魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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四章、隻眼の王と二つの指輪

81、繰り返しの王と最初の約束

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 太陽の光を肌に感じる。
 
 清らかで、あたたかい。ゆらゆらと、腕に抱かれて移動している。好い匂いがする――ノウファムだ。
 ノウファムが僕を横抱きにして、歩いているんだ。
 薄っすらと目を開けると、ノウファムは階段のようなところをのぼっている。
 上へ。上へ。

 全身に心地よい疲労を感じる。
 意識が浮上する僕が最初に聞いたのは、誰かの声だった。

 記憶だ。
 記憶が続いている――
 

 塔のような場所に、滅びが迫っている。終末が訪れている。
 死に向かいつつある人が弱々しく発するような喘鳴ぜんめいがきこえる。
 
 異形の生き物がいる。ひと目で危険な存在だと本能が警鐘を鳴らすような、大きくていびつな生き物だ。
「ア、アア……ア゛ア」
 ひび割れた硝子みたいな、聞いているだけで鳥肌が立つようなおぞましい声がする。
 怖くて、不気味で……すごく辛そうだ。痛々しい感じもする。哀しい感じがする。
 感情が揺さぶられるような、そんな悲しいいびつこえだ。

 何かに絶望して、救いがないと嘆き叫ぶような――そんな悲しすぎる声だ。
 
【この声は……ステントスだ】
 ――僕はそう思った。
 
 ゆらめく記憶の映像の中に、終末の風景が映っている。
 
 戦い、敗れたのだろうか――ぼろぼろのノウファムがステントスの傍で倒れている。

 腕の中には、僕がいた。呼吸をしていない。死んでる――僕はどきりとした。
【僕、死んでる!】 
 僕は、そういえば毎回「今回はもう無理だ」と思ったらカジャと一緒に時間を戻していた。
 だから、死んだことはない――ないはずだった。
 
「……嫌だ……だめだ……」 
 喘鳴の合間に、青年らしさのあるノウファムの声が洩れた。
「ふさわしくない。俺を庇って死ぬなんて、この生意気な魔術師にふさわしい最期なはずがない」
 これからの未来を予期させるような、まだ熟しきらないような、若々しい声だ。
「……こいつが先にこんな死に方をしたんじゃ、俺だって死にきれない。こんな終わり方は、嫌だ。拒絶する……」

 ステントスが狂気に爛々らんらんとするあやしい眼をノウファムに向ける。

「俺は、この死を拒絶する」
 隻眼のノウファムと、狂気がカチリと噛み合う――ステントスは「ギギギ」と啼いた。
 異形の指が何かを求めるように差し出されると、荒い息を繰り返すノウファムは何かを出してステントスに渡し――悲痛な叫びを切々と響かせた。
 
「お前の望みを俺がかなえる。約束する。だから、エーテルが生きる未来をくれ」

 ごぽりと赤い鮮血を吐き出しながら懸命に叫ぶ声が、僕の胸を感情の波で激しく揺らした。

「俺のものじゃなくていい。俺は死んでもいい。……ただ、こいつがこんな風に死ぬのは、嫌だ!」
 
 ステントスは、妖しい気配で渡されたものを見つめた。

【指輪だ】
 僕は思った。あれは、僕が求めていた指輪――現在の世界でノウファムがネックレスにして首から下げている指輪だ。
 
 見守る中、ステントスはノウファムに頷いた。
 そして、その異形の指を建物の中に続く扉へと向けた。
 
 道を示す指に促されて、ノウファムは何かを見出したような顔になる。
 
 よろよろと道を往く足取りは重く、必死で、孤独だった。
 
 ……ひとりで歩く白い通路は、ひんやりとして無機質だった。


【望みって、なんだろう】


 抱きかかえるノウファムの鼓動と息遣いに現実を感じながら、僕は思った。
 ――ステントスには、望みがあるんだ。


【ノウファムはこの時、ステントスと何かを約束したんだ】 


 ……僕のために。

 ……えっ、……僕のために?

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