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2章、汝、善良であれ
20、あったかくして早く寝ましょうね! あれ?(軽☆)
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広々とした浴場の湯舟に、花弁がぷかぷかと漂って佳い香りで空間を浸している。
鮮やかな紫色の湯が白い湯気をほわほわとあげていて、湯気と香りに包まれただけであたたかな気持ちになっていく、のだが――
花弁にまぎれてアヒルや猫さんの玩具が湯面を泳いでいるのが湯気の隙間に見て取れて、洗い場に抱えられたクレイは泡立つタオルでいそいそとお世話を始めるニュクスフォスを見あげた。
とても楽しそうに、嬉しくて堪らないといった風情でニコニコしながら洗う手付きはたいそう健全で、どことなく世話をするという行為に慣れた感じがある。
20、あったかくして早く寝ましょうね! あれ?
「本日のお出かけはたのしかったですねっ、綺麗な宝物も頂けましたし! またお出かけしましょうね!」
晴れ晴れしい声がおおらかに、今日という日を結論『よかった』で締めて思い出にするように笑って、クレイの髪を丁寧に慎重に洗い流して拭いている。
「普段と異なる特別な殿下も素敵でしたが、やはり普段通りの安心感というものがあるわけです」
言い訳するように言う声に軽く首をかしげて、クレイは視線を鏡に向けた。甲斐甲斐しい手に洗われる自分を鑑賞すると、やっぱり『あったまってる』感じがするのだ。
なのに、自分の雄の証はおとなしい。とても。
「……」
「それに、少々視線を集めすぎてしまいますな。やはりクレイ様は容姿端麗でいらっしゃるので、どうしても人目を引いてしまわれるようで。次はレネンのようにすっぽりと全身ローブでも良いかもしれませんな! なっ!」
同意を求めるように言われて濡れ髪にキスを落とされる。
頬を染める自分が鏡に映っていて、それがちょっと恥ずかしいではないか――、
(ああ、僕ぜんぜんお姫さまじゃないのに、そんな扱いをされて喜んでしまうのか。滑稽だ。変だよ。そんな風に恥じらって、嬉しそうにしちゃって、ああ、恥ずかしい)
「お医者さまはちょっと疲れていて風邪の引き始めかも知れないと仰せでしたので、あったかくして早く寝ましょうね!」
「うん」
腰のあたりに泡が滑らされて、するすると脚に降りていく。
「ン……っ」
脚を開かされて、内側のやわやわした部分を優しく擦られると、びくびくと反応してしまう。
下半身が熱くなる。
しかし、勃つ様子はない。
「ん……?」
「大丈夫ですか?」
問われる声にも胸の奥がそわそわして、落ち着きなく情欲が腹のうちに渦巻くよう。
けれど内側に籠ったまま、外にあらわれる気配がない。
自分の呼気は熱い気がするのだけれど。
「僕、ずっとあったまってるんだけど……」
「その単語のニュアンスがいまいちわからんのですが、別の言い回しに変えて頂いてもよろしいですかね? でもって、こちらを清めますからね」
不思議な状態を自覚して見守っていれば、腰元のタオルが外されてやる気のないクレイが淡々と作業みたいに清められる。
それは胸をドキドキさせるし、少年の欲を高めているのだが、実際のそれは直接刺激にも清らかにされるがまま、変化がないのだ。
「ニュクス、それ……」
声を零せば、ニュクスフォスが大袈裟なほどびくりとして、手をパッと放した。
なにか禁忌を冒して咎められたような慌てぶりで。
「お嫌でしたか?」
「う、ううん。それなんだけど、僕のそれ、おかしくないだろうか」
視線を鏡に向けて、他人のものを眺めるような眼で鏡の中のそれを見る。
「お、お、おかしいとはっ? 痛みがあるのですか?」
たいそう動揺した様子でニュクスフォスの視線が注がれる。
ついでに古妖精のフェアグリンまでふわふわ飛んで覗き込むので、クレイはとても恥ずかしいようなみじめなような気分になった。
とはいえ、自分から始めた話なのだ――、
「痛みはない」
「さ、さようで」
「でも、やる気が感じられない」
「やる気。や、やる気……?」
『何を言われているのだろう』といった笑顔で半端な相槌が返される。
じりじりとしながら、クレイは自分のそれを右手でつまんで、ふにふにと軽く扱いてみせた。
身の内には『吐き出したいなぁ』って感じの熱がわだかまっていて、脇のあたりやら腹のうちやら脚の間にむずむず、そわそわした感じを抱えている。
