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5章、マイノリティと生命の砂時計
52、僕たち、ちょっと普通と違うね
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城に戻ると、自分によく似た姿に化けた呪術師のレネンが待っていた。
クレイは久しぶりの再会を喜びつつ、隣に並んで背比べをした。微笑ましそうな顔をしつつ、メイドのマナが紅茶を淹れている。
「レネン、僕少し背が伸びたのではない? どう……?」
背筋を伸ばして得意げに言えば、自分の姿をしたレネンが同じ高さで不満を訴える眼を向けてくる。
「坊ちゃん。私が坊ちゃんのフリをしてどんな日々を送っていたとお思いですか」
「ちやほやと過保護にされて子供っぽくニコニコしていたのだろう、わかるよ」
「偽物の『騎士王』と家族ごっこをしていたんですよ」
「……」
クレイはそれを想像して、少しワクワクした。
「両方偽物の家族ごっこ、面白いじゃないか、見てみたい」
「坊ちゃん!」
「いや……こほん。苦労をかけたね。よく努めてくれた……」
取り繕うように言えば、隣にいた自分が輪郭をぶらすようにして黒ローブ姿の呪術師の姿になる。
「もうしませんからね」
「それは困るよ……」
黒いフードを懐かしくくいくいと引っ張ると、机の上の文箱が自然で示される。メイドのマナはそんな二人を背景に楚々とした仕草でソファの前の丸テーブルにスコーンの皿を並べてくれた。
52、僕たち、ちょっと普通と違うね
焼き色の美しいスコーンは、小麦粉感が舌先に滑らかで素朴で上品な味わい。
紅茶とあわせていただけば互いの味を引き立て合うみたいで、とっても美味しい。
「手紙がたくさんあるね」
メルギン伯やフィニックスが手紙を書いてくれている――ひとつひとつを手に取っておっとりと微笑むクレイに、レネンが報告の声を静かに降らせた。
「アクセル様に縁談がございます」
「はっ? アクセル?」
それは全く油断しているところに振ってきた凄まじい衝撃で、落雷を受けたようなショックがクレイの声を震わせた。
感情をどこかに置いてきたように、レネンが無機質に事実だけを並べる。
「お相手はクヴェルレ家のリーガン様です。先に別の方との縁談がまとまりかけていたところに割り込む形にて」
「リ、リーガン……? 僕とそう変わらない歳のお姉さまではないか。同じ敵を持つ派閥同士、親しくしていただいた方だよ」
リーガンは、クレイが中央にいた時に親しくしていた中央内務系派閥の家柄のお姉さまだ。
エリック第二王子の陣営にかつて暗殺されたフレデリック第三王子の母妃シャジャルはリーガンの叔母にあたる。
エリック第二王子とクレイが対立した際には、第三王子派閥は頼もしい味方であった。
リーガンにはクレイの側から近寄って『僕たちは共に第二王子派閥から睨まれていますが、危うい立場同士、一緒に保身をはかりましょう』と協力を呼び掛けたものだった。
「アクセル……これは、保険だね。予備だね。僕の代わりだね。コルトリッセンの後継ぎを――選択肢を増やしておきたいのだね」
クレイは眉を寄せた。
それは全く楽しくない現実だった。
アクセルが後継作りの相手として選んだのは、『コルトリッセンが味方するエリック王子陣営』の敵。『敗者陣営の姫君』なのだ――それは、まるで。
「次期王の政敵潰し――ラーシャ姫の時のようではないか!」
白い手が激昂にふるふると震えながら手紙の束を漁る。
アクセルの名はその中にはなく、代わりにリーガンの手紙を見つけて、クレイはそれを胸にかき抱くようにしてソファに座った。
リーガンは『わたくしには恋愛なるものがわかりません』と打ち明けていた。
『実は恋愛物語や恋愛の話をするよりも、ドレスのデザインをする方が楽しいのです。自分のデザインしたドレスが実物として出来上がると幸せな気分になるのです』――そう告白しつつ、二つの縁談について触れ、どなたに嫁いでも貴族の家に生まれたからには期待されるお役目を務める心づもりでいる、と貴族の娘らしい諦観をのぞかせていた。
そして、クレイの近況を気にしてくれるのだった。
『クレイ様は、故国を離れてお寂しい想いをなさっていませんか。おつらい思いをなさっていませんか……』
「レネン、リーガンをどう思う」
問いかける声は震えていた。
