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1章、その一線がわからない

6、オスカーとカルロの困ったお話

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 オスカーとカルロは、共に南の領地の出身である。

 外との交易に活発でおおらかで自由の気風強い多様な人種と文化のごった煮的な大地に育まれし彼らは、気の置けない友人であった。

 カルロは外務卿ビディヤとその主ブノワクレイの祖父の伝手で紅薔薇ハートモア派閥の集会によく参加して、集会での出来事や怪しい動きなどがないか見聞きしては報告する日々を送っていた。

 歳が比較的近いのもあり、ブノワクレイの祖父に頼まれていたのもあり、その姿はクレイの傍によく視られ、空気のように自然で控え目な存在感で仕えていたという。

 しかしその関係はあくまで『親に情報を伝えるため』の仕事のスタンスであり、個人的な忠誠心は抱いていなかったと伝えられている。
 
 
   6、オスカーとカルロの困ったお話
 

 熱気をそのまま焚きつけるような風が頬を撫でると、不思議な安心感みたいなものが胸に湧く。
 豊かに咲き誇る花の香りと緑葉の匂いが風に混ざり、鼻腔を刺激した。
 
   SIDE オスカー

(自然というのは良いものだ。人の世のいざこざなどちっぽけで取りに足りない些末さまつ事と思わせてくれる)

 この日、『騎士王』ニュクスフォス――オスカーが貴公子然としたお忍びスタイルで訪ねた先は、旧友と待ち合わせた開放的なオープンカフェであった。

 さても懐かしき旧友カルロ・エクノはオレンジがかった陽気な金髪に緑の明るい瞳をしているいかにも文官候補といった雰囲気の同じ歳の青年で、公子時代からの付き合い。
 現在のニュクスフォスを知りつつも、変わる前と同じように名を呼び、接してくれるのだ。

(おお我が友よ、相変わらずだな。お前といると俺は身分など全て忘れてただのやんちゃなユンクの悪ガキとして暇潰ししてる気分になるようだ)

 友人の緑の瞳を自然と平穏の象徴のように見つめて、オスカーはにっこりとした。
 友人とは、かけがいのないものだ。
 うっかりすると途絶えそうな縁を、こうして時間を作り、続けてくれる奴は特にっ!
 
「やあ我が友カルロ、久しぶりじゃないか」
「来たか、オスカー……」
 
 旧友が一瞬微妙な顔を浮かべてから、すぐに切り替えたように友情をたたえた笑顔になる。
 オスカーは軽く首を傾げた。

「ん。どうした」
「いや」

 カルロは何かを吹っ切るように笑った。
「南西産の珈琲コーヒーでいいか。中央紅茶?」
「珈琲で。そうそう、意外に思うかも知れんが、クレイ様は珈琲も好まれるのだ。カルロは知っていたか」

 オスカーが珈琲の香りに『主君』を想えば、カルロが動揺にカップを揺らした。なにせ、カルロは例の集会において耳を疑う会話を聞いていたので。

「ク、クレイ様か、……」
「そうそう! あの方は元々偉そうなのがチャームポイントだが、やはり何事も背伸びをしたがると言うか、大人ぶりたいご様子で。先日などはこっそりと俺の真似をなさって火蜥蜴ヒトカゲあぶり肉をわざわざ串に刺してかじり付いていらしたぞ。それも、『僕は虎である』などと仰っていて。俺は見ていて微笑ましいやら恥ずかしいやら……あれ何で見てる方が恥ずかしくなるんだろうな」

 カルロ相手に話すのは、やはりクレイの話だ。
 カルロは自分と違い、中央貴族らの集会にも何度も出席していて、ぶっちゃけ以前は自分よりも色々な事を知っていた――今もだろうか?

(いやいや、今は俺の方がクレイに詳しい! 俺はカルロの知らないクレイをたくさん知ってる!)

 しかし俺は情報の独り占めはしまい。
 共有しようではないか、俺たちの貴き方クレイの情報を……!


