清らかに致すだけ~下剋上後の主従が「その一線を越えてこい」ってするだけだけどそれが本人たちには意外と難しいって話

浅草ゆうひ

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1章、その一線がわからない

2、僕はお子様ではない(軽☆)

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 『騎士王』とは、二つ名である。

 かの人物は、大陸中に魔物が現れ、北西の国が他国への侵略を始めた戦乱の折に名を知られるようになった。
 この人物像については、様々な噂が市井で囁かれていた。

 例えば、東方の国が後ろ盾についているとか。
 中央の国の地方領主の息子だとか。
 女性遊びが激しいだとか、少年趣味だとか。

 吟遊詩人はかく謳う――、
遊色明媚ゆうしょくめいびなる光が見守る雪の城に 英雄が剣を取り 奪うは古妖精が魔法をかけし覇者の証、その玉座』

 漁夫の利を奪うようにして『覇者の指輪』を獲った彼に加護を与えしは古妖精フェアグリン、携えし魔剣はアルフィリオン。

 さて、至高の座に成り上がりし男の望みは――、
 
  
   2、僕はお子様ではない
 
  
「よいか。僕は多少幼く見えるかも知れないが、お子様ではない」
 大陸北西にある帝国、エインヘリアの離宮にて、皇帝の婚約者であるクレイが周囲の『子ども扱い』に不満を零し、従者の呪術師レネンに冷たい目で見られていた。

「坊ちゃん、坊ちゃんの外見年齢は残念ながらご自分で自覚なさってるよりもっと下に見えるのですよね」
 レネンが指摘すれば、白皙はくせきの頬に朱をのぼらせて、クレイは寝台に向かった。 
 
「別に清い仲に不満があるわけではない。聞き分けのないお子様みたいに扱われるのが嫌なのだ。僕は気分を害したぞ。今日はもう何もせぬ。夢の中で過ごす」
「そういうことをなさるから……」
 
 春の大地を思わせる柔らかな茶色の髪はさらりと毛先を揺らし、亡きラーシャ姫によく似た毒性をすっかりしずめた夜のごとき紫の瞳はたいそう子供っぽくねた色を浮かべている。

 ちなみにこのクレイ、何が不満かというと、従者の呪術師レネンが『婚約した皇帝は「父のように兄のようにお世話する」と仰ってたので、一線を越えずに、「子のように弟のように」清い仲でお世話になりましょうね』などとしつこくしつこく言い聞かせる点であった。

 レネンは呆れ果てたように寝台の傍に侍り、ふと視線を扉のほうに向けた。クレイの『拾い物配下』、元盗賊団の者歩兵たちが来客の合図をしている。

「……陛下がお越しですが?」
 最近になって『先触れ来る前に知らせる』というものを思い出したらしき皇帝――『騎士王』ニュクスフォスの配下、混沌騎士がそろそろと報せてくれる。

「坊ちゃんはあいにく本日夢の中で過ごすのでお会いになりません」
「会うよ……即答しなくていいよ……何故そんなに意地悪をするの」

 即座に応えたレネンの声にクレイが不満を零しつつ身を起こすのが早いか、さっさと部屋に入ってきた『騎士王ニュクスフォス』は晴れやかな笑顔で「お休み中でしたか? さては現実で俺が傍にいないから夢で逢おうなどと思われていましたかな? 夢の俺も格好良いでしょうが、現実には敵いませんぞ!」などと調子よく言いながら周囲の反応を全く気にした様子もなく、ずかずかと近づいてくる。

 本日は、ちいさな妖精フェアグリンも連れているようで、肩に妖精がちょこんと座っているのが愛らしい。
 毎日、花と花言葉を贈るのを日課にしている『騎士王ニュクスフォス』は、『いつものように』膝をつき、花束を差し出した。

 鎧を脱ぎ、貴公子然とした出で立ちのニュクスフォスは大陸南方アイザール系の特徴ある褐色肌が蠱惑的こわくてきで、快活な表情の似合う端正な顔立ちは少年時代の名残をみせつつも大人の気配を漂わせている。

 公爵家兄妹クレイとユージェニーに白頭と称される髪は他の色を寄せつけぬ潔白さを思わせて、けれど紅色の瞳の底には何をしでかすかわからぬ不穏さや大胆不敵な気配もちらついている。

