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1章、悪役は覆水を盆に返したい。
13、魔教に令和の倫理は通用しない!
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湊と語り合っていた音繰の耳に、同じ門派の弟弟子たちの声が届く。
「音繰の兄貴――師兄! 小香主様」
「お見舞いに参りましたぜ。オレたちと久しぶりに飲みませんかぁ! そのあと、しっぽり」
「ああ、泰宇。泰軒……」
灰色の毛をした泰宇と、浅黒い毛をした泰軒は、共に狼獣人。
この二人はとても仲が良く、血の繋がりはないが義兄弟の契りを交わしているらしい。
そしてなにより、音繰と同じ師について修練を積んだ魔教の魔人たちだ。
憂炎を拾う前からの取り巻き的な存在、音繰の弟弟子なのである。
長い付き合いの二人は、音繰の遊び相手でもあった。
あまり感情の動きを見せず『冷血』とか『凍月の君』とか呼ばれていた兄弟子を恐れることなく、ワンワンきゃんきゃんと纏わりついていた――音繰にとって可愛い弟分なのだ。
ちなみに、そんな兄弟のような三者が好んで嗜んでいたのがどういう遊びかというと、いわゆる『大人の夜遊び』だ。
酒に賭博、交合と、百年ほど生きていれば、まあ遊びと名のつくことは一通り『兄貴ィ! あれをやってみませんか』『兄貴ィ! これをしてみませんか』と試した間柄である。
特に、『吸精術』――自然生物から精を吸い取る術を心得ている音繰は交合相手からの精を色々な意味で搾り取って味わうのを好んでいた。
活きのいい相手から絞りに絞りくったりとさせて、本人は「なかなか美味であった」とつやつやとしていたものだ。
弟弟子たちは「この人の情に疎くて冷血と呼ばれる兄弟子が性的な刺激にちゃんと反応し、悦ぶ」という事実を知り、たいそう興奮した。
さらに「精気を美味しそうに召し上がる」と知ると、それはもう張り切って「今夜は俺の精気を召し上がれ」「俺も俺も」と精気を献上するようになったのだった。
兄弟子に心酔する弟弟子たちは、二十余年もの間に渡り行方不明だった音繰との再会をよろこび、日々見舞いにきてくれる。
(湊に打ち明けたらドン引きされるだろうなぁ、この弟弟子たちと遊びまくったあんな遊びやこんな遊び……)
――酒はまだしも、『そのあと、しっぽり』は性的な戯れごとを愉しみましょうという意味に違いない。
以前は、散々楽しんだのだ。酒のつまみみたいなノリで、気軽に精気を頂いた。誘ってくるのは当然ともいえる。
「今夜は……というか、最近は精を吸う気も起きなくて。どうも枯れたんだな私は……」
音繰は二人の誘いに首を振った。
「なっ!? 音繰様はまだまだお若いじゃないですか! 魔人の人生まさにこれから全盛期なお年頃ですよ。なにを仰るんです! 弱気はいけませんや!」
「もう淫奔な遊びはしないんですかぁ? お好きだったじゃないですかぁ!」
酒瓶を大量に抱えてきた弟弟子は、ぐいぐいと酒を盃に注いですすめてくる。
「ご気分がすぐれないのは、あの憂炎が原因ですかい?」
「生意気な憂炎の派閥なんて追放しちゃいましょう。オレたちがついてますよ。ささ、パーッとやって、楽しくなりましょうや!」
「い、いや。本当にすまないけどね」
――この弟弟子たちも、『ざまぁされる悪役』だろうなぁ。魔教の魔人だし。
(小説に登場してたかなぁ……? 私と一緒に『ざまぁ』されてしまうなら、ちょっと可哀想だな……)
なんだかんだで酒を受け取り盃を傾ける音繰は、魔教の未来に思いを馳せて――やがて、昂る股間の熱に気が付いた。
「おや。これは精力増強剤の類かな……」
「へへっ、泰然がつくった新作ですぜ」
「オレたちが尽くしますんで、ぜひぜひ嫌なことは忘れて愉しんでください!」
泰然というのは、泰宇、泰軒と同じ世代の門弟魔人だ。
彼は妖しい術やヤバい薬の研究、開発に長けていて、媚薬などは可愛いものだったが。
「最近さ、貞操観念が高くなったんだ。誰とでもホイホイ寝るのはよくないなって――」
「何言ってんです、正派の道士じゃあるまいし。どうしちゃったんですか」
「泰宇、そういうプレイなのかもしれん。いやだいやだと言いながら興奮を煽るやつ」
「なるほど泰軒兄貴、冴えてますね。そんな技をご披露くださるとは……さすがですね音繰様!」
――この弟弟子たちときたら、とんでもない解釈をしているではないか。
「あっ、ちょっとっ?」
抵抗しようと思いつつ、快楽に慣れた体は薬効も相まって昂っているようで、音繰はあれよあれよという間に服を乱され、ろくに抵抗らしい抵抗もせずにフワッと押し倒されてしまうのだった。
「待て待て、いいかな? 話し合おうじゃないか。無理やりはだめなんだよ。君たち、私はダメって言ってるんだから、おやめなさい」
一応言葉で制止しつつ、音繰は冷静に自分に突っ込みをいれるのだった。
――異世界倫理は通用しないよなぁ……魔教の魔人だし。
(遊びまくってたセフレが『今日から貞操観念とか倫理観を大事にするよ。君たちもレッツ清く正しい性生活!』と言い出しても、誰も信じないよなぁ!)
