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3章、野性、飼いならし
31、僕の『騎士王』はそんなことを……言うかもしれぬ
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「俺は子供たちを助けに行く……」
オーブル族の集落で、バヤンが『歩兵』に声をかけていた。
「あ、やっぱアレは要救助案件だったんだ」
『子供』と『助ける』の単語を理解したベルンハルトが仲間たちに視線を向ける。
「大変じゃないか、俺たちの坊ちゃんがピンチじゃないか?」
のほほん、のんびりとした『歩兵』たちも、さすがに血相を変えて馬に乗り、駆け出そうとした。
「バヤン、なんでもっと早く言わないんだ。いや、言ってたのかもしれないが」
バヤンは早口で色々喋っている。エインヘリア語で。
「もっと遅く喋ってくれ。幼児に言い聞かせるレベルで頼む。俺を幼児だとおもって喋ってくれ」
「誰か聞き取れ、心で感じ取れ」
「キンメリアがあちこちにたくさんいるって聞き取れた」
「俺の耳にはキンメリアがキンブリアってきこえた」
「もうこれわかんねえな……」
中央出身の『歩兵』たちは、あまり他国語が得意ではなかった。それなりに長くエインヘリアにいるので、多少言葉を覚えて日常を送ってはいるが、速い速度でぺらぺら喋られると、きついのである。
そんなバヤンと『歩兵』たちがぎくりと馬を止めたのは、しゃん、しゃん、と鈴を鳴らし、旗を振り、揃いの鎧を着た騎士風の一団が近づいてきたからであった。
「我らは世直しの旅の途中にある混沌騎士団であるっ。頭が高い、頭が高い。控え居ろう! ここにおわすは『騎士王』様であらせられるぞ!」
先頭の馬に乗った騎士が甲高い声で高圧的に叫んだ。
「礼儀を知らぬ蛮族め、本来は成敗するところであるが、『騎士王』様は寛大でいらっしゃる。礼の代わりに金品で許してやろう!」
本人を知るバヤンも『歩兵』も、微妙な顔で珍妙な騎士たちを見て、顔を見合わせた。
「今の聞き取れたか? 『混沌騎士団』とか『騎士王』とか言ってた?」
「俺にもそう聞こえたなあ。金をよこせって言われたかもしれん」
「なんで?」
そんな戸惑い溢れる一行の耳に、馬の足音がきこえてきた。
なんとも絶妙なタイミングで、クレイとキンメリア族が帰ってきたのである。
「坊ちゃん! 坊ちゃんじゃないですか」
「俺たちは今お助けに向かおうかと思っていたんですぜ!」
ご主人様が無事だったので、『歩兵』たちはおおいに喜んだ。
31、僕の『騎士王』はそんなことを……言うかもしれぬ
クレイは再会した『歩兵』たちに笑顔を向けつつ、さっさと帰って行った黒竜を思った。
あの厭世的な竜は、本当に付き合いが悪い――やる気がない。
全身で「ああ、面倒だった」みたいな気配を見せながら帰って行った……。
「坊ちゃん、大事なくてなによりです」
それに比べてこの『歩兵』たちは再会を喜んでくれて、心配したのだと言ってくれる。
なんて可愛いのだろう。
「こほん。僕はキンメリア族を『拾った』のだ。とりあえず子供たちを帰すのを優先した結果、あんまりお話していないけれど――やっぱり、今後どうするかを決めるためにも、詳しくお話してみないといけないのだろうなぁ……でもなぁ……」
ちらっとフレルバータルを視れば、熱の籠った目で見つめてくる。
それが、熱視線を注がれるのに慣れた王甥でも『ちょっと気持ち悪い』と感じてしまう類のねっとりした視線なのだ……。
「……また僕の黒歴史が増えてしまった」
クレイはそっと目を逸らしつつ、そっと問いかけた。
「とりあえずキンメリア族が使えなくなった牧草地とやらはどこなの。取り戻せそうなら、取り戻してあげてもいいよ。その代わり、盗賊行為や相手に合意のないアレテーとやらをやめるのが条件になるけれど……」
フレルバータルは自称混沌騎士団を気にしつつ、従順に語る。