だというのに、肝心のスッキリ吐き出すための器官であるそれは全く変化する気配なくふにっとしているのだ……。
「ごらんよニュクス。僕のこれ、働く気がないのだ。ずっとやる気なくさぼっている……そもそもずっと怠け者なのだこれ。しかし溜まっている感じはあるし、僕……病気ではないだろうか」
「……!」
羞恥に堪えて言えば、衝撃に一瞬唖然としたニュクスフォスが一拍置いてから咳払いし、正気を取り戻した様子で視線を逸らして顔を赤くした。
「こほん……、その仕草は、いささか、俺に刺激が強いのですが、殿下? 一応申しておきますと、俺という存在は実はそんなに安全ではありませんぞ……」
「僕とて、はしたないのはわかっている……」
クレイが深刻にそれをつついたり摩ったりぎゅっとしたりしていれば、手が掴まれて止められる。
「ああっ、なりません。あんまり強く握ったり乱暴に扱っちゃいけませんぞ。働かなくなってしまいますッ」
「今現在働かなくなってしまっているのだけれど」
「やる気がない時は、やる気が出るまでそっとしておくのもよいかと思いますぞ。単純にご体調がよろしくないのでしょう。本日はお体を休められて、明日になさってはいかが」
「僕は今あったまっていて、つらいのだ……」
「なるほど、俺はその言い回しのニュアンスがわかってきましたぞ……えっ、いつから。あれ?」
すこし困ったように眉を寄せて、ニュクスフォスが並んでいた瓶の中からひとつを選んで、ローションを自分の手にとろりと垂らした。
「ふうむ……これは……教導? 診察? こほん――、ちと、お父さまが診てみましょうね。どれ、どれ……我ながら変態的だな……」
後ろから抱きかかえるようにして座らされ、あたたかい手がやる気のないクレイに触れる。
ゆるゆると確かめるように撫でられると、ぶわりと熱が高まる感じがした。
わだかまっていた熱が、からだの中でまた騒ぎ出している。
「ん……、ん、ン……っ」
「ふうむ? 不感ではなさそうですね?」
宥めるようにさすられると、腰がひとりでに揺れてしまう。
「ああっ……、……あつい」
クレイは潤んだ眼で首を振った。
股の間に熱が集まる感じがある。
解放を求めて暴れている感じだ。
「つ、つらい」
「おつらいですか」
心配するように問われて、刺激が止む。
「やっ……、やめないで。だ、出したい」
ここで止められたら、この熱はどうなってしまうの――クレイは軽くパニックを起こしかけて、自分の手を自身の雄に伸ばした。
「あっ……!?」
ニュクスフォスが驚いたように視ている。
「ん、ん……っ」
自分の手でぬるぬるとしたそれを扱いて腰を揺らすと、手がローションに濡れて、音がくちくちとした。
「は……っ、は……っ」
「く、クレイ様――」
「だ、出せない。出ない……っ、」
ニュクスフォスがびっくりして視ている――その気配を感じて息を乱しながら、クレイは顔を真っ赤にしてすすり泣いた。
「ぼく、すっきりしたい……っ、出したい、ニュクス……っ」
ほろほろと透明な涙を流しながら懇願すれば、強い動揺の気配がひしひしと伝わってくる。
――ああ、とても恥ずかしい振る舞いをしている――僕、とってもはしたない……!
破廉恥!
でも、でも、つらいのだ。
「き、気持ちよくして。ぼくを――おねがい、にゅくすぅ……してよぉ……っ!」
おねがい、おねがい、と啜り泣きながら懇願すれば、ごくりと唾を呑み込む気配がして、ふたたび手がうごかされる。
ローションがぬるぬるとして、濡れた音がいやらしい。
「お、俺が……、」
「俺が気持ちよくして差し上げます」
溜まっていた熱がかき集められていっそう高められるような感覚に、クレイは悶えた。
「あ、ぁ……っ!」
軽く調息するような気配ののちに、後ろから右側の耳たぶが甘噛みされる。
油断していた『上』からの快感に、クレイの全身がビクッとした。
それに嗜虐心を煽られたようにニュクスフォスが瞳に獰猛な色をちらつかせ、唇の間から悪戯するような舌を覗かせて、ちろちろと肌を舐り始める。
同時に、左手がさわりと左側の腰から脇を撫で上げて胸元に滑ると、熱が攪拌されるようで、ぞわぞわとした。
「あっ、あ、あっ……」
優しくやわらかな声が耳朶を刺激する。
「こちらは愛らしく尖っていらっしゃいますね、クレイ?」
「ふぁ……っ、あ、」
「綺麗な果実のように熟れていますね、触れるとどんな感じがするのですか、クレイ?」
「あ……っ、や、それ、やだ……!」
(また、羞恥を煽るようなことを言うではないか!)
すりすりと頬を寄せられて、鏡の中のニュクスフォスがまっすぐに視線を合わせてくる。
眼が合って、ふわりと艶やかに微笑まれる。
鏡で視ているのがバレている――
「ここを触れられるのがお好きなんですね、そのようなお顔をなさっていますね?」
「~~ッ!!」
「ごらん、こんなに真っ赤になって。可愛らしいのですね……貴方の好きな色ですね」
恍惚として呟かれ、胸の飾りの周りを指先でくるくるとなぞられて、鏡の中で快感に溺れそうな自分が悦んでいるのが視える。
抑圧した欲を伝えるように、かつそれが伝わるといけないというようにニュクスフォスの手のひらが緩急つけた動きで胸を撫でて、長い指が胸の突起を擦る。
「ん、ぅんっ……」
疼くような快楽に身をくねらせて善がると、ますます煽られたように自身の首を赤くしたニュクスフォスが首筋に熱い吐息とキスの雨を降らす。
軽く啄むようにしたり、舌を這わせたり、吸ったりされる中、クレイの眼には鏡越しにその少し苦しそうなようにも興奮しているようにも見えるニュクスフォスの凛然とした顔が見えて、ぞくぞくした。
鏡の中に、股をひらいて腰を揺らめかせて善がる自分が視えて、淫らな気分が高まっていく。
「勃ち上がっておられる」
嬉しそうに囁かれて、両手が勃ち上がりをさらに促して育てて追い立てるように、やさしくゆっくりと扱いていく。
「あっ、あ、あっ……」
あられもない声がこぼれて、とまらない。
「敏感で大切な場所ですから、ご自分で触れるときも傷付けないようにやさしくゆっくり扱ってくださいね」
自分でも触れてみろとばかりにニュクスフォスがクレイの手を取り、透明な液をしたたらせる昂りに触れさせる。
「俺の手といっしょに動かしてみましょうね」
手を重ねて動きを教えるようにしながら、自身の熱と衝動を持て余すように上半身がすりすりとされる。発情した大きな獣が本能のまま体を擦りつけているようで、煽情的にみえて仕方ない。
その艶めかしい姿が鏡で視えて、肌と肌がこすれ合う感覚が発情を促すみたいで、――たまらない!
全身がぶるぶると震えて、気持ち良さに浸ってしまう。
「ゆっくり、ゆっくり、そう……お上手ですよ」
首筋が甘噛みされて、ねっとりと舐められる。じゅ、ちゅ、と音をたてて痕が刻まれる。
びくん、びくんと体が反応して、高められていく。
追い詰められていく。
(出したい、終わりたい、もう放ってしまいたい……、はやく、はやく……っ)
快楽に溺れるように腰をゆらしながら、クレイは必死に手を動かした。
そして、ついにその時は訪れた。
「あ、ニュクス、ニュクス、き、きもちい……っ、あっ、あっ、ぁあっ!!」
ぴゅくりぴゅくりと白濁が放たれると、信じられないほどの気持ち良さが一気に訪れて、全身がびくびくと震えた。
「は、は、……はふ……」
そしてしばし後には、冷静さが戻って来て、自分の言動を振り返って真っ赤になったのだった。
「スッキリできてよかったですね……俺もお世話できて嬉しいですよ。三回目……今のは――セーフだっただろうか……」
「か、数えなくていいよ……?」
ニュクスフォスがほわほわと微笑み、お湯で流して綺麗にしてから、湯舟に浸からせてくれる。
そして、達成感だか疲労感だかを滲ませながら、背を向けるのだった。
「お、お父さまは、ちと自分の熱を処理してからそちらに参りますからね……」
(鏡に映ってる、映ってるよ……)
花の芳香がふわふわとして心地よい浴槽でぽわぽわとしながら、クレイはこそこそとそれを観てしまう。
「僕、てつだおうか……」
――そっと投げかけた申し出には、頑なな拒絶が返ってくるのだった。
鮮やかな紫色の湯が白い湯気をほわほわとあげていて、湯気と香りに包まれただけであたたかな気持ちになっていく、のだが――
花弁にまぎれてアヒルや猫さんの玩具が湯面を泳いでいるのが湯気の隙間に見て取れて、洗い場に抱えられたクレイは泡立つタオルでいそいそとお世話を始めるニュクスフォスを見あげた。
とても楽しそうに、嬉しくて堪らないといった風情でニコニコしながら洗う手付きはたいそう健全で、どことなく世話をするという行為に慣れた感じがある。
20、あったかくして早く寝ましょうね! あれ?