「僕と親しくしてくれた、戦友とも言えるリーガンが僕の実父に嫁ぎ、僕の代わりとなる後継ぎを産まされるかもしれない。これをどう思う」
沈黙が数秒続き、レネンはそっと絨毯の上に膝をついた。
「坊ちゃん。中央では良くあることでしょう。貴族社会では当たり前でしょう。中央貴族は後継者を産み家を存続させる事が大事――そう教えられて育ちます。婚姻とは元来子供を作るために許されるものであり、子供を作る相手――伴侶は家同士が決めるもので……」
声は数式を解くような温度感で、感情的になるようなことではないと事実確認をするようだった。
「そうではない。僕はそんな返事を欲したわけではない」
クレイはむすりとして睫毛を伏せた。
――まるで良識がなく、聞き分けのない駄々っ子みたいだ、僕は。
そう自分で感じながら。
――異端なのは僕か。中央の常識から外れている考え方をしている僕がおかしいのか。
「僕が聞きたかったのは、中央貴族が綺麗な顔をして我が子に吹き込むような、そんな貴族の当たり前の価値観じゃない」
視線をメイドのマナに彷徨わせれば、マナは心得たように意地悪な顔をした。
……この混血妖精の娘は、人間たちの身分階級社会が大嫌いなのだ。
「坊ちゃんが欲しいのは、『次世代の子供をつくるのが義務なので父と母は仕事としてお前をつくった。お前も次世代の子供を義務としてつくらないといけない。そのための命なのだ』と価値観を刷り込まれて育つ人間の人生が歪で可哀想って言葉でしょうか? そうやって紡がれる由緒正しき竜血とやらがおぞましいと申して欲しいのでしょうか? リーガン様やアクセル様が義務を果たされようとしているのを全然ご立派だと思いません、褒める人間が気持ち悪いです、という言葉が欲しいのでしょうか」
……この混血妖精のメイドは、社会の歯車である人間が他者の顔色をうかがって呑み込む言葉を遠慮なく平気で言ってくれるのだ。だから、好きなのだ。
「そう――それだ」
クレイがホッと息をつきかけたところに、レネンがぴしゃりと言い放つ。
「私は他人事としか感じません。遠い国の出来事です。関係のないことです。リーガン様が良いと仰っているなら、余計なお世話ってもんですよ、坊ちゃん」
「レネン」
クレイは驚いたように目を見開いた。
「お前、そんなことを言うの。中央は遠い国? 関係ない? 余計なお世話?」
自分の声に乗せてその言葉を呟くと、なんだか寂しい気持ちが湧くのだった。
「リーガン様は貴族のご令嬢としての義務を心得ていらっしゃるのだなと。良家との縁談がまとまりそうで喜ばしいと、私などは思いますよ」
レネンはすらすらと声を放ち、全く口を挟む隙を与えなかった。
「貴族のお姫様は政略結婚の駒――そんなものは当然です。教育は、それを当然と思い、当たり前だと受け入れて生きて頂くために幼少期から施されるのです。義務を果たすために蝶よ花よと育てられ、美しく着飾らせて優雅で気品ある振る舞いを教えるのです。リーガン様は妙齢でいらっしゃる。いつまでも嫁がずにいる方が貴族社会では後ろ指をさされ、肩身が狭くて不幸ではありませんか――名門中の名門コルトリッセンに嫁げるなら、それは喜ばしいことではありませんか」
「よ、喜ばしい……」
クレイは少し冷静になって考えた。
これがもしアクセルとリーガンの話でなければ、確かにクレイとてレネンのように考えたに違いなかった。
貴族社会だもの。
嫁ぎ先の決まっていない姫が、後継ぎ問題で困っている名家中の名家に嫁ぐ――別に憤ることないではないか……。
「む、むう……でも、僕――それがどうも……なんかダメだと思う気持ちが起きるのだ」
「だいたい坊ちゃんはレネンや『歩兵』にも家庭を持つように勧めていらっしゃるではありませんか、『お前たちは子供を作ると良い』と。それは何故ですか」
「そ、それは」
クレイはじっとりと背に汗をかいた。
なんならつい最近婚活パーティもひらいたばかりであったので、それはもう思い当たる節があるのだった。
「坊ちゃんは、『伴侶を得て子供を作るべきだ。それが幸福だ』という価値観を持っているのでしょう。ですから私や他の『拾い物』にそんな未来を望まれる――そうではありませんか」
言われてみれば、その確かにレネンの言う通りなのだった。
――僕は中央貴族らしさ溢れる価値観を配下たちに当たり前のように押し付けていた……全く、その通りだ。
「う、うう……」
クレイがたじたじと言葉に詰まっていると、扉の方から声が挟まれる。
「おおレネン。ご主人様をやり込めて楽しいのかお前は? いや、気持ちはわかる。可愛い子はいじめたくなるものよな!」
室内の視線が一斉にそちらに向くと、日課を思い出したように花束を手にしたニュクスフォスが機嫌よく手を振って中へと入ってきた。
褐色の手に携えられたポンポン咲きのアスターが華やかで愛らしい。
それを頓着なく横に置き、ニュクスフォスはクレイを抱っこしてソファに座った。
そして、柔らかな声で囀るのだ。
「アクセルめにも困ったもの。立派にご成長なされたご令嬢とご令息がおろうに、実の子らと二、三しか違わない年齢のリーガン嬢を娶ろうなど、えげつない話ですぞ。俺の倫理感は許さぬし、倫理感のゆっるい俺でさえ嫌悪の念を抱くのですから世間様の悪感情や推して知るべし、と――実のお父様が歳の近いご友人と閨を共にすることにおぞましさを覚える坊ちゃんの感性がわからぬレネンには果たして人の血が流れているのか……斬って血の色を確かめてみましょうかな!」
いかにも『嘆かわしい』といった様子で大仰に溜息をつき、ちゃっかりクレイに頬を寄せるニュクスフォスに、レネンが刺すような視線を注いでいる。
「レ、レネンを斬ってはいけない……」
念のために断ってから、クレイは毒気を抜かれたように息を吐いた。
すっぽりと抱きかかえてくれるニュクスフォスの体温はあたたかで、紡がれる声色もその内容も理解を示してくれていて、自分はクレイの味方だと全身でアピールしてくれるのだ。
「ありがとう、ニュクス。そうだ、そうなのだ、アクセルは困ったやつなのだ。子供が必要だからと事務的につくるのが偉いと褒め称えられる貴族社会など、僕は気持ち悪いと思うのだ――血統書付きの馬をつくるために雄馬と雌馬を掛け合わせるのと、何ら変わりない。文明的じゃない……野蛮なのだ、品がないのだ、歪なのだ。そんな血統、貴くない。汚れてる」
不満をわかってもらえるのだ――そんな思いに気持ちを吐露すれば、なでなでと頭が撫でられて慰められるよう。
優しい声が同情的で、いかにも正義の味方といった温度で言う。
「ええ、ええ。困ったアクセルめはスッパリ斬ってしまいましょう、それが世のため、殿下のためと」
「えっ。い、いや、斬るのはよくないのではないかな……」
――内容がちょっぴり過激であったので、クレイはちょっとだけあたふたとした。
「国際問題になるよ、お立場があるよ」
「戦争しましょう……」
「それはそんなに気楽に口にして良い言葉じゃないよ!」
レネンが呆れた様子でやり取りを見守っている。
「もちろん冗談ですとも! 殿下の夜は穏やかなのですからな。なっ!」
ニュクスフォスの陽気な声が取りなすように言って、紅茶のカップを持たせてくれる。
「うん、うん」
格調高い香りに気持ちが安らぐのを感じながら、クレイは頷いた。
「殿下は優雅なダンスがお得意なお爺様もいらっしゃるのですしな」
「うん……うん?」
紅茶のカップを傾けて、クレイは目を瞬かせた。
――『優雅なダンスがお得意なお爺様』とは、メルギン伯のことだろうか。
紅茶を味わいながら耳を傾けていると、青年の声が控え目な音量でゆったりと紡がれる。
「まずリーガン嬢につきましては、エリック殿下がご執心なのだ、いい感じの仲なのかもしれぬ、とお噂を流してご本人にも協力を仰げばよろしい。あの殿下はアクセルよりも身分が上ですし、主筋ですから、アクセルめは引き下がらざるを得ないでしょう」
「ふ、ふうん……エリックは二股をかけてて好色で知られているからな、まあ説得力はありそうな話になるだろうね。けれど、ただでさえ二股なのが三股になっちゃうけど……」
「エリック殿下という絶好の盾に守らせておけば、数年は時間稼ぎができましょう。その数年の間に中央社会で『家を存続させるために義務で無理に子供を作らせるのは美徳ではない』『嫁がぬ女性の生き方もありなのだ』との価値観が支持されるよう、クレイ殿下と紅薔薇勢がお得意とされる世論誘導にて、社会の意識改革をしておけばよいのです。数年後、リーガン嬢が自らの御心でどなたかと結ばれるのを望まれるようになったなら、エリック殿下との噂を否定して望む先に嫁いで頂けばよし。ご本人がどうも嫁ぐこと自体を望まれないようなら、『嫁がぬ女性』という新しい生き方のお手本となって頂くのはいかが」
レネンが顔をしかめて聞いている。
それを視て、クレイは10歳の時にレネンに『坊ちゃんが軽い気持ちでおねだりすると、紅薔薇勢は勝手にあれこれやり出しますよ』と言われた言葉を思い出すのだった。
「さてこの星の花、花言葉は『変化』と申すもの」
ニュクスフォスが『まさにこれからの中央貴族社会に相応しい言葉』と微笑んでいる。
「そして、このお手紙は殿下を溺愛するお爺様からではありませんかなっ」
褐色の手がメルギン伯からの手紙をつまみあげると、クレイはそっと頷いた。
「僕、爺にお手紙を書いてみようかな」
「エリック殿下には、俺がお願いをしてみましょうね」
楽しそうに言われると、懐かしいような新鮮なような気持ちが湧いてくる。
――僕たち、一緒にゲームをするんだね。
壁掛け時計が生真面目に控え目に時を刻んでいく。
中央言葉を交わしながら中央からの手紙をいっしょに眺めてあれこれ話していると、クレイはまるで自分たちが以前のように中央にいるような錯覚を感じるのだった。
「やはり権力というのは便利なものです」
ニュクスフォスがそう言って若干シニカルに微笑む。
「何を隠そう、俺は古めかしい伝統やらしきたりが好きなほうですが、思春期の頃には閨教育に大いに反発心を抱いて呪術でこっそり指南役を眠らせたりしていたものですよ」
クレイは目を丸くして、意外な秘め話にドキドキした。
「お前、自分がそんなことをしておいて僕によくあんなことを仕掛けたものだね」
あんなこととは、言わずもがな――恋薬香でのおいたである。
「よくあることですッ」
開き直ったような声がすこしうるさい。
「そ、そう」
「大人というのは実に狡くて身勝手な生き物で、愛情があるのだ、知識や経験があるゆえに未熟な者の将来を案じて守ろうとしているのだ、という大義名分で子供の前にレールを敷きたがり、上位者として正しいふりをして思うがままに支配し、気持ちよくなってしまうわけです」
「ん……」
「時には、意識的ないしは無意識に子供に過去自分がされたのと同じ事を繰り返して、自らの傷を深めたり、自分を慰めたりする事もあるのです――これを負の連鎖とひとは呼ぶもので」
あたたかな体温が優しく頭を撫でていて、それがなんだかクレイには自他の境界がおぼつかなくなる感覚をもたらすのだった。
以前、自分は何を思ったのだったか。
――虐げられた者、傷を持つ者が、そうしようと思っていなかったのに虐げる側、傷付ける側になってしまう。
そんな不幸を思ったことがあったのではなかったか。
「僕、それ、わかるよ」
共感をのぼらせて呟けば、なんだか切ない気持ちがするのだった。
「僕に薬を盛られて縛られて触られるの、いやだった……?」
やり返した罪をふりかえり懺悔するように謝るように呟けば、そっと首が横に振られる気配が柔らかい。
「あれは、ご褒美ですな!」
いつも通りの元気な声が、そう言うのだ。
クレイはすっかり浮かれ上がった。
「僕も、いやじゃなかったよ。いつも、何をされても」
「殿下はもう少し嫌がるべきなのでは……」
すこしくすぐったそうな、それでいて困ったような、そんな複雑な声が日常を感じさせる。
「僕、ニュクスを傷つけたいわけじゃないんだよ。いつも」
「それはまったく、この俺も同じなのですぞ」
「僕、傷付けられてないよ」
「それは俺も申し上げねばならぬ点……」
壁際に控える呪術師が気配を空気のようにさせて、静かだった。
従者は、そんな生き物だ。
クレイはそんな従者に慣れていた。子供の頃から、それが当たり前だった。
彼らは、主人とは一線を画していて、別世界にいる別の生き物みたいで、空気みたいに尽くすのだ。
「僕たち、ちょっと普通と違うね」
そっと呟いて、心の中で可能性を想う。
(普通と違うように『してしまった』のかな、僕が)
抱きしめられる手に力が籠められると、胸の奥が締め付けられるようだった。
「おいやですか」
そよ風のように耳元で微かに囁かれる。
「いやじゃない」
笑ってやれば、安心したような気配が感じられて、愛しいのだ。
(ああ、この『王様』を、僕はもう仲間外れにはしまい)
――神聖に誓うように胸に思いながら、クレイは小指をたててみせた。
「明日、『歩兵』のみんなと孤児院に行くんだ。ニュクスも一緒にいかが」
「俺も混ぜてくださるんですね、殿下」
「うん、うん……ピンキースウェアー」
