魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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六章、逆転、反転、繰り返し

120、何もしないで隣にいてくれ(軽☆)

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 カジャと秘密の話をしたみたいに、ロザニイルと話をしている。
 ロザニイルと僕は、過去の世界ではあまり仲良くなかったのに。人生って不思議だ。

「前の時は砂漠に行ったのか?」
「最初の時は『砂漠の国も全滅です』『あっちもかー!』ってくらいで」
「二回目の時は?」
「二回目の時は、僕は砂の遺跡を先んじて調査しようとしたんだけど、商王ドゥバイドに先を越されてしまったな」

 記憶を辿る頭がずきずきと痛む。
 難しい問題に向き合って長時間集中した後に感じるような脳疲労に似た感じだ。
 膨大な記憶の中から「あの時ってどうだったっけ」と思い出そうとすると、たまにこうなる。

「ん、エーテル、頭痛いのか? 無理しなくていいぞ」
 ロザニイルは察してくれたようで、僕にストップをかけてくれた。
「顔色悪いぞ。横になっとけ? 頭休めて……昼寝しとく?」
 
 ふわふわと記憶の海に溺れるようになっていると、気付けば僕はベッドに寝かされていた。運んでくれたんだ。目が合って安心したように微笑んでくれる緑の瞳は気遣いの色を濃く浮かべていた。
 ロザニイルはベッドの上にぽすんと座って、掛け布団を上にかけてから手でぽふぽふと馴染ませるみたいに叩いた。

「ロザニイル。僕、大丈夫だよ」
 くすくすと笑えば、僕と似た色をした髪が揺れる。
「そうかぁ? あっ、寝とけよぉ」
「寝転がってたら本当に寝ちゃいそう!」 

 僕はずるずるとベッドから這い出て、ロザニイルの隣に座った。

「商王ドゥバイドは魔導具や薬香の蒐集家でもあって……」
 
 その記憶は、なかなか刺激的だ。

 僕の眼の前で商人が願いを言って、オアシスの水が枯れた。
 住人は操り人形の糸がぷつりと切られたみたいにパタパタと倒れて、動かなくなった。
 ――それは恐ろしい光景だった。
 
 王様になったドゥバイドは、国中から女性を追い出してしまった。
 彼は女嫌いの男好きだったのである。

「ふははは! 今日から国中の美男子がこのドゥバイドのモノよ!」
 
 ドゥバイドは、美男子を集めてハレムをつくった。
 媚香がそこら中で焚かれ、淫欲を煽る香油や薬漬けの美男子たちがくんずほぐれつ、絡み合う。
 喘ぎ声や嬌声が周り中から聞こえてきて、むんむんとした情交の匂いが媚香や香油に混ざって、それはもう刺激的だった。
 
 童貞の僕は周囲環境の全てにあてられて、隅っこに隠れてコソコソと昂る自身を慰めた。
 小皿に紅い花を浮かべたオイルがあって、すごくいい匂いがして嗅いだだけで昂った。
 ぬるぬるにした手を自身に滑らせると異様に興奮して、気持ちがよくて……周り中でみんなが同じように興奮していたから、僕はその異常な環境にますます昂った。
 
 性に潔白なノウファム陛下にこの砂漠の国の惨状をどのように報告書をしたものかと頭を悩ませつつ、なかなか昂る一方の熱に「この国に兵を派遣しても全員欲情して戦争すらできないのでは」と思ったものだ。

 ここにいては、いけない……っ! 移動しなければ! 
 そう思いながら僕の手は快感を求めて自分のそこに伸びてしまい……、


「こほん、こほん! そこ詳しく話す必要あるかなエーテルぅ!? その手はなんだエーテルぅ!!」
 夢中で記憶を追いかけていた僕は、隣から発せられた咳払いにハッと正気に返った。

「あっ」
 いつの間にか僕の手が股の間に。
 ちょっと膨らみかけたソコが恥ずかしい。
 僕はササッと枕を抱えてソコを隠し、咳払いをした。

「んんっ、し、失礼ぃ……、僕、記憶に溺れてた……」
 現実を忘れて思い出し勃ちまではまだ良しとして、思い出し自慰(未遂)なんて……止めてくれてよかった。
「ごめんね、ロザニイル。正気を失ってたよ」
「お、お、おう。そ、そそそんなこともあるよな! それだけ過激なハレムだったんだな! お前、襲われたりしなかったのか?」
 ロザニイルが林檎みたいに真っ赤な顔になっている。

