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4章、差別と極夜の偶像崇拝
50、たがいに気持ちよくさせるものではない?(軽☆)
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月もそろそろ変わろうかという頃、北の都市イスファリアには、本物の混沌騎士団が来ていた。
彼らは復興支援団を引率しつつ、主を迎えにきたのだろう。
クレイも名前をおぼえているレビエという古株のメンバーが親し気な中に忠誠心めいた感情を窺わせる雰囲気でニュクスフォスにあれこれと話しかけているのを背景に、クレイが尋ねたのはキンメリア族が都市周辺に設置した移動式住居のひとつだった。
50、たがいに気持ちよくさせるものではない?
「僕はそろそろ引き上げる。帰り道で妖精を一応探すけど、見つかる可能性は低いだろうな」
冷えた空気から急いで避難するように移動式住居に入り、クレイは上座にて暖を取った。
「我が君のため、キンメリア族とオーブル族が捜索網を展開しましょう」
墨を流し込んだような真っ黒な瞳をひたむきに『我が君』に向けたフレルバータルが目の前で跪いている。
「うん、うん。両部族の捜索機動力があれば、僕が探す必要はないかもしれないね」
クレイはにこりと微笑み、フレルバータルを見た。
浅黒い肌の筋肉質な躰を誇るように露出して、期待と切望に満ちた眼差しを寄せるフレルバータルの後ろで配下のキンメリア族が懇願するような顔をしている。
(フレルバータルにご褒美をあげてやれというのだろう)
クレイはウンウンと頷いた。
(なんだかんだ言って、フレルバータルは慕われているようで、よいことではないか――なんなら配下が満足させてやったらよいのでは?)
「フレルバータルは、どのようなご褒美を望むのか」
問いかければ、フレルバータルの黒瑪瑙めいた瞳が嬉しそうに輝いた。
「おい、あれを持て」
配下に命じる声が高揚を溢れさせている。
(喜ぶ姿は微笑ましい。僕は、誰かを喜ばせるのが好きだ。しかし……キンメリア族の場合はなにを求められるか)
問題はそこではないか――軽く不安を抱えるクレイの目に、縄と首輪が飛び込んでくる。
(僕、この首輪みたことがあるなぁ……)
一瞬過ぎ去りし日が蘇る。
「この首輪を俺に填め、縄で拘束してください」
真面目な顔で真剣に言われて、クレイは神妙な顔をした。
「そのくらいでよいのか。どれ、どれ」
先に縄を取れば、キンメリア族の若者たちが寄って来て拘束方法を教えてくれる。
「教えてくれてありがとう。僕は自分の手で縄を結ぶのは初めてになる――これも貴重な体験といえようね」
おぼつかない手付きでフレルバータルの両手を丁寧に縛ってやれば、フレルバータルは嬉しそうにしている。
「嬉しいんだね」
「はい。どうも、これが嬉しいのです。我が君のおかげで新たな悦びに目覚めてしまったようで」
筋骨隆々とした男がポッと顔を赤らめて恍惚としているのが、クレイを猛獣を手懐けたような快い気分にさせる。
「ああ、その感覚は僕もすこしわかるかもしれないよ。実は以前ちょっと腕を縛られたことがあるのだけど、あれはドキドキして気持ちが良かった……ないしょだぞ」
「なんと、我が君もこの悦びを理解なさる方であらせられましたか」
住居の中にいたフレルバータルの同好の仲間たちが感激のおももちで視線を交わし合っている。
――僕はもしかして、人に秘めるべきアブノーマルな性好の話ができる同志を手に入れたのではあるまいか?
クレイはふとそれに気付き、厳かに頷いた。
「悦びとは、奥が深い世界である……そして、驚くような自分に気付かされることもある。自分自身を知ることができるし、人間という生き物の動物的な本質を肌で感じることもできる……ゆえに、それは智者の徳をもたらすと言えるのかもしれぬ」
言いながら両方の足首も縛ってやれば、恍惚とした吐息が繰り返されている。
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます」
「……」
過剰に歓ぶフレルバータルとその配下の姿がちょっとだけクレイの正気を刺激した。
すなわち、「ちょっと引く」という感覚だ。
「こほん。あとは首輪だったか」
首輪を填めてやり、クレイはそっと罪の意識をおぼえた。
――出会ったときはこうではなかったのに、なんだか壊してしまった感じがする。
それは以前ニュクスフォスにも抱いた念であった。
「それでは、ご褒美は以上だ。よいね」
両手を後ろで拘束され、足首も縛られた状態で首輪に喜ぶフレルバータルに確かめるように言ってそそくさと移動式住居を出れば、外ではちょっとした乱闘騒ぎが起きていた。
中に押し入ろうとする混沌騎士団と、移動式住居の外を守っていたキンメリア族が揉みあい、押し合い、争っていた。
「何をしているのか」
驚いて問う声に気付き、ニュクスフォスが颯爽と目前に駆けてきてクレイを抱え上げる。
「それは俺のセリフですぞ。かような蛮族の天幕で何をなさっているのかと、お父さまは心配いたしました……!」
どうやら、心配して中に入ろうとして止められ、喧嘩になったらしい。
「それは、心配をかけてすまない……」
「俺の見た所、こちらの蛮族の長は邪な気配を隠そうともせず、なかなか危険な男です。あれはいけません! 絶対危険です!」
鬼気迫る様子で語り、住居の扉を睨む紅色の目が不穏だ。
(中を見たらびっくりするだろうな)
中では今、『蛮族の長』が縛られ首輪を填められて恍惚として転がっているのだ。
「奴と何をなさっていたのです? 中で何を……」
今にも中を確認しそうなニュクスフォスに慌てつつ、クレイは見慣れた白髪に手を伸ばした。
「ニュクス、ニュクス」
「なんです」
――知られてはいけない。
守らなければならない。
この広い世界で奇跡のように縁を得て、同好のもの同士が肩を寄せ合っているこの住居の内側は、僕が守ろう。
端正な顔が近い距離で見下ろしてくる。
見慣れた容貌はずっと変わらないように思えて、けれど気付けば初対面のときより大人びている。
「僕はお城に戻るからお別れを告げていたのだ。せっかく綺麗にお別れをしたのに水を差されては残念だよ」
「お別れ。それは確かに、台無しにしてはいけませんな……」
赤い果実のように甘やかな瞳が目の前で感情を揺らすのが、生の実感を招く。
クレイはウンウンと頷いて、両腕をニュクスフォスの首にまわした。
「外は寒いから、お部屋であたたかく過ごしたいな……久しぶりに恋人のキスをしたい」
甘えるように囁けば、返事より先にキスが降ってくる。
(あ……)
触れ合う肌がじんわりと体温を伝えて、吐息が白く溶け合って空気に一緒に同化していく。
薄く目を開ければ、ニュクスフォスの霜が降りたような白い睫毛の先に溶けかけの雪の粉が乗っていて、きらきらと輝いてみえた。
(綺麗だな……それに、あったかい)
吐息がほわほわと熱を感じさせる。
うっとりと熱に浸されていれば、見つめていた睫毛がゆっくりと瞬いて、その下から明るい紅色の瞳があらわれる。
じーっと見つめられる温度がたまに見かける葛藤の色を思わせて、クレイはもどかしい気持ちになった。
「……ここでしたいと言ったわけじゃないよ」
そっと声をこぼせば、ちいさく頷きが返される。
そして、直前の騒動など忘れたとばかりにその場を引き上げて部屋に運ばれるのだった。
――フェアグリンは、いないんだな。
ふとそんな事に気付きつつ、暖炉の前のロッキングチェアに座らされてハーフケットをかけられる。
すこし気配をさぐるように正面から視線を合わせて、すこしひんやりした指先で髪が撫でられる。
「ニュクス、冷えてるね」
――そういえば、寒いのは苦手ではないか。
案ずるように言うクレイの唇が味見をするように舌先で舐められて、軽く口付けされる。
自然と迎えるように唇がひらいて、そわそわと手をニュクスフォスの肩に彷徨わせながら、クレイは自分が待ちかねているのだと自覚した。
「ン……」
ぬるりと舌の先が擦れ合う感覚に鼓動が跳ねる。
頬から首に降りていくニュクスフォスの手のひらが柔らかに肌を撫でてくれれば、子猫になったような錯覚を覚えた。
挨拶を交わした舌が離れて、唇がそっと距離をあける。
呼吸を待たずに角度をかえて寄せられた唇がしっとりと濡れていて、一瞬だけ下唇を食むようにされてから舌の腹がこすられる。
情熱の片鱗を衝動にのせて伝えるような仕草に腰骨のあたりがぞくぞくとして、落ち着かなくなる。
「ん、ふ……」
鼻に抜けたような声がこぼれると、ゆったりと肩がさすられて、すこしだけ後ろに倒される感覚がした。
ロッキングチェアがキィ、と軋む音をたてて後ろに傾くと、ゆりかごで揺られているような浮遊感めいた心地よさと、そのまま倒れてしまいそうなで少し怖い感じがする。
「ん……」
高揚を溢れさせたようなニュクスフォスの声がして、クレイは自らの下で相手の舌を包むようにした。
「んン……っ」
「ん、ふ……」
ゆっくりと椅子が揺れて、唇を合わせて舌を絡ませたまま全身が揺られるのが心地よい。
肩をさすっていた手が顎をするりと撫でてから服の上から鼓動を確かめるみたいに胸元にあてられると、心臓がどきどきした。
それが把握されているのだと思うと、不思議と恥ずかしい気分になる。
「ふぁ……」
胸にあてられていた手が円を描くように胸を撫でると背筋がぞくりぞくりとして、ゆらりと腰が浮く。
「ぅ……ん……、ンッ」
唇の内側が舐められて、甘く痺れる快楽の波がゆらりと全身を浸していく。
ゆるく己の脚の間に熱があつまるのを感じて、その切なさと焦れる衝動に眉根をきゅっと寄せて喘げば、胸に置かれていた手のひらが円を描くようにすりすりと布を乱して、快感を浮き立たせて搔き集めるようにされる。
「ふ……ふーっ」
欲情に吐息を乱せば、胸を撫でていた手がハーフケットの内側に潜り込んで、腿の内側に差し込まれた。
「っ!」
そこできざしているものを布越しに撫でられれば、全身がぴくりとわかりやすい反応を返してしまう。
一気に下半身に熱が集まってふくらみが増していくのが自分でもわかって、クレイは焦燥感を覚えた。
「あたたかい……」
口を離したニュクスフォスが蕩けそうな顔で微笑んで、椅子の前にしゃがむような姿勢になってクレイの下衣をするりと脱がした。
そして、ハーフケットをかけなおすとその下に頭を潜り込ませるようにして、股の間の欲望にくちを寄せた。
「ひゃぁっ!?」
唇と舌でやわらかに刺激しながら、手でも愛でるようにされれば悲鳴みたいな高い声が出てしまう。
欲情を伝播させるような吐息と熱を伴う濡れた舌の刺激に、電流が奔ったみたいな強い快感がクレイの全身に駆け抜ける。
「な、な、な――」
視えない。視線を落としても、持ち上がったハーフケットしかわからない。
けれど、わかる。
舐められている――舐められながら、撫でられている。
「あ、ニュ、ニュクスっ、な、なにをっ……あ、あ!」
強い動揺に上擦る声が快楽に濡れ、あられもない泣き声みたいにこぼれてしまって、クレイは真っ赤になって身悶えした。
裏筋をじっとりと舐められて、射精感が強くなる。
咥えられて、舌で巻かれるような感覚をおぼえると、腰が自然と悦ぶようで、はしたなくびくびく揺れる自分が恥ずかしい。
そのまま上下にピストンされるように刺激されれば、快楽の海に流されて、洩らしてしまいそうになる。
「あ、それだめっ、あ、ああっ」
ハーフケットを落ち着きなく乱して悶えれば、布がふぁさりと落ちて見慣れた青年が自分の股間に顔を埋めるようにして屹立を咥えているのがはっきりと見えてしまう。
刺激の強すぎる光景に、カッと全身が火で炙られたみたいに火照って、堪らない気分になる。
「で、出ちゃう。や、やだ、それ、アア! お、穏やかじゃない――!! あっ、」
キィ、キィと小さく軋む音をたてて椅子が揺れる。
揺れて戻ることなく、そのままどこかに持っていかれてしまいそうで、怖い。
首が反れて、その勢いで後ろに倒れてしまいそうで、怖い。
――気持ちいい。
「あ、あう、出――あああっ!!」
びくびくと弾けるような快感に背が反りかえる。
勢いよく先端から吐き出された液体がこくりと飲みくだされるのがわかって、クレイは信じられないものをみる眼で見慣れた青年の顔を見た。
「ふ、ふ、……ふ」
全身が小刻みに震えている。
日常の気配をどこかに忘れてきたような青年は、親指で軽く口元を拭って艶やかに笑んだ。
「……美味しい」
それがいつかクレイが涙を舐めた時の意趣返しみたいで、紅色の瞳は至福の色を浮かべていて――その股間が興奮を形にしているのを見て、クレイは息を整えるのも忘れて椅子から床へと滑り降りた――以前、無理やり座らされた玉座から逃げたときのように。
「あ、こら。はしたないですぞ」
保護者めいた声が窘める。
――この状態でもうはしたないもなにもあるかっ。
「僕もそれをするのだ、やられたらやり返すのだ……」
あたためられた床に素肌をつけると、じんじんぽかぽかと熱せられる感じがする。
「ご奉仕するのは俺だけで……」
「恋人とは、たがいに気持ちよくさせるものではない? コルトリッセンはされるがままではないのだ」
えいえいと服と下着を脱がせようとすれば、呆れた様子で手伝ってくれる。
――前はさせてくれなかったけれど、今日はよいのだ。
それが嬉しくなって頬を紅潮させながら先端にくちをつければ、びくりと相手が反応を返すのが楽しい。
慈しむように両手でさすって、下から上へと舐め上げれば、それが気持ちよいのだと震えるような気配が感じられて、嬉しくてたまらなくなる。
(ああ、ニュクス。僕に愛でられて気持ちいいの? 悦いのだね?)
愛しい相手を悦ばせてあげる感覚とは、なんて幸せなのだろう。
先端からとろとろと零れる先走りの液を舌で絡めるようにしてみれば、特別感が格別だった。
――僕は今、他の人が見る事も触れることもできない特別で私的な部位を見て、触れて、舐めたんだ!
――恋人だけが触れて、味を知ることができるんだ!
「か、帰ったら……」
夢に溺れるようなニュクスフォスの声がおぼつかない調子でなにかを言っている。
乱れた呼吸と、熱を帯びて潤んだ眼差しが、その色香が――ぞくぞくとするほど蠱惑的だ。
「ん……」
ほわりと息をついて上目に見上げれば、こくりと唾液を呑み込む音がする。
交わる視線が熱っぽい。
「帰ったら、一緒に中央のパーティに出席しましょうか。招かれているようで」
切なげに目を細めて囁く声が掠れていて、余裕がない感じだ――それに気付いて、クレイは優しい気持ちで胸がいっぱいになった。
「うん」
(ここがもどかしくて、淋しくて、つらいんだね、出したいんだ。そうだろ)
飴を貪るようにぺろぺろと舌を使えば、腰が揺れて気持ちよさそうにしている。それが、嬉しい。
(僕、いつも気持ちよくしてもらうばっかりで、ごめんね――)
気持ちよくしてあげたいな。
一緒に気持ちよくなれたらいいな。
つながってみたいな――、
クレイは頬を赤くして、そっと口を離してつぶやいた。
「いつか、一度でいいから……ちゃんと最後まで……あっ」
びくびくとそれが白濁を放っている。
「出た。出たね」
ニコニコと微笑んで、白濁をしたたらせる先端を労うように舐めてやれば、気持ちよさそうな声が耳にきこえてぞくぞくとした。
(ああ、僕はこのひとを気持ちよくさせることができるのだ。できたのだ)
そう思うと、達成感だか幸福感だかがぐしゃぐしゃと混ざって、ハイになってしまうのだった。
「気持ちいいね、ニュクス……」
恍惚として呟けば、いつもニュクスフォスが「気持ちよいですね、クレイ」と呟く気持ちがわかった気がした。
――何事も、相手の立場になってみると、わかることがいっぱいあるのだ。
「お前と遊ぶの、楽しいね。僕は好き」
クレイは幸せな気分で無邪気に言って、笑ったのだった。
彼らは復興支援団を引率しつつ、主を迎えにきたのだろう。
クレイも名前をおぼえているレビエという古株のメンバーが親し気な中に忠誠心めいた感情を窺わせる雰囲気でニュクスフォスにあれこれと話しかけているのを背景に、クレイが尋ねたのはキンメリア族が都市周辺に設置した移動式住居のひとつだった。
50、たがいに気持ちよくさせるものではない?
「僕はそろそろ引き上げる。帰り道で妖精を一応探すけど、見つかる可能性は低いだろうな」
冷えた空気から急いで避難するように移動式住居に入り、クレイは上座にて暖を取った。
「我が君のため、キンメリア族とオーブル族が捜索網を展開しましょう」
墨を流し込んだような真っ黒な瞳をひたむきに『我が君』に向けたフレルバータルが目の前で跪いている。
「うん、うん。両部族の捜索機動力があれば、僕が探す必要はないかもしれないね」
クレイはにこりと微笑み、フレルバータルを見た。
浅黒い肌の筋肉質な躰を誇るように露出して、期待と切望に満ちた眼差しを寄せるフレルバータルの後ろで配下のキンメリア族が懇願するような顔をしている。
(フレルバータルにご褒美をあげてやれというのだろう)
クレイはウンウンと頷いた。
(なんだかんだ言って、フレルバータルは慕われているようで、よいことではないか――なんなら配下が満足させてやったらよいのでは?)
「フレルバータルは、どのようなご褒美を望むのか」
問いかければ、フレルバータルの黒瑪瑙めいた瞳が嬉しそうに輝いた。
「おい、あれを持て」
配下に命じる声が高揚を溢れさせている。
(喜ぶ姿は微笑ましい。僕は、誰かを喜ばせるのが好きだ。しかし……キンメリア族の場合はなにを求められるか)
問題はそこではないか――軽く不安を抱えるクレイの目に、縄と首輪が飛び込んでくる。
(僕、この首輪みたことがあるなぁ……)
一瞬過ぎ去りし日が蘇る。
「この首輪を俺に填め、縄で拘束してください」
真面目な顔で真剣に言われて、クレイは神妙な顔をした。
「そのくらいでよいのか。どれ、どれ」
先に縄を取れば、キンメリア族の若者たちが寄って来て拘束方法を教えてくれる。
「教えてくれてありがとう。僕は自分の手で縄を結ぶのは初めてになる――これも貴重な体験といえようね」
おぼつかない手付きでフレルバータルの両手を丁寧に縛ってやれば、フレルバータルは嬉しそうにしている。
「嬉しいんだね」
「はい。どうも、これが嬉しいのです。我が君のおかげで新たな悦びに目覚めてしまったようで」
筋骨隆々とした男がポッと顔を赤らめて恍惚としているのが、クレイを猛獣を手懐けたような快い気分にさせる。
「ああ、その感覚は僕もすこしわかるかもしれないよ。実は以前ちょっと腕を縛られたことがあるのだけど、あれはドキドキして気持ちが良かった……ないしょだぞ」
「なんと、我が君もこの悦びを理解なさる方であらせられましたか」
住居の中にいたフレルバータルの同好の仲間たちが感激のおももちで視線を交わし合っている。
――僕はもしかして、人に秘めるべきアブノーマルな性好の話ができる同志を手に入れたのではあるまいか?
クレイはふとそれに気付き、厳かに頷いた。
「悦びとは、奥が深い世界である……そして、驚くような自分に気付かされることもある。自分自身を知ることができるし、人間という生き物の動物的な本質を肌で感じることもできる……ゆえに、それは智者の徳をもたらすと言えるのかもしれぬ」
言いながら両方の足首も縛ってやれば、恍惚とした吐息が繰り返されている。
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます」
「……」
過剰に歓ぶフレルバータルとその配下の姿がちょっとだけクレイの正気を刺激した。
すなわち、「ちょっと引く」という感覚だ。
「こほん。あとは首輪だったか」
首輪を填めてやり、クレイはそっと罪の意識をおぼえた。
――出会ったときはこうではなかったのに、なんだか壊してしまった感じがする。
それは以前ニュクスフォスにも抱いた念であった。
「それでは、ご褒美は以上だ。よいね」
両手を後ろで拘束され、足首も縛られた状態で首輪に喜ぶフレルバータルに確かめるように言ってそそくさと移動式住居を出れば、外ではちょっとした乱闘騒ぎが起きていた。
中に押し入ろうとする混沌騎士団と、移動式住居の外を守っていたキンメリア族が揉みあい、押し合い、争っていた。
「何をしているのか」
驚いて問う声に気付き、ニュクスフォスが颯爽と目前に駆けてきてクレイを抱え上げる。
「それは俺のセリフですぞ。かような蛮族の天幕で何をなさっているのかと、お父さまは心配いたしました……!」
どうやら、心配して中に入ろうとして止められ、喧嘩になったらしい。
「それは、心配をかけてすまない……」
「俺の見た所、こちらの蛮族の長は邪な気配を隠そうともせず、なかなか危険な男です。あれはいけません! 絶対危険です!」
鬼気迫る様子で語り、住居の扉を睨む紅色の目が不穏だ。
(中を見たらびっくりするだろうな)
中では今、『蛮族の長』が縛られ首輪を填められて恍惚として転がっているのだ。
「奴と何をなさっていたのです? 中で何を……」
今にも中を確認しそうなニュクスフォスに慌てつつ、クレイは見慣れた白髪に手を伸ばした。
「ニュクス、ニュクス」
「なんです」
――知られてはいけない。
守らなければならない。
この広い世界で奇跡のように縁を得て、同好のもの同士が肩を寄せ合っているこの住居の内側は、僕が守ろう。
端正な顔が近い距離で見下ろしてくる。
見慣れた容貌はずっと変わらないように思えて、けれど気付けば初対面のときより大人びている。
「僕はお城に戻るからお別れを告げていたのだ。せっかく綺麗にお別れをしたのに水を差されては残念だよ」
「お別れ。それは確かに、台無しにしてはいけませんな……」
赤い果実のように甘やかな瞳が目の前で感情を揺らすのが、生の実感を招く。
クレイはウンウンと頷いて、両腕をニュクスフォスの首にまわした。
「外は寒いから、お部屋であたたかく過ごしたいな……久しぶりに恋人のキスをしたい」
甘えるように囁けば、返事より先にキスが降ってくる。
(あ……)
触れ合う肌がじんわりと体温を伝えて、吐息が白く溶け合って空気に一緒に同化していく。
薄く目を開ければ、ニュクスフォスの霜が降りたような白い睫毛の先に溶けかけの雪の粉が乗っていて、きらきらと輝いてみえた。
(綺麗だな……それに、あったかい)
吐息がほわほわと熱を感じさせる。
うっとりと熱に浸されていれば、見つめていた睫毛がゆっくりと瞬いて、その下から明るい紅色の瞳があらわれる。
じーっと見つめられる温度がたまに見かける葛藤の色を思わせて、クレイはもどかしい気持ちになった。
「……ここでしたいと言ったわけじゃないよ」
そっと声をこぼせば、ちいさく頷きが返される。
そして、直前の騒動など忘れたとばかりにその場を引き上げて部屋に運ばれるのだった。
――フェアグリンは、いないんだな。
ふとそんな事に気付きつつ、暖炉の前のロッキングチェアに座らされてハーフケットをかけられる。
すこし気配をさぐるように正面から視線を合わせて、すこしひんやりした指先で髪が撫でられる。
「ニュクス、冷えてるね」
