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4章、差別と極夜の偶像崇拝
41、外見で好きになってもらうのは簡単で、中身で好きになってもらうのは難しい
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港湾都市イスファリアの婚活パーティはなかなかの賑わいを見せていた。
すぐ東の港湾都市ケーニス、南東の港湾都市デグレア、カンタータからも人が集まり、人が多いだけに揉め事も多いらしい。
『偽騎士王』のアピールも捗るというものだ。
「坊ちゃん、俺の外見どうですかい」
「俺も、俺も見てくれ」
めかし込んだ『歩兵』が表情を作ったりポーズを決めたりして気合いを入れている。
「とても良いと思う」
日頃から鍛えているのがわかる体躯だし、清潔感もあるし。意気込みが伝わってくるのも好感が持てるではないか。
「なにより、お前たちは仲間思い、主人想いで、我が身を顧みず誰かのために危地に飛び込み剣を振るえる――その胸には勇気がある。それが見た目よりもずっと魅力的だと僕は思うのだ」
クレイは自分の『拾い物』たちを誇らしく眺めた。
「外見で好きになってもらうのは簡単で、中身で好きになってもらうのは難しい。難しいことをやり遂げ、俺の中身は立派なのだと胸を張って報告においで」
41、外見で好きになってもらうのは簡単で、中身で好きになってもらうのは難しい
交代制で配下が混沌騎士団に成りすます中、本日はフレルバータルが『偽騎士王』役を務めていた。
元々がキンメリア族の若き長とあって、なかなかの履き、そして貫禄。
「いいね、王様っぽいぞフレルバータル」
「我が君、あとで褒美にアレテーをぜひ」
出来の良い『偽騎士王』を褒めれば、おねだりがされる。熱っぽく、ねっとりとした温度で。
「おねだりされること自体は悪い気はしないが、アレテーはちょっと。僕はこう見えて一途なのだ。これと決めた相手がいるからには、浮気はせぬ」
『合意を取る』という文化を取り入れたキンメリア族は、何人か婚活パーティにも挑んでいる。とはいえ、彼らの好みの参加者は少なそうだったが。
――それにしても。
気になるのは、ちらほらと天井付近に見え隠れする美しい古妖精のフェアグリンだ。
そして、下にあれこれ着込んですごくあやしげなシルエットになっている黒ローブのニュクスフォスだ……。
先刻揉めたばかりの男と和気藹々しているのが彼らしい。
以前中央にいた時も、紅薔薇勢に軽侮されてもニコニコしていたのだ。
(僕は、そういうところを快く思うぞ)
喜んだり笑ったりする人間には、必ず悲しみも感じるものだ。
己を悪く言われれば、不快な気持ちを感じないわけがない――が、「悲しい」とか「傷付いた」とかそんなオーラを出してしょんぼりするのではなく、さくっとやり返して後を引かずに――引いていたとしても胸奥に仕舞って――笑えるのだ。
(じめじめした僕とは、そのあたりが違うのだ。僕は、ニュクスのそんなところが好き)
――それにしても、こんな北に来て。
寒いのは苦手だろうに。
クレイがふらふらと寄っていってちょっかいを出してみると、ニュクスフォスは手話で意思疎通を図る様子だった。
(無言の次は手話か。普通に喋っても僕はわからないフリをしてあげるのにな)
じーっと見つめていると、なにやら設定を作ってきている。
『醜い外見をしていて蔑まれるので隠しているのです』
「そうか、そうか」
『実は俺は家を出た身の上で帰る場所がない』
「うん、うん」
――『俺はお忍び中ですよ、バレたくありませんよ』という意思表示だ。
クレイはほわほわと微笑んだ。
「よし、よし。貴方が喋れないのと、行く当てのない旅人なのはわかったよ。なら、それなら……」
クレイはそわそわと言葉を選んだ。
「それなら、僕と一緒に『騎士王』のために働くのが良いのではない? もしよかったら、生活の面倒は見るから『騎士王』の配下になるとよい」
アイザール語で言葉を紡ぐ頬がほかほかと赤くなっている。
なにせ、相手は本物の『騎士王』なのだ。なかなか恥ずかしい。
しかし、ニュクスフォスはウンウンと頷いてくれた。
呑気なオーラが全身からぽやぽやと醸し出されている。
きっと深く気にしていないに違いない――クレイはホッと安心した。
「ところで、僕は貴方の名前をなんと呼べばよいのだろう」
尋ねてみれば、微妙に困ったような気配が感じられる。
――さては考えてないね、ニュクス。
「紙に名前を書いてもらおうかな。あとで教えてね……」
そう言ってリハプッラを差し出せば、パクリと口に含むのが見ていて気持ちいい。
(食べ物を美味しそうに食べられるのも、ニュクスの良いところだ。作った人や食材も、良い食べっぷりの相手に食べてもらえたら嬉しいのではない?)
