくれた。

 完成した桃饅頭をせいろに入れて仲良く三人で魔人たちに配り歩くと、魔人たちは『この三人が作ったの?』『え、なにこの現実怖い』的に恐る恐る受け取りつつ、味は良かったようで、「美味しい」とか「これは夢かなぁ」とか言いながら顔を見合わせ、肩をすくめて、彼らを取り巻く現実の変化を少しずつ受け入れる気配を見せていた。

「効果はなかなかありそうじゃないか……」
 音繰オンソウは上機嫌で手応えを噛み締めて、元弟子に笑顔を向けた。

憂炎ユーエンにもあげよう。あーん」

 手作りの桃饅頭を差し出すと、憂炎ユーエンはびくっと全身を震わせて目を見開き、真っ赤になった。

「はっ? あ、あーん……っ?」

「おやおや、仲良しですね」
 そんな二人を見守り、泰然タイランはほわほわと兎耳を揺らして、「またみんなで作りましょうね~」と笑うのだった。
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