「襲われかけた。でも、魔術で撃退したよ」
「よ、よかったな! いや、本当によかっ、た……」
「そういえば僕、あの時もちょっとだけ『ロザニイルはこんな気分なのか』って思って、本当にちょっとだけ反省した記憶が」

 視線をチラッと向けた僕の眼が止まる。
 ロザニイルの股座が僕と同じように、ちょっとふっくら兆している――、

 性嫌悪症でも、勃つことは勃つんだ。
 それはそうか? 自然現象で朝勃ちとかも、あるよね。
 出さないでいると夢精したりもするだろう。となると、ロザニイルはどうしているのだろう。
 夢精するまで溜めっぱなし?

「ロザニイル……」
 好奇心で尋ねかけて、僕はパッと視線を逸らした。
 何を質問しようとしたんだ、僕は。踏み込みすぎではないかっ?
「なんだ?」
「なんでもない」

 僕はふるふると頭を振って、昔語りを再開した。
   

 ドゥバイドは、大量の精気を集めて対価として差し出し、魔法のランプに国中の美男子が『ドゥバイド様、大好き♡』って言ってくれるようにとトチ狂ったお願いをした。

「そ、そんなルールに天才魔術師である私が屈するはず……ドゥバイド様、大好き♡」
 以前の僕は屈辱に震えながら全力で砂漠の国から逃げたのであった……。
 
 
「……」
 語り終えた僕は何とも言えない情けない気分になっていた。

「お前、最後のそれ……ドゥバイドに抱かれたっていう匂わせ?」
「違うよっ!? あの王様、美男子は好きだったけど自分は勃起不全で眺めて楽しむだけの変態だったよっ!?」
「ハレム作って自分は勃たねえのかよ。おもしれー王様だな!」
「しかもあの王様、他にも変なルールを用意してて……」 

 ロザニイルはくしゃりと笑って、並んで座る僕の肩を抱いた。 

「ちなみにオレは勃つ。他人と性的に触れ合うのには嫌悪感があるけど、不全じゃないんだ」

 軽く開いたロザニイルの股間が雄の証を主張している。
 僕はドキドキした。僕が気にしていたのに、気付いたんだろうか。

「え、と……性的に触れ合うのがダメなんだ。……自分で抜くのは平気……?」

 自分の口からポロリと不躾な問いが零れてしまって、僕は焦った。
 頬が熱い。ロザニイルも赤くなっている。

「そだなあ。最低限しか処理しねえけど、……抜けるっちゃあ抜ける」
 軽く腰を揺らすようにして、熱い吐息を絡めた声が――色っぽい。
 肩を抱き寄せる手と密着した距離に緊張しながら、僕は言った。

「……性的に触れ合うのが嫌じゃないって、楽しいって……僕、ロザニイルにそう思って欲しいな……」
 
 するすると片手が動いて、ロザニイルが股座を隠すように手を置いている。
 枕をぎゅっと抱きしめて、何故だかとても汗ばみながら僕は言葉を続けた。
 
「そ、そこ……僕が触れたら、嫌かな?」

 ――僕は何を言ってしまっているんだっ?

 発言してから呆然としていると、ロザニイルはアッサリ頷いた。

「嫌かも」
「あっ、そ、そうだよね。僕も変なこと言っちゃったって思ってたとこ」

 微妙すぎる空気が流れる。
 気まずい。気まずい。とても気まずい。

「練習、か……」

 ロザニイルは欲を瞳の奥に明滅させて、僕を視た。

「じゃあさ、オレが抜く間、ちょっと何もしないで隣にいてくれよ」
「ふぇっ」

「男の友達同士で飛ばし合いとか抜き合いするくらい、普通だろ? お前は何もしないでじっとしてればいいし、なんなら目瞑って耳塞いでてもいいからさ」
「あ、あ……、わ、わかっ、た? わかったよ?」
「なんなら、さっきみたいにえっちな話してくれてもいいぞ。ノウファムとの話でオレが興奮するかはわかんねえけど」
「し、しないよ……」  
 
 ロザニイルはそう言って僕の隣でもぞもぞと自慰を始めた。
 
 男の友達同士なら、おかしくはない――だろうか。
 僕は枕をぎゅっと抱きしめて、枕の下でむくむく膨らむ自分の欲望に焦りを感じていた。
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