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1章、悪役は覆水を盆に返したい。

番外編 博文は苦労している(1)

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博文ブォウェン、私の占いによると、滅んだといわれる緋家の血統は絶えていない」

 かつて薄荷はっか棒と山査子さんざし飴を差し出され、自らの師父しふにそう言われたとき、博文ブォウェンは嫌な予感がした。

 厳しい師父が弟子に飴を渡すのは、決まって面倒なことを任されるときなのだ。


栴揚せいよう公子と申し上げる――博文ブォウェン、捜索せよ。かの公子様は我ら【九山派きゅうざんは】がお守り申し上げる」

「しかと、承りました。師父」

 薄荷はっか棒と山査子さんざし飴を手に、博文ブォウェンは涙目で頷いた。
 拒否権なんてないのだ。



 緋家というのは、剣に秀でた一族だったらしい。
 その気質は質実剛健といった家柄で、正派の中では控えめで目立たないが頼りになる武人の家系、といったところか。
 そんな緋家が、数代前に秘技をおおやけにして話題になった。

 その技は剣の一族の印象を覆すような術技だった。
 とても美しく、清らかで、特に魔性と相対するのに効果的と思われる――使い手の心を映し、相手の心や魂に働きかけるような浄化術。
 心を映す性質だけあって緋家の後継ぎでも『扱えぬ力は身を亡ぼす』と手を出すことを控え、器の足りないとされた後継は秘伝書に触れることさえ許されなかったらしいが、当然、邪悪の徒は危険な秘伝書の存在を野放しにしなかった。

 
 魔教の魔人たちは緋家を襲撃した。
 そして、あれよという間に一族郎党、滅ぼしてしまったのだ。

 
「師父の占いなんてあてになるもんですか。そのとき公子様はおいくつだったんです? もう死んじゃってますよ」
 同じ師父のもとで学んだ弟子を手勢として連れて旅をした博文ブォウェンは、だんだんと「実は師父の命令は口実で、羽を伸ばして遊んでおいでって意味だったんじゃないかな」などと思うようになってきた。
 

 そんなときだった。
 【辺の村】という村で、変な男と出会ったのは。


「我が名は【正義の黒覆面くろふくめん魔人】! 長いので略すと【正黒魔人せいこくまじん】!」

 闊達かったつに笑い、正黒魔人せいこくまじん博文ブォウェンたち一行に酒とご馳走を奢ってくれた。
 そして、「いやあー、我々気が合うな! 運命を感じる! そう思わないか、博文ブォウェン殿!」などと言いながら尚山にあるという邸宅に招いてくれたのだが。

「そういえば、博文ブォウェン殿は緋家の公子を探されているのだったな。いるぞ!」
 正黒魔人せいこくまじんはあっさりとそう言って、公子の姿を覗き見させてくれた。

 監督する者もいない修練場で、ひとり招式しょうしき(武術の動作、型)に打ち込む公子は、この家の嫡子に拾われて育てられているらしい。
 名を憂炎ユーエンといい、魔功の才で有名になりつつあるのだとか。

「……」
 博文ブォウェンは目を瞬かせた。
 
魔功魔人の技?」

ドゥイ(その通り)!」
 
 正黒魔人せいこくまじんが溌剌とした声で頷き、衝撃的な事実を教えてくれる。


 なんと、ここは魔人たちの巣。邪悪で外道といわれる派閥、黒道魔教の本拠地だったのだ――。

 
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