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五章、眠れる火竜と獅子王の剣
89、獅子王の試練と二人の挑戦者
しおりを挟むスパイスや果実が並ぶ道を通り過ぎようとすれば、左右から皿が差し出される。大きな長四角の棚に山のように盛られた黄色くてつるんとした実や、薄黄の地に緑の縞模様が目立つ実だ。無料でサービスしてくれるらしい。美味しかったら買ってねってことだろうか。
「旅人さん、おひとつどうだい? 新鮮だよ!」
ロザニイルがちゃっかり受け取って、僕に一個渡してくれた。皮がすべすべした実は、爽やかな匂いがする。
「白熊族の立ち合いのもと、これより、二家の代表が獅子王の試練を引きます! 二人の挑戦者にどうか皆様のあつい声援をお願いします!」
朗々とした声が聞こえてくる。人だかりができていて、お店の店員さんまでお仕事をやめて覗き込んでいる人がいた。
視線が集まる先には、二足歩行の白熊獣人と、人間の姿に虎耳と尾の生えた容姿の虎獣人、ネイフェンによく似た二足歩行のネコ獣人がいた。
全員、上品な衣装を身に纏っていて、同族の従者を連れている。
「ワゥラン様、応援しております! その目利きで我らが商売国に富をもたらしてください!」
「ズハオ様、世の中に狂妖精やら魔物やらが蔓延る今、必要なのは強き戦士! 貴方様が王になるのです!」
雑貨店の店主が商品らしき香水瓶を振り回し、ワゥランに熱い声援を送っている。
隣では薬屋さんがピンク色の透明瓶を同じように振って、ズハオを応援していた。
「く、薬屋さんだ」
胃薬、あと、入眠に役立つお薬やお茶も欲しいな。
魔法薬の類はあるかな?
「5回の試練のうち、此度は4回目となります!」
僕がソワソワとしていると、白熊獣人が箱を仰々しく従者から受け取っている。
ワゥランとズハオが緊張したような真剣な顔をして見守る中、白熊獣人は箱に手を入れて白い紙を取り出した。
そして、紙を二人に見せている。
「それでは、ただいまから4回目の試練を始めます……開始~っ」
白熊獣人の声に歓声が湧く。よくわからないが、何か始まったらしい。
「すみません、今ものを買うことってできますか?」
僕がおそるおそる薬屋さんに声をかけると、薬屋さんは一瞬びっくりしてからすぐに愛想よく笑ってお店の棚をみせてくれた。
隣のお店は、カトラリーや瓶入り香水が並ぶ雑貨店だ。
雑貨屋の天幕は上から鉱石ランプがぶら下がり、玩具みたいな魔導具が箱に詰められている。
木彫りの箱のオルゴールをみて、僕は父から贈られたオルゴール箱を懐かしく思い出した。
「アナタ、王国からいらした人間のお客様ですねえ!」
兎の耳を揺らす薬屋さんは、愛想が良い。
「おっかない王様と英雄の王兄様が戦ってる国なんでしょう? 内乱がはやく治まるといいねえ」
「な、内乱はもう数年前に終わっていて、王様が勝っています……」
「なんだって? まだ続いてるんじゃなかったのかい!」
薬屋さんは首を傾げつつ、胃薬と睡眠導入剤を処方してくれた。
「あったかくて気持ちの落ち着くお茶と、元気が出るお茶もサービスしておくよう。果実飴もあげようか!」
「ありがとうございます」
なんだか色々サービスしてくれた。良い人だ。
ワゥランとズハオは横に並んで何か話しながら大きな建物に入って行く。
「あ、あの建物オークション会場みたいだぜ」
ロザニイルが目を輝かせて、駆けていく。
「ああ、ロザニイル様! おひとりで行ってはなりませんぞ!」
ネイフェンが慌てて僕の手を引いて後を追いかけた。さりげなく荷物まで持ってくれている。
「ありがとう、ネイフェン」
中に入ってみると、入り口で目元を覆う仮面を渡された。
つけてもあんまり意味がなさそうだけど、つけないといけない決まりらしい。
僕たちは仮面をつけてオークションを見学することにしたのだった。
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