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1章、悪役は覆水を盆に返したい。

22、私と君は友人だ。

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「……お二人とも、だいじょうぶですか……」
 霧がすっかり晴れて、雪霧シュエウーが声をかけてくる。

「って、音繰オンソウ様っ? そ、そのお姿はっ……!!」
 
 乱れた着衣、汚れた下肢――いかにも襲われた事後感の漂う音繰オンソウに、雪霧シュエウーは哀れなほど真っ赤になって取り乱し、音繰オンソウが恥ずかしくなるほど心配してあれこれと世話をしてくれたり、労わってくれるのだった。
 
「僕の術が、すみませんっ! ほんとうに、ほんとうに――せ、せ、責任取りますぅ!! 僕、責任取りますぅ!!」
 と、そんなことを言いながら。


 初々しい反応をみせる雪霧シュエウーを微笑ましく感じる自分を自覚しながら、音繰オンソウは悪戯っぽく小指を出した。

 目の前に、可能性がきらきらと輝いているようだ。
 雪霧シュエウーは、そんな存在だった。

 ――この主人公も、元弟子も、自分の同胞魔人たちも。みんなが仲良くできないだろうか。
 
 魔人の身で変なことを考えている。
 音繰オンソウはそう自覚しながらも、そんなきらきらした可能性に手を伸ばすのだった。
 
雪霧シュエウー……責任を取ってくれるのかい? ふふ、ならば、誓ってほしいことがあるよ」

 冗談めかして笑うようでいて、その声は真剣だった。
 
「正派の中には打倒魔教を唱える者もいるだろう。けれど、どうか君は私たちの味方であってほしい」

 音繰オンソウの声に、死者が去った後の闇を見つめていた憂炎ユーエンがハッと振り返った。
 
「ほら、正派と邪派って仲が悪いだろ。でもさ、私たちがそうであるように、正派と邪派も仲良く出来ると思うんだ、私は」
 
 雪霧シュエウーが神聖な儀式にでも挑むみたいに小指を絡ませて、しかと頷く。

「いいと思いますっ。僕も、正派と邪派が仲よくなれたら素敵だなって思います!」
  
 雪霧シュエウーの笑みを見て、音繰オンソウは「これは怪我の功名というやつかな」と頷くのであった。

「僕たちは、友人です!」
「うん。私と君は友人だ」
 
 ――この主人公を味方につけた。これは、とても良いことではないだろうか……!


 音繰オンソウがニコニコしていると、そこに憂炎ユーエンが割り込んでくる。
 眉根をぎゅっと寄せ、噛み付くような口調で言う言葉の矛先ほこさき雪霧シュエウーに向けられていた。

「あとは私が世話をする。気安く触れるな」
 愛憎入り混じる眼差しを受けて、雪霧シュエウーが意外にも反発の眼差しを返した。

「いいえ、僕がっ! あなたには下心を感じます、服の下で欲の証を勃たせているではありませんか。任せられるもんですか」
「なっ、なにを……! 元はといえば、お前の術が原因だろうに」

 ――なにやら険悪ではないか。

(運命の相手同士なのに、始まりはこんな感じなのか……この二人、大丈夫なのだろうか)
 不思議な親心みたいなものを胸に持て余しつつ、音繰オンソウはひとりで汚れを拭い、術で身を清めて衣服の乱れを直したのだった。

「あの死霊は、道士に似た装いでしたよ」
 霧に分断された渦中で剣を戦わせていたという雪霧シュエウーは情報を共有してくれた。
 
 そして、山を脱して惜別のときを迎えると、何度も何度も大袈裟おおげさなほど頭を下げて音繰オンソウとの別れを惜しんでくれたのだった。
 
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