   SIDE カルロ
 
 ――ああ、いつも通りだ。
 カルロは安堵した。

 友人が『実は縛られて』などと語り始めたらどうしたものかと思っていたのだ。
 同意の上の戯れならまだしも、万一そうでなければまた問題だし。

(というか、もしクレイ殿下がこいつに無体を働いて万一揉めた場合、それは外交問題に分類されるのだろうか。二者間の個人的な問題で済ませていいのだろうか。個人的問題……か?)

 カルロは悩んだ。父あたりに報告してあの殿下にご注意申し上げるべきか――耳には、はしゃいだような友人オスカーの声が続いている。あいつオスカーはほっとくといつまでも喋る。気分良く。
 
「周りの配下も慣れた顔でスルーしていて空気がいたたまれないのなんの。あいつらの日常どうなってんだ本当に」

「気の置けない間柄なのだな」
「それだ――そんな雰囲気があるんだ、あの連中」
 
 適当に相槌あいづちを打っていれば延々と喋る、喋る。
 これは話を聞いて欲しいのだ。
 話したくて仕方ないのだな――カルロは変わらぬ友人に笑みつつ、カップを口元で傾けた。

 すっきり、軽やかな口当たりの珈琲は苦味が少なめで、甘味と酸味がほどよい具合。
 香りを楽しむだけでも頭がスッキリと冴える心地がする――、
 
「――吐精もできたのだ!」
「ごっふ」
 オスカーが刺激の強い事を言い出して、カルロはせた。盛大に。
 
「おっ、大丈夫か? 驚かせたか、すまん」
 オスカーがハンカチを差し出してくれる。カルロはありがたく受け取り、粗相そそうの後始末をした。

 悪びれない声が続いている――、

「驚くのも無理はないっ、あの殿下と性のイメージが結びつかぬのだろう、俺は理解するッ。あのあのちょろぬるくて大人しく、運動嫌いで汗もかきませんみたいな生き物! 永遠の草食系でお肉食べませんみたいなみたいな。清らか~な生き物!」

 ああ、ペラペラと楽しげに舌がまわる。
 カルロは呆れた様子でそれを見た。

(おい、その生き物はお前の恋人なんだろうに、『騎士王』とやら)

 ――なんで恋人に収まったのかは全くの謎であったが。
 それを思えば、カルロは不思議でたまらないのだった。
 
「しかしあの方も男子。ちゃんと健康な『大人』なわけだ。いや、もう俺ともなると第六感なものでわかるのだな。俺などは10かそこらで教育を受けたものだが、そういった教育も過去になかったご様子。あのどろどろしたけしからん公爵家は真っ当な教育を放置していて、歪んでる。その結果があれだ」

 あれというのはつまり、いまいち地に足がついてなくて、生きる気もあまりなさそうで、軽率に人生をやめてしまいそうな危なっかしいクレイのことだ。

「何年遅れでも不足していた教育なり親の愛情なりを今からでも与えてやってはどうかと。どうこの考え。あり? 効果ありそう? こほん、そんなわけで俺は、保護者として騎士として促して差し上げて、立派にお世話を致したわけだ……あの瞬間の感動といったら、歴史書に日にちと時間を記録させたいくらい」
「それはやめとけ」
 自慢げに語るオスカーに、カルロはどうしても問いたくて仕方ない。

(それでお前、縛られたのか? 縛られて扱かれて精を吐いたのか?)

 とても問いたくて仕方ない。
 だがその一方、そこからの返答が怖い!
 リアクションに困るに違いない!