ほんわかと見守るうち、壁際で『偽騎士王』がテオドールと何か相談しているのが目に入った。
何かあったのかと寄っていけば、たいそう評判の悪い豪族の若様、イヴァンとやらがいるらしい。
「評判はいくらでも作れるものだから、僕は実際の人となりを見て判断したいな」
その人を見てみれば、第一印象は『白い』だった。
白金の髪を後ろに撫でつけて、瞳の色も薄い銀色。
なかなかの美形で、彫りが深くて目付きは鋭くちょっと意地悪そうだ。
「しかし坊ちゃん、ランゲ一族といやあ、旧臣勢だったけれど最近『騎士王』と喧嘩別れしたって話じゃないですかい」
「えっ、そうなの」
言われて見れば、イヴァンが『騎士王』を視る眼差しは剣呑かもしれない。一方、ニュクスフォスの様子を窺えば――、
(ニュクスは「あれ誰?」みたいな空気だけど)
全く気にしている様子がない。
むしろ、なんだか凄く機嫌が良さそうな気配だ……。
(ふーむ。僕がちょっと様子を探ってみようではないか)
クレイはおっとりと手を叩き、配下の注意を引いた。
「僕、遊戯を思い付いた。皆で遊ぶのはいかが」
恋人、あるいは伴侶を探している配下たちはスルーしているが、後日の約束を取り付けたり諦めたりした配下たちはそろそろと周りに集まってくる。
そんな配下たちに、クレイは思い付きの構想を語った。
「まず、手持無沙汰なパーティ参加者を集めるのだ。もちろん、イヴァン殿も誘いたい。そして参加者をひとりずつ順番に『皆の前で何か失敗する役』にするのだ。転ぶなり、ドリンクカップの中身をこぼすなり、なんでも良い。他の参加者は、それに対して自由にリアクションをしてよい。失敗をあげつらうような茶々を入れても良い……イヴァン殿は僕が誘ってみよう」
配下に準備をさせて、クレイはイヴァンに近付いた。
薄い銀色の瞳が上から見下すように見つめてくる。
フレルバータルとは異なる種類の、しかし熱を感じさせる眼差し――、
(銀色の瞳は一見するとちょっと捉えどころがなく思えて、冷たい感じもするけれど、感情が揺らめく様子はすごく人間らしさを感じるや)
クレイは背伸びするように背筋を伸ばし、はんなりと微笑んだ。
ここで紡ぐのは、エインヘリア語だ。
「こんにちは、はじめまして。僕は、最近『騎士王』陛下にお仕えするようになった侍童です。敬虔な創造多神教の信者であり、総本山ともいえる中央教会の聖女に太いパイプがあります。僕はこの教会で一定の権力を抑えており、このパーティを主催しています。あと、貴方に興味があります」
本人的には熟達の言語スキルだが、相手にはもう少しカタコトで伝わっている。
「こんにちは、はじめまして。僕は『騎士王』に奉仕する寵童です。僕はめちゃめちゃ神を信じる。中央教会は山があり一番えらい、聖女につながる。僕はのっとった、この教会えらい人であるです。パーティは僕がひらく。貴方に好意があります」
――と、こんな風に。
「ほーう。俺に興味があるのか。言葉はあやしいが、見てくれは佳いな」
イヴァンはぐっと身を乗り出し、片手を無遠慮にクレイの華奢な腰にまわして顔を近づけた。
「他国の出身か。高貴な家柄なのだろうな? いかにも箱入りといった感じがする。シミも瑕もひとつないきめ細やかで滑らかな肌……花の香り――これは中央の気風……」
銀色の瞳がちらりと『偽騎士王』を視る。
フレルバータルは不穏な成り行きに気付きつつ、テオドールに「こういう時はどうするのだ、問答無用で殴っていいのか」と小声で尋ねていた。
テオドールはというと、「友好を狙う坊ちゃんの作戦的に、殴るのは良くないと思いますが」と言いつつこちらに向かうようだった。
「俺は初物が好みなので『騎士王』の御手付きというのは面白くないが、中央の美には興味がある……」
それに気付いたイヴァンは、テオドールを牽制するように腰に佩いた長剣の握りに手を添えている。
(いきなり馴れ馴れしいのだな。距離感が近くてフレンドリーなのは南の気質だと思っていたけれど……なんだかこれはそういうのと違って、不躾でいやらしい感じがするではないか)
これは「無礼な」と言って怒るべきだろうか?
しかし、それをすれば初対面の印象は最悪になってしまうのだろうな――クレイは一瞬葛藤した。
「――違う違う」
と、その体がぐいっと後ろに引き寄せられ、イヴァンの手から助け出される。
「これは俺の子だ。外国語がヘタクソで、わけのわからないことを申したが本人的には『僕は教会のお手伝いをしててえらいでしょ』と言いたかっただけなのだ。いや本当にすまん!」
無駄に明るい流暢なエインヘリア語は、ニュクスフォスから発せられたものだった。
「ちなみに俺は何者かというと、えーっと……商人である――商人です、若様」
実に胡散臭そうな眼差しがイヴァンから注がれる。
(おやニュクス。喋らないキャラでいくのかと思いきや、喋るではないか)
クレイは目をぱちぱちと瞬かせ、二人を見比べた。
「僕は、イヴァン殿を遊戯に誘いたかったのです」
めげずに誘いの言葉を連ねれば、ニュクスフォスからは「あー、なんて危なっかしい。そして『歩兵』の役に立たなさといったら……」という嘆くような呟きがこぼれたのだった。
すぐ東の港湾都市ケーニス、南東の港湾都市デグレア、カンタータからも人が集まり、人が多いだけに揉め事も多いらしい。
『偽騎士王』のアピールも捗るというものだ。
「坊ちゃん、俺の外見どうですかい」
「俺も、俺も見てくれ」
めかし込んだ『歩兵』が表情を作ったりポーズを決めたりして気合いを入れている。
「とても良いと思う」
日頃から鍛えているのがわかる体躯だし、清潔感もあるし。意気込みが伝わってくるのも好感が持てるではないか。
「なにより、お前たちは仲間思い、主人想いで、我が身を顧みず誰かのために危地に飛び込み剣を振るえる――その胸には勇気がある。それが見た目よりもずっと魅力的だと僕は思うのだ」
クレイは自分の『拾い物』たちを誇らしく眺めた。
「外見で好きになってもらうのは簡単で、中身で好きになってもらうのは難しい。難しいことをやり遂げ、俺の中身は立派なのだと胸を張って報告においで」
41、外見で好きになってもらうのは簡単で、中身で好きになってもらうのは難しい
交代制で配下が混沌騎士団に成りすます中、本日はフレルバータルが『偽騎士王』役を務めていた。
元々がキンメリア族の若き長とあって、なかなかの履き、そして貫禄。
「いいね、王様っぽいぞフレルバータル」
「我が君、あとで褒美にアレテーをぜひ」
出来の良い『偽騎士王』を褒めれば、おねだりがされる。熱っぽく、ねっとりとした温度で。
「おねだりされること自体は悪い気はしないが、アレテーはちょっと。僕はこう見えて一途なのだ。これと決めた相手がいるからには、浮気はせぬ」
『合意を取る』という文化を取り入れたキンメリア族は、何人か婚活パーティにも挑んでいる。とはいえ、彼らの好みの参加者は少なそうだったが。
――それにしても。
気になるのは、ちらほらと天井付近に見え隠れする美しい古妖精のフェアグリンだ。
そして、下にあれこれ着込んですごくあやしげなシルエットになっている黒ローブのニュクスフォスだ……。
先刻揉めたばかりの男と和気藹々しているのが彼らしい。
以前中央にいた時も、紅薔薇勢に軽侮されてもニコニコしていたのだ。
(僕は、そういうところを快く思うぞ)
喜んだり笑ったりする人間には、必ず悲しみも感じるものだ。
己を悪く言われれば、不快な気持ちを感じないわけがない――が、「悲しい」とか「傷付いた」とかそんなオーラを出してしょんぼりするのではなく、さくっとやり返して後を引かずに――引いていたとしても胸奥に仕舞って――笑えるのだ。
(じめじめした僕とは、そのあたりが違うのだ。僕は、ニュクスのそんなところが好き)
――それにしても、こんな北に来て。
寒いのは苦手だろうに。
クレイがふらふらと寄っていってちょっかいを出してみると、ニュクスフォスは手話で意思疎通を図る様子だった。
(無言の次は手話か。普通に喋っても僕はわからないフリをしてあげるのにな)
じーっと見つめていると、なにやら設定を作ってきている。
『醜い外見をしていて蔑まれるので隠しているのです』
「そうか、そうか」
『実は俺は家を出た身の上で帰る場所がない』
「うん、うん」
――『俺はお忍び中ですよ、バレたくありませんよ』という意思表示だ。
クレイはほわほわと微笑んだ。
「よし、よし。貴方が喋れないのと、行く当てのない旅人なのはわかったよ。なら、それなら……」
クレイはそわそわと言葉を選んだ。
「それなら、僕と一緒に『騎士王』のために働くのが良いのではない? もしよかったら、生活の面倒は見るから『騎士王』の配下になるとよい」
アイザール語で言葉を紡ぐ頬がほかほかと赤くなっている。
なにせ、相手は本物の『騎士王』なのだ。なかなか恥ずかしい。
しかし、ニュクスフォスはウンウンと頷いてくれた。
呑気なオーラが全身からぽやぽやと醸し出されている。
きっと深く気にしていないに違いない――クレイはホッと安心した。
「ところで、僕は貴方の名前をなんと呼べばよいのだろう」
尋ねてみれば、微妙に困ったような気配が感じられる。
――さては考えてないね、ニュクス。
「紙に名前を書いてもらおうかな。あとで教えてね……」
そう言ってリハプッラを差し出せば、パクリと口に含むのが見ていて気持ちいい。
(食べ物を美味しそうに食べられるのも、ニュクスの良いところだ。作った人や食材も、良い食べっぷりの相手に食べてもらえたら嬉しいのではない?)
ほんわかと見守るうち、壁際で『偽騎士王』がテオドールと何か相談しているのが目に入った。
何かあったのかと寄っていけば、たいそう評判の悪い豪族の若様、イヴァンとやらがいるらしい。
「評判はいくらでも作れるものだから、僕は実際の人となりを見て判断したいな」
その人を見てみれば、第一印象は『白い』だった。
白金の髪を後ろに撫でつけて、瞳の色も薄い銀色。
なかなかの美形で、彫りが深くて目付きは鋭くちょっと意地悪そうだ。
「しかし坊ちゃん、ランゲ一族といやあ、旧臣勢だったけれど最近『騎士王』と喧嘩別れしたって話じゃないですかい」
「えっ、そうなの」
言われて見れば、イヴァンが『騎士王』を視る眼差しは剣呑かもしれない。一方、ニュクスフォスの様子を窺えば――、
(ニュクスは「あれ誰?」みたいな空気だけど)
全く気にしている様子がない。
むしろ、なんだか凄く機嫌が良さそうな気配だ……。
(ふーむ。僕がちょっと様子を探ってみようではないか)
クレイはおっとりと手を叩き、配下の注意を引いた。
「僕、遊戯を思い付いた。皆で遊ぶのはいかが」
恋人、あるいは伴侶を探している配下たちはスルーしているが、後日の約束を取り付けたり諦めたりした配下たちはそろそろと周りに集まってくる。
そんな配下たちに、クレイは思い付きの構想を語った。
「まず、手持無沙汰なパーティ参加者を集めるのだ。もちろん、イヴァン殿も誘いたい。そして参加者をひとりずつ順番に『皆の前で何か失敗する役』にするのだ。転ぶなり、ドリンクカップの中身をこぼすなり、なんでも良い。他の参加者は、それに対して自由にリアクションをしてよい。失敗をあげつらうような茶々を入れても良い……イヴァン殿は僕が誘ってみよう」
配下に準備をさせて、クレイはイヴァンに近付いた。
薄い銀色の瞳が上から見下すように見つめてくる。
フレルバータルとは異なる種類の、しかし熱を感じさせる眼差し――、
(銀色の瞳は一見するとちょっと捉えどころがなく思えて、冷たい感じもするけれど、感情が揺らめく様子はすごく人間らしさを感じるや)
クレイは背伸びするように背筋を伸ばし、はんなりと微笑んだ。
ここで紡ぐのは、エインヘリア語だ。
「こんにちは、はじめまして。僕は、最近『騎士王』陛下にお仕えするようになった侍童です。敬虔な創造多神教の信者であり、総本山ともいえる中央教会の聖女に太いパイプがあります。僕はこの教会で一定の権力を抑えており、このパーティを主催しています。あと、貴方に興味があります」
本人的には熟達の言語スキルだが、相手にはもう少しカタコトで伝わっている。
「こんにちは、はじめまして。僕は『騎士王』に奉仕する寵童です。僕はめちゃめちゃ神を信じる。中央教会は山があり一番えらい、聖女につながる。僕はのっとった、この教会えらい人であるです。パーティは僕がひらく。貴方に好意があります」
――と、こんな風に。
「ほーう。俺に興味があるのか。言葉はあやしいが、見てくれは佳いな」
イヴァンはぐっと身を乗り出し、片手を無遠慮にクレイの華奢な腰にまわして顔を近づけた。
「他国の出身か。高貴な家柄なのだろうな? いかにも箱入りといった感じがする。シミも瑕もひとつないきめ細やかで滑らかな肌……花の香り――これは中央の気風……」
銀色の瞳がちらりと『偽騎士王』を視る。
フレルバータルは不穏な成り行きに気付きつつ、テオドールに「こういう時はどうするのだ、問答無用で殴っていいのか」と小声で尋ねていた。
テオドールはというと、「友好を狙う坊ちゃんの作戦的に、殴るのは良くないと思いますが」と言いつつこちらに向かうようだった。
「俺は初物が好みなので『騎士王』の御手付きというのは面白くないが、中央の美には興味がある……」
それに気付いたイヴァンは、テオドールを牽制するように腰に佩いた長剣の握りに手を添えている。
(いきなり馴れ馴れしいのだな。距離感が近くてフレンドリーなのは南の気質だと思っていたけれど……なんだかこれはそういうのと違って、不躾でいやらしい感じがするではないか)
これは「無礼な」と言って怒るべきだろうか?
しかし、それをすれば初対面の印象は最悪になってしまうのだろうな――クレイは一瞬葛藤した。
「――違う違う」
と、その体がぐいっと後ろに引き寄せられ、イヴァンの手から助け出される。
「これは俺の子だ。外国語がヘタクソで、わけのわからないことを申したが本人的には『僕は教会のお手伝いをしててえらいでしょ』と言いたかっただけなのだ。いや本当にすまん!」
無駄に明るい流暢なエインヘリア語は、ニュクスフォスから発せられたものだった。
「ちなみに俺は何者かというと、えーっと……商人である――商人です、若様」
実に胡散臭そうな眼差しがイヴァンから注がれる。
(おやニュクス。喋らないキャラでいくのかと思いきや、喋るではないか)
クレイは目をぱちぱちと瞬かせ、二人を見比べた。
「僕は、イヴァン殿を遊戯に誘いたかったのです」
めげずに誘いの言葉を連ねれば、ニュクスフォスからは「あー、なんて危なっかしい。そして『歩兵』の役に立たなさといったら……」という嘆くような呟きがこぼれたのだった。
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