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2章、ヒーローはオメガバースに抗いたい。
40、小香主様が私の私物で巣作りしてる(軽☆)(SIDE:憂炎)
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SIDE 憂炎
「まただ。私物がなくなっている」
憂炎は自室の寝台に胡座をかき、狼耳をぴこぴこ揺らして低く唸った。
最近、ずっとこうなのだ。
気づけば物が無くなっている……。
「誰の仕業だ? まったく……私は物は大切に大切に使い込んでいるというのに。新しく買い直すと金がかかるのに」
元師匠であり小香主である音繰には貢ぎまくっているが、憂炎は私物に対しては倹約家だった。
異世界風にいうなら『節約して浮いたお金を推し活に捧げる』、そんな系統の倹約家である。
金が貯まっていくと、嬉しい。
日々の積み重ねが目に見えてわかり、一枚一枚貨幣を数えていると幸せになる。
そして、それをあの美しい音繰のために使うのだ。
自分の選んだ品が彼を飾る。彼の美貌を引き立てる。彼の日々に存在する――それは憂炎にとって、とても楽しいことだった。
「貯金箱は無事だな。よかった……厳重に術で隠しておいてよかった」
豚さんの貯金箱をなでなでして、憂炎は尻尾をぽふぽふさせた。
今日は何が無くなったのだろう。
居室に戻り、出て行く前と戻ってからの変化を確かめるようにすれば、本日の失せ物がどうやらはっきりとした。
「先日拾った死霊憑きの鍋が無くなっている……あれなら、場所が調べられるな」
――あれには位置を調べるための目印を付けておいたのだ。
追跡の術を行使して鍋の所在地を突き詰めてみれば。
(こ、ここは小香主様――音繰の居室ではないか)
気配を潜めて様子を探ってみれば、部屋の主人である音繰は――、
「はっ……、」
ふわりと甘やかな香りが感じられる。
雄の本能を強く刺激して、心を揺さぶるあの匂い――、
番だ。
俺の番がそこにいる――、
憂炎の脳にそんな思考が流れた。
「ん……ン、ん……、はぁっ、……ぁ……」
艶かしい啼き声がする。
情欲に浮かされ、番の精を欲しがる発情の声だ。
覗き見した目に映るのは、全く覗き見に気付かずに見慣れた帯や衣にくるまって顔を埋めたり、尻尾をゆらゆらさせながら腰をもどかしく押し付けて甘い吐息を繰り返す音繰の姿だった。
布の隙間に垣間見える、熟れた桃のように色づく頬。
陶然と濡れた、青い海のような瞳。
柔らかそうな唇がしっとりと潤う花のようで、ふらふらと引き寄せられてしまいそう。
「あ……っ、ふ、ふ、ふーっ……」
まつ毛を震わせ、脚を焦ったく擦り合わせて――内側で蠢く手が濡れた水音を奏でている。
はしたなく腰を浮かせて、首を振って――、
「あ、……に、匂い……っ、する、ふ、ふぁ……、」
その匂いが堪らなく好きなのだというように、息を乱して頬を紅潮させ、呟くのだ。
「憂炎の、におい……っ」
……、
(――っあぁあぁぁぁぁぁっ!!)
憂炎は心の中で奇声をあげ、顔を真っ赤にしてその場から走り去った。
――巣作りだ。
――小香主様が俺の私物で巣作りして、自慰してた……!!
自室に駆け戻る股間が雄の欲望をくっきりと主張して、心拍数が物凄いことになっていた。
「小香主様……、」
はっ、はっ、と荒い息を繰り返し、憂炎の手が自身の欲望に滑る。
――熱い。
――欲望が猛って、情緒が乱れてたまらない……!
「お、お師匠様――音繰……音繰……!」
名を狂おしく呼びながら、獣の性が理性を凌駕して番への欲を昂らせる。
「あ、あれは……あのひとは……あのひとを……」
夢に浮かされるような声が乱れる吐息と共に吐き出される。
「あれを、孕ませたい……!!」
あの音繰を組み敷いて突き上げる。
暴れる体を押さえつけ、腰を押し付けて奥に――、
「――ッ!!」
恐ろしい妄想を自覚して、憂炎は首を振った。
(わ、私は何をとち狂っているのだ……!! 孕ませるなど……、とんでもない! とんでもないぞ!!)
