1 / 4
OP
しおりを挟む
喉を潤すために用意したホットココアの香りが、甘い。
マグカップはお気に入りのネコの柄で、ほわほわと湯気をあげる光景の日常感に安堵しながら、僕は非日常の象徴みたいな本をひらく。
……恋人に会うために。
――――僕の恋人は、本の中にいる。
本は、大きくて分厚い、鈍器とかお弁当箱とか言われるタイプの本だ。
抱えると、ずっしりとした重さを感じる本だ。
大学教授だった亡き祖父の部屋から出てきたこの本は、タイトル不明。
見たことのない文字で書いてあるのだ。
分厚い本をひらくと、本のページの中に彼がやってくる。感覚としては、ビデオ通話に近い。
彼は僕を見て、嬉しそうに手を振ってくれた。笑顔は、すごく爽やかなイケメンって感じ。
髪はキラキラ輝く自然な金髪で、瞳は青い。
着ている服は、コスプレみたいだ。西洋ファンタジー風とでもいうのか。騎士みたいな。最初のうちはコスプレが趣味の外国人だと思っていたけれど、最近ではいわゆる「異世界人」というやつじゃないかと思い始めてる。だって、本の中にいるのだし。
「こんにちは。今日も、あなたに会いたくて本をひらきました」
僕は声に出してそう言った。
彼は首をかしげている。声は聞こえていないのだ。
ぱくぱくと口を動かして、彼もまた何かを話してくれる。
でも、僕にその声は聞こえない。お互いに、相手の声は聞こえないのだ。
でも、僕たちは恋人同士だ。
僕は本をゴソゴソと固定して両手でハートの形をつくった。
すると、相手も頷いてハートをつくってくれて、投げキッスをしてくれる。
愛情を伝え合うみたいにジェスチャーをしあって、お互いニコニコして、またね、と手を振って本のページを閉じる。
一度ひらいたページをひらいても、この交流はできない。見開きの1、2ページをひらいて交流したら、また会うためには3、4ページに進まないといけない。
3、4ページをひらいて交流したあとで1、2ページに戻っても、彼とは会えない。彼に会うためには、必ず前回会ったときの次のページをめくらないといけないのだ。
名前も知らない。
素性もわからない。
――――本のページを介した、身振り手振りだけの関係。
……これが、僕たちの恋愛だ。
マグカップはお気に入りのネコの柄で、ほわほわと湯気をあげる光景の日常感に安堵しながら、僕は非日常の象徴みたいな本をひらく。
……恋人に会うために。
――――僕の恋人は、本の中にいる。
本は、大きくて分厚い、鈍器とかお弁当箱とか言われるタイプの本だ。
抱えると、ずっしりとした重さを感じる本だ。
大学教授だった亡き祖父の部屋から出てきたこの本は、タイトル不明。
見たことのない文字で書いてあるのだ。
分厚い本をひらくと、本のページの中に彼がやってくる。感覚としては、ビデオ通話に近い。
彼は僕を見て、嬉しそうに手を振ってくれた。笑顔は、すごく爽やかなイケメンって感じ。
髪はキラキラ輝く自然な金髪で、瞳は青い。
着ている服は、コスプレみたいだ。西洋ファンタジー風とでもいうのか。騎士みたいな。最初のうちはコスプレが趣味の外国人だと思っていたけれど、最近ではいわゆる「異世界人」というやつじゃないかと思い始めてる。だって、本の中にいるのだし。
「こんにちは。今日も、あなたに会いたくて本をひらきました」
僕は声に出してそう言った。
彼は首をかしげている。声は聞こえていないのだ。
ぱくぱくと口を動かして、彼もまた何かを話してくれる。
でも、僕にその声は聞こえない。お互いに、相手の声は聞こえないのだ。
でも、僕たちは恋人同士だ。
僕は本をゴソゴソと固定して両手でハートの形をつくった。
すると、相手も頷いてハートをつくってくれて、投げキッスをしてくれる。
愛情を伝え合うみたいにジェスチャーをしあって、お互いニコニコして、またね、と手を振って本のページを閉じる。
一度ひらいたページをひらいても、この交流はできない。見開きの1、2ページをひらいて交流したら、また会うためには3、4ページに進まないといけない。
3、4ページをひらいて交流したあとで1、2ページに戻っても、彼とは会えない。彼に会うためには、必ず前回会ったときの次のページをめくらないといけないのだ。
名前も知らない。
素性もわからない。
――――本のページを介した、身振り手振りだけの関係。
……これが、僕たちの恋愛だ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
魔性の男は純愛がしたい
ふじの
BL
子爵家の私生児であるマクシミリアンは、その美貌と言動から魔性の男と呼ばれていた。しかし本人自体は至って真面目なつもりであり、純愛主義の男である。そんなある日、第三王子殿下のアレクセイから突然呼び出され、とある令嬢からの執拗なアプローチを避けるため、自分と偽装の恋人になって欲しいと言われ─────。
アルファポリス先行公開(のちに改訂版をムーンライトノベルズにも掲載予定)
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。
うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!!
高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。
ムーン様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる