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3章、野性、飼いならし
30、俺がこんな偽者に惑わされると思ったら大間違い……惑うが!
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「いいかお前ら、まず言わないといけないな! このチームは、俺が一番、えらいっ!」
出身国がバラバラで、いずれも天才と呼ばれる類の優秀な少年たちの前にふんぞり返り、公子は言った。
「このチームは、実力主義だ。だが、俺は例外で、一番弱くても、一番えらい。俺がクビになることはない。なぜなら、俺はスポンサーの息子だからだ! このチーム自体が俺のためのチームだからだ!」
その言葉は揃っているメンバーの出身国の言葉で都度言い直され、繰り返された。
よくそんなことを堂々と胸を張って言えるものだ、といった眼が注がれる中、公子は「そんなの全然気にしない」といった神経の図太そうな顔でニッと笑った。
整った顔立ちの公子の笑顔は、なにひとつ悩みなどないぞッといった、突っ込みをするのも面倒になるような類の陽気さ溢れる笑顔だった。
「お前らは俺の父に金をもらって良い環境で訓練ができるんだ。だから、俺がえらい! 俺が一番実力があると言えたらベストなんだが、お前らは天才だから、それが言えないんだな! いやあ、お前らは、すごいっ!!」
公子はその時内心で、有名な騎士が自分位の年頃だったときの口伝を思い出していた。
清廉で高潔な騎士、フィニックスは従騎士として立派な主のもとで経験を積んだのだ。
そして、物語のような話だが、王族の方相手に「肉体ではつながらぬ心の愛」「奉仕する純粋な愛」――切なく美しく貴い、高きミンネまで……。
(一方の俺は、家柄的にはキーリング卿より恵まれているが、全く清廉でもないし、高潔でもないし、立派な主もミンネも遠い世界で、親の権力で見世物チームのボス猿ときたもんだ。それも、自分より出来のいい奴らに囲まれて、見劣り確実だというのに偉そうにふんぞり返ってさ!)
いやあ、まったく笑えるではないか。
『たいしたことではない』
『創造多神教はちゃらんぽらんで、気楽で、優しい! カビ臭い時代遅れの価値観の本なんて投げうって、外に出てたのしく遊ぼうぜ!』
『全員を踏み台にしてお前が目立つように。正々堂々やらなくていいから、結果につなげるように』
――まったく、笑えるではないか。
30、俺がこんな偽者に惑わされると思ったら大間違い……惑うが!
鬱蒼と茂る森に少人数の隊が散っている。
東方、クレストフォレスは森妖精が盟主の国で、妖精種が多い。
隊には必ずなんらかの種族の妖精種が付けられていて――例えば、羽の生えた手のひらサイズの妖精や、人間に近い森妖精、はたまた妖狐など――それらが隊同士の連絡を取り合ってくれている。
敵を発見した隊はコバエのように遠距離から敵にちょっかいを出しては、釣るように退く。
遭遇と接敵の連絡を受けた隊は集合予定地点に向かい、四方八方囲むようにして『獲物』を狩る。
北方民族のケドニア人が高原で手本をみせてくれた狩りの手法だ。
ケドニア人は妖精もなく、矢の騎兵だかなんだかが走り回っていたが。
空気がぴんと張り詰めている。
混沌騎士のレビエが盾を展開して、敵方の矢を防いでいる。
その姿を視ると、ニュクスフォスは中央の公子だった頃を思い出す。
共に国を出て国盗りした混沌騎士団は、中央に居た時はケイオスレッグという名前の少年騎士団で、アーサー王の強兵策により実戦に近い模擬戦試合の見世物に出ていた。
父であるユンク伯は息子オスカーのために世界中から強者をつれてきて、他のチームからもどんどん引き抜き、オスカーを勝たせるための仲間をより強い者とひっきりなしにチェンジした。
国の外に出てはじめて実戦に挑むとき、囮役や仲間を庇う盾役をするレビエは特に危険で、ニュクスフォスは思ったものだ。
――レビエは一番怖いに違いない。俺が代わるよって言ってあげよう。
けれど、レビエは実戦だとわかっているのかと聞きたくなるくらい、いつも通りに良い仕事をしてくれた。
そして、後ろの方で指揮の声を震わせていたのはニュクスフォスのほうだったのだ……。
仲間たちは気付いていたに違いないが、何も言わずにいつも通りの能力を発揮して、何人かはあっさりと死んだ。
けれど、『お前のせいだ』と責める声はひとつもなかった。
小柄なシュナが俊敏に走り込み、ちらりと視線を向けてくる。
頷きを返し、スゥっと息を吸い、靴の踵で地面を抉る。
共に後背にまわりこみ、間合いを詰めて抜くのは、魔剣。
クレイに依頼されて世界中の名剣を集めたとき、気に入ってちゃっかり自分のモノにした『アルフィリオン』という剣だ。
間接的にクレイ様に賜ったようなもの、と仲間たちに主張しては白い目で見られている――
(どうも、調子が出ない)
戦う相手が故国の兵だからだろうか。
敵の剣の刃こぼれすら見て取れるほどの近距離に吹くは剣風、相手を殺すために研ぎ澄まされた鋭い斬弧が魔性の斬れ味を魅せて敵の防備をたやすく裂いて血花をあげ、しどどに緑地を血染めに濡らす。
作業めいて無慈悲に切っ先を返し、ショーの火力支援を受けながらぬるりと地を踏みしめて身を捻り、倒れ込む兵の奥へと鋼閃を引く。
刃が命に触れる。
収穫を迎えた作物を得るようにそれを獲る。
(どうも、俺は『帰りたい』のだな)
今まで、そんな感傷に駆られたことはなかったのに。
(それも、『エインヘリア』に帰りたいのだな!)