指と指を絡めて約束を交わせば、なんだか心がぽかぽかして、いやな気持ちがふんわりした何かで洗われて、魂が綺麗に拭われていくような心地がするのだった。
クレイは久しぶりの再会を喜びつつ、隣に並んで背比べをした。微笑ましそうな顔をしつつ、メイドのマナが紅茶を淹れている。
「レネン、僕少し背が伸びたのではない? どう……?」
背筋を伸ばして得意げに言えば、自分の姿をしたレネンが同じ高さで不満を訴える眼を向けてくる。
「坊ちゃん。私が坊ちゃんのフリをしてどんな日々を送っていたとお思いですか」
「ちやほやと過保護にされて子供っぽくニコニコしていたのだろう、わかるよ」
「偽物の『騎士王』と家族ごっこをしていたんですよ」
「……」
クレイはそれを想像して、少しワクワクした。
「両方偽物の家族ごっこ、面白いじゃないか、見てみたい」
「坊ちゃん!」
「いや……こほん。苦労をかけたね。よく努めてくれた……」
取り繕うように言えば、隣にいた自分が輪郭をぶらすようにして黒ローブ姿の呪術師の姿になる。
「もうしませんからね」
「それは困るよ……」
黒いフードを懐かしくくいくいと引っ張ると、机の上の文箱が自然で示される。メイドのマナはそんな二人を背景に楚々とした仕草でソファの前の丸テーブルにスコーンの皿を並べてくれた。
52、僕たち、ちょっと普通と違うね
焼き色の美しいスコーンは、小麦粉感が舌先に滑らかで素朴で上品な味わい。
紅茶とあわせていただけば互いの味を引き立て合うみたいで、とっても美味しい。
「手紙がたくさんあるね」
メルギン伯やフィニックスが手紙を書いてくれている――ひとつひとつを手に取っておっとりと微笑むクレイに、レネンが報告の声を静かに降らせた。
「アクセル様に縁談がございます」
「はっ? アクセル?」
それは全く油断しているところに振ってきた凄まじい衝撃で、落雷を受けたようなショックがクレイの声を震わせた。
感情をどこかに置いてきたように、レネンが無機質に事実だけを並べる。
「お相手はクヴェルレ家のリーガン様です。先に別の方との縁談がまとまりかけていたところに割り込む形にて」
「リ、リーガン……? 僕とそう変わらない歳のお姉さまではないか。同じ敵を持つ派閥同士、親しくしていただいた方だよ」
リーガンは、クレイが中央にいた時に親しくしていた中央内務系派閥の家柄のお姉さまだ。
エリック第二王子の陣営にかつて暗殺されたフレデリック第三王子の母妃シャジャルはリーガンの叔母にあたる。
エリック第二王子とクレイが対立した際には、第三王子派閥は頼もしい味方であった。
リーガンにはクレイの側から近寄って『僕たちは共に第二王子派閥から睨まれていますが、危うい立場同士、一緒に保身をはかりましょう』と協力を呼び掛けたものだった。
「アクセル……これは、保険だね。予備だね。僕の代わりだね。コルトリッセンの後継ぎを――選択肢を増やしておきたいのだね」
クレイは眉を寄せた。
それは全く楽しくない現実だった。
アクセルが後継作りの相手として選んだのは、『コルトリッセンが味方するエリック王子陣営』の敵。『敗者陣営の姫君』なのだ――それは、まるで。
「次期王の政敵潰し――ラーシャ姫の時のようではないか!」
白い手が激昂にふるふると震えながら手紙の束を漁る。
アクセルの名はその中にはなく、代わりにリーガンの手紙を見つけて、クレイはそれを胸にかき抱くようにしてソファに座った。
リーガンは『わたくしには恋愛なるものがわかりません』と打ち明けていた。
『実は恋愛物語や恋愛の話をするよりも、ドレスのデザインをする方が楽しいのです。自分のデザインしたドレスが実物として出来上がると幸せな気分になるのです』――そう告白しつつ、二つの縁談について触れ、どなたに嫁いでも貴族の家に生まれたからには期待されるお役目を務める心づもりでいる、と貴族の娘らしい諦観をのぞかせていた。
そして、クレイの近況を気にしてくれるのだった。
『クレイ様は、故国を離れてお寂しい想いをなさっていませんか。おつらい思いをなさっていませんか……』
「レネン、リーガンをどう思う」
問いかける声は震えていた。
「僕と親しくしてくれた、戦友とも言えるリーガンが僕の実父に嫁ぎ、僕の代わりとなる後継ぎを産まされるかもしれない。これをどう思う」
沈黙が数秒続き、レネンはそっと絨毯の上に膝をついた。
