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1章、楽師、南海に囀りて

24、手紙、「……するけど?」☆

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 諸島にはもう数日で着くらしい。
 蒸すような暑さを感じる夜に、サミルはてがわれた二人部屋の自身のベッドに座り、手紙を読んでいた。

 呪術師メルシムが師匠から返された呪術の鳥から受け取った、名も知らぬ『公子様』――依頼者クライアントからのはじめての手紙である。

 
   24、手紙、「……するけど?」☆

 清潔感がある上質な用紙をひらくと、爽やかで甘いすみれの薫りが感じられた。

 これは、中央貴族が好む『風流』の気――香料を調合して自分好みの香りをきしめる文化によるものだ。
 文字は中央言葉で、横線と交差して上部に突出する縦線を低めに描く特徴と、横にひく線を長めに伸ばす特徴がある。
 はらいの書き方は左右とも奔放ほんぽうで、けれど全体的に文字のサイズは小さめ。
(俺は筆跡鑑定士ではないが、それでも文字というのはなんとなく人柄の伝わるものよな。自分を突出させたり目立つのを控える意識がありつつも、何か才気走る気質を秘め、自己顕示欲もにじむ……しかし、気が小さくて他者を気にして萎縮しがち、と――おお、複雑でいらっしゃる)

 さて、そんな手紙の内容はというと、たいそう素直な調子でつづられていた。

『海渡る自由な鳥 サミル殿へ

 初めまして。
 白い雲よりはるか下、これからの降雪に埋もれるのを待つ道端の小石、貴方のファンがお手紙を差し上げます。
 僕は貴方と文を交わすご縁ができて、とても嬉しいです。

 自由な風は、ただいまどちらに吹いていますか?
 海の底にいらっしゃるとお聞きして、驚きました。
 僕は海にもぐったことがありませんが、海水にかったことはあります。冷たかったな。
 
 大陸の噂話は、海底には届かぬのでしょう。
 届かぬなら、噂など存在しないのと同じですね。
 人の社会を離れると、人の社会のしがらみがどうでもよいと感じられる感覚があるのでは、と僕はおもうのですが、いかが。
 僕は、そんな感覚を抱いたことがあるのです。
 
 ところで、僕が「こんな噂がありますよ」とお知らせして貴方が「そうなんだ」と思われた瞬間に、存在しない噂は貴方の中で存在することになるのかしら。

 試しにちょっとだけ、僕が知る噂のお話をお教えしましょう。
 僕の耳には、アイザールの船団が大きなイカモンスターを退治したとか、幽霊船を討伐したとか、英雄同士のロマンスのお話が届いています。
 それに、ルカ皇子が南海の諸島に目を向けているという噂もあるんですよ。
 僕は、その諸島の王国をよく知りませんが、王国の人々が幸せでいるとよいな、と思います。
 王国の珍しいものや綺麗な風景など、教えてくださると嬉しいです。
 
 そちらは海中で呼吸ができるというお話ですが、水の中はお寒くはありませんでしょうか?
 お花を摘むときには、どのようになさるのでしょう。困りませんか。僕は気になってしまいました。

 人魚の言葉は、東の言葉に似ているのですね。
 僕は妖精が好きです。
 少しだけ東の言葉も学んでいます。
 ファン僕は フェファー好む リアン貴方を
 
 もし貴方がお嫌でなかったら、僕は貴方とお友達になりたいです。
 またお手紙をくださったら、嬉しいです……』

「なにを読んでるんだい、そんなにやけて」
 ふと隣に座って手元を覗き込むのは、ハルディアだった。

「いやぁ、ちょっとね。この手紙が……なかなか、可愛らしいんだもの」
(この小石さんたら、可愛らしくちゃっかりとお気持ち表明するではないか――『僕は自治領を王国だと思ってます』ってか)
 
 サミルは構わずニコニコと手紙を見せてやった。
(ハルディアよ、ルカ皇子にこの手紙をそのまま報告してごらん、面白いぞ、と)
 並ぶ文字を視眇みすがめるハルディアの眼は、なにやら残念そうな気配をのぼらせる。
 
「読めない」
「ああ、そうか」
「遠距離恋愛?」
「いや、いや。これ、相手は子どもだよ。文を交わすだけの可愛らしいお仕事でね」
「へえ……」 
 
 拗ねるような気配のハルディアをみて、サミルは肩を竦めた。
 
いてくれたのかい。嬉しいね」
「……そうやってすぐ茶化す」
 
 若干、じっとりとした目が返ってくる――サミルは肩を竦めた。
 
「言っとくが、リップサービスじゃないぞ……」
 本音をこぼすと、少し照れが滲む。

「……了解?」
 そんな顔をまじまじと見てから、ハルディアがするっと頬に手を当てた。
 
「『代わりに俺が誘ってやろう』って言ってたね」
 額をつけるようにしながら熱っぽくささやかれて、サミルは口の端をもちあげた。
 
「言ったなあ……」
 下唇を指でなぞられる。
「……するけど?」 
 近い距離で見つめるハルディアの碧眼が飢えた獣めいた色を浮かべていて、サミルの胸が期待と喜びに浮足立った。

(『するけど?』だって――ちょっと強気じゃないかハルディアさん。積極的だねハルディアさん。やはり軽く妬いてくれたのかな!) 
 サミルが誘うように微笑んで口を開けば、噛みつくような口付けがされた。

「……ん……」
 ハルディアの舌に、大胆に口腔を蹂躙じゅうりんされる。
 同時に、荒い手付きで服越しに身体中が撫でまわされる――触れる先に偏在へんざいする情熱の片鱗へんりんき集め、混ぜてより大きく育てるみたいに。
 