それで、調子が出ないのだ。
しかもなにやら、ここ数日などは夜に呪術の気配まで感じるではないか。
コルトリッセン公爵家といえばレネンのような腕の良い呪術師を多く抱えているので有名な家であったので、アクセルが仕掛けたのだろうが、その気配がどうも精神作用系らしく、けれど術式が読み切れず、術者も見つからない、という状態で、気になってしまって安眠妨害となっているのだ。
(そろそろ退くと思うんだがなあ)
なにせ、南西の国境沿いに敷かれた長城が攻撃されているというではないか。
(病公爵にだらだらと騎士団を貸して、アーサー王もよくわからんな)
アクセルは何度か見かけたが、王族の血が濃く継がれる公爵家らしさのある冷然とした印象の男だった。
一見するとすっかり心身の健康を取り戻したようにも感じられるが、実際はどうなのだろう。
数度剣を奮い、調息した時、刃めいた殺気に体が動く。
高い金属の音を響かせて、自身の魔剣が受け止めたのは細剣だった。
使い手は――、
「あっ」
一瞬動きがとまる。
使い手は、見覚えがある姿だった。
儚げで、庇護欲をそそるような、華奢な暗殺者だ。
木漏れ日に金色めいて綺麗に揺れる髪をしていて、瞳は紫水晶めいた花の色。
――クレイだ。
いや、偽者だ。本人は剣なんて握ったこともないだろう――、
「おい、どうした雑魚」
シュナが体当たりするようにして続く敵の一撃から守ってくれた。
以前もそんな風にして庇ってもらい、怪我をさせたことがあるのを思い出す――、
「いや、偽者がな、それがな、俺のお花の格好をしていてな、俺の。そう俺のあれ。なりすましだ、アクセルだ。あの病公爵が仕掛けている」
「何言ってるかわからんぞ雑魚」
「俺は今錯乱の術をかけられているんだ」
「なるほど」
言外に「これだから雑魚は」的な温度を感じつつ、ニュクスフォスは『クレイもどき』に足払いをかけて地面に引き倒した。
剣を突き立てるのには抵抗があったのだ。
「あぅっ」
――悲鳴まで本物っぽい!