「俺の殿下におかれましては、本日もご機嫌麗しゅう。こちらは『初雪花スノウ・リリー』と申します」

 花は、清潔感溢れる大きめの白花弁で、優しくはかなげな薫りがする。
 すさんだ心が落ち着いていく、やましい下心が強制的に鎮められていく、そんな気配であった。

「花言葉は『純粋』『無垢』『威厳いげん』と」
「清らかだね……」
 クレイは微妙な心境でそれを受け取り、『いつものように』お返しの口付けをした。
 ニュクスフォスが花を贈り、クレイがお礼にキスをするというのは、婚約者になってからクレイが提案した二人の間の日課みたいなものだった。

 触れるだけのキスは、小鳥がちょっとした悪戯をするように何気なく、挨拶のような温度感。
 ニュクスフォスはそれに幸せそうに眼を細めてニコニコしているのだ……。

 この成り上がりの『騎士王ニュクスフォス』は、元々はエインヘリアの国籍ではなかった。
 ファーリズ王国という、大陸中央部にある国の地方伯爵の公子だった。
 名も当時は違っていて、オスカーと言ったのだ。

 ファーリズの王甥公爵令息であるクレイは、元々『オスカー』と縁があった。
 オスカーはクレイが12歳のときに取り巻きみたいになって、周りをしばらくうろちょろしていた4歳年上のちょっと賑やかな友人だったのだ――少なくても、クレイは友人だとその時期は思っていたのだ。

 大陸が混乱に陥った中、国を出て『オスカー』の名前を捨て、配下と国盗りし『騎士王』という出自不明の騎士として皇帝になったニュクスフォスは、国元で立場の微妙なクレイを保護して、一度はファーリズの王都を自作自演でちゃっかり漁夫り制圧し、クレイをファーリズの玉座に無理やり座らせようとして――全力で拒否された結果、ファーリズ王に話をつけて婚約者としてお持ち帰りする事にして、現在に至る。

(この者は僕と一線を越える気がまったくない。まったく、これっぽっちも。猫さんの爪先ほどもない!)
 別にそれでも構わぬが、と心の中で呟きつつ、思い出すのは異母妹ユージェニーからの手紙であった。

『お兄様、日常を続けていては関係は変わりませんよ。受けるにせよ攻めるにせよ、相手が手を出さぬならお兄様が迫るのです』

 異母妹ユージェニーは兄が薄い本展開をすることを前々から望んでいるのだ。思えばオスカーとの初対面もまだの時点から「お兄様はオスカーを攻略する口説き落とすといいです」と言ってくるくらいだった。

『妹である私が具体的な戦術を指南しますからね。手製の呪具も送りますからね』

 異母妹ユージェニーはそんなメッセージと共に、薄い本あるあるな様々なシチュエーションと大人向けの玩具を送りつけてくる。
(僕がニュクスにあんなことやこんなことを致す……こんな玩具やあんな玩具を使って……我が妹ながら恐ろしい。そして、ちょっと使ってみたくなってしまった自分が怖い)
 クレイは黒歴史をそっと追加しつつ、戦術指南書と呪具を慎重に封印したのであった。
 
「綺麗な花をありがとう。僕は嬉しい」
(清らかでいこう。無理はいけない)
 ほんわかと微笑んで言えば、ニュクスフォスは「本日は花だけではございませんぞ!」とテンション高く配下に箱を持ってこさせた。
「わぁ……なにかな」

 若干ちからの抜けた風情におっとりとリアクションを返しつつ箱の中身をあらためれば、中にあったのは対象年齢が幼児ほどと思われるようなアヒルや猫さんの玩具であった。

(くっ……?) 

 クレイは一瞬息を呑んだ。
 かような玩具で僕の機嫌を取ろうというのか、という微妙に屈辱的な感じも胸の奥にざわつく。

 けれど、まあ可愛いと言えば可愛い。
 クレイは微笑みをこぼした。
 
「かわいいですね、陛下」
 
(これで喜ぶと思われているなら、心外だ。そこは正直気に入らない――しかし、可愛いものは可愛いと称賛されるべきである……)

「ふふん、お気に召していただけたようで。これは、湯に浮かべて楽しむのですよ!」
 ニュクスフォスは上機嫌でそんなことを言って、有無を言わせずさっさとクレイを抱き上げた。

「んっ?」
「さあさあ、俺と遊びましょう! 早速浮かべて楽しみましょう! 可愛いですよ、和みますよ、楽しみですね! さあ参りましょうね!」

 背後で見送る姿勢の呪術師レネンが刺すような視線を向けているが、混沌騎士たちがさりげなく視線を塞ぐようにして間に入った――彼らは何気に普段、自分たちが『ザコ』とか呼ぶ『騎士王皇帝』のためにこんな仕事をしているのである。

 瞬きする間に浴場に運ばれていくクレイは、首を傾げつつニュクスフォスのはしゃぎっぷりを見つめて微笑ましい気持ちになっていた。

(実は自分が遊びたいのではないか? この者はまったく、なんて可愛い『王様』だろう……仕方のない奴。仕方ない、付き合ってあげる)

「ふふ、お湯に浮かべるとどうなるのかなぁ……ぷかぷかして、さぞ和むのだろうね」
 いとけなく言葉を紡いでいると、ふわりと床に降ろされてさくさくと服を脱がされていく。
 なるほど、湯舟の外から眺めるのではなく自分も湯に浸かるらしい――、異母妹の戦術指南を読み込んだクレイの脳がここで少し煩悩を生んだ。

(……ユージェニーの戦術指南にあった。こういうのあった。いやいや、待って。僕の心が汚れている……戦術指南は忘れよう)
 
 しかし、気のせいだろうか。
 ほわほわとあたたかい湯気がたちこめる浴場には、湯の薫りに紛れるようにして花のようなかぐわしいにおいが混ざっているのだ。
 
 薄く淡く、常人ならば気付かないようなさりげなさ。
 だが、権謀術数の日常に身を置いていたファーリズの中央貴族、紅薔薇ハートモア勢に囲まれて育った王甥クレイは気が付いてしまったのである。
 
 『恋薬香リーベストランク』――媚薬効果、あるいは催淫作用のあるこの香りに。
 
(あれぇ……僕の現実がおかしい気がするなぁ……、これは夢かなぁ……?)
 ぼんやりとしていると、ニュクスフォスは自身もいそいそと服を脱いで相変わらずのテンションでクレイを引っ張るように洗い場に座らせるではないか。

「さあさあクレイ様、玩具の前に、俺がお世話いたしますからね!」
「ん……」
 謎の香りに気を取られつつ、クレイははんなりと微笑んだ。
(これは、この者の策略さくりゃくではない。きっとニュクスの配下の誰かが気を利かせて勝手に炊いたのでは)
 
 ――配下の躾がなってないな、『騎士王』ニュクスフォス
 そして恐らく気付いてないな、『騎士王』ニュクスフォス
 教えてあげるべき?
 このままだとまずいことになるのでは?
 具体的に言うと、妹が描く薄い本のように――クレイはハッとした。

 ――なんということだ、薄い本だ!
 薄い本みたいに媚薬にのぼせてしまうというのか、僕の『騎士王ニュクスフォス』が。
 えっ、本当に。えっ、現実に?
 それはちょっと、見てみたい……、胸の奥で心臓がとくんとくんと鼓動を速めて、肩の後ろあたりがほわほわと熱を帯びていく――実はこの時点で結構、恋薬香リーベストランクに影響されているが、本人クレイは気付いていない。
 
(よろしい、僕は猫ではなく虎なのだ、すなわち立派な『攻め』と本日証明しようではないか、このクレイが薄い本な未来を導こうではないか――見てやろう! 『騎士王ニュクスフォス』の艶姿あですがた……)

 クレイは熱い吐息を零し、頬を紅潮させて決意した。
 本日は『騎士王ニュクスフォス薄い本を致すのだ。
(妹よ、僕は攻めるぞ!)
 クレイは、色事に割と興味津々だった。
 
「ニュクス、僕が先に洗ってあげる。僕が先」
「ほう? いかがなさったんです、突然」
 クレイはほわほわと浮かれた様子で言って、かつてない機敏さで背後にまわり、タオルと石鹸を取る。
 そして、ワクワクとニュクスフォスに泡めくタオルを滑らせた。

