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6章、幸せのかたち
68、「あれはもうそういうプレイスタイルなのでは」(軽☆)
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68、「あれはもうそういうプレイスタイルなのでは」(軽☆)
――お、落ちていた。
意識を落として、眠り込んでた。
……寝てた!
翌朝、目が覚めたクレイは現実をぼんやりと受け止め、傍らの体温に視線を向けた。
身体には心地よい疲労感がゆらゆら揺蕩っている。
クレイは大切な宝物を抱くようにニュクスフォスに抱きしめられていて、そのあったかな抱擁は身も心も幸せな気持ちにしてくれるようだった。
艶めく実りの果実みたいな色をしたニュクスフォスの瞳がクレイの視線を受け止めて、嬉しそうに瞬く。
「俺の可愛い殿下がお目覚めですね」
蕩けそうな声が耳朶をくすぐる。
「昨夜は気持ちよかったですね」
「ん……っ、さ、昨夜は……んんっ、」
――声が涸れている。
昨夜、たくさん乱れて啼いたから。
それを強く意識して、クレイは赤くなった。
「お水をどうぞ、小鳥さん」
「あり、がとう……」
背中を支えるようにして、上半身を起こしてもらう。
差し出された水を両手で掴むと、朝の光に透明な水がきらきらして、綺麗だった。
唇を潤して喉に通る水は、胸のあたりをすうっとさせる。美味しい……。
潤いに目を細めるクレイに、ニュクスフォスはニコニコしている。
「貴方がお水を飲んでいるだけで俺は満ち足りた気持ちになれますよ」
――そんな風に呟いて。
裸体にシーツを纏わせているだけのクレイを少し眩しそうに見て、うっとりとしている……。
(なんか、いかにもちゃんとできましたって感じだけど……)
クレイは少し困惑した。
「僕、途中で寝ちゃった……」
――あのあとが本命だったはずなのに。
――しかし、あれは……あんなに何回も達せられたら、限界ってなっちゃうよ。
どんな顔をすればいいかわからない――そんな心を持て余すようにもじもじしていれば、肩甲骨のあたりがさすられて、ぽかぽかとする。
「気持ちよくなられて、すっきりおやすみになられるのはとても良いことですね」
ニュクスフォスは、爽やかに清らかにそんなことを言う。
「い、いや……僕だけ気持ちよい夜だったのは、どうなんだろう?」
(僕、ニュクスを気持ち良くさせられてない……満足させられてないではないか)
初夜は一緒に気持ちよくなる心づもりでいたのに。
仲良くして、繋がる夜にするはずだったのに。
そんな気持ちを言外に仄めかせば、後ろ頭を包むようにして顔が寄せられる。
朝日の中、清潔なシーツの上で笑む目の前の男の、なんと美しいことだろう。
ほわりと鼻腔に感じるのは、柑橘系の良い匂い。
(ああ、僕はこの匂いが、好き……)
クレイは大好きな匂いを近くに感じて、ふわふわしてしまった。
「おお、殿下――殿下が気持ち良さそうだと、俺の心は待たされるのです――俺もとっても気持ちよかったですよ」
ニコニコとした声が当然のような温度で喜びを語る。
クレイは、それをちょっともどかしく思った。
(言ってることは清らかだけど、なんか違う気がする……)
「ぼ、僕が申しているのは、つまり――しょ、初夜……、ふうふが、初めて繋がる……その……」
――言葉にして伝えるのが、恥ずかしい!