(焦るなカルロ……話す必要があれば向こうが話すだろ。こっちから振ってはならん)
 カルロは自分に言い聞かせた。

「そうか、めでたいな……」
 無難に感想を提供すれば、オスカーは大いに喜んだ。
「そうだろ、そうだろ。記念日でも作ろうかと」
「嫌われるからやめておけ」

 カルロは軽食の皿に手を伸ばした。サクサクしたパン生地に薄切り肉や緑葉野菜を挟んだパニーノサンドイッチは豊かな味わいで、美味い。
 
「ああ、これ美味いな」
「ほう、ほう。俺にもよこせ」
 
 一応は貴族の端くれであり父の地位も高いカルロだが、紅薔薇中央貴族の気取った集会などよりも、ビディヤ父の主人ブノワといった大人たちの政治に絡んだ『仕事情報収集』をするよりも、友人と飾らぬ他愛もない話をしながらささやかな軽食を楽しむ時間の方がずっと好ましいと思えるのだった。

「して、恋人シェリとは、どうだ」

 仕事関係なしに個人的に聞くにも、やはり気になるのがそこであった。
 カルロとて気になるのだし、相手も話したくて仕方ないだろう。

 ちなみに、複雑極まりない事だが、カルロはオスカーの『恋人シェリ』が誰なのかを当然把握しているし、相手も把握されているのを承知の上と思われるのだが、なんとなく二人で『恋人シェリ』と呼んで話題にするときはそれが誰なのかを曖昧にぼかして話している。

 特にそうしようと取り決めしたわけではないのだが、なんとなく自然とそうなった暗黙の了解的な二者間のルールだ。

「俺の恋人シェリか」

 つまり、先ほどまでの話は『騎士オスカー自分の主人クレイを語る話』、ここからは『私人オスカー自分の恋人クレイを語る話』というわけだ。

 どちらも同じに思えて、これは二人にとっては結構違う話になるのだった。

 まあ、普段は『それはいつも通りではないか』と言いたくなるような『俺はとても好かれている!』と言った惚気を垂れ流されるだけなのだが。
 
「俺の恋人は、ここだけの話だが結構その、繊細な扱いを要する感じがするんだな。4つほど歳下で、まあまあ平均より華奢な方で。ろくに飯も食わんし生活リズムは乱れ切っていて、体力はないし……あれ? 大丈夫かそれ」
 
 ここだけも何も充分知ってるが、カルロは「そうなのか」と頷いて貝殻がこんもりと盛られた塩味のボンゴレにフォークを踊らせた。
 塩気が効いていて、貝の旨味と合わさり、とても美味い!
 
「なので、俺は未だに手しか握っていないという純愛振りで」
「お前、それは嘘だ」
 
 ――さっきの話と矛盾するだろ!

 俺は知ってるんだぞ、促した以外にも縛られたりしてるんだろ! あちらはつっこむ話までしていたぞ……!

「そうだな、それはちょいりすぎた。すまん、俺の悪い癖だ」
「自覚があったか」

 後味を珈琲で流すほおを爽やかな緑の香りを含む風が優しく撫でて、うなじのあたりで後ろ髪の毛先がそよそよと揺れるのが心地よい。

「お前の好みは変わりでもしたのか。そんな遊びにくそうな壊れ物に手を出しちゃって。背丈もこれくらいだろ」
 そっと言葉を選んで投げてみる。手のひらを地面と並行にして、高さを測るようにして。

「いや、遊びじゃないし。壊れ物というか華奢というか。背丈はこんくらい? 食うもん食わねえし運動もしないから伸びないんだな、あれ」
 もう少し上だと眉を寄せて示し、オスカーはピザの切れ端を口に放った。

「しかし、こう、魔性みたいなもんがあってだな――何よりあっちからの好意が俺のハートを定期的に刺してくる。それはもうグサグサと」
「それは友愛とか親愛とか敬愛ではないのか」
「それが違うんだな!」