地面に倒れ込んだ『クレイもどき』が頬を染めて、眉をきゅっと寄せ、潤んだ上目遣いで睨んでくる。
抑えた手にふるふると震える手が寄せられて、「どうしてこんなひどいことをぼくにするの」といった顔をされる。
自分がとんでもなく『してはいけないこと』をしているような、そんな物凄い罪悪感がぐっと胸を突いた。
「こ、これはひどい」
思わずニュクスフォスは手を離し、跳び退いた。
しゅたりと身軽に起き上がり、『クレイもどき』が再び斬りかかってくる。
「これはひどいですぞ、義父殿!」
「どうしたんです?」
レビエが驚いたように叫んで身を割り込ませ、盾で守ってくれる。
ニュクスフォスは感謝の念で胸をひたしつつ、叫んだ。
「毒気が足りぬ! 動きが機敏すぎる! 俺がこんな偽者に惑わされると思ったら大間違い……ああ、お前ら! ちょっと、殺すなよ……! 乱暴に扱っちゃいかんっ!?」
「惑わされてるじゃないか」
仲間たちのつっこみが冷静だった。
「ちなみに、さっき報せが入ったのですがアクセルはさっさと引き上げる気配をみせてるようですよ。よかったですねえ」
「許せん、俺は許さんぞ」
仲間が『クレイもどき』をなんとかしてくれた後、ニュクスフォスは騎士兜の奥で苛々としながら転戦を命じた。
「主君殺しおめでとう雑魚」
「弑してない、弑してないぞ。冗談でも言ってはいかん」
また周りの連中の冗句がひどいではないか。
「いいか、お前たちはいまいちわかってない。俺は物語に出てくる高いミンネの騎士なんだ。相手は汚れのない幼君でさ」
「この錯乱状態ってどうやったら治るんです?」
「いつも通りじゃないかな」
移動しながら軽口が続く。
「でもあれ、受け取りようによってはご褒美ともいえるのか……そ、そうか。義父殿は俺にご褒美をくださったのかッ? ツンデレか!?」
「錯乱してるなあ」
数日後、錯乱したままなのか治ったのか周囲もわかりかねるが、ニュクスフォスは病公爵を執拗に追いかけ、公爵家の馬車をざっくりと両断して身柄を確保し、アーサー王のところにお土産として持って行くのだった。
「俺が父のごとく慕う、いと高貴で偉大な王国の太陽、アーサー王よ! この義父殿は、どうもまだご不調らしくて奇行が過ぎる。引け目があるのだか知らぬが、かように不安定な状態の御方に大切な騎士団を貸されるのはいかがなものか。御名が傷つくことあれば、俺が悲しい、俺がッ! しかし、これはご本人が悪いのではない。病が悪いのだ――俺が義理の息子として責任をもって連れ帰りましたゆえ、どうぞゆっくりと療養させてくれたまえ! あと、帰り道に長城に寄っていって集る野心を斬り払って参ろう。友であるアーサー王のために、そして俺の殿下のために。あの長城は、殿下が建設なさったものですからな!」
玉座にぽいっとアクセルを放り、颯爽と長城に向かう背中にあきれ顔の混沌騎士団がついていく。
その姿を視て、アーサー王はかつて自身が考えた強兵策と、その実験になった少年らを思い出すのだった。
出身国がバラバラで、いずれも天才と呼ばれる類の優秀な少年たちの前にふんぞり返り、公子は言った。
「このチームは、実力主義だ。だが、俺は例外で、一番弱くても、一番えらい。俺がクビになることはない。なぜなら、俺はスポンサーの息子だからだ! このチーム自体が俺のためのチームだからだ!」
その言葉は揃っているメンバーの出身国の言葉で都度言い直され、繰り返された。
よくそんなことを堂々と胸を張って言えるものだ、といった眼が注がれる中、公子は「そんなの全然気にしない」といった神経の図太そうな顔でニッと笑った。
整った顔立ちの公子の笑顔は、なにひとつ悩みなどないぞッといった、突っ込みをするのも面倒になるような類の陽気さ溢れる笑顔だった。
「お前らは俺の父に金をもらって良い環境で訓練ができるんだ。だから、俺がえらい! 俺が一番実力があると言えたらベストなんだが、お前らは天才だから、それが言えないんだな! いやあ、お前らは、すごいっ!!」
公子はその時内心で、有名な騎士が自分位の年頃だったときの口伝を思い出していた。
清廉で高潔な騎士、フィニックスは従騎士として立派な主のもとで経験を積んだのだ。
そして、物語のような話だが、王族の方相手に「肉体ではつながらぬ心の愛」「奉仕する純粋な愛」――切なく美しく貴い、高きミンネまで……。
(一方の俺は、家柄的にはキーリング卿より恵まれているが、全く清廉でもないし、高潔でもないし、立派な主もミンネも遠い世界で、親の権力で見世物チームのボス猿ときたもんだ。それも、自分より出来のいい奴らに囲まれて、見劣り確実だというのに偉そうにふんぞり返ってさ!)
いやあ、まったく笑えるではないか。
『たいしたことではない』
『創造多神教はちゃらんぽらんで、気楽で、優しい! カビ臭い時代遅れの価値観の本なんて投げうって、外に出てたのしく遊ぼうぜ!』
『全員を踏み台にしてお前が目立つように。正々堂々やらなくていいから、結果につなげるように』
――まったく、笑えるではないか。
30、俺がこんな偽者に惑わされると思ったら大間違い……惑うが!