「もう少し南のほうだ。そのへんは前から俺たちと交易関係にあった盟友ケドニア人が長く帝国と奪い合ってた土地なのだが、最近になって完全に帝国に奪われてしまったんだ」
「なんと、帝国に」
「それは、うん。土地を奪い合うのはよくあることだ。帝国なら仕方ないな」
フレルバータルはそのリアクションがちょっと残念、といった顔で言葉を連ねる。
「『騎士王』の奴は、『俺の縄張りで王様ごっこしてるケドニアは滅べ』と言って盟友を残らず滅ぼしたんだ。しかも、周辺に都市や村をどんどんつくろうとしてやがる」
「なんと、『騎士王』がそんなことを……言うかな? 言うかもしれないな……」
『騎士王』とは、クレイにとって偶像みたいなものである。
中身は身近なようでいて、素性を隠した全身鎧のその人はなんとなーく「知らない人」みたいなイメージがある。
顔を隠して黙っていると、特に――。
「籠城したケドニア勢の残党を火攻めにして……」
『騎士王』のキャラクター解釈に悩ましく首をかしげていたクレイは、そこで目を瞬かせた。
「それは、『騎士王』ではないね。『騎士王』は火計より水計がお好みなのだよ。というか、『騎士王』に加護を与える古妖精のフェアグリンは光属性の魔法が得意なのだもの。そこは、空から光の槍を雨のように降らせたり、フェアグリンの配下妖精を使って工作するほうが『騎士王』らしいのではない? いや、ほんとうにそんなことができるのかは知らぬけど」
以前、海を燃やす幻を見せてやった時に本人が言ったのだ――『水を賜るほうが俺は好きですな』と。
そして、フェアグリンは中央の王都で光の槍を降らせて騒動を起こした前科持ちでもある。
「ふふん。僕はね、ちょっとだけ『騎士王』のことを知っているのだ。その噂を広めた輩に伝えたいものだね……『解釈違い』と」
クレイはドヤ顔で肩をそびやかした。
「しかし、恥ずべきことではないのだよ。情報が不足しているのだもの……市井に出回っていない嗜好を知っている僕がすごいのだ。えっへん」
得意げにしながら話し込むクレイを見て、『歩兵』たちはすっかりいつもの調子でのほほんとしていた。
「坊ちゃん、あの若長とやらを落としたんですね。さすがですなあ」
「あとで武勇伝をきかせてもらわにゃ」
盛り上がる『歩兵』たちはたいそう可愛い。クレイはニコニコした。
「お前たちは本当に可愛いね。僕は、お前たちが好き」
フレルバータルが応えるより先に、しゃん、しゃん、と存在をアピールするように鈴が鳴る。
混沌騎士団を名乗る騎士たちだ。
クレイが視線を向けると、騎士がさきほど『歩兵』にしたのと同じ言葉を繰り返した。
「我らは世直しの旅の途中にある混沌騎士団であるっ。頭が高い、頭が高い。控え居ろう! ここにおわすは『騎士王』様であらせられるぞ! 礼儀を知らぬ蛮族め、本来は成敗するところであるが、『騎士王』様は寛大でいらっしゃる。礼の代わりに金品で許してやろう!」
台本でも丸暗記しているのか、というくらい同じ台詞であった。
「なんと、混沌騎士団に『騎士王』様。世直しの旅……」
クレイはしげしげと一行を見つめ、眉をよせた。
「世直しは、いいね。身分を隠してこっそり善行を積む英雄騎士、いとおかし。最初は身分を隠してあとから第三者が『あっ、あなたさまは』と気づいたり、気付かれぬのをよしとして真実を秘めたまま立ち去るなどすれば、たいそう僕の好みである。しかし、後半はなんだ」
妙なスイッチが入った声がつづく。
「『礼儀を知らぬ蛮族』……これは、美しくない。失礼であり、品がない。これでは礼儀を知らぬと言いつつ己も礼儀を失してしまうし、呼びかけひとつで親しくなれるかもしれなかった相手を敵にまわしてしまうではないか。また、無礼を先にしたならば、第三者には非が己の側にあるといわれてしまうのだよ。何も接点がない初対面でいきなり攻撃的な呼びかけをしたのだもの。どちらが悪いかと第三者が考えたとき、自分が悪いと言われてしまう――それは、とてもよろしくないのだ。揉めるならば、挑発は水面下でしなければならぬ。常に相手が先に手を出した、相手が先に無礼を働いた、と、相手に非がある状況になるよう心掛けねばならぬのだ」