 まあ、違うだろうな――カルロは頷いた。
 いやだって、ミハイ皇子と『突っ込んでフィニッシュ』とか話してたし。

「不思議だなぁ……」
「だなぁ……」

 二人はしみじみとした。

「やはり俺は洗脳とかグルーミングの類のことをいたしたのだろうか」
「はっ?」

 オスカーがそろそろと呟くので、カルロは目を見開いた。

「いや、実は『お前は知るまいが』俺の恋人シェリは若干、複雑な生い立ちというか身分で、お悩み事も多く……」

 知ってる。
 割と知ってる――だが、カルロはその言葉を飲み込んで「ほう、そうなのか」と言葉を返した。

「つまり俺は、最初はご友人に冷たくされてしょんぼりと困ってるところに、これ幸いと付け込むように近づいた……」

 カルロはその辺りの事情も知っている。
 思い出すのは、他の取り巻きを押しのけるようにして大声で家名と名前を連呼して覚えてもらおうとするオスカーや、相手が怒らないのを良い事にちゃっかり近くに寄っていってべったりと付き添い、従者面するオスカーだ。

 自分もその時、近くにいた。
 しかし、ここは知らないフリだ。
 
「そうか……そんな出会いだったのだな」
「ああ……、そして、あれこれと親切にして、気に入られた。それはもうばっちり好かれた。ちょろかった……」
「そ、そうか。まあ、お前は取り入るのがうまい奴だと俺も思う」

 ――これは微妙な返答になったかもしれない。まるで『クレイ』の話をしたようなニュアンスになってしまった――カルロはそっと反省したが、オスカーは構わない様子だった。

「更に言うなら、俺は城……じゃない、家に、その恋人シェリかくまって保護者みたいに振る舞ったりもした。ついには『お父様』と呼ばれたことも……」
「お、お前……オスカー……、そんなプレイをしていたか……。いや、やりそうだとは思ってた」
「カルロ? お前は俺を何だと思って――優しくしてたら相手が呼び始めたんだよ! あれ驚いたなあ。そして、懐かれてるうちに本当に父親気分になっていくんだ……」

 カルロはピザに手を伸ばしつつ、「恋人シェリの話が凄まじくマニアックな話になりつつあるのでは?」と半眼になった。

「父親。よし、わかった……そこまで俺は理解した。続けろ」
 ピザはこってりとしていて、外で食うのにぴったりの陽気な味わいを魅せていた。

 生地はふっくらとして味わい深く、小麦感。
 ベーコンは肉汁がぬらぬらして、ケチャップやチーズと混ざって最高に気分を高めてくれる濃い味だ。
 ちょっと食感を足す爽やかで瑞々しいピーマンや、コーンもよし……!

「それが、そのあたりからどうもクレイの言動に俺の情緒が乱されてならぬ。なんかいちいち刺してくるもんだから。俺で初めてのキスマーク付けを楽しまれたりなさったのだ。『死んだ俺』の事が『好きだった』と仰り、俺が盛った毒にまで喜び、俺を喜ばせたいと仰り――俺は少年趣味ではないのだが、なんとも『そんな気』になってしまい」

 ――名前出してるぞ、オスカー。というか、毒を盛ったのかオスカー。いつ? ブノワ殿に報告していいか? 問題にしても構わんのか? やめといてやるか……?

 一部たいへん気になりつつも、カルロはさりげなく取り繕ってやった。

「『恋人シェリ』の話だな、オスカー?」
「ああ、それだ」
 オスカーは咳払いをして、視線を逸らした。

「つまり、俺が言いたいのは、俺が主君クレイ懸想けそうをしたという話であり、まだ最後まで手を出してはいないが心の隙に付け込んでたぶらかしてしまったよな、という話なのだが」


 ――ここで恋人シェリとクレイを一致させるか、オスカー。
 カルロは若干手を震わせた。

 
「エインヘリアに帰りたいと仰ったのだ。俺が好きだと――」
 面倒な話をするじゃないか――しかし、思えばこんな話をするのも俺が気の置けない友人だからであろう。

「俺は性の素晴らしさなるものを説いたり性教育などを仕掛け、恋人のキスまでお教えして、お気に召されている……」
 
 カルロは神妙な顔になった。
 ちまたでたまに聞く『騎士王』が中央の王甥を掻っ攫って籠絡ろうらくして云々、というような、ありとあらゆる噂が生々しく心に展開しては消えていく――、
 
