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5章、マイノリティと生命の砂時計
62、ヒダスレス川の戦いと、たすけてあすらいと……僕、ぴんち。(軽☆)
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62、ヒダスレス川の戦いと、たすけてあすらいと……僕、ぴんち。
大陸北方に流れるヒダスレス川を挟んで、二つの武装団が対峙していた。
片方はテオドールと騎馬民族。
もう片方はランゲ一族である。
川幅の増す季節に、ポッチーこと妖精牛に逃げられたテオドールは、言語の壁に苦しみながらも味方である騎馬民族に考えを共有する。
「川の水量が低くなるまで待ってたら意表がつけないし、後ろからうたれるかもしれない」
なにより、孤児院に顔が出せなくて、孤児たちに顔を忘れられてしまうのがいやだった。
あとは――自分にこの仕事を任せてくれた坊ちゃんが北西の国に帰ってくる前に終わらせたい、という気持ちも、もちろんある。
「渡るぞ渡るぞーってのを繰り返して相手の意識と警戒心を緩めるんだ」
毎日せっせと川を渡ろうとする素振りをみせ続ければ、イヴァンは「今日もまた懲りずにやってる」みたいな感じで呆れ顔をしながら警戒している。
そして、嵐が訪れる。
「今日渡るぞ、もう明日までは持ち越さないぞ」
テオドールは隊の半分を川岸に残して、半分を離れた上流に向かわせた。分解した船を運ばせて、川岸で組み立てさせて。
両岸が木に覆われている一帯は、川の途中に小さな島がある。
そこを活用して、いつもの場所でいつものようにテオドールの隊がイヴァンの注意を引き付ける中、バヤンとフレルバータルの騎馬隊が川を渡って向こう岸を目指す。
「……周辺を探れ」
イヴァンが第六感としか言いようのない感覚に兵を割いて探らせる――、
「若! 敵の半数が上流を渡っています!」
報告が入り、イヴァンはわずかな戦力を残して騎馬隊の迎撃に向かった。
「渡っている最中を狙え! 矢を惜しむな!」
嵐の川を渡っている騎馬隊が危機に晒され――、
そこに、東の方角から新たな旗が姿を覗かせ、接近するという報せが入る。
「あれは、傭兵団。東方、商狼の獣人たち――」
「二つ名付きの傭兵もいるようで」
同時に、わずかな戦力だけを残した元々の川辺でも戦闘が勃発している。
向こう岸にいたテオドールの隊が「これしか戦力が残ってないなら無理にでも渡っちゃうぞ」と川を渡り始めたというのだ。
イヴァンはさあっと蒼褪めた。
「都市まで退く! 籠城だ、籠城をする!」
一方のテオドールは嵐の川の途中でうっかり溺れかけ、あっぷあっぷとしているところ――、
「もぉぉおおぅ」
じゃばじゃばっと水を巻き上げ、懐かしい鳴き声がする。
「ポッチー、ポッチーじゃないか」
逃げたと思った妖精牛ポッチーが戻って来て、助けてくれたのだった。
◇◇◇
「めでたし、めでたし――はっ、夢か」
夢から醒めたクレイは、自分をがっちりとホールドするニュクスフォスに気が付いた。
すやすやと寝息をたてて、気持ちよさそうに眠っている……。
(ぐっすり寝ているや。なんて無防備なの)
規則正しい呼吸にあわせて上下するニュクスフォスの胸元に子猫のような気分で頬を寄せて、クレイはうっとりと微笑んだ。
そして、ふいに擦れた敏感な部分のもたらす甘い感覚にぴくりと睫毛を震わせた。
(あ……)
抱き枕にすりすりとするようなニュクスフォスの寝惚け仕草がクレイの肌を刺激する。
「……っ、」
脚と脚が絡まっているのを強く意識する。
股座を掠めるようなやんわりとした刺激に息を詰める。
意識が過敏に触れ合っている部分に向いて、快感を拾おうとしてしまう――、
「っ!」
もぞもぞとニュクスフォスの脚が体温を寄せて、無意識の手が肌を撫でるように蠢くと、クレイの全身が過剰に反応を示して背を反らしてしまう。
腰がゆらゆらと浮いて、揺れて、積極的に刺激を得ようとする――ゆったりした夜着の布が擦れて、そんな些細な刺激に心地よさを感じて、熱を昂らせてしまう。
(あ――布が、擦れて……気持ちい……っ、あ、うそ。僕、この状況でこんな)
「は、……」
――声を出しちゃ、だめ……、
(お、起こしてしまう……い、いけない)
――勝手にひとりで盛り上がっているところなんて、絶対に視られたくないっ。
焦燥感が湧きあがる。
(お、落ち着け。しずまれ、気持ちよくなっちゃ、だめ……っ、あ……っ)
腰が動いて、快感を得ようとしてしまう。
布を揺らして、布に擦れさせて。
もっと、もっと、こんなのではもどかしい、と欲しがる体がニュクスフォスの脚に自分を押し付けて、火照った体がますます熱くなっていく。
(あ、こんなこと、しちゃだめだ……絶対、いけない、だめ、だめ……っ)
だけど、だめだと思えば思うほど――、
(起きちゃう。起こしちゃう――バレちゃう……っ)
スリルを感じて、背徳感でいっぱいになって、……興奮してしまうのだ。
(き、気持ちいい。気持ち、いい……っ、あぁ……)
「……、……、っ、ふ……、」
だって、顔が近い。
大好きな匂いがする。
あたたかくて、ぽかぽかして、こんなに無防備で、こんなにいけない気持ちになってしまう――、
(ああ、止まらない。やだ、これ――興奮するよ。だって、こんな……だめだって思うほど、興奮しちゃって、だめだ――)
激しく動いたら、起こしてしまう。
ゆっくり、そっと、――ああ、気持ちいい……っ、
(声、出しちゃだめ――我慢、我慢しなきゃ、だめ……っ)
「ふ、……――っ!!」
吐息が甘く、乱れてしまう。
背を反り、腰を痙攣させて――背徳感でいっぱいの中、快感の波がつよくゆらりと、押し出すようにして溜まっていた熱を吐き出して、濡らしてしまう。
「――!!」
だめ。
いけない。
……だけど、止まらない。
出てしまう――気持ちがいい!