「坊ちゃん。中央では良くあることでしょう。貴族社会では当たり前でしょう。中央貴族は後継者を産み家を存続させる事が大事――そう教えられて育ちます。婚姻とは元来子供を作るために許されるものであり、子供を作る相手――伴侶は家同士が決めるもので……」
声は数式を解くような温度感で、感情的になるようなことではないと事実確認をするようだった。
「そうではない。僕はそんな返事を欲したわけではない」
クレイはむすりとして睫毛を伏せた。
――まるで良識がなく、聞き分けのない駄々っ子みたいだ、僕は。
そう自分で感じながら。
――異端なのは僕か。中央の常識から外れている考え方をしている僕がおかしいのか。
「僕が聞きたかったのは、中央貴族が綺麗な顔をして我が子に吹き込むような、そんな貴族の当たり前の価値観じゃない」
視線をメイドのマナに彷徨わせれば、マナは心得たように意地悪な顔をした。
……この混血妖精の娘は、人間たちの身分階級社会が大嫌いなのだ。
「坊ちゃんが欲しいのは、『次世代の子供をつくるのが義務なので父と母は仕事としてお前をつくった。お前も次世代の子供を義務としてつくらないといけない。そのための命なのだ』と価値観を刷り込まれて育つ人間の人生が歪で可哀想って言葉でしょうか? そうやって紡がれる由緒正しき竜血とやらがおぞましいと申して欲しいのでしょうか? リーガン様やアクセル様が義務を果たされようとしているのを全然ご立派だと思いません、褒める人間が気持ち悪いです、という言葉が欲しいのでしょうか」
……この混血妖精のメイドは、社会の歯車である人間が他者の顔色をうかがって呑み込む言葉を遠慮なく平気で言ってくれるのだ。だから、好きなのだ。
「そう――それだ」
クレイがホッと息をつきかけたところに、レネンがぴしゃりと言い放つ。
「私は他人事としか感じません。遠い国の出来事です。関係のないことです。リーガン様が良いと仰っているなら、余計なお世話ってもんですよ、坊ちゃん」
「レネン」
クレイは驚いたように目を見開いた。
「お前、そんなことを言うの。中央は遠い国? 関係ない? 余計なお世話?」
自分の声に乗せてその言葉を呟くと、なんだか寂しい気持ちが湧くのだった。
「リーガン様は貴族のご令嬢としての義務を心得ていらっしゃるのだなと。良家との縁談がまとまりそうで喜ばしいと、私などは思いますよ」
レネンはすらすらと声を放ち、全く口を挟む隙を与えなかった。
「貴族のお姫様は政略結婚の駒――そんなものは当然です。教育は、それを当然と思い、当たり前だと受け入れて生きて頂くために幼少期から施されるのです。義務を果たすために蝶よ花よと育てられ、美しく着飾らせて優雅で気品ある振る舞いを教えるのです。リーガン様は妙齢でいらっしゃる。いつまでも嫁がずにいる方が貴族社会では後ろ指をさされ、肩身が狭くて不幸ではありませんか――名門中の名門コルトリッセンに嫁げるなら、それは喜ばしいことではありませんか」
「よ、喜ばしい……」
クレイは少し冷静になって考えた。
これがもしアクセルとリーガンの話でなければ、確かにクレイとてレネンのように考えたに違いなかった。
貴族社会だもの。
嫁ぎ先の決まっていない姫が、後継ぎ問題で困っている名家中の名家に嫁ぐ――別に憤ることないではないか……。
「む、むう……でも、僕――それがどうも……なんかダメだと思う気持ちが起きるのだ」
「だいたい坊ちゃんはレネンや『歩兵』にも家庭を持つように勧めていらっしゃるではありませんか、『お前たちは子供を作ると良い』と。それは何故ですか」
「そ、それは」
クレイはじっとりと背に汗をかいた。
なんならつい最近婚活パーティもひらいたばかりであったので、それはもう思い当たる節があるのだった。
「坊ちゃんは、『伴侶を得て子供を作るべきだ。それが幸福だ』という価値観を持っているのでしょう。ですから私や他の『拾い物』にそんな未来を望まれる――そうではありませんか」
言われてみれば、その確かにレネンの言う通りなのだった。
――僕は中央貴族らしさ溢れる価値観を配下たちに当たり前のように押し付けていた……全く、その通りだ。
「う、うう……」
クレイがたじたじと言葉に詰まっていると、扉の方から声が挟まれる。
「おおレネン。ご主人様をやり込めて楽しいのかお前は? いや、気持ちはわかる。可愛い子はいじめたくなるものよな!」