「戻ってからの音繰様はなんだか別人のようで、オレ心配してたんですよ」
「オレだって!」
弟弟子たちは、魔人の流儀で兄弟子を元気付けようとしているのだ。生まれてからずっと浸ってきた環境――魔人コミュニティの価値観が『YESえっちNOキヨラカGO媚薬』なだけなのであって、根っこの部分は兄弟子想いなのである。
「そうそう、まるで普通の人間とか、正派の道士とかみたいに毒気がなくってさあ。前みたいな冷え冷え~ってオーラがなくて、おいたわしい……やっぱ、ご体調が優れないせいなんです?」
「オレたちの精を吸って元気になってくださいよ!」
――なんなら、吸われすぎて死んでもいいっ!
二人の目がそう訴えていた。
(しかし、今の私はなんだか前みたいな自分が嫌なんだよな……)
音繰は肌に触れられてぞわぞわと込み上げる快感と嫌悪感を持て余すように溜息をついた。
「音繰の兄貴――師兄! 小香主様」
「お見舞いに参りましたぜ。オレたちと久しぶりに飲みませんかぁ! そのあと、しっぽり」
「ああ、泰宇。泰軒……」
灰色の毛をした泰宇と、浅黒い毛をした泰軒は、共に狼獣人。
この二人はとても仲が良く、血の繋がりはないが義兄弟の契りを交わしているらしい。
そしてなにより、音繰と同じ師について修練を積んだ魔教の魔人たちだ。
憂炎を拾う前からの取り巻き的な存在、音繰の弟弟子なのである。
長い付き合いの二人は、音繰の遊び相手でもあった。
あまり感情の動きを見せず『冷血』とか『凍月の君』とか呼ばれていた兄弟子を恐れることなく、ワンワンきゃんきゃんと纏わりついていた――音繰にとって可愛い弟分なのだ。
ちなみに、そんな兄弟のような三者が好んで嗜んでいたのがどういう遊びかというと、いわゆる『大人の夜遊び』だ。
酒に賭博、交合と、百年ほど生きていれば、まあ遊びと名のつくことは一通り『兄貴ィ! あれをやってみませんか』『兄貴ィ! これをしてみませんか』と試した間柄である。
特に、『吸精術』――自然生物から精を吸い取る術を心得ている音繰は交合相手からの精を色々な意味で搾り取って味わうのを好んでいた。
活きのいい相手から絞りに絞りくったりとさせて、本人は「なかなか美味であった」とつやつやとしていたものだ。
弟弟子たちは「この人の情に疎くて冷血と呼ばれる兄弟子が性的な刺激にちゃんと反応し、悦ぶ」という事実を知り、たいそう興奮した。
さらに「精気を美味しそうに召し上がる」と知ると、それはもう張り切って「今夜は俺の精気を召し上がれ」「俺も俺も」と精気を献上するようになったのだった。
兄弟子に心酔する弟弟子たちは、二十余年もの間に渡り行方不明だった音繰との再会をよろこび、日々見舞いにきてくれる。
(湊に打ち明けたらドン引きされるだろうなぁ、この弟弟子たちと遊びまくったあんな遊びやこんな遊び……)
――酒はまだしも、『そのあと、しっぽり』は性的な戯れごとを愉しみましょうという意味に違いない。
以前は、散々楽しんだのだ。酒のつまみみたいなノリで、気軽に精気を頂いた。誘ってくるのは当然ともいえる。
「今夜は……というか、最近は精を吸う気も起きなくて。どうも枯れたんだな私は……」
音繰は二人の誘いに首を振った。
「なっ!? 音繰様はまだまだお若いじゃないですか! 魔人の人生まさにこれから全盛期なお年頃ですよ。なにを仰るんです! 弱気はいけませんや!」
