魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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四章、隻眼の王と二つの指輪

85、獣人の国に行くが、何か?

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 ステントスがいなくなった後、僕たちは簡単にお互いのこれまでの話を報告しあった。

 モイセスが荷物を抱えてノウファムのツリーハウスに入って行く――ちらっと視えた顔は、安心した様子の明るい表情だった。なんだかんだノウファムを大切にしているモイセスは、きっと凄く心配していたのだろう。
 
「さきほどの狂妖精は、お知り合いなのですか? 人間の王」
 モフモフになった魔物の犬ヴィブロを伴って、ウィハルディ王子がノウファムに問いかけている。
「そうだな。あまり深い仲ではないが」
「……少し前に襲撃されて撃退したという狂妖精とは別の者なのでしょうか?」
「殴り合って深まる仲というのも世の中には存在するから」
「……」
 ウィハルディ王子が「この人適当なことしか言わないな」って顔になっている。

「なあ、あいつ王様として認識されてるけどいいの?」
「さあ……」
 ロザニイルが良識人みたいな顔になっていた。

「鐘はつくれそうか?」
「ええ、そちらは問題なく……」
 薄い黄緑色のハーブティーが出されて、僕はふうふうしながら頂いた。
 ずずっと啜るお茶の味は、独特の薬草っぽさがある。体に良さそうな味だ。

「それはなにより。では俺の用事は済んだので、疲れを癒すために一日休んで俺たちは出立しようと思う」
 ノウファムは淡々と告げて、少し迷ってからお茶を啜った。
 
「はっ? 用事終わった? ……オレたち、明日帰るのか?」
 ロザニイルがびっくりしている。周りにいる他のメンバーたちも同様だ。

 ノウファムは日向ぼっこ中の猛獣みたいな気配を纏わせて、メンバーを順に視た。
 そして、告げたのだった。
 

「次は獣人の国に行くが、何か?」
  

 居合わせた全員が絶句する中、ノウファムは欠伸を噛み殺すようにして僕を抱き上げた。
 そして、誰にも文句を言わせる隙なくさっさとツリーハウスに引き上げてしまったのだった。

「お兄様……」

 ころん、とベッドに転がされて、僕の服がぺろんっと剥がされる。脱がされる。速い――、
 気付けば、僕は夜着に着替えさせられていた。
 部屋の隅に僕の荷物が届けられている。ああ、モイセスが運んでたのは僕の。なるほど……計画的犯行。

「寝る」
 端的に意思を伝えて、ノウファムは自分も夜着に着替えるようだった。
 なんだか、疲れている気配だ。実際、考えて見たらすごく色々なことがあった。考えてみれば疲れているに決まってる。
「はい、お兄様」 
 僕は従順に頷いた。

 転がったまま待っていると、夜着に着替えたノウファムはごくごく自然な仕草で両手を近づけた。
 そして、その指に填まっている【臣従の指輪】をスルッと外した。

「えっ!!」
 指からとても簡単に外れた【臣従の指輪】が、ベッド脇のサイドテーブルに淡々と置かれる。
 僕がそれを呆然と見ていると、ノウファムは何もおかしなことはないって感じの無感動さでのっそりとベッドに入り込んできた。
「で、でん……殿下……、ゆ、ゆ、ゆ」
 指輪、外れたんですか。
 僕が口をぱくぱくさせていると、ノウファムは王様の顔で微笑んだ。 

「おやすみ、エーテル」
 当たり前のようにむぎゅっと僕を抱き枕にしておやすみのキスをした王様は、ゆっくりと愛し気に僕の髪を撫でてから、すうすうと寝息を立てた。

 
 眠るまでが早い。
 これ、実はすっごく疲れてたんだろうな……。

 
「おやすみ、ノウファム……僕のお兄様」
 眠りを妨げないようにそっと囁いて体温を寄せると、ゆったりとした息遣いと、それに合わせて上下する胸があったかい。
 すっぽりと包み込む身体は逞しく、頼もしくて、安心できる匂いがする。

 この人は、僕が好きなんだって。
 僕のことが特別なんだって……。
 
 胸の奥がむずむずして、こそばゆくて、ゆるゆると顔をにやけさせてしまう。

 ああ――僕はこの人が、好き……!
 
 ふわふわと幸せな気分を感じながら、眠りについたのだった。
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