しかし、火照った体は。
この欲は――体は正直で、あの巣の中に押し入って、種付けをしたいと叫んでいたのだった。
「こ、こんな術に私は屈したりしない……!」
宣戦布告するように吠えて、憂炎は符を繰り、禁術に抗った。
暴風が吹き荒れるような乱暴な術は狂おしい欲を吐き散らすように周囲の物を吹き飛ばし、術者自身も傷付けて、気づいた時には憂炎もその部屋もぼろぼろになって、駆け付けた配下たちに「何があったのか」と心配されていたのだった。
「まただ。私物がなくなっている」
憂炎は自室の寝台に胡座をかき、狼耳をぴこぴこ揺らして低く唸った。
最近、ずっとこうなのだ。
気づけば物が無くなっている……。
「誰の仕業だ? まったく……私は物は大切に大切に使い込んでいるというのに。新しく買い直すと金がかかるのに」
元師匠であり小香主である音繰には貢ぎまくっているが、憂炎は私物に対しては倹約家だった。
異世界風にいうなら『節約して浮いたお金を推し活に捧げる』、そんな系統の倹約家である。
金が貯まっていくと、嬉しい。
日々の積み重ねが目に見えてわかり、一枚一枚貨幣を数えていると幸せになる。
そして、それをあの美しい音繰のために使うのだ。
自分の選んだ品が彼を飾る。彼の美貌を引き立てる。彼の日々に存在する――それは憂炎にとって、とても楽しいことだった。
「貯金箱は無事だな。よかった……厳重に術で隠しておいてよかった」
豚さんの貯金箱をなでなでして、憂炎は尻尾をぽふぽふさせた。
今日は何が無くなったのだろう。
居室に戻り、出て行く前と戻ってからの変化を確かめるようにすれば、本日の失せ物がどうやらはっきりとした。
「先日拾った死霊憑きの鍋が無くなっている……あれなら、場所が調べられるな」
――あれには位置を調べるための目印を付けておいたのだ。
追跡の術を行使して鍋の所在地を突き詰めてみれば。
(こ、ここは小香主様――音繰の居室ではないか)
気配を潜めて様子を探ってみれば、部屋の主人である音繰は――、
「はっ……、」
ふわりと甘やかな香りが感じられる。
雄の本能を強く刺激して、心を揺さぶるあの匂い――、
番だ。
俺の番がそこにいる――、
憂炎の脳にそんな思考が流れた。
「ん……ン、ん……、はぁっ、……ぁ……」
艶かしい啼き声がする。
情欲に浮かされ、番の精を欲しがる発情の声だ。
覗き見した目に映るのは、全く覗き見に気付かずに見慣れた帯や衣にくるまって顔を埋めたり、尻尾をゆらゆらさせながら腰をもどかしく押し付けて甘い吐息を繰り返す音繰の姿だった。
布の隙間に垣間見える、熟れた桃のように色づく頬。
陶然と濡れた、青い海のような瞳。
柔らかそうな唇がしっとりと潤う花のようで、ふらふらと引き寄せられてしまいそう。
「あ……っ、ふ、ふ、ふーっ……」
まつ毛を震わせ、脚を焦ったく擦り合わせて――内側で蠢く手が濡れた水音を奏でている。
はしたなく腰を浮かせて、首を振って――、
「あ、……に、匂い……っ、する、ふ、ふぁ……、」
その匂いが堪らなく好きなのだというように、息を乱して頬を紅潮させ、呟くのだ。
「憂炎の、におい……っ」
……、
(――っあぁあぁぁぁぁぁっ!!)
憂炎は心の中で奇声をあげ、顔を真っ赤にしてその場から走り去った。
――巣作りだ。
――小香主様が俺の私物で巣作りして、自慰してた……!!
自室に駆け戻る股間が雄の欲望をくっきりと主張して、心拍数が物凄いことになっていた。
「小香主様……、」
はっ、はっ、と荒い息を繰り返し、憂炎の手が自身の欲望に滑る。
――熱い。
――欲望が猛って、情緒が乱れてたまらない……!
「お、お師匠様――音繰……音繰……!」
名を狂おしく呼びながら、獣の性が理性を凌駕して番への欲を昂らせる。
「あ、あれは……あのひとは……あのひとを……」
夢に浮かされるような声が乱れる吐息と共に吐き出される。
「あれを、孕ませたい……!!」
あの音繰を組み敷いて突き上げる。
暴れる体を押さえつけ、腰を押し付けて奥に――、
「――ッ!!」
恐ろしい妄想を自覚して、憂炎は首を振った。
(わ、私は何をとち狂っているのだ……!! 孕ませるなど……、とんでもない! とんでもないぞ!!)
しかし、火照った体は。
この欲は――体は正直で、あの巣の中に押し入って、種付けをしたいと叫んでいたのだった。
「こ、こんな術に私は屈したりしない……!」
宣戦布告するように吠えて、憂炎は符を繰り、禁術に抗った。
暴風が吹き荒れるような乱暴な術は狂おしい欲を吐き散らすように周囲の物を吹き飛ばし、術者自身も傷付けて、気づいた時には憂炎もその部屋もぼろぼろになって、駆け付けた配下たちに「何があったのか」と心配されていたのだった。
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