 アイザール系の南の気風を思わせるニュクスフォスの褐色の肌が湯気の中で汗ばんでいて、白い泡を乗せると濡れた色が艶めかしい。
 よく鍛えられたしなやかな筋肉ががっちりとしていて、触れると野生の獣を連想させて――雄を感じさせた。
(僕の騎士は綺麗で立派な雄である)
 クレイはほわほわと肉体美を愛でて、瞳に憧憬を浮かべた。 
 

「しかし、クレイ様に背を流して頂くというのは、なにやら畏れ多いですね」
 ほわほわとした調子でニュクスフォスが喜んでいる。
 
 あちらこちらに視線をやれば、何処の戦場で負ったのか、傷痕などもあったりするのだ。
 背から傷痕に添って泡まとう指先を滑らせると、ニュクスフォスがくすぐったそうに笑む気配が肌を通して伝わってくる。
「ふふ……っ、くすぐったいですよ」
 軽く身を捩るようにする首筋をタオルで撫でさするようにすれば、青年ののどが鳴る――色を帯びて艶めく吐息交じりの声が確かにこぼれた。
「ん……」
 声を押し殺すように、けれど抑えきれぬ高揚をどうしようもなくらしてしまったというように。

「……!」
(わあ、わあ……、気持ちよさそうなのではない? 色めいているのではない?)
 クレイはドキドキして、同時にちょっとおろおろした。

(こ、これ以上はいけないのでは? 大変なことになってしまうのでは?)

 してはいけない類の事を仕掛けてしまった。
 そして、効果が出てしまった――そんないけない気持ちが湧いてきたのである。
 
「傷痕が気になりますかな?」
 優しい兄の風情でそう言って、軽く上気した頬のニュクスフォスが振り返る。

 まなじりが淡く熱をいて赤みを増していて、しもが降りたような白い睫毛まつげの下で煌々とした紅色の瞳が艶めき、細く笑みの形を湛えている。
 柔い泡に淑やかに濡らされた褐色肌を上気させた青年は、見ているだけで情欲をそそられる類の蠱惑こわく的な気配がちていた。
 
(あっ、これ……なんか見てはいけない感じなのではない?)

 クレイは頬を赤くしてふわふわと目を逸らした。
 罪悪感、背徳感、後ろめたさのようなものがじわりと胸に湧く。

(僕はこれ以上何をどうするというのか。これ以上致したらどうなってしまうの。せっかくの立派な騎士をこれ以上、いけない……彼を汚してはいけないのだ)
 
 手を止めた視線の先で青年は手際よく湯を浴びて泡を流している。日常の気配が濃く戻ってくる――、
「別に怒ってはいないですよ? なんでしょんぼりしちゃうんです」
 青年ニュクスフォスの声がお兄さんな声色でにこやかに言って、立ち上がってクレイを抱きかかえて座り直すと、ゆるゆると頭を撫でてくれた。その手付きは、あたたかで優しい。
「べ、別にしょんぼりは、していない……」

 基本、この青年ニュクスフォスはクレイに優しい。
 そして、なんとなく子ども扱いをする。
 何年経っても初めて会った時と同等に、むしろ年々幼く扱うように変化していくような……。
(その理由とは、なんだろう。僕はそんなにお子様っぽいか? それだけの理由でもなさそうな?) 
 
 背に熱い体温を感じて、そわそわとしてしまう。
 佳い香りがふわふわと空間を浸していて、大人しく抱きかかえられて撫でられていると、なんだか夢心地になっていくのだ。
 
「ならば結構。さあ、俺がお世話いたしますからね!」
 交代とばかりに言って、ニュクスフォスは甲斐甲斐しくクレイを洗い始めた。
「ン……」
(ん……?) 
 泡に塗れて、ぬるぬるとしたあたたかさに摩られるうち、なんだか段々とあやしい心地になっていく。
 
 手首を持ち上げられて、指を丁寧にぬるりと泡立たせられて、くすぐったいような感じに軽く身をくねらせる。
 腕を撫でられるように辿られて、肘の出っ張った骨の部分でびくりとする。
 そのまま内側を撫でられて脇に向かう感覚に、胸の奥あたりにふわふわうずく何かが芽生えた。
 腰をぐるりと摩られて、手が内股に向かう気配に、落ち着きがなくなってしまう。
 