それはなんとも中央貴族風、コルトリッセン家と紅薔薇派閥らしさの溢れる考え方であった。
自覚しつつ、クレイは言葉をつづける。
「さて、僕が考える望ましい物言いは、……『礼儀の文化が異なる民族』などと呼ぶべきであろうか……。『騎士王』も、『蛮族』などといった呼びかけを言ったりは……言うかもしれないなぁ……」
おっとり、のんびりと思考しながらクレイがスローペースに言葉をつむぐのを辛抱強く最後まで聞いた周囲はいっせいにツッコミをいれた。
「言うのかよ」
「うん、うん。実は僕、中央に居た頃に『エインヘリアの蛮族』という言い回しをつかっているのを耳にした気がするので……こほん」
クレイは神妙な顔で考察を進めた。
「礼の代わりに金品で許してやる、というのも――」
語尾が消えていく。
(どうだろう。僕は、オスカーに依頼をあれこれして報酬を払っていた時期があったけれど、その時はとても『商人っぽい』と思ったものだった。本人にそう言うと『俺は商人じゃないですよ、俺は貴族ですよ』とちょっと嫌そうにしていたけれど……)
「いや。しかし、『騎士王』はお金も好きだけど、礼もお好きなのだよ? 格式ばった古風なのとかお好きだし……」
『歩兵』たちがなんともいえない顔でそれを見守っていた。
「坊ちゃん、坊ちゃん。奴の言いそうなことかどうかはさておき、目の前にいるのは偽物でしょうよ」
「ハッ……そ、そうだね」
クレイは現実に立ち返り、妙な混沌騎士団と『騎士王』とやらを視た。
「とりあえず、このなりすまし騎士団は『騎士王』の名誉を損ねる迷惑集団と言えよう。よろしくない。野放しにはできぬ。捕縛せよ」
『歩兵』たちとキンメリア族がなりすまし騎士団をみるみるうちに捕縛する。
こうして大所帯になった一行は、のろのろとオーブル族の集落に帰るのだった。
オーブル族の集落で、バヤンが『歩兵』に声をかけていた。
「あ、やっぱアレは要救助案件だったんだ」
『子供』と『助ける』の単語を理解したベルンハルトが仲間たちに視線を向ける。
「大変じゃないか、俺たちの坊ちゃんがピンチじゃないか?」
のほほん、のんびりとした『歩兵』たちも、さすがに血相を変えて馬に乗り、駆け出そうとした。
「バヤン、なんでもっと早く言わないんだ。いや、言ってたのかもしれないが」
バヤンは早口で色々喋っている。エインヘリア語で。
「もっと遅く喋ってくれ。幼児に言い聞かせるレベルで頼む。俺を幼児だとおもって喋ってくれ」
「誰か聞き取れ、心で感じ取れ」
「キンメリアがあちこちにたくさんいるって聞き取れた」
「俺の耳にはキンメリアがキンブリアってきこえた」
「もうこれわかんねえな……」
中央出身の『歩兵』たちは、あまり他国語が得意ではなかった。それなりに長くエインヘリアにいるので、多少言葉を覚えて日常を送ってはいるが、速い速度でぺらぺら喋られると、きついのである。
そんなバヤンと『歩兵』たちがぎくりと馬を止めたのは、しゃん、しゃん、と鈴を鳴らし、旗を振り、揃いの鎧を着た騎士風の一団が近づいてきたからであった。
「我らは世直しの旅の途中にある混沌騎士団であるっ。頭が高い、頭が高い。控え居ろう! ここにおわすは『騎士王』様であらせられるぞ!」
先頭の馬に乗った騎士が甲高い声で高圧的に叫んだ。
「礼儀を知らぬ蛮族め、本来は成敗するところであるが、『騎士王』様は寛大でいらっしゃる。礼の代わりに金品で許してやろう!」
本人を知るバヤンも『歩兵』も、微妙な顔で珍妙な騎士たちを見て、顔を見合わせた。
「今の聞き取れたか? 『混沌騎士団』とか『騎士王』とか言ってた?」
「俺にもそう聞こえたなあ。金をよこせって言われたかもしれん」
「なんで?」
そんな戸惑い溢れる一行の耳に、馬の足音がきこえてきた。
