魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

文字の大きさ
上 下
82 / 158
四章、隻眼の王と二つの指輪

81、繰り返しの王と最初の約束

しおりを挟む

 太陽の光を肌に感じる。
 
 清らかで、あたたかい。ゆらゆらと、腕に抱かれて移動している。好い匂いがする――ノウファムだ。
 ノウファムが僕を横抱きにして、歩いているんだ。
 薄っすらと目を開けると、ノウファムは階段のようなところをのぼっている。
 上へ。上へ。

 全身に心地よい疲労を感じる。
 意識が浮上する僕が最初に聞いたのは、誰かの声だった。

 記憶だ。
 記憶が続いている――
 

 塔のような場所に、滅びが迫っている。終末が訪れている。
 死に向かいつつある人が弱々しく発するような喘鳴ぜんめいがきこえる。
 
 異形の生き物がいる。ひと目で危険な存在だと本能が警鐘を鳴らすような、大きくていびつな生き物だ。
「ア、アア……ア゛ア」
 ひび割れた硝子みたいな、聞いているだけで鳥肌が立つようなおぞましい声がする。
 怖くて、不気味で……すごく辛そうだ。痛々しい感じもする。哀しい感じがする。
 感情が揺さぶられるような、そんな悲しいいびつこえだ。

 何かに絶望して、救いがないと嘆き叫ぶような――そんな悲しすぎる声だ。
 
【この声は……ステントスだ】
 ――僕はそう思った。
 
 ゆらめく記憶の映像の中に、終末の風景が映っている。
 
 戦い、敗れたのだろうか――ぼろぼろのノウファムがステントスの傍で倒れている。

 腕の中には、僕がいた。呼吸をしていない。死んでる――僕はどきりとした。
【僕、死んでる!】 
 僕は、そういえば毎回「今回はもう無理だ」と思ったらカジャと一緒に時間を戻していた。
 だから、死んだことはない――ないはずだった。
 
「……嫌だ……だめだ……」 
 喘鳴の合間に、青年らしさのあるノウファムの声が洩れた。
「ふさわしくない。俺を庇って死ぬなんて、この生意気な魔術師にふさわしい最期なはずがない」
 これからの未来を予期させるような、まだ熟しきらないような、若々しい声だ。
「……こいつが先にこんな死に方をしたんじゃ、俺だって死にきれない。こんな終わり方は、嫌だ。拒絶する……」

 ステントスが狂気に爛々らんらんとするあやしい眼をノウファムに向ける。

「俺は、この死を拒絶する」
 隻眼のノウファムと、狂気がカチリと噛み合う――ステントスは「ギギギ」と啼いた。
 異形の指が何かを求めるように差し出されると、荒い息を繰り返すノウファムは何かを出してステントスに渡し――悲痛な叫びを切々と響かせた。
 
「お前の望みを俺がかなえる。約束する。だから、エーテルが生きる未来をくれ」

 ごぽりと赤い鮮血を吐き出しながら懸命に叫ぶ声が、僕の胸を感情の波で激しく揺らした。

「俺のものじゃなくていい。俺は死んでもいい。……ただ、こいつがこんな風に死ぬのは、嫌だ!」
 
 ステントスは、妖しい気配で渡されたものを見つめた。

【指輪だ】
 僕は思った。あれは、僕が求めていた指輪――現在の世界でノウファムがネックレスにして首から下げている指輪だ。
 
 見守る中、ステントスはノウファムに頷いた。
 そして、その異形の指を建物の中に続く扉へと向けた。
 
 道を示す指に促されて、ノウファムは何かを見出したような顔になる。
 
 よろよろと道を往く足取りは重く、必死で、孤独だった。
 
 ……ひとりで歩く白い通路は、ひんやりとして無機質だった。


【望みって、なんだろう】


 抱きかかえるノウファムの鼓動と息遣いに現実を感じながら、僕は思った。
 ――ステントスには、望みがあるんだ。


【ノウファムはこの時、ステントスと何かを約束したんだ】 


 ……僕のために。

 ……えっ、……僕のために?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...