魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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六章、逆転、反転、繰り返し

122、内緒は即バレするものでして(★)

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 夜。
 僕はベッドの上で正座していた。
 何故かというと、ロザニイルと一緒にベッドで自慰したのがサクッとバレたからである。

「忠実なる俺の臣下には聖杯の身辺を守らせているが、自慰に留まっていたので止めなかったと報告された」
 
 ノウファムがこれ見よがしに振るのは、中身を減らした潤滑油の小瓶だ。
 精悍な顔立ちには揺らめく炎のような感情が窺えて、ちょっと怖い。
 ずずいっとベッドの上にあがってきて、僕と向かい合うように胡坐をかく姿勢になる隻眼がいかにも不機嫌だ。
 
「ロ、ロザニイルが、以前の僕のせいで性嫌悪症に……」
「その話も報告で聞いた」 
 
 ――わあ、筒抜け!
 あれっ、僕の日常、筒抜け?
 今までこの部屋でのんびりしてたけど、全部監視されてた?
 そういえば僕たち、傍聴魔術を使うのを忘れていた。
 
「殿下。僕を監視なさっていました……?」
「していた」

 ――わあ、悪びれない!

 ノウファムは僕をじーっと見つめて、ちょっと首を傾げた。
 何をそんなにびっくりしてるんだ、みたいな顔だ。

「安全のためだ」
「あ、はい」
「当たり前であろう?」
「あっ、はい」

 確認するみたいに言われてコクコクと首を縦にすると、ノウファムは少しだけ雰囲気を柔らかくしてくれた。
 そして、僕を引き寄せて、自分の前で抱え込むようにした。
 背中があったかい。

「俺は怖い顔をしていたか?」
「あ、いいえ……」
 耳にかかった髪がひと房、指ですくわれてちゅっと唇が落とされる。
 慈しむ気配を感じて、僕は耳を紅くしながら固まった。

「俺はお前に優しくしたい……お前に嫌われたくない……」
 お兄さんな声が穏やかに言って、僕の髪を撫でる。
 優しい手付きで撫でられるのは、気持ちいい。
 大きな身体に抱きかかえられていると、すごく安心する。
 子猫になったような気分で僕はうっとりとした。
「殿下……」  
「ロザニイルもかけがえのない友人だと思っている」 
「お兄様……!」
 甘えるみたいな声を零すと、ノウファムは嬉しそうに僕の顎を撫でて、唇を指先でなぞった。
 なぞられたところがくすぐったくて、甘く痺れたようにじぃんとする。
 
「それで……前回はお前のための医療行為で、今回はロザニイルのための医療行為だと?」
「……」

 優しい声が「話は終わってない」と告げている。
 僕は背中に冷や汗をかいた。

「そ、そ、……そんな感じでは、ないかと。僕は、思う、なぁ……」
「医療行為は医者に任せてはどうか」
 すごく納得の意見だ。僕は頷きかけて、けれどと首を横に揺らした。

「僕たちは、友達なんです。何かしてあげたい、力になりたいって思……んぅ」
 唇を割って、ノウファムの指が中に潜り込んでくる。
 
「許さない」 
 それは、柔らかな声なのに、怒っているのだとわかる響きだった。
 それは、断固とした声だった。
 有無を言わせぬ声だった。

「ん、っんン――――」  
 歯列をなぞるように動いて、舌を爪先でくすぐって、唾液の音をぴちゃぴちゃと鳴らして敏感な粘膜を犯される。
 甘い熱が身体の奥で跳ねて、わだかまる。

「っはぁっ……!」
 指が透明な唾液の糸を引きながら離れて、僕は甘ったるい呼吸を繰り返した。

「ロザニイルには医者を手配する。お前が面倒を診ずともよいと俺は思うのだが、エーテルはどう思う?」
「……」
「エーテルはどう思う?」
 ハンカチを手にしたノウファムが口元を拭ってくれる。
 介護でもされている気分だ。

「よ、よいと、思います」
「そうか」
 ノウファムは安堵したように微笑んで、僕の頭をよしよしと撫でた。
 
「相手がロザニイルでなければ斬っていたぞ」
 過去の世界で暴君だった頃に時折感じさせたヒヤリとする気配を一瞬だけ見せて、ノウファムは僕を抱きしめたままベッドにゆっくりと身を沈めた。
 僕が上に乗っている状態でドキドキと鼓動を騒がせると、落ち着かせるように背中が摩られる。
 そうすると、揺り篭の中にいるみたいで安心するのだが……怖いのだか安心するのだか、今日のノウファムは振れ幅が大きい。僕のせいだけど。

「俺はお前を誰にも触れさせたくない。俺以外に可愛い顔を見せてほしくない。俺だけを見ていてほしい……」
 
 切々と訴えられると、僕の胸がきゅんとなる。

「……はい、ノウファム様……」 
 そぉっと顔を寄せると、後頭部を包み込むように手が覆ってくる。
 促されるようにされてキスをすると、僕の下でノウファムがゆったりと淡く息を紡いで、微笑んだ。

「そうだ、ノウファム様。その、砂漠の国の件ですが」
 話が筒抜けということは、以前の僕が王様のノウファムに対して大分真実と離れた報告をしたのもバレているだろうか。
「ああ。行方不明の先王は、東南側に逃れていったらしい。国境は固められているらしいから、港から隙を見て海経由で国外脱出をはかっているのかもしれぬ。可能なら保護しようと思うが」
「……行方不明の先王、生きてるんですね」
「おそらく」

 僕はちょっと驚いた。
 行方不明の先王――砂漠の王シーディクは民に慕われていた好い王様だと伝えられていた。僕が前回の人生で砂漠の国を訪ねたときも、友好的にもてなしてくれていて好感を抱いていた。
 それだけに、変態の王様に簒奪されて国が滅んでしまったのが僕は残念でならなかったのだ……。
 前回までの世界では助けられなかったけど、もしかしたら今回の世界では助けられる?

「ロザニイルはどうしたものかな」
 僕が可能性に目を輝かせていると、ノウファムがぽつりと呟いた。

 それが王様ではなく、ただの友達の声だったから、僕はとても安心した。
 
 ――ノウファムの中にも、ロザニイルを友達として案じていて、より良い状態にしてあげたいって気持ちがあるんだ。
 
「お兄様……、ぁ……」

 僕が嬉しくなって「ここはぜひ一緒に考えましょう」と言いかけると、背中を撫でていたノウファムの手がするりと下に降りていく。
 双丘をやわやわと撫でられると、僕の内側でわだかまっていた熱がゆらりと存在を主張する。

「ロザニイルを気にしてはいけない」
「い、今話題を振ったのは貴方……っ、あ……っ」

 布越しに後ろを探られて、僕の背中が軽く反り返る。

 何かのスイッチが入ったみたいに俄かに獰猛な気配を高めたノウファムは唇を紅い舌で濡らして僕を脱がした。

「忘れよう、エーテル。兄さんと気持ちよいこと、しよう」
「あ、あっ……そういうの、現実逃避っていう……っ」

 ノウファムはくすくすと笑いながら、その夜はいつもよりちょっと乱暴に僕を求めた。


 
 ――動くたびに、ぐちゅ、ぐちゅ、という卑猥な音が響く。
 
 上に跨る姿勢で後ろに欲望を咥えさせられて、揺さぶられる。
「ああ、あっ、はぁっ……」
「あいつにはやらない。あいつにはやらない……」
 熱に浮かされたように繰り返される声は、優しいのにちょっと怖い。
 
 めいっぱい拡げられ、限界まで肉棒を呑み込んだ後孔が、内壁が、ひくひくと激しく痙攣する。
 悲鳴をあげて悦びながら、精を搾り取ろう、快感のもとを逃がすまいと絡みつくような僕の内壁が、ご褒美みたいに擦られて凄まじい悦楽の波がくる。

「あ、あ! もう、だ、め……っ」
 悶えて泣く僕の腰がしっかりと掴まれて、揺さぶられる。
 視界が揺れて、接合部が泡立ちながらじゅぷりずぷりと滑りよく抽挿を繰り返すのが、ひたすら気持ちいい。
 よくて、よくて、おかしくなりそうだ。
 
「エーテル、エーテル……俺の好きなエーテル……ああ、可愛いっ……」 
「んあ、あ、ああんんんっ!!」 
「お前に俺だけを見てもらうには、どうしたらいい? 俺はロザニイルをどうしたらいい? あいつが苦しんでいると言われても……力になりたい自分もいるが――――」

「あいつはそもそも、お前が好きなのか? 惚れている?」
「ふ、あああぁぁあっ……――!!」 
「俺のことが好きだと言ったのに、何故他の奴に無防備な姿をさらすんだ? 俺は絶対に想い人以外を抱こうなどと思わないし、媚薬を盛られても嫌だったのに」
「ご、ご、ごめんなさ、あ、あ、あ……――!!」 

 ――怒ってる!
 わかりやすく嫉妬されてる!

「お――お兄様! 正気に返って、あ、あ、お、お兄様ぁ……っ!!」
  
 交歓は激しく、しつこくて、自問自答しながら僕を苛むノウファムは暴君然とした気配を纏っていて、半ば我を失っているようだった。
 極めてもまた責められて、達してもまた硬度を戻して、執拗な行為は朝まで延々と続いて、翌日は丸一日抱き枕状態でベッドに閉じ込められた。
 
 やっぱりあれはよくない行為だったのだ――僕はくったりとベッドに身を沈めて反省したのだった。
 
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