「……っ」
 息が乱れて、体がびくりびくりと手に反応してしまうのだ。
 
(なんか、なんか……ぽかぽかして――じんじんする)
 
 ほわりとした泡めく手のひらの感触が首筋をするりと降りて、不思議なほどの快感が全身に奔る――ぞくりと身が震えた。
 
「あ……っ?」
 思いがけず甘い声が洩れて、自分で自分に驚いた。
(へ、変な声を出しちゃった)
「……?」 
 瞬きをして呼吸を浅く繰り返す。

 なんだか、のぼせたような感じがするではないか。

「……っ、っぁ……」
 困惑の中、つづく感覚にどうしても喘いでしまう。なにやら、すっかり自分ひとり盛り上がっている――そんな気がするのだ。
 
「……いかがなさいましたか」
 ニュクスフォスの声がなんだか楽しそうに、やんちゃな少年めいた雰囲気をのぼらせて問いかける。
「ん、いや。なんでもない……」
 クレイは赤くなって睫毛を伏せた。
「僕、ちょっとのぼせたかもしれない」

「おや、おや……ちと、失礼いたしますぞ」
 するすると前に伸びたニュクスフォスの手が、クレイの陰茎を柔く掠めて、試すように撫でた。
「ぁァ……っ……!?」
 その瞬間、『なんだか、のぼせたような感じ』が具体的な方向性を得たように熱をあげる。
 快楽が一気に全身を支配するのを感じて、クレイの腰がビクッと跳ねた。
 ニュクスフォスは健康チェックでもするようなノリでそれを視て、ニコニコしている。
 
 なんだかとてもムカつく類の笑顔だ。
 例えるなら、そう――あの時だ。
 頼んでもいないのに玉座に座らせて、特注の王冠を嬉しそうに被せて、玉座の前で鑑賞していた時の顔だ。

(いらぬお世話をする時の顔だ! 間違い、ないっ)
 クレイは焦燥を覚えた。
 ――この男には、そういうところがあるのだ。

「ほう、ほう、ほう……これはこれは、お可愛らしい。思っていたよりずっと『大人』な反応を返されるではありませんか……気持ち悦いですか?」
 反応に興が乗った様子で、その手が優しく上下されて刺激がくわえられる。
 
「あ、あ、あ……っ」 
 
 やわやわと繰り返される刺激が全身にわだかまる熱をき集めて秒ごとに高めていくようで、焦燥しょうそう感が強くなる。泡のぬめりと手のひらの熱で蕩けそうになりながら、クレイは呼吸を乱して前傾になり、刺激をやめさせようとニュクスフォスの手に自らの手を重ねた。
 
「っ、や、やめ、ニュクスッ」
「佳いですね、その反応。昂りますね、どれどれ」 
 
 ニュクスフォスはクレイの体付きを確かめるようにするすると泡めく手を滑らせていく。
 
「ふ……っ、あ、さ、触らないで……な、なんか、変」 
「心配致しておりましたが、クレイ様は性的快楽をちゃんと感じられるのですね、素晴らしい――以前おうかがいした毒物への耐性リストになかったので、『恋薬香リーベストランク』をお持ちしてみたんですよ、と」
「……!?」
「ちなみに俺はフェアグリン妖精が守ってくれているので、効いていません」

 勝ち誇るように笑うニュクスフォスに、クレイは『恋薬香リーベストランク』の事を思い出した。

 あれだ。あれが効いている――、
(というか、あれっ? 僕、襲われている。はっきり、間違いなく、襲われてる)

 『父のように兄のようにお世話する』とは、『清い仲』とは、『一線』とは――。
(確認してなかったな! お前の父と兄は……お前の一線は具体的にどんな感じなのか!) 