「ん……んっ……!」
 
 ハルディアの手のひらがシャツの下に潜り込んで、掠めるように胸の尖りに触れれば、びくりと肩が揺れてしまう。
 
「んン、~~ッ」
 
 そのまま、深く舌同士を絡めながら指先でこねられるように弄られれば、一気に体が煽られる。
 快楽に慣れた体はスイッチが入ったみたいに昂り、その気になっていく。尻穴がひくひくとして、雄を求めている自分を感じてしまう――、
 
「……はっ、」
 唇が離されて息を整えれば、ハルディアはバサリと服を脱いでいた。
 ついでのように濡れた音がして、いつ誰から買ったものやら、自前の潤滑油などを使っているではないか。
 
「なかなかのやる気だね」
 茶化すように言ってサミル自身も服を脱げば、生まれたままの姿で絡み合うようにしてベッドに押し倒されて、意趣いしゅ返しみたいに軽く陰茎を刺激され、陰嚢を確かめるようにくすぐられる。
「そっちこそ。なかなかやる気なんじゃない?」
「……っ、言うじゃないか、こいつめ」

 肌の表面を味わうようにハルディアの舌が腹筋をなぞって下におりていき、潤滑油にまみれた指先が後ろのすぼまりに触れた。
 そわそわと続きをねだるように腰を揺らすと、第一関節まで中指を突っ込まれる。
 体温に慣らすように、液体を塗り込むように指が動かされ、増やされていく。
 
「ひくひくしてる……」
「んン……」 
 
(こいつめ、ちょっと慣れてきたんじゃないか?)
 指摘の声に羞恥心があおられ、感じる場所を刺激されて、体が否応なくもだえてしまう。
 
「あっ……そこばかり……ハルディア、」
「感じるでしょ、サミルさん」
「……ふ、ぁッ!? ぁ、アッ」
 
 笑ってやろうと無理やり口の端を歪めたところに、強い刺激が加えられて生理的な涙が目じりに浮かぶ――前で勃ちあがっていた肉棒を同時に扱かれたのだと頭で理解するより先に、前と後ろ同時につづく強い快感!
 腰の奥から蕩けそうになりながら、全身がびくびくと跳ねてしまう。
 
「う、ふぁ、やッ……!? ッ、アぁ――!!」
「へへっ……さそうだね――すっごい、イイ顔してる……っ」
 
 してやったり、といった悪戯小僧みたいな顔で笑って、ハルディアが前を放して、ぐちぐちと後ろを解す。
 待ちきれないとばかりにそそり立った剛直を軽く揺らして。
 
「はぁっ……あ……っ……」 
「今日はどうする? サミルさん。先に達するかい」
「い、い、いい……っ、」
「了解。じゃ、遠慮なく……」
 
 舌なめずりするような気配と共に、ハルディアが剛直の先端をサミルの後孔にあてがった。
 
「――お邪魔するよ」 
「ああっ……!」
 
 ぬぷり、と圧倒的な質量をもって、ハルディアの雄が腹の中に押し込まれる。
「あ、っつい……っ」
 持て余す熱をぐいぐいと押し付けるようにして、奥へといってくる。あっという間に無言で根元まで埋められ、ぐりぐりと奥にそのまま押し付けるようにされて、サミルはたまらず首を揺らしながら喘いでしまった。
「ぁ、あ! あぁッ、」 
 
 ――ハルディアが何か言っている。
 
「危うい。持って行かれそうになった」
 神妙な気配と欲に浮かされるような気配を織り交ぜた声で呟いて、腰が使われる。
「絡み付いてくるみたいだ。凄い――」

「っあ……っ、ハルディア、お、お、奥……っ」
「ん、奥で――」
 
 揺さぶられ、突き上げられる。
「あ、ああ!!」

「サミルさんは、本当に綺麗だ……っ」
 興奮したように首筋に噛みつかれ、奥の居心地を確かめるみたいにグラインドされる。
 
「中もこんなにひくついて……っ」
「ひア、っ、~~ッ、ああア!!」  
 
 緩急つけて腰が送られると、溜まらず、びくんびくんと体が震えた。
 
「は、あ、あ、ア、んンーー!! ふ、ふっぁ」
「お、俺――っ、うまく出来てるっ? 気持ち、いいッ? サミルさん……ッ」
 
 切々と熱を吐くように荒い息で問いながら、ハルディアが突く動きが本能に突き動かされる獣めいて激しさを増していく。
 
「や、あ、ア、アア、い、いい、いい……ッ!! いいから!!」 
 リズミカルに揺れて奥を貫かれ、サミルの体がゆさゆさと揺らされる。
「あ、あ、あ、あっ」
  
 内壁を何度も擦られ、奥が発情を促すみたいに、快楽の扉を強引にねじ開けるように奥が肉棒で執拗にノックされる。
 水音がぐちぐちと淫らな情を煽るような音をたてて――意識せずにいられない、思わずにいられない――『犯されている』!

(ああ、俺は犯されている……、乱暴にされてこれ以上なく感じている……っ!) 
「んン゛ー……ッ、っ!! あ、ああっ!! あああ!」
 
 自分ではもうコントロールできず、甲高い声が出てしまう――がって、快楽に溺れてしまう。
  
「あっ、あっ、ァあっ、ああアっ、ア、……やーー!!」
 
 嬌声が悲鳴みたいに口から出て、止まらない。
 獣のように吠えてしまう、喘いでしまう。
 自身のあられもない声が羞恥を煽って、さらに自分自身を乱していく――、
 
「ーー!!」

 中で脈打つハルディアの存在感が熱い飛沫を放ったのを中で感じると同時に、なすすべなく高まり絶頂の中で自身も果てて――

 その瞬間、目の前がちかちかして、世界が白く弾けたようだった。
 
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