なんとも絶妙なタイミングで、クレイとキンメリア族が帰ってきたのである。
「坊ちゃん! 坊ちゃんじゃないですか」
「俺たちは今お助けに向かおうかと思っていたんですぜ!」
ご主人様が無事だったので、『歩兵』たちはおおいに喜んだ。
31、僕の『騎士王』はそんなことを……言うかもしれぬ
クレイは再会した『歩兵』たちに笑顔を向けつつ、さっさと帰って行った黒竜を思った。
あの厭世的な竜は、本当に付き合いが悪い――やる気がない。
全身で「ああ、面倒だった」みたいな気配を見せながら帰って行った……。
「坊ちゃん、大事なくてなによりです」
それに比べてこの『歩兵』たちは再会を喜んでくれて、心配したのだと言ってくれる。
なんて可愛いのだろう。
「こほん。僕はキンメリア族を『拾った』のだ。とりあえず子供たちを帰すのを優先した結果、あんまりお話していないけれど――やっぱり、今後どうするかを決めるためにも、詳しくお話してみないといけないのだろうなぁ……でもなぁ……」
ちらっとフレルバータルを視れば、熱の籠った目で見つめてくる。
それが、熱視線を注がれるのに慣れた王甥でも『ちょっと気持ち悪い』と感じてしまう類のねっとりした視線なのだ……。
「……また僕の黒歴史が増えてしまった」
クレイはそっと目を逸らしつつ、そっと問いかけた。
「とりあえずキンメリア族が使えなくなった牧草地とやらはどこなの。取り戻せそうなら、取り戻してあげてもいいよ。その代わり、盗賊行為や相手に合意のないアレテーとやらをやめるのが条件になるけれど……」
フレルバータルは自称混沌騎士団を気にしつつ、従順に語る。
「もう少し南のほうだ。そのへんは前から俺たちと交易関係にあった盟友ケドニア人が長く帝国と奪い合ってた土地なのだが、最近になって完全に帝国に奪われてしまったんだ」
「なんと、帝国に」
「それは、うん。土地を奪い合うのはよくあることだ。帝国なら仕方ないな」
フレルバータルはそのリアクションがちょっと残念、といった顔で言葉を連ねる。
「『騎士王』の奴は、『俺の縄張りで王様ごっこしてるケドニアは滅べ』と言って盟友を残らず滅ぼしたんだ。しかも、周辺に都市や村をどんどんつくろうとしてやがる」
「なんと、『騎士王』がそんなことを……言うかな? 言うかもしれないな……」
『騎士王』とは、クレイにとって偶像みたいなものである。
中身は身近なようでいて、素性を隠した全身鎧のその人はなんとなーく「知らない人」みたいなイメージがある。
顔を隠して黙っていると、特に――。
「籠城したケドニア勢の残党を火攻めにして……」
『騎士王』のキャラクター解釈に悩ましく首をかしげていたクレイは、そこで目を瞬かせた。
「それは、『騎士王』ではないね。『騎士王』は火計より水計がお好みなのだよ。というか、『騎士王』に加護を与える古妖精のフェアグリンは光属性の魔法が得意なのだもの。そこは、空から光の槍を雨のように降らせたり、フェアグリンの配下妖精を使って工作するほうが『騎士王』らしいのではない? いや、ほんとうにそんなことができるのかは知らぬけど」
以前、海を燃やす幻を見せてやった時に本人が言ったのだ――『水を賜るほうが俺は好きですな』と。
そして、フェアグリンは中央の王都で光の槍を降らせて騒動を起こした前科持ちでもある。
「ふふん。僕はね、ちょっとだけ『騎士王』のことを知っているのだ。その噂を広めた輩に伝えたいものだね……『解釈違い』と」
クレイはドヤ顔で肩をそびやかした。
「しかし、恥ずべきことではないのだよ。情報が不足しているのだもの……市井に出回っていない嗜好を知っている僕がすごいのだ。えっへん」
得意げにしながら話し込むクレイを見て、『歩兵』たちはすっかりいつもの調子でのほほんとしていた。
「坊ちゃん、あの若長とやらを落としたんですね。さすがですなあ」
「あとで武勇伝をきかせてもらわにゃ」
盛り上がる『歩兵』たちはたいそう可愛い。クレイはニコニコした。