「吐精できそうな気配ですが、さてさて……」
 悪戯でもするように言って、ニュクスフォスが緩い刺激を続けている。 
「普段はこちらを弄ることはございますか? まさかあの呪術師に処理させていたり?」
 問う声は少し心配そうだった。
 
 あの呪術師とは、レネンのことだろう。
 レネンはとても優秀で、忠実で、いつも空気のようにクレイに仕えてくれているのだ。
  
「し、しない……っ」
「しない。……ふむ?」
 確認するような問いにふるふると首を振れば、安堵したような、やはり心配そうな吐息が首筋に降りて来た。
「吐精なさらぬ? 夢精も?」
 
 何が言いたいかはわかっている――年齢相応の発達度合いかを心配しているとでもいうのだろう。 
 健康であれば、当然とっくの昔に経験済であろうそれを、よもや未だに出来ていないのではないか。
 クレイが若干特殊な血統で、心身の異常が生じやすい家柄ゆえに『健全だろうか』という心配があるのかもしれない。

 しかし、内容が内容だけに『心配してくれてありがとう』とは言いたくないクレイであった。
 
「う、うるさいな……っ、不躾だよ!」
「俺はただお体を案じてるんですよ、背もお小さいですし――『恋薬リーベストランク』は精力の付くお薬で、性器の発達を促す作用もあり……」
「僕は敬虔けいけんな創造多神教の信者である――申し上げようっ、『神はありのままを望まれる』! 促さなくて、よいっ」
 
 緩い刺激に誘われるように肌の奥に熱が燈り、腰のあたりがじわじわと落ち着かない熱を高めていく。
 頭が眩暈めまいを感じてくらくらとした。

(それは、余計なお世話という……、あと、絶対それだけの理由じゃない。絶対、違うっ)
 
 フィニックスあたりは、『栄養と睡眠と運動』と健全な体質改善案を提案してきたのに。
 お肉を野菜に挟んで食べてみては、とか、たいそう清らかなお世話をしてくれたのに。

 ……こいつときたら、しもの世話をしたがるか……っ!
 
「やはり俺がお世話をですね、致したい……、他の者には任せたくないわけです。俺は『俺こそがクレイ様のお世話をしている』と申したい」
「誰に……」
「友人とか」

 後ろから抱きすくめるようにして、首筋に唇が落とされる。
 軽く舌先で戯れるように肌をなぞられて、吸い付かれて体が震えた。

 同時に前への刺激を続けつつ、ニュクスフォスのもう片方の手が胸から腹のあたりをまさぐるように撫でていた。肌の内でざわめく肉欲が煽り立てられるように、快感が背筋を翔ける。

(お前は勘違いしているよ! 僕は、……お世話というより恋人に薄い本をされている気分です……っ、)
 もはや恒例みたいなものである。
 無自覚だか故意だか知らないが、この青年ときたら結構な頻度で女性がきゃあきゃあ言いそうな距離感に体を寄せて色香を放つのだ。
(いや、僕がね! 勝手に盛り上がるんだけどね! ごめんね――でもこれは仕方ないかな、薬効もあるし、僕がのぼせあがっても僕のせいじゃないな、はは、は――)

「はあ、はぁ、は――」
 
 息が乱れて仕方ない。
 この『お世話』は、気持ちがいいを通り越して色々危険な気がしてならなかった。
(これ、『清い仲』ではないのでは?)
 クレイは危機感を覚えてゆるゆると首を振った。いつもと違って色々と洒落にならない――そんな気が凄くする。なんといっても、直接性器を扱かれている。絶対アウトだ。
 
「ニュ、ニュクス、熱い、……あつい、ンッ」
「お湯で流しましょうね」
「っ……、き、きいてる……っ?」

 ニュクスフォスはたいそう機嫌よく頷きつつ、湯を体にかけてくれる。
「お湯で流しましょうね」
 大切な事らしい。二度言った。

「せ、線を引いたねぇ……? お、おま……」
 一応洗っていると言いたいらしい――触り方が全然『洗う』って感じではない。
 
「俺は心を籠めて発育を促すマッサージを……」
「し、恋人シェリとして……?」
「おお。もちろん、……恋人シェリには触れたいと思うもの。よろこばせたいと思うもの……」

 慈しむように肩から背にキスが降りていく。
 ぞくりぞくりと背筋が震えて、肩を竦めたところに脇がくすぐられて体が跳ねる。

「ん、ぁッ」
「と、このように……」
「~~ッ!!」  
(ああ、この、……むかつくんだぁ……っ、ちょっと喜んでる自分がまた……)