「本日のお出かけはたのしかったですねっ、綺麗な宝物も頂けましたし! またお出かけしましょうね!」
晴れ晴れしい声がおおらかに、今日という日を結論『よかった』で締めて思い出にするように笑って、クレイの髪を丁寧に慎重に洗い流して拭いている。
「普段と異なる特別な殿下も素敵でしたが、やはり普段通りの安心感というものがあるわけです」
言い訳するように言う声に軽く首をかしげて、クレイは視線を鏡に向けた。甲斐甲斐しい手に洗われる自分を鑑賞すると、やっぱり『あったまってる』感じがするのだ。
なのに、自分の雄の証はおとなしい。とても。
「……」
「それに、少々視線を集めすぎてしまいますな。やはりクレイ様は容姿端麗でいらっしゃるので、どうしても人目を引いてしまわれるようで。次はレネンのようにすっぽりと全身ローブでも良いかもしれませんな! なっ!」
同意を求めるように言われて濡れ髪にキスを落とされる。
頬を染める自分が鏡に映っていて、それがちょっと恥ずかしいではないか――、
(ああ、僕ぜんぜんお姫さまじゃないのに、そんな扱いをされて喜んでしまうのか。滑稽だ。変だよ。そんな風に恥じらって、嬉しそうにしちゃって、ああ、恥ずかしい)
「お医者さまはちょっと疲れていて風邪の引き始めかも知れないと仰せでしたので、あったかくして早く寝ましょうね!」
「うん」
腰のあたりに泡が滑らされて、するすると脚に降りていく。
「ン……っ」
脚を開かされて、内側のやわやわした部分を優しく擦られると、びくびくと反応してしまう。
下半身が熱くなる。
しかし、勃つ様子はない。
「ん……?」
「大丈夫ですか?」
問われる声にも胸の奥がそわそわして、落ち着きなく情欲が腹のうちに渦巻くよう。
けれど内側に籠ったまま、外にあらわれる気配がない。
自分の呼気は熱い気がするのだけれど。
「僕、ずっとあったまってるんだけど……」
「その単語のニュアンスがいまいちわからんのですが、別の言い回しに変えて頂いてもよろしいですかね? でもって、こちらを清めますからね」
不思議な状態を自覚して見守っていれば、腰元のタオルが外されてやる気のないクレイが淡々と作業みたいに清められる。
それは胸をドキドキさせるし、少年の欲を高めているのだが、実際のそれは直接刺激にも清らかにされるがまま、変化がないのだ。
「ニュクス、それ……」
声を零せば、ニュクスフォスが大袈裟なほどびくりとして、手をパッと放した。
なにか禁忌を冒して咎められたような慌てぶりで。
「お嫌でしたか?」
「う、ううん。それなんだけど、僕のそれ、おかしくないだろうか」
視線を鏡に向けて、他人のものを眺めるような眼で鏡の中のそれを見る。
「お、お、おかしいとはっ? 痛みがあるのですか?」
たいそう動揺した様子でニュクスフォスの視線が注がれる。
ついでに古妖精のフェアグリンまでふわふわ飛んで覗き込むので、クレイはとても恥ずかしいようなみじめなような気分になった。
とはいえ、自分から始めた話なのだ――、
「痛みはない」
「さ、さようで」
「でも、やる気が感じられない」
「やる気。や、やる気……?」
『何を言われているのだろう』といった笑顔で半端な相槌が返される。
じりじりとしながら、クレイは自分のそれを右手でつまんで、ふにふにと軽く扱いてみせた。
身の内には『吐き出したいなぁ』って感じの熱がわだかまっていて、脇のあたりやら腹のうちやら脚の間にむずむず、そわそわした感じを抱えている。
だというのに、肝心のスッキリ吐き出すための器官であるそれは全く変化する気配なくふにっとしているのだ……。
「ごらんよニュクス。僕のこれ、働く気がないのだ。ずっとやる気なくさぼっている……そもそもずっと怠け者なのだこれ。しかし溜まっている感じはあるし、僕……病気ではないだろうか」
「……!」
羞恥に堪えて言えば、衝撃に一瞬唖然としたニュクスフォスが一拍置いてから咳払いし、正気を取り戻した様子で視線を逸らして顔を赤くした。