顔から火が出てしまいそう――クレイはぎゅっと目を閉じた。
その目蓋へと、ふわりと掠めるようなキスが落とされる。そのまま、雨垂れが大地を濡らすように眦や頬にキスが降る。
――愛されている。
――慈しまれている。
大切だと肌に胸に伝えてくる、そんな優しい接触だ。
「おお殿下! 初夜に必ず繋がらないといけないなんてことはありませんとも!」
「……っ?」
そぉっと目を開けると、余裕の表情を浮かべる大人びた青年がそこにいる。
「殿下は華奢で体力もあまりないのですから、ゆっくり時間をかけて、焦らず少しずつ慣らしてまいりましょう……」
自分がリードするのだとはしゃぐような、それでいて落ち着こうとするような気勢で、頬がすりすりと寄せられる。
「あれ、なんか慣らすって感じの前戯じゃなかったけどな……」
「昨夜はちと俺もはしゃぎすぎましたな。殿下が可愛らしかったのでつい、つい」
「……はしゃいでたね。あと、酔ってたね……、でも、」
クレイはそっと真実を確認するようにして、一拍を置いた。
ちょっと恥ずかしいが、ちゃんと言うべきである――クレイは視線を彷徨わせ、ほんのりと頬を染めた。
「き、気持ちよかっ……んっ……」
言いかけた唇が塞がれる。
熱の灯る吐息を押し付けるように濡らされて、ちゅ、ちゅ、と愛でるように啄まれる。
「ン、ン……」
穏やかでやわらかな接触に胸がいっぱいになって、唇をひらいて求めてしまう。
舌を突き出して、欲しがってしまう。
「……っ」
舌が絡められて軽く吸われると、ぞくぞくと肌が震えた。
それを宥めるように優しくうなじを撫でられて、優しい手付きとは対照的に口内を荒めに蹂躙されれば、腰のあたりが焦れ焦れとした甘い欲をおぼえて――昨夜と今朝の境界がわからなくなりそうだった。
「っ……」
「んん……」
唇が離れて、透明に煌めく唾液が架け橋のように糸を引く。
それを指先ですくうようにしてニュクスフォスが嫣然と微笑んで、「今朝はここまで」と終わりを告げる。
背中をさすり、髪を梳く手は、とても優しい。
寄り添う体温は日常の気配が濃く、保護者めいていて、クレイを安心させてくれるのだ。
――そして、『慣らしてまいりましょう』という言葉のとおりに、その日からニュクスフォスはクレイを『慣らす』ようになったのだった。
◇◇◇
「くぅ……」
クレイはうつぶせにさせられて、膝を折る。
あるいは、仰向けで腰の下に枕を入れられて、股をひらく。
間抜けで屈辱的な姿勢だ――そんな姿勢で探られ、指を挿入されて慣らされるのだ。
内部に進まれ、香油で濡らされて、弱いところを弄られて。
「本日はこれくらいで」
――そうやって、最後までいかずにいつも適当なタイミングで切り上げられるのだ。
フィニッシュとばかりに前を扱かれて、気持ちよく放ると「よく出来ました」とか「気持ちよかったですね」とか言われて撫でられて、寝かしつけられる。
……そんな夜を数えるうちに季節がめぐると、最初こそ「あの二人はちゃんとできるのか」と見守っていた周囲も「あれはもうそういうプレイスタイルなのでは」「陛下はもう慣らして終わるプレイに満足してしまって挿入する気がないのでは」と呆れ顔をし始める。
だんだんと進捗を気にする者もいなくなった頃に、二人はようやく『慣らす』先に進むのだった。
――お、落ちていた。
意識を落として、眠り込んでた。
……寝てた!
翌朝、目が覚めたクレイは現実をぼんやりと受け止め、傍らの体温に視線を向けた。
身体には心地よい疲労感がゆらゆら揺蕩っている。
クレイは大切な宝物を抱くようにニュクスフォスに抱きしめられていて、そのあったかな抱擁は身も心も幸せな気持ちにしてくれるようだった。
艶めく実りの果実みたいな色をしたニュクスフォスの瞳がクレイの視線を受け止めて、嬉しそうに瞬く。
「俺の可愛い殿下がお目覚めですね」
蕩けそうな声が耳朶をくすぐる。
「昨夜は気持ちよかったですね」
「ん……っ、さ、昨夜は……んんっ、」
――声が涸れている。
昨夜、たくさん乱れて啼いたから。
それを強く意識して、クレイは赤くなった。
「お水をどうぞ、小鳥さん」
「あり、がとう……」
背中を支えるようにして、上半身を起こしてもらう。
差し出された水を両手で掴むと、朝の光に透明な水がきらきらして、綺麗だった。
唇を潤して喉に通る水は、胸のあたりをすうっとさせる。美味しい……。
潤いに目を細めるクレイに、ニュクスフォスはニコニコしている。
「貴方がお水を飲んでいるだけで俺は満ち足りた気持ちになれますよ」
――そんな風に呟いて。
裸体にシーツを纏わせているだけのクレイを少し眩しそうに見て、うっとりとしている……。
(なんか、いかにもちゃんとできましたって感じだけど……)
クレイは少し困惑した。
「僕、途中で寝ちゃった……」
――あのあとが本命だったはずなのに。
――しかし、あれは……あんなに何回も達せられたら、限界ってなっちゃうよ。
どんな顔をすればいいかわからない――そんな心を持て余すようにもじもじしていれば、肩甲骨のあたりがさすられて、ぽかぽかとする。
「気持ちよくなられて、すっきりおやすみになられるのはとても良いことですね」
ニュクスフォスは、爽やかに清らかにそんなことを言う。
「い、いや……僕だけ気持ちよい夜だったのは、どうなんだろう?」
(僕、ニュクスを気持ち良くさせられてない……満足させられてないではないか)
初夜は一緒に気持ちよくなる心づもりでいたのに。
仲良くして、繋がる夜にするはずだったのに。
そんな気持ちを言外に仄めかせば、後ろ頭を包むようにして顔が寄せられる。
朝日の中、清潔なシーツの上で笑む目の前の男の、なんと美しいことだろう。
ほわりと鼻腔に感じるのは、柑橘系の良い匂い。
(ああ、僕はこの匂いが、好き……)
クレイは大好きな匂いを近くに感じて、ふわふわしてしまった。
「おお、殿下――殿下が気持ち良さそうだと、俺の心は待たされるのです――俺もとっても気持ちよかったですよ」
ニコニコとした声が当然のような温度で喜びを語る。
クレイは、それをちょっともどかしく思った。
(言ってることは清らかだけど、なんか違う気がする……)
「ぼ、僕が申しているのは、つまり――しょ、初夜……、ふうふが、初めて繋がる……その……」
――言葉にして伝えるのが、恥ずかしい!