「いや、ご成長するまで挿入は致すまいが、致そうと思えば致せる感じが凄い。従者レネンはともかく、ご本人は基本許してくださる……しかし、多分それはまずい。倫理的にもまずいし、そもそもいる? どう思う?」
 
 なんとも嬉しそうなような、困ったような複雑な顔で語るではないか。
 
(これはあれか。俺になんと言って欲しいのか。『お前は騎士として耐えよ、手を出しちゃいかん』と? 『ヘイ遊び人、やってみればわかるさ重く考えずにやったれよ』と? どっちだ――いや、これ責任重大だろ。プレッシャー感じるぞ)
 カルロはその重大らしき分岐点を意識しつつ、ぽろっと言葉を漏らした。

「それでお前……縛られているのか……」
「何……っ、今、なんと?」
 ぽろりと。本当にぽろりと言葉が飛び出て、目の前の友人が激しく動揺してピザを皿に落としている。
(しまった! ついぽろッと言ってしまったぞ)
 しかし、言ってしまったのものはもう仕方ない。カルロは開き直った。

「オスカーよ、俺は実はお前の知らぬ事を知っている……」
 カルロは珈琲で喉を潤してから、冷静に努めて淡々と事実を告げた。言葉は一応選んだ。

「紅薔薇の集会にて、ミハイ殿下とそれはもう好奇心に満ちたご様子で恋人との性遊戯について学ばれるご様子を俺は拝見していたのだ。ついでに『騎士王』を縛ったと話されていた」

 本当は縛った後のことも話していた――そこは言うまい! というか、言えない!
 カルロは平静を装い、目を逸らした。

「そうか、ミハイ殿下――あれか」
 何かに落ちた顔でオスカーが声を返した。返したというよりは、独り言に近い。

「無垢な殿下にいらぬ事を吹き込んでいる悪い遊び相手がいるとは思っていたが……」
「それはお前自身ではないか、オスカー?」
「ミハイ殿下は、思えば前にもキスマークがどうのと変な事を吹き込んでいたんだ。けしからん」
「自分を棚に上げてないか、オスカー」
「俺が教えるのはいいが、他人が教えるのは許せんのだ」
「……」
 
 結局、その日、その後の話は曖昧になりつつ二人は解散して――後日、エインヘリアが間に入ってミハイ皇子は中央から自国アイザールへ帰国したのだった。

紅薔薇ハートモアでミハイ殿下を『保護』し続ける理由は何ですかな? クレイ殿下がエインヘリアに帰りたいと思われたように、ミハイ殿下もご自分のお国に帰りたいと思っておられる事でしょう! 帰して差し上げましょう!」
 とは、『騎士王』の言葉であった。

「ぼ、僕の『ざまぁ』だったのに……。僕の玩具だったのに……、僕が恋人トークで盛り上がれる唯一の友達だったのに……っ。僕が『お兄さん』できる相手だったのに!」
 
 ミハイ皇子を取り上げられたクレイは大いに『騎士王』を恨み、過去のあれこれを思い出すのであった。

「思えば、『騎士王』は僕がコツコツせっせと買ってた冒険者ギルドを奪った。僕が勇者の剣を探す時に集めさせてお金を払った名剣や魔剣も、返品された後、勝手に自分の配下に配ってしまった。僕のウェザー商会をいじめた……、」

 呪術師レネンがしらっとした顔でそれを見ている。
 内心で「ばかばかしい」と思っているのは明らかだった。


「お前なんて僕の騎士じゃないっ。僕の騎士は僕の駒を勝手に動かしたりしないんだ!」
「な――っ、」

 この後クレイはたいそう機嫌を悪くして、実家のアクセルコルトリッセン公爵から金を巻き上げたりして『変な遊び』をまた始めたのだが、それはまた別の話――。
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