「こほん……、その仕草は、いささか、俺に刺激が強いのですが、殿下? 一応申しておきますと、俺という存在は実はそんなに安全ではありませんぞ……」
「僕とて、はしたないのはわかっている……」
クレイが深刻にそれをつついたり摩ったりぎゅっとしたりしていれば、手が掴まれて止められる。
「ああっ、なりません。あんまり強く握ったり乱暴に扱っちゃいけませんぞ。働かなくなってしまいますッ」
「今現在働かなくなってしまっているのだけれど」
「やる気がない時は、やる気が出るまでそっとしておくのもよいかと思いますぞ。単純にご体調がよろしくないのでしょう。本日はお体を休められて、明日になさってはいかが」
「僕は今あったまっていて、つらいのだ……」
「なるほど、俺はその言い回しのニュアンスがわかってきましたぞ……えっ、いつから。あれ?」
すこし困ったように眉を寄せて、ニュクスフォスが並んでいた瓶の中からひとつを選んで、ローションを自分の手にとろりと垂らした。
「ふうむ……これは……教導? 診察? こほん――、ちと、お父さまが診てみましょうね。どれ、どれ……我ながら変態的だな……」
後ろから抱きかかえるようにして座らされ、あたたかい手がやる気のないクレイに触れる。
ゆるゆると確かめるように撫でられると、ぶわりと熱が高まる感じがした。
わだかまっていた熱が、からだの中でまた騒ぎ出している。
「ん……、ん、ン……っ」
「ふうむ? 不感ではなさそうですね?」
宥めるようにさすられると、腰がひとりでに揺れてしまう。
「ああっ……、……あつい」
クレイは潤んだ眼で首を振った。
股の間に熱が集まる感じがある。
解放を求めて暴れている感じだ。
「つ、つらい」
「おつらいですか」
心配するように問われて、刺激が止む。
「やっ……、やめないで。だ、出したい」
ここで止められたら、この熱はどうなってしまうの――クレイは軽くパニックを起こしかけて、自分の手を自身の雄に伸ばした。
「あっ……!?」
ニュクスフォスが驚いたように視ている。
「ん、ん……っ」
自分の手でぬるぬるとしたそれを扱いて腰を揺らすと、手がローションに濡れて、音がくちくちとした。
「は……っ、は……っ」
「く、クレイ様――」
「だ、出せない。出ない……っ、」
ニュクスフォスがびっくりして視ている――その気配を感じて息を乱しながら、クレイは顔を真っ赤にしてすすり泣いた。
「ぼく、すっきりしたい……っ、出したい、ニュクス……っ」
ほろほろと透明な涙を流しながら懇願すれば、強い動揺の気配がひしひしと伝わってくる。
――ああ、とても恥ずかしい振る舞いをしている――僕、とってもはしたない……!
破廉恥!
でも、でも、つらいのだ。
「き、気持ちよくして。ぼくを――おねがい、にゅくすぅ……してよぉ……っ!」
おねがい、おねがい、と啜り泣きながら懇願すれば、ごくりと唾を呑み込む気配がして、ふたたび手がうごかされる。
ローションがぬるぬるとして、濡れた音がいやらしい。
「お、俺が……、」
「俺が気持ちよくして差し上げます」
溜まっていた熱がかき集められていっそう高められるような感覚に、クレイは悶えた。
「あ、ぁ……っ!」
軽く調息するような気配ののちに、後ろから右側の耳たぶが甘噛みされる。
油断していた『上』からの快感に、クレイの全身がビクッとした。
それに嗜虐心を煽られたようにニュクスフォスが瞳に獰猛な色をちらつかせ、唇の間から悪戯するような舌を覗かせて、ちろちろと肌を舐り始める。
同時に、左手がさわりと左側の腰から脇を撫で上げて胸元に滑ると、熱が攪拌されるようで、ぞわぞわとした。
「あっ、あ、あっ……」
優しくやわらかな声が耳朶を刺激する。
「こちらは愛らしく尖っていらっしゃいますね、クレイ?」
「ふぁ……っ、あ、」
「綺麗な果実のように熟れていますね、触れるとどんな感じがするのですか、クレイ?」
「あ……っ、や、それ、やだ……!」
(また、羞恥を煽るようなことを言うではないか!)