――そういえば、寒いのは苦手ではないか。
案ずるように言うクレイの唇が味見をするように舌先で舐められて、軽く口付けされる。
自然と迎えるように唇がひらいて、そわそわと手をニュクスフォスの肩に彷徨わせながら、クレイは自分が待ちかねているのだと自覚した。
「ン……」
ぬるりと舌の先が擦れ合う感覚に鼓動が跳ねる。
頬から首に降りていくニュクスフォスの手のひらが柔らかに肌を撫でてくれれば、子猫になったような錯覚を覚えた。
挨拶を交わした舌が離れて、唇がそっと距離をあける。
呼吸を待たずに角度をかえて寄せられた唇がしっとりと濡れていて、一瞬だけ下唇を食むようにされてから舌の腹がこすられる。
情熱の片鱗を衝動にのせて伝えるような仕草に腰骨のあたりがぞくぞくとして、落ち着かなくなる。
「ん、ふ……」
鼻に抜けたような声がこぼれると、ゆったりと肩がさすられて、すこしだけ後ろに倒される感覚がした。
ロッキングチェアがキィ、と軋む音をたてて後ろに傾くと、ゆりかごで揺られているような浮遊感めいた心地よさと、そのまま倒れてしまいそうなで少し怖い感じがする。
「ん……」
高揚を溢れさせたようなニュクスフォスの声がして、クレイは自らの下で相手の舌を包むようにした。
「んン……っ」
「ん、ふ……」
ゆっくりと椅子が揺れて、唇を合わせて舌を絡ませたまま全身が揺られるのが心地よい。
肩をさすっていた手が顎をするりと撫でてから服の上から鼓動を確かめるみたいに胸元にあてられると、心臓がどきどきした。
それが把握されているのだと思うと、不思議と恥ずかしい気分になる。
「ふぁ……」
胸にあてられていた手が円を描くように胸を撫でると背筋がぞくりぞくりとして、ゆらりと腰が浮く。
「ぅ……ん……、ンッ」
唇の内側が舐められて、甘く痺れる快楽の波がゆらりと全身を浸していく。
ゆるく己の脚の間に熱があつまるのを感じて、その切なさと焦れる衝動に眉根をきゅっと寄せて喘げば、胸に置かれていた手のひらが円を描くようにすりすりと布を乱して、快感を浮き立たせて搔き集めるようにされる。
「ふ……ふーっ」
欲情に吐息を乱せば、胸を撫でていた手がハーフケットの内側に潜り込んで、腿の内側に差し込まれた。
「っ!」
そこできざしているものを布越しに撫でられれば、全身がぴくりとわかりやすい反応を返してしまう。
一気に下半身に熱が集まってふくらみが増していくのが自分でもわかって、クレイは焦燥感を覚えた。
「あたたかい……」
口を離したニュクスフォスが蕩けそうな顔で微笑んで、椅子の前にしゃがむような姿勢になってクレイの下衣をするりと脱がした。
そして、ハーフケットをかけなおすとその下に頭を潜り込ませるようにして、股の間の欲望にくちを寄せた。
「ひゃぁっ!?」
唇と舌でやわらかに刺激しながら、手でも愛でるようにされれば悲鳴みたいな高い声が出てしまう。
欲情を伝播させるような吐息と熱を伴う濡れた舌の刺激に、電流が奔ったみたいな強い快感がクレイの全身に駆け抜ける。
「な、な、な――」
視えない。視線を落としても、持ち上がったハーフケットしかわからない。
けれど、わかる。
舐められている――舐められながら、撫でられている。
「あ、ニュ、ニュクスっ、な、なにをっ……あ、あ!」
強い動揺に上擦る声が快楽に濡れ、あられもない泣き声みたいにこぼれてしまって、クレイは真っ赤になって身悶えした。
裏筋をじっとりと舐められて、射精感が強くなる。
咥えられて、舌で巻かれるような感覚をおぼえると、腰が自然と悦ぶようで、はしたなくびくびく揺れる自分が恥ずかしい。
そのまま上下にピストンされるように刺激されれば、快楽の海に流されて、洩らしてしまいそうになる。
「あ、それだめっ、あ、ああっ」
ハーフケットを落ち着きなく乱して悶えれば、布がふぁさりと落ちて見慣れた青年が自分の股間に顔を埋めるようにして屹立を咥えているのがはっきりと見えてしまう。
刺激の強すぎる光景に、カッと全身が火で炙られたみたいに火照って、堪らない気分になる。
「で、出ちゃう。や、やだ、それ、アア! お、穏やかじゃない――!! あっ、」