鬱蒼と茂る森に少人数の隊が散っている。
東方、クレストフォレスは森妖精が盟主の国で、妖精種が多い。
隊には必ずなんらかの種族の妖精種が付けられていて――例えば、羽の生えた手のひらサイズの妖精や、人間に近い森妖精、はたまた妖狐など――それらが隊同士の連絡を取り合ってくれている。
敵を発見した隊はコバエのように遠距離から敵にちょっかいを出しては、釣るように退く。
遭遇と接敵の連絡を受けた隊は集合予定地点に向かい、四方八方囲むようにして『獲物』を狩る。
北方民族のケドニア人が高原で手本をみせてくれた狩りの手法だ。
ケドニア人は妖精もなく、矢の騎兵だかなんだかが走り回っていたが。
空気がぴんと張り詰めている。
混沌騎士のレビエが盾を展開して、敵方の矢を防いでいる。
その姿を視ると、ニュクスフォスは中央の公子だった頃を思い出す。
共に国を出て国盗りした混沌騎士団は、中央に居た時はケイオスレッグという名前の少年騎士団で、アーサー王の強兵策により実戦に近い模擬戦試合の見世物に出ていた。
父であるユンク伯は息子オスカーのために世界中から強者をつれてきて、他のチームからもどんどん引き抜き、オスカーを勝たせるための仲間をより強い者とひっきりなしにチェンジした。
国の外に出てはじめて実戦に挑むとき、囮役や仲間を庇う盾役をするレビエは特に危険で、ニュクスフォスは思ったものだ。
――レビエは一番怖いに違いない。俺が代わるよって言ってあげよう。
けれど、レビエは実戦だとわかっているのかと聞きたくなるくらい、いつも通りに良い仕事をしてくれた。
そして、後ろの方で指揮の声を震わせていたのはニュクスフォスのほうだったのだ……。
仲間たちは気付いていたに違いないが、何も言わずにいつも通りの能力を発揮して、何人かはあっさりと死んだ。
けれど、『お前のせいだ』と責める声はひとつもなかった。
小柄なシュナが俊敏に走り込み、ちらりと視線を向けてくる。
頷きを返し、スゥっと息を吸い、靴の踵で地面を抉る。
共に後背にまわりこみ、間合いを詰めて抜くのは、魔剣。
クレイに依頼されて世界中の名剣を集めたとき、気に入ってちゃっかり自分のモノにした『アルフィリオン』という剣だ。
間接的にクレイ様に賜ったようなもの、と仲間たちに主張しては白い目で見られている――
(どうも、調子が出ない)
戦う相手が故国の兵だからだろうか。
敵の剣の刃こぼれすら見て取れるほどの近距離に吹くは剣風、相手を殺すために研ぎ澄まされた鋭い斬弧が魔性の斬れ味を魅せて敵の防備をたやすく裂いて血花をあげ、しどどに緑地を血染めに濡らす。
作業めいて無慈悲に切っ先を返し、ショーの火力支援を受けながらぬるりと地を踏みしめて身を捻り、倒れ込む兵の奥へと鋼閃を引く。
刃が命に触れる。
収穫を迎えた作物を得るようにそれを獲る。
(どうも、俺は『帰りたい』のだな)
今まで、そんな感傷に駆られたことはなかったのに。
(それも、『エインヘリア』に帰りたいのだな!)