とても、とても――気持ち、いい!
ああ――、
「は……っ」
下半身に濡れた感触をおぼえて、クレイは自己嫌悪でいっぱいになる。
そして、冷静になってから自分の状況を考えると、自分はとても困る体勢なのだった……、
がっしりとニュクスフォスに両腕と両脚で抱きしめられて、逃れられないものだから。
(わあ。この濡れた下半身……僕、どうしたらいいの)
本当に。
本当に!
クレイは涙目になって、弱々しく助けを求めた。
(あ……あ、あすらいと……たすけてあすらいと……)
困り果てたクレイは、おそるおそる助けを呼ぶのだった。
(僕の黒竜。黒竜さん……優しいあすらいと。あすらいとさん……僕、ぴんち。暗殺者に襲われるよりも大ぴんち。とてもとても、困ってる――)
――なんということでしょう。
僕、あんなに清らかな感じで「眠るだけ」とか言ったのに。
寝ている恋人に抱きしめられた状態で、ひとりで盛り上がって盛りついて、股間をすりすりして気持ちよくなって、粗相をしてしまいました――、
黒竜さん、たすけて。黒竜さん……こんなのバレたら僕、死んじゃう……。
その呼び声があまりに情けなかったからだろうか。
黒竜は物凄く冷ややかで呆れ果てたような気配を濃厚に発しながら、クレイを助けてくれたのだった。
大陸北方に流れるヒダスレス川を挟んで、二つの武装団が対峙していた。
片方はテオドールと騎馬民族。
もう片方はランゲ一族である。
川幅の増す季節に、ポッチーこと妖精牛に逃げられたテオドールは、言語の壁に苦しみながらも味方である騎馬民族に考えを共有する。
「川の水量が低くなるまで待ってたら意表がつけないし、後ろからうたれるかもしれない」
なにより、孤児院に顔が出せなくて、孤児たちに顔を忘れられてしまうのがいやだった。
あとは――自分にこの仕事を任せてくれた坊ちゃんが北西の国に帰ってくる前に終わらせたい、という気持ちも、もちろんある。
「渡るぞ渡るぞーってのを繰り返して相手の意識と警戒心を緩めるんだ」
毎日せっせと川を渡ろうとする素振りをみせ続ければ、イヴァンは「今日もまた懲りずにやってる」みたいな感じで呆れ顔をしながら警戒している。
そして、嵐が訪れる。
「今日渡るぞ、もう明日までは持ち越さないぞ」
テオドールは隊の半分を川岸に残して、半分を離れた上流に向かわせた。分解した船を運ばせて、川岸で組み立てさせて。
両岸が木に覆われている一帯は、川の途中に小さな島がある。
そこを活用して、いつもの場所でいつものようにテオドールの隊がイヴァンの注意を引き付ける中、バヤンとフレルバータルの騎馬隊が川を渡って向こう岸を目指す。
「……周辺を探れ」
イヴァンが第六感としか言いようのない感覚に兵を割いて探らせる――、
「若! 敵の半数が上流を渡っています!」
報告が入り、イヴァンはわずかな戦力を残して騎馬隊の迎撃に向かった。
「渡っている最中を狙え! 矢を惜しむな!」
嵐の川を渡っている騎馬隊が危機に晒され――、
そこに、東の方角から新たな旗が姿を覗かせ、接近するという報せが入る。
「あれは、傭兵団。東方、商狼の獣人たち――」
「二つ名付きの傭兵もいるようで」
同時に、わずかな戦力だけを残した元々の川辺でも戦闘が勃発している。
向こう岸にいたテオドールの隊が「これしか戦力が残ってないなら無理にでも渡っちゃうぞ」と川を渡り始めたというのだ。
イヴァンはさあっと蒼褪めた。
「都市まで退く! 籠城だ、籠城をする!」
一方のテオドールは嵐の川の途中でうっかり溺れかけ、あっぷあっぷとしているところ――、
「もぉぉおおぅ」
じゃばじゃばっと水を巻き上げ、懐かしい鳴き声がする。
「ポッチー、ポッチーじゃないか」
逃げたと思った妖精牛ポッチーが戻って来て、助けてくれたのだった。
◇◇◇
「めでたし、めでたし――はっ、夢か」
夢から醒めたクレイは、自分をがっちりとホールドするニュクスフォスに気が付いた。
すやすやと寝息をたてて、気持ちよさそうに眠っている……。
(ぐっすり寝ているや。なんて無防備なの)