キィ、キィと小さく軋む音をたてて椅子が揺れる。
揺れて戻ることなく、そのままどこかに持っていかれてしまいそうで、怖い。
首が反れて、その勢いで後ろに倒れてしまいそうで、怖い。
――気持ちいい。
「あ、あう、出――あああっ!!」
びくびくと弾けるような快感に背が反りかえる。
勢いよく先端から吐き出された液体がこくりと飲みくだされるのがわかって、クレイは信じられないものをみる眼で見慣れた青年の顔を見た。
「ふ、ふ、……ふ」
全身が小刻みに震えている。
日常の気配をどこかに忘れてきたような青年は、親指で軽く口元を拭って艶やかに笑んだ。
「……美味しい」
それがいつかクレイが涙を舐めた時の意趣返しみたいで、紅色の瞳は至福の色を浮かべていて――その股間が興奮を形にしているのを見て、クレイは息を整えるのも忘れて椅子から床へと滑り降りた――以前、無理やり座らされた玉座から逃げたときのように。
「あ、こら。はしたないですぞ」
保護者めいた声が窘める。
――この状態でもうはしたないもなにもあるかっ。
「僕もそれをするのだ、やられたらやり返すのだ……」
あたためられた床に素肌をつけると、じんじんぽかぽかと熱せられる感じがする。
「ご奉仕するのは俺だけで……」
「恋人とは、たがいに気持ちよくさせるものではない? コルトリッセンはされるがままではないのだ」
えいえいと服と下着を脱がせようとすれば、呆れた様子で手伝ってくれる。
――前はさせてくれなかったけれど、今日はよいのだ。
それが嬉しくなって頬を紅潮させながら先端にくちをつければ、びくりと相手が反応を返すのが楽しい。
慈しむように両手でさすって、下から上へと舐め上げれば、それが気持ちよいのだと震えるような気配が感じられて、嬉しくてたまらなくなる。
(ああ、ニュクス。僕に愛でられて気持ちいいの? 悦いのだね?)
愛しい相手を悦ばせてあげる感覚とは、なんて幸せなのだろう。
先端からとろとろと零れる先走りの液を舌で絡めるようにしてみれば、特別感が格別だった。
――僕は今、他の人が見る事も触れることもできない特別で私的な部位を見て、触れて、舐めたんだ!
――恋人だけが触れて、味を知ることができるんだ!
「か、帰ったら……」
夢に溺れるようなニュクスフォスの声がおぼつかない調子でなにかを言っている。
乱れた呼吸と、熱を帯びて潤んだ眼差しが、その色香が――ぞくぞくとするほど蠱惑的だ。
「ん……」
ほわりと息をついて上目に見上げれば、こくりと唾液を呑み込む音がする。
交わる視線が熱っぽい。
「帰ったら、一緒に中央のパーティに出席しましょうか。招かれているようで」
切なげに目を細めて囁く声が掠れていて、余裕がない感じだ――それに気付いて、クレイは優しい気持ちで胸がいっぱいになった。
「うん」
(ここがもどかしくて、淋しくて、つらいんだね、出したいんだ。そうだろ)
飴を貪るようにぺろぺろと舌を使えば、腰が揺れて気持ちよさそうにしている。それが、嬉しい。
(僕、いつも気持ちよくしてもらうばっかりで、ごめんね――)
気持ちよくしてあげたいな。
一緒に気持ちよくなれたらいいな。
つながってみたいな――、
クレイは頬を赤くして、そっと口を離してつぶやいた。
「いつか、一度でいいから……ちゃんと最後まで……あっ」
びくびくとそれが白濁を放っている。
「出た。出たね」
ニコニコと微笑んで、白濁をしたたらせる先端を労うように舐めてやれば、気持ちよさそうな声が耳にきこえてぞくぞくとした。
(ああ、僕はこのひとを気持ちよくさせることができるのだ。できたのだ)
そう思うと、達成感だか幸福感だかがぐしゃぐしゃと混ざって、ハイになってしまうのだった。
「気持ちいいね、ニュクス……」
恍惚として呟けば、いつもニュクスフォスが「気持ちよいですね、クレイ」と呟く気持ちがわかった気がした。
――何事も、相手の立場になってみると、わかることがいっぱいあるのだ。
「お前と遊ぶの、楽しいね。僕は好き」
クレイは幸せな気分で無邪気に言って、笑ったのだった。
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