室内の視線が一斉にそちらに向くと、日課を思い出したように花束を手にしたニュクスフォスが機嫌よく手を振って中へと入ってきた。
褐色の手に携えられたポンポン咲きのアスターが華やかで愛らしい。
それを頓着なく横に置き、ニュクスフォスはクレイを抱っこしてソファに座った。
そして、柔らかな声で囀るのだ。
「アクセルめにも困ったもの。立派にご成長なされたご令嬢とご令息がおろうに、実の子らと二、三しか違わない年齢のリーガン嬢を娶ろうなど、えげつない話ですぞ。俺の倫理感は許さぬし、倫理感のゆっるい俺でさえ嫌悪の念を抱くのですから世間様の悪感情や推して知るべし、と――実のお父様が歳の近いご友人と閨を共にすることにおぞましさを覚える坊ちゃんの感性がわからぬレネンには果たして人の血が流れているのか……斬って血の色を確かめてみましょうかな!」
いかにも『嘆かわしい』といった様子で大仰に溜息をつき、ちゃっかりクレイに頬を寄せるニュクスフォスに、レネンが刺すような視線を注いでいる。
「レ、レネンを斬ってはいけない……」
念のために断ってから、クレイは毒気を抜かれたように息を吐いた。
すっぽりと抱きかかえてくれるニュクスフォスの体温はあたたかで、紡がれる声色もその内容も理解を示してくれていて、自分はクレイの味方だと全身でアピールしてくれるのだ。
「ありがとう、ニュクス。そうだ、そうなのだ、アクセルは困ったやつなのだ。子供が必要だからと事務的につくるのが偉いと褒め称えられる貴族社会など、僕は気持ち悪いと思うのだ――血統書付きの馬をつくるために雄馬と雌馬を掛け合わせるのと、何ら変わりない。文明的じゃない……野蛮なのだ、品がないのだ、歪なのだ。そんな血統、貴くない。汚れてる」
不満をわかってもらえるのだ――そんな思いに気持ちを吐露すれば、なでなでと頭が撫でられて慰められるよう。
優しい声が同情的で、いかにも正義の味方といった温度で言う。
「ええ、ええ。困ったアクセルめはスッパリ斬ってしまいましょう、それが世のため、殿下のためと」
「えっ。い、いや、斬るのはよくないのではないかな……」
――内容がちょっぴり過激であったので、クレイはちょっとだけあたふたとした。
「国際問題になるよ、お立場があるよ」
「戦争しましょう……」
「それはそんなに気楽に口にして良い言葉じゃないよ!」
レネンが呆れた様子でやり取りを見守っている。
「もちろん冗談ですとも! 殿下の夜は穏やかなのですからな。なっ!」
ニュクスフォスの陽気な声が取りなすように言って、紅茶のカップを持たせてくれる。
「うん、うん」
格調高い香りに気持ちが安らぐのを感じながら、クレイは頷いた。
「殿下は優雅なダンスがお得意なお爺様もいらっしゃるのですしな」
「うん……うん?」
紅茶のカップを傾けて、クレイは目を瞬かせた。
――『優雅なダンスがお得意なお爺様』とは、メルギン伯のことだろうか。
紅茶を味わいながら耳を傾けていると、青年の声が控え目な音量でゆったりと紡がれる。
「まずリーガン嬢につきましては、エリック殿下がご執心なのだ、いい感じの仲なのかもしれぬ、とお噂を流してご本人にも協力を仰げばよろしい。あの殿下はアクセルよりも身分が上ですし、主筋ですから、アクセルめは引き下がらざるを得ないでしょう」
「ふ、ふうん……エリックは二股をかけてて好色で知られているからな、まあ説得力はありそうな話になるだろうね。けれど、ただでさえ二股なのが三股になっちゃうけど……」
「エリック殿下という絶好の盾に守らせておけば、数年は時間稼ぎができましょう。その数年の間に中央社会で『家を存続させるために義務で無理に子供を作らせるのは美徳ではない』『嫁がぬ女性の生き方もありなのだ』との価値観が支持されるよう、クレイ殿下と紅薔薇勢がお得意とされる世論誘導にて、社会の意識改革をしておけばよいのです。数年後、リーガン嬢が自らの御心でどなたかと結ばれるのを望まれるようになったなら、エリック殿下との噂を否定して望む先に嫁いで頂けばよし。ご本人がどうも嫁ぐこと自体を望まれないようなら、『嫁がぬ女性』という新しい生き方のお手本となって頂くのはいかが」
レネンが顔をしかめて聞いている。
それを視て、クレイは10歳の時にレネンに『坊ちゃんが軽い気持ちでおねだりすると、紅薔薇勢は勝手にあれこれやり出しますよ』と言われた言葉を思い出すのだった。
「さてこの星の花、花言葉は『変化』と申すもの」