「もう淫奔な遊びはしないんですかぁ? お好きだったじゃないですかぁ!」
酒瓶を大量に抱えてきた弟弟子は、ぐいぐいと酒を盃に注いですすめてくる。
「ご気分がすぐれないのは、あの憂炎が原因ですかい?」
「生意気な憂炎の派閥なんて追放しちゃいましょう。オレたちがついてますよ。ささ、パーッとやって、楽しくなりましょうや!」
「い、いや。本当にすまないけどね」
――この弟弟子たちも、『ざまぁされる悪役』だろうなぁ。魔教の魔人だし。
(小説に登場してたかなぁ……? 私と一緒に『ざまぁ』されてしまうなら、ちょっと可哀想だな……)
なんだかんだで酒を受け取り盃を傾ける音繰は、魔教の未来に思いを馳せて――やがて、昂る股間の熱に気が付いた。
「おや。これは精力増強剤の類かな……」
「へへっ、泰然がつくった新作ですぜ」
「オレたちが尽くしますんで、ぜひぜひ嫌なことは忘れて愉しんでください!」
泰然というのは、泰宇、泰軒と同じ世代の門弟魔人だ。
彼は妖しい術やヤバい薬の研究、開発に長けていて、媚薬などは可愛いものだったが。
「最近さ、貞操観念が高くなったんだ。誰とでもホイホイ寝るのはよくないなって――」
「何言ってんです、正派の道士じゃあるまいし。どうしちゃったんですか」
「泰宇、そういうプレイなのかもしれん。いやだいやだと言いながら興奮を煽るやつ」
「なるほど泰軒兄貴、冴えてますね。そんな技をご披露くださるとは……さすがですね音繰様!」
――この弟弟子たちときたら、とんでもない解釈をしているではないか。
「あっ、ちょっとっ?」
抵抗しようと思いつつ、快楽に慣れた体は薬効も相まって昂っているようで、音繰はあれよあれよという間に服を乱され、ろくに抵抗らしい抵抗もせずにフワッと押し倒されてしまうのだった。
「待て待て、いいかな? 話し合おうじゃないか。無理やりはだめなんだよ。君たち、私はダメって言ってるんだから、おやめなさい」
一応言葉で制止しつつ、音繰は冷静に自分に突っ込みをいれるのだった。
――異世界倫理は通用しないよなぁ……魔教の魔人だし。
(遊びまくってたセフレが『今日から貞操観念とか倫理観を大事にするよ。君たちもレッツ清く正しい性生活!』と言い出しても、誰も信じないよなぁ!)
「戻ってからの音繰様はなんだか別人のようで、オレ心配してたんですよ」
「オレだって!」
弟弟子たちは、魔人の流儀で兄弟子を元気付けようとしているのだ。生まれてからずっと浸ってきた環境――魔人コミュニティの価値観が『YESえっちNOキヨラカGO媚薬』なだけなのであって、根っこの部分は兄弟子想いなのである。
「そうそう、まるで普通の人間とか、正派の道士とかみたいに毒気がなくってさあ。前みたいな冷え冷え~ってオーラがなくて、おいたわしい……やっぱ、ご体調が優れないせいなんです?」
「オレたちの精を吸って元気になってくださいよ!」
――なんなら、吸われすぎて死んでもいいっ!
二人の目がそう訴えていた。
(しかし、今の私はなんだか前みたいな自分が嫌なんだよな……)
音繰は肌に触れられてぞわぞわと込み上げる快感と嫌悪感を持て余すように溜息をついた。
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