それで、調子が出ないのだ。
しかもなにやら、ここ数日などは夜に呪術の気配まで感じるではないか。
コルトリッセン公爵家といえばレネンのような腕の良い呪術師を多く抱えているので有名な家であったので、アクセルが仕掛けたのだろうが、その気配がどうも精神作用系らしく、けれど術式が読み切れず、術者も見つからない、という状態で、気になってしまって安眠妨害となっているのだ。
(そろそろ退くと思うんだがなあ)
なにせ、南西の国境沿いに敷かれた長城が攻撃されているというではないか。
(病公爵にだらだらと騎士団を貸して、アーサー王もよくわからんな)
アクセルは何度か見かけたが、王族の血が濃く継がれる公爵家らしさのある冷然とした印象の男だった。
一見するとすっかり心身の健康を取り戻したようにも感じられるが、実際はどうなのだろう。
数度剣を奮い、調息した時、刃めいた殺気に体が動く。
高い金属の音を響かせて、自身の魔剣が受け止めたのは細剣だった。
使い手は――、
「あっ」
一瞬動きがとまる。
使い手は、見覚えがある姿だった。
儚げで、庇護欲をそそるような、華奢な暗殺者だ。
木漏れ日に金色めいて綺麗に揺れる髪をしていて、瞳は紫水晶めいた花の色。
――クレイだ。
いや、偽者だ。本人は剣なんて握ったこともないだろう――、
「おい、どうした雑魚」
シュナが体当たりするようにして続く敵の一撃から守ってくれた。
以前もそんな風にして庇ってもらい、怪我をさせたことがあるのを思い出す――、
「いや、偽者がな、それがな、俺のお花の格好をしていてな、俺の。そう俺のあれ。なりすましだ、アクセルだ。あの病公爵が仕掛けている」
「何言ってるかわからんぞ雑魚」
「俺は今錯乱の術をかけられているんだ」
「なるほど」
言外に「これだから雑魚は」的な温度を感じつつ、ニュクスフォスは『クレイもどき』に足払いをかけて地面に引き倒した。
剣を突き立てるのには抵抗があったのだ。
「あぅっ」
――悲鳴まで本物っぽい!
地面に倒れ込んだ『クレイもどき』が頬を染めて、眉をきゅっと寄せ、潤んだ上目遣いで睨んでくる。
抑えた手にふるふると震える手が寄せられて、「どうしてこんなひどいことをぼくにするの」といった顔をされる。
自分がとんでもなく『してはいけないこと』をしているような、そんな物凄い罪悪感がぐっと胸を突いた。
「こ、これはひどい」
思わずニュクスフォスは手を離し、跳び退いた。
しゅたりと身軽に起き上がり、『クレイもどき』が再び斬りかかってくる。
「これはひどいですぞ、義父殿!」
「どうしたんです?」
レビエが驚いたように叫んで身を割り込ませ、盾で守ってくれる。
ニュクスフォスは感謝の念で胸をひたしつつ、叫んだ。
「毒気が足りぬ! 動きが機敏すぎる! 俺がこんな偽者に惑わされると思ったら大間違い……ああ、お前ら! ちょっと、殺すなよ……! 乱暴に扱っちゃいかんっ!?」
「惑わされてるじゃないか」
仲間たちのつっこみが冷静だった。
「ちなみに、さっき報せが入ったのですがアクセルはさっさと引き上げる気配をみせてるようですよ。よかったですねえ」
「許せん、俺は許さんぞ」
仲間が『クレイもどき』をなんとかしてくれた後、ニュクスフォスは騎士兜の奥で苛々としながら転戦を命じた。
「主君殺しおめでとう雑魚」
「弑してない、弑してないぞ。冗談でも言ってはいかん」
また周りの連中の冗句がひどいではないか。
「いいか、お前たちはいまいちわかってない。俺は物語に出てくる高いミンネの騎士なんだ。相手は汚れのない幼君でさ」
「この錯乱状態ってどうやったら治るんです?」
「いつも通りじゃないかな」
移動しながら軽口が続く。
「でもあれ、受け取りようによってはご褒美ともいえるのか……そ、そうか。義父殿は俺にご褒美をくださったのかッ? ツンデレか!?」
「錯乱してるなあ」
数日後、錯乱したままなのか治ったのか周囲もわかりかねるが、ニュクスフォスは病公爵を執拗に追いかけ、公爵家の馬車をざっくりと両断して身柄を確保し、アーサー王のところにお土産として持って行くのだった。
「俺が父のごとく慕う、いと高貴で偉大な王国の太陽、アーサー王よ! この義父殿は、どうもまだご不調らしくて奇行が過ぎる。引け目があるのだか知らぬが、かように不安定な状態の御方に大切な騎士団を貸されるのはいかがなものか。御名が傷つくことあれば、俺が悲しい、俺がッ! しかし、これはご本人が悪いのではない。病が悪いのだ――俺が義理の息子として責任をもって連れ帰りましたゆえ、どうぞゆっくりと療養させてくれたまえ! あと、帰り道に長城に寄っていって集る野心を斬り払って参ろう。友であるアーサー王のために、そして俺の殿下のために。あの長城は、殿下が建設なさったものですからな!」
玉座にぽいっとアクセルを放り、颯爽と長城に向かう背中にあきれ顔の混沌騎士団がついていく。
その姿を視て、アーサー王はかつて自身が考えた強兵策と、その実験になった少年らを思い出すのだった。
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