ニュクスフォスが『まさにこれからの中央貴族社会に相応しい言葉』と微笑んでいる。
「そして、このお手紙は殿下を溺愛するお爺様からではありませんかなっ」
褐色の手がメルギン伯からの手紙をつまみあげると、クレイはそっと頷いた。
「僕、爺にお手紙を書いてみようかな」
「エリック殿下には、俺がお願いをしてみましょうね」
楽しそうに言われると、懐かしいような新鮮なような気持ちが湧いてくる。
――僕たち、一緒にゲームをするんだね。
壁掛け時計が生真面目に控え目に時を刻んでいく。
中央言葉を交わしながら中央からの手紙をいっしょに眺めてあれこれ話していると、クレイはまるで自分たちが以前のように中央にいるような錯覚を感じるのだった。
「やはり権力というのは便利なものです」
ニュクスフォスがそう言って若干シニカルに微笑む。
「何を隠そう、俺は古めかしい伝統やらしきたりが好きなほうですが、思春期の頃には閨教育に大いに反発心を抱いて呪術でこっそり指南役を眠らせたりしていたものですよ」
クレイは目を丸くして、意外な秘め話にドキドキした。
「お前、自分がそんなことをしておいて僕によくあんなことを仕掛けたものだね」
あんなこととは、言わずもがな――恋薬香でのおいたである。
「よくあることですッ」
開き直ったような声がすこしうるさい。
「そ、そう」
「大人というのは実に狡くて身勝手な生き物で、愛情があるのだ、知識や経験があるゆえに未熟な者の将来を案じて守ろうとしているのだ、という大義名分で子供の前にレールを敷きたがり、上位者として正しいふりをして思うがままに支配し、気持ちよくなってしまうわけです」
「ん……」
「時には、意識的ないしは無意識に子供に過去自分がされたのと同じ事を繰り返して、自らの傷を深めたり、自分を慰めたりする事もあるのです――これを負の連鎖とひとは呼ぶもので」
あたたかな体温が優しく頭を撫でていて、それがなんだかクレイには自他の境界がおぼつかなくなる感覚をもたらすのだった。
以前、自分は何を思ったのだったか。
――虐げられた者、傷を持つ者が、そうしようと思っていなかったのに虐げる側、傷付ける側になってしまう。
そんな不幸を思ったことがあったのではなかったか。
「僕、それ、わかるよ」
共感をのぼらせて呟けば、なんだか切ない気持ちがするのだった。
「僕に薬を盛られて縛られて触られるの、いやだった……?」
やり返した罪をふりかえり懺悔するように謝るように呟けば、そっと首が横に振られる気配が柔らかい。
「あれは、ご褒美ですな!」
いつも通りの元気な声が、そう言うのだ。
クレイはすっかり浮かれ上がった。
「僕も、いやじゃなかったよ。いつも、何をされても」
「殿下はもう少し嫌がるべきなのでは……」
すこしくすぐったそうな、それでいて困ったような、そんな複雑な声が日常を感じさせる。
「僕、ニュクスを傷つけたいわけじゃないんだよ。いつも」
「それはまったく、この俺も同じなのですぞ」
「僕、傷付けられてないよ」
「それは俺も申し上げねばならぬ点……」
壁際に控える呪術師が気配を空気のようにさせて、静かだった。
従者は、そんな生き物だ。
クレイはそんな従者に慣れていた。子供の頃から、それが当たり前だった。
彼らは、主人とは一線を画していて、別世界にいる別の生き物みたいで、空気みたいに尽くすのだ。
「僕たち、ちょっと普通と違うね」
そっと呟いて、心の中で可能性を想う。
(普通と違うように『してしまった』のかな、僕が)
抱きしめられる手に力が籠められると、胸の奥が締め付けられるようだった。
「おいやですか」
そよ風のように耳元で微かに囁かれる。
「いやじゃない」
笑ってやれば、安心したような気配が感じられて、愛しいのだ。
(ああ、この『王様』を、僕はもう仲間外れにはしまい)
――神聖に誓うように胸に思いながら、クレイは小指をたててみせた。
「明日、『歩兵』のみんなと孤児院に行くんだ。ニュクスも一緒にいかが」
「俺も混ぜてくださるんですね、殿下」
「うん、うん……ピンキースウェアー」
指と指を絡めて約束を交わせば、なんだか心がぽかぽかして、いやな気持ちがふんわりした何かで洗われて、魂が綺麗に拭われていくような心地がするのだった。
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