「お前たちは本当に可愛いね。僕は、お前たちが好き」
フレルバータルが応えるより先に、しゃん、しゃん、と存在をアピールするように鈴が鳴る。
混沌騎士団を名乗る騎士たちだ。
クレイが視線を向けると、騎士がさきほど『歩兵』にしたのと同じ言葉を繰り返した。
「我らは世直しの旅の途中にある混沌騎士団であるっ。頭が高い、頭が高い。控え居ろう! ここにおわすは『騎士王』様であらせられるぞ! 礼儀を知らぬ蛮族め、本来は成敗するところであるが、『騎士王』様は寛大でいらっしゃる。礼の代わりに金品で許してやろう!」
台本でも丸暗記しているのか、というくらい同じ台詞であった。
「なんと、混沌騎士団に『騎士王』様。世直しの旅……」
クレイはしげしげと一行を見つめ、眉をよせた。
「世直しは、いいね。身分を隠してこっそり善行を積む英雄騎士、いとおかし。最初は身分を隠してあとから第三者が『あっ、あなたさまは』と気づいたり、気付かれぬのをよしとして真実を秘めたまま立ち去るなどすれば、たいそう僕の好みである。しかし、後半はなんだ」
妙なスイッチが入った声がつづく。
「『礼儀を知らぬ蛮族』……これは、美しくない。失礼であり、品がない。これでは礼儀を知らぬと言いつつ己も礼儀を失してしまうし、呼びかけひとつで親しくなれるかもしれなかった相手を敵にまわしてしまうではないか。また、無礼を先にしたならば、第三者には非が己の側にあるといわれてしまうのだよ。何も接点がない初対面でいきなり攻撃的な呼びかけをしたのだもの。どちらが悪いかと第三者が考えたとき、自分が悪いと言われてしまう――それは、とてもよろしくないのだ。揉めるならば、挑発は水面下でしなければならぬ。常に相手が先に手を出した、相手が先に無礼を働いた、と、相手に非がある状況になるよう心掛けねばならぬのだ」
それはなんとも中央貴族風、コルトリッセン家と紅薔薇派閥らしさの溢れる考え方であった。
自覚しつつ、クレイは言葉をつづける。
「さて、僕が考える望ましい物言いは、……『礼儀の文化が異なる民族』などと呼ぶべきであろうか……。『騎士王』も、『蛮族』などといった呼びかけを言ったりは……言うかもしれないなぁ……」
おっとり、のんびりと思考しながらクレイがスローペースに言葉をつむぐのを辛抱強く最後まで聞いた周囲はいっせいにツッコミをいれた。
「言うのかよ」
「うん、うん。実は僕、中央に居た頃に『エインヘリアの蛮族』という言い回しをつかっているのを耳にした気がするので……こほん」
クレイは神妙な顔で考察を進めた。
「礼の代わりに金品で許してやる、というのも――」
語尾が消えていく。
(どうだろう。僕は、オスカーに依頼をあれこれして報酬を払っていた時期があったけれど、その時はとても『商人っぽい』と思ったものだった。本人にそう言うと『俺は商人じゃないですよ、俺は貴族ですよ』とちょっと嫌そうにしていたけれど……)
「いや。しかし、『騎士王』はお金も好きだけど、礼もお好きなのだよ? 格式ばった古風なのとかお好きだし……」
『歩兵』たちがなんともいえない顔でそれを見守っていた。
「坊ちゃん、坊ちゃん。奴の言いそうなことかどうかはさておき、目の前にいるのは偽物でしょうよ」
「ハッ……そ、そうだね」
クレイは現実に立ち返り、妙な混沌騎士団と『騎士王』とやらを視た。
「とりあえず、このなりすまし騎士団は『騎士王』の名誉を損ねる迷惑集団と言えよう。よろしくない。野放しにはできぬ。捕縛せよ」
『歩兵』たちとキンメリア族がなりすまし騎士団をみるみるうちに捕縛する。
こうして大所帯になった一行は、のろのろとオーブル族の集落に帰るのだった。
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***
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