すりすりと頬を寄せられて、鏡の中のニュクスフォスがまっすぐに視線を合わせてくる。
眼が合って、ふわりと艶やかに微笑まれる。
鏡で視ているのがバレている――
「ここを触れられるのがお好きなんですね、そのようなお顔をなさっていますね?」
「~~ッ!!」
「ごらん、こんなに真っ赤になって。可愛らしいのですね……貴方の好きな色ですね」
恍惚として呟かれ、胸の飾りの周りを指先でくるくるとなぞられて、鏡の中で快感に溺れそうな自分が悦んでいるのが視える。
抑圧した欲を伝えるように、かつそれが伝わるといけないというようにニュクスフォスの手のひらが緩急つけた動きで胸を撫でて、長い指が胸の突起を擦る。
「ん、ぅんっ……」
疼くような快楽に身をくねらせて善がると、ますます煽られたように自身の首を赤くしたニュクスフォスが首筋に熱い吐息とキスの雨を降らす。
軽く啄むようにしたり、舌を這わせたり、吸ったりされる中、クレイの眼には鏡越しにその少し苦しそうなようにも興奮しているようにも見えるニュクスフォスの凛然とした顔が見えて、ぞくぞくした。
鏡の中に、股をひらいて腰を揺らめかせて善がる自分が視えて、淫らな気分が高まっていく。
「勃ち上がっておられる」
嬉しそうに囁かれて、両手が勃ち上がりをさらに促して育てて追い立てるように、やさしくゆっくりと扱いていく。
「あっ、あ、あっ……」
あられもない声がこぼれて、とまらない。
「敏感で大切な場所ですから、ご自分で触れるときも傷付けないようにやさしくゆっくり扱ってくださいね」
自分でも触れてみろとばかりにニュクスフォスがクレイの手を取り、透明な液をしたたらせる昂りに触れさせる。
「俺の手といっしょに動かしてみましょうね」
手を重ねて動きを教えるようにしながら、自身の熱と衝動を持て余すように上半身がすりすりとされる。発情した大きな獣が本能のまま体を擦りつけているようで、煽情的にみえて仕方ない。
その艶めかしい姿が鏡で視えて、肌と肌がこすれ合う感覚が発情を促すみたいで、――たまらない!
全身がぶるぶると震えて、気持ち良さに浸ってしまう。
「ゆっくり、ゆっくり、そう……お上手ですよ」
首筋が甘噛みされて、ねっとりと舐められる。じゅ、ちゅ、と音をたてて痕が刻まれる。
びくん、びくんと体が反応して、高められていく。
追い詰められていく。
(出したい、終わりたい、もう放ってしまいたい……、はやく、はやく……っ)
快楽に溺れるように腰をゆらしながら、クレイは必死に手を動かした。
そして、ついにその時は訪れた。
「あ、ニュクス、ニュクス、き、きもちい……っ、あっ、あっ、ぁあっ!!」
ぴゅくりぴゅくりと白濁が放たれると、信じられないほどの気持ち良さが一気に訪れて、全身がびくびくと震えた。
「は、は、……はふ……」
そしてしばし後には、冷静さが戻って来て、自分の言動を振り返って真っ赤になったのだった。
「スッキリできてよかったですね……俺もお世話できて嬉しいですよ。三回目……今のは――セーフだっただろうか……」
「か、数えなくていいよ……?」
ニュクスフォスがほわほわと微笑み、お湯で流して綺麗にしてから、湯舟に浸からせてくれる。
そして、達成感だか疲労感だかを滲ませながら、背を向けるのだった。
「お、お父さまは、ちと自分の熱を処理してからそちらに参りますからね……」
(鏡に映ってる、映ってるよ……)
花の芳香がふわふわとして心地よい浴槽でぽわぽわとしながら、クレイはこそこそとそれを観てしまう。
「僕、てつだおうか……」
――そっと投げかけた申し出には、頑なな拒絶が返ってくるのだった。
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