「もちろん、殿下に不埒ふらちな真似はいたしません。すこし吐精をお導きする程度で」  
「んン、っ……お、お前と僕は今度『不埒ふらち』の定義について、話さねばならない、かも……っ」
「俺はただ、吐精を――やはりそういったお世話は従者の中でも特別許された者が。特別な俺が。他の誰でもない俺が。レネンではなく俺が」
「わかった。わかったよ、お前の言い分はわかったっ」

(僕、ちゃんとお母様の子らしくて、よかったな。これで違っていたら……お、恐ろしい)
 実はお前に尊ばれる価値がないんです、なんて言ったら――どうなるのだろう。
(そう、僕はそれが怖かった……)
 
 泡を落とすように撫でさすられる肌の感覚が常より強く意識されて、未知の感覚が脳を痺れさせていく。
 背筋に汗がうき、危機感が全身をこわばらせた。抱きしめるようにされたままで、腹のあたりをまさぐっていた手がのぼって胸のかざりのまわりを辿る。ぴくりと肩が震えた。
 形を確かめるようにするすると泡を撒いて、凹凸を愉しむようにそれが指の腹で愛でられて、背筋に甘い熱がこみ上げてならない。
 
「気持ち良いですか? クレイ?」
 甘やかに耳元で囁かれる。この成り上がり皇帝が敬称をつけないで呼ぶ時は、意識してか無意識か知らないがちょっと『上から』な感じだ。
(気持ち良……って、こ、これは本当にいけない……、あの、さっきからずっと大分僕は……)
 
「あ、あ、……っ、ま、待っ」
「ちゃんと感じておられる……いのですね、お可愛らしい」
(可愛らしい、だって)
 右手をもちあげて口元を覆い、快楽に耐えようとしたところに唐突に陰茎を強くしごき上げられて、ぞくりとして悲鳴をあげた。
 
「ひっ」
「達せられそうですか、クレイ?」

 手で射精を促される。喉が引きつったように声を洩らして、抑えられない。
 ひくりひくりと身を震わせて、クレイは首を振った。
 脚を閉じようとすれば、たしなめるように片手が脚の内側をおさえて、そのまま内側のやわらかな感触をたのしむようにさすられる。その感触に、あおられて仕方ない。恥ずかしいほど乱れてしまう自分がいる。乱れた姿が、好きな相手に視られていると思うといたたまれなくなる――、

「ふ、ふぁ……っ、あ、」
 クレイはふるふると唇を震わせた。
「む、無理」
 
 きかれても、困るではないか。
 なんかひとりで乱されて、相手は平然とお世話しているのも、むかつくではないか。

「ふうむ、ふむ――いけそうな気配ですが。ちょっと頑張ってみましょうか?」
 先走りの液が零れ始めるのを見て、ニュクスフォスは愛し気に指でそれを絡めて微笑んだ。濡れた音が聴覚から高揚を誘うようで、高められる感覚に溺れそうになる。
 
 何かが押し出されるみたい――も、も、漏れちゃう!

 とんでもない――クレイは恐怖と快感が混ざってパニック状態に陥った。
「あっ――嫌だ、やだよっ」
 ちいさな子どもめいて駄々をこねるクレイの耳元に唇を寄せて、ニュクスフォスは促す手の動きを速めた。
「もう少し、……ほら。俺の手に集中して……」
 耳元で囁かれる低い声にカッと頬が熱くなり、背筋がぞくぞくとして、ひときわ強く擦られた瞬間、クレイは達して放った。
 
「っンぅ――!!」
 
「おお! いけましたか」 
 奇跡にでも出会ったように感動した様子の声がきこえる。
(こ、こ、こいつ……なんて嬉しそうに) 
 
 放った直後の体は弛緩しかんし、じっとりと全身が汗ばんで動悸どうきが激しい。心拍数が大変なことになっていた。
「おめでとうございます。大人になりましたね!」
(お、お前……これ……『クレイ様の初めての吐精を俺が世話した』と言いふらすんじゃあるまいな?)
  
