魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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五章、眠れる火竜と獅子王の剣

90、稀なる名剣【妖精殺し】…あれがほしい。

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 オークションで次々と珍しいものが紹介されて、競り落とされていく。

 ――良い匂いがする……。
 
「欲しいの出てきたとき、金がないと辛いなあ。この場で全額払わないとだめなんだってさ。そんなに持ってきてないからなあ」
 ロザニイルはあれが欲しいこれも欲しいと呟きながらハンカチを取り出し、端っこを噛んでいる。手が出せなくて悔しいらしい。
「眺めてるだけでも、なかなか面白いね」
 僕は会場の隅をちらっと見た。どうも、先ほどから匂いがするのだ。僕はどうもその匂いに敏感で、わかるのだ。

「……い、いる」
 視線をちらっと向けた先には、ノウファムがいた。
 モイセスを伴い、仮面をつけて堂々と座っている。

「いるなら、こっちに合流すればいいのに」
 僕はちょっとだけ不満を覚えて唇をとがらせた。

「ねえ、ロザニイル。あそこにノウファム殿下が……」
 言いかけた時、司会役の声が僕の意識を掻っ攫った。 

「続いては稀なる名剣【妖精殺し】!」

「……!!」
 
 ステージ上に目を向けると、そこにはがあった。

 壮麗で、装飾が美しく幻想的で、妖しい感じもする。
 そんな長剣を視た瞬間に、僕は歓喜した。高揚した。興奮した。

【あれだ! 見つけたぞ!】

 ノウファムが魔力を通しても壊れない剣。
 僕はずっとそれを探していたのだ。それを手に入れて、ノウファムにあげたかったのだ。

 ――なのに。
「……お……、おかねが、ない」
  ……――お金が、ないっ……!!

「坊ちゃん? いかがなさいましたかな?」
 ネイフェンが僕の様子がおかしいのに気づいて心配そうに顔を覗き込んでくる。

 会場中が落札の手をあげていて、値段がどんどんつり上がる。
「ごめんネイフェン、今ちょっと」
 僕は余裕なく周囲に視線を巡らせた。 

「ノ、ノウファム。ノウファムは……」
 
 そうだ。
 もしかして記憶のあるノウファムは「剣が今日ここで競売にかけられる」と知っていて、お金を持ってきたのではないか?

 僕が縋るような眼で視線を向けると、ノウファムは何故か満足気な顔で背を向けて会場から出ていくではないか!

「え、ええ~っ?」
 
 貴方のための剣ですよ?
 貴方に必要な剣があるんですよ?
  
 呆然とする僕の目の前で、【妖精殺し】は競り落とされてしまった――、
 

 
「落札者はズハオ様! 虎族のズハオ様です!」


 司会役の声をききながら、僕はわなわなと震えた。

「坊ちゃん? 大丈夫ですか、坊ちゃん?」
「エーテル、どした。あの剣欲しかったのか」
 ネイフェンとロザニイルが心配してくれている。僕は涙目で頷いた。

「お金がないの、辛い……っ」

 心の底から呟けば、ロザニイルは共感たっぷりに僕の頭を両腕で抱きかかえて撫でてくれた。

「オークションは金がないと辛い! オレたちは一個学んで大人になったな」
「う、うう」

「いいかエーテル。世の中ってのは、思い通りにならないこともいっぱいある! だけど元気出していこうぜ……お前にはオレがついてる……なあ、きいてる?」


 僕はのっそりと立ち上がり、ズハオに視線を固定した。

【あれがほしい】
 
 切望な眼差しを向けているのに、ズハオは僕を一度も見ることなくさっさと出口に向かってしまった。
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