規則正しい呼吸にあわせて上下するニュクスフォスの胸元に子猫のような気分で頬を寄せて、クレイはうっとりと微笑んだ。
そして、ふいに擦れた敏感な部分のもたらす甘い感覚にぴくりと睫毛を震わせた。
(あ……)
抱き枕にすりすりとするようなニュクスフォスの寝惚け仕草がクレイの肌を刺激する。
「……っ、」
脚と脚が絡まっているのを強く意識する。
股座を掠めるようなやんわりとした刺激に息を詰める。
意識が過敏に触れ合っている部分に向いて、快感を拾おうとしてしまう――、
「っ!」
もぞもぞとニュクスフォスの脚が体温を寄せて、無意識の手が肌を撫でるように蠢くと、クレイの全身が過剰に反応を示して背を反らしてしまう。
腰がゆらゆらと浮いて、揺れて、積極的に刺激を得ようとする――ゆったりした夜着の布が擦れて、そんな些細な刺激に心地よさを感じて、熱を昂らせてしまう。
(あ――布が、擦れて……気持ちい……っ、あ、うそ。僕、この状況でこんな)
「は、……」
――声を出しちゃ、だめ……、
(お、起こしてしまう……い、いけない)
――勝手にひとりで盛り上がっているところなんて、絶対に視られたくないっ。
焦燥感が湧きあがる。
(お、落ち着け。しずまれ、気持ちよくなっちゃ、だめ……っ、あ……っ)
腰が動いて、快感を得ようとしてしまう。
布を揺らして、布に擦れさせて。
もっと、もっと、こんなのではもどかしい、と欲しがる体がニュクスフォスの脚に自分を押し付けて、火照った体がますます熱くなっていく。
(あ、こんなこと、しちゃだめだ……絶対、いけない、だめ、だめ……っ)
だけど、だめだと思えば思うほど――、
(起きちゃう。起こしちゃう――バレちゃう……っ)
スリルを感じて、背徳感でいっぱいになって、……興奮してしまうのだ。
(き、気持ちいい。気持ち、いい……っ、あぁ……)
「……、……、っ、ふ……、」
だって、顔が近い。
大好きな匂いがする。
あたたかくて、ぽかぽかして、こんなに無防備で、こんなにいけない気持ちになってしまう――、
(ああ、止まらない。やだ、これ――興奮するよ。だって、こんな……だめだって思うほど、興奮しちゃって、だめだ――)
激しく動いたら、起こしてしまう。
ゆっくり、そっと、――ああ、気持ちいい……っ、
(声、出しちゃだめ――我慢、我慢しなきゃ、だめ……っ)
「ふ、……――っ!!」
吐息が甘く、乱れてしまう。
背を反り、腰を痙攣させて――背徳感でいっぱいの中、快感の波がつよくゆらりと、押し出すようにして溜まっていた熱を吐き出して、濡らしてしまう。
「――!!」
だめ。
いけない。
……だけど、止まらない。
出てしまう――気持ちがいい!
とても、とても――気持ち、いい!
ああ――、
「は……っ」
下半身に濡れた感触をおぼえて、クレイは自己嫌悪でいっぱいになる。
そして、冷静になってから自分の状況を考えると、自分はとても困る体勢なのだった……、
がっしりとニュクスフォスに両腕と両脚で抱きしめられて、逃れられないものだから。
(わあ。この濡れた下半身……僕、どうしたらいいの)
本当に。
本当に!
クレイは涙目になって、弱々しく助けを求めた。
(あ……あ、あすらいと……たすけてあすらいと……)
困り果てたクレイは、おそるおそる助けを呼ぶのだった。
(僕の黒竜。黒竜さん……優しいあすらいと。あすらいとさん……僕、ぴんち。暗殺者に襲われるよりも大ぴんち。とてもとても、困ってる――)
――なんということでしょう。
僕、あんなに清らかな感じで「眠るだけ」とか言ったのに。
寝ている恋人に抱きしめられた状態で、ひとりで盛り上がって盛りついて、股間をすりすりして気持ちよくなって、粗相をしてしまいました――、
黒竜さん、たすけて。黒竜さん……こんなのバレたら僕、死んじゃう……。
その呼び声があまりに情けなかったからだろうか。
黒竜は物凄く冷ややかで呆れ果てたような気配を濃厚に発しながら、クレイを助けてくれたのだった。
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