 ぜえぜえと呼吸を繰り返すクレイの頭を撫でて、ニュクスフォスはその後は性的な接触の気配をおさめて普通に身を清め、猫さんやアヒルの玩具を浮かべた湯舟に一緒に浸かり、幼児に接するかのようなノリで「気持ちよかったですね」だの「よく頑張りましたね」とか機嫌を取り結ぶようだった。

(つまり、これで『お世話したんですよ』って線を強化してるんだな、僕にはそんな気配が感じられるぞ……)
 
 ――でも、僕的にはばっちり線を越えていたように思えたぞ!
 ……と、言ってはいけないのだろうなぁ……。

「つ、つ、つかれた……」
 クレイは解放の余韻に恍惚となりながら、大きく吐息した。
 いつの間にか、恋薬香リーベストランクの匂いがなくなっている。
 代わりに妖精のフェアグリンが湯舟に寄ってきていて、猫さんやアヒルの玩具をつんつんと突いて二人の傍に寄せていた。

「今日はゆっくり休んでくださいね。数日置いて、また試しましょうか」
 たいそう優しい声で――猫撫で声と呼ばれる類のそれで、ニュクスフォスが微笑む。びている。
 
 何故か? 本人的にもきっと『ばっちり線を越えていた』自覚があるのだ。

 音楽室から落とそうとして逃げて行った時や、『鮮血』に適当な暴言を言ってレネンにバラされた時みたい――たまに、行き過ぎた事をやっては妙に反応を気にするような、大胆で不遜なのだか小心なんだかよくわからない一面をみせる時がある。クレイに敵対されたり嫌われるのを恐れるようで、そんな可愛げのある気配を出されるとどうも弱いのだ――困ったものだ。
 
 ――それはそれとして。

「またアレをするの?」
 問えば、ニュクスフォスは驚いたような顔をした。
(そんなに驚かなくても)
 瞬きをして、クレイは首をかしげた。
「僕……、あの遊戯はちょっと、たしなみたくない。あれは、つかれる。優雅じゃない」
 
 あれは、いささか刺激が強すぎた。
 優雅ではなかった――ちょっと怖かった。

 何がといわれれば困るが……、「まずいですよ」と言われるたぐいの乱れ方をしてしまった自覚があった。
(というか、あれだけ乱れて相手に平然とされると……)
 単なる従者ならまだ『仕事にてっして私心を排していて偉いぞ』とか『主人に欲を抱いてはならぬので、それでよい』と言っただろうか。

 しかし、ニュクスフォスは一応『恋人シェリ』という肩書きをもっているのだ。

 女好きで、少年趣味ではないこの男が。
 自分から言ったのだ、他国の言葉で『恋人にしてほしい』と。
 そして、「わからないならそれでいい」なんて言って、子ども扱いをする……、

「薬で促進するのも『ありのまま』の教義に反するゆえ、もうよい」
 そんな風に雨垂れめいて言葉をこぼすクレイに、ニュクスフォスは若干慌てたようだった。
「そ、そんなこと仰らずに。性的行為――遊戯は、崇高で尊厳ある遊戯にて、人生に喜びと幸福をもたらすものですぞ。豊かな感受性を育て、最高の喜びを共有し合う……」
 
(結局、従者気取りしたいだけではないか!)
「僕は、もう休む……」
 ゆるゆるとクレイの手が伸びて、ニュクスフォスの白い髪を軽く撫でた。
 湯舟の外にあがって体を拭き、寝着を着せながら狼狽えた様子の声が続く。
 
「き……気持ちよくなかったですかな」
「気持ちよくはあった。でもなんか、穏やかではなかったし……」
「……穏やか」

 ニュクスフォスは思案気に黙り、すこしして頷いた。
「では、次はより穏やかに。ちなみに、レネンには内緒ですよ」
 
(めげない。さすがだニュクス。そして、あれはもっと穏やかにできるらしい……さすがだニュクス)
 
 クレイはニコニコした。
「うん、うん。レネンには秘密だね。僕は穏やかな遊戯を楽しみにする」
(ところで、これは『薄い本を致した』と言えるのだろうか? 一線とやらは、まだ越えてない? 清い?)

 ――二人の一線とやらがどのあたりにあるのかは、ひどく曖昧で、これは一度レネン呪術師ユージェニー異母妹にきいてみないといけない、とクレイは思うのだった。
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