顔から火が出てしまいそう――クレイはぎゅっと目を閉じた。
その目蓋へと、ふわりと掠めるようなキスが落とされる。そのまま、雨垂れが大地を濡らすように眦や頬にキスが降る。
――愛されている。
――慈しまれている。
大切だと肌に胸に伝えてくる、そんな優しい接触だ。
「おお殿下! 初夜に必ず繋がらないといけないなんてことはありませんとも!」
「……っ?」
そぉっと目を開けると、余裕の表情を浮かべる大人びた青年がそこにいる。
「殿下は華奢で体力もあまりないのですから、ゆっくり時間をかけて、焦らず少しずつ慣らしてまいりましょう……」
自分がリードするのだとはしゃぐような、それでいて落ち着こうとするような気勢で、頬がすりすりと寄せられる。
「あれ、なんか慣らすって感じの前戯じゃなかったけどな……」
「昨夜はちと俺もはしゃぎすぎましたな。殿下が可愛らしかったのでつい、つい」
「……はしゃいでたね。あと、酔ってたね……、でも、」
クレイはそっと真実を確認するようにして、一拍を置いた。
ちょっと恥ずかしいが、ちゃんと言うべきである――クレイは視線を彷徨わせ、ほんのりと頬を染めた。
「き、気持ちよかっ……んっ……」
言いかけた唇が塞がれる。
熱の灯る吐息を押し付けるように濡らされて、ちゅ、ちゅ、と愛でるように啄まれる。
「ン、ン……」
穏やかでやわらかな接触に胸がいっぱいになって、唇をひらいて求めてしまう。
舌を突き出して、欲しがってしまう。
「……っ」
舌が絡められて軽く吸われると、ぞくぞくと肌が震えた。
それを宥めるように優しくうなじを撫でられて、優しい手付きとは対照的に口内を荒めに蹂躙されれば、腰のあたりが焦れ焦れとした甘い欲をおぼえて――昨夜と今朝の境界がわからなくなりそうだった。
「っ……」
「んん……」
唇が離れて、透明に煌めく唾液が架け橋のように糸を引く。
それを指先ですくうようにしてニュクスフォスが嫣然と微笑んで、「今朝はここまで」と終わりを告げる。
背中をさすり、髪を梳く手は、とても優しい。
寄り添う体温は日常の気配が濃く、保護者めいていて、クレイを安心させてくれるのだ。
――そして、『慣らしてまいりましょう』という言葉のとおりに、その日からニュクスフォスはクレイを『慣らす』ようになったのだった。
◇◇◇
「くぅ……」
クレイはうつぶせにさせられて、膝を折る。
あるいは、仰向けで腰の下に枕を入れられて、股をひらく。
間抜けで屈辱的な姿勢だ――そんな姿勢で探られ、指を挿入されて慣らされるのだ。
内部に進まれ、香油で濡らされて、弱いところを弄られて。
「本日はこれくらいで」
――そうやって、最後までいかずにいつも適当なタイミングで切り上げられるのだ。
フィニッシュとばかりに前を扱かれて、気持ちよく放ると「よく出来ました」とか「気持ちよかったですね」とか言われて撫でられて、寝かしつけられる。
……そんな夜を数えるうちに季節がめぐると、最初こそ「あの二人はちゃんとできるのか」と見守っていた周囲も「あれはもうそういうプレイスタイルなのでは」「陛下はもう慣らして終わるプレイに満足してしまって挿入する気がないのでは」と呆れ顔をし始める。
だんだんと進捗を気にする者もいなくなった頃に、二人はようやく『慣らす』先に進むのだった。
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