魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

文字の大きさ
上 下
80 / 158
四章、隻眼の王と二つの指輪

79、四回目の貴方と三回目の僕の告白(☆)

しおりを挟む
 壁の向こうに、ノウファムはひとりでいた。
 地面に座り、自失した様子で虚空を見つめて、記憶の海に溺れていた。
 
「お初にお目にかかります、ノウファム殿下」
 僕だ。僕が、初対面の挨拶をしている。
「お初にお目にかかります、ノウファム殿下」
 全く同じ姿の僕による「初めまして」が。繰り返しだ。同じ時間が、繰り返されたのだ。
 
 ――小さくなったの僕がカジャと再会を喜んでいる。僕がだと認識している世界だ。
 
「カジャ、君は記憶があるんだね。よかった」
「エーテル、そなたも記憶があるのですね」
 抱き合って涙を流す僕たちを、少年のノウファムが無言で見ている。


 膨大な記憶の映像が空間を滝のように流れていく。
 濃密な情報量に、頭がパンクしそうだ。
 

「お……にい、さま……」
 よろよろと近づき、手を伸ばして呼べば、ふと隻眼が僕を視た。

 ぞくりとするほど、そこには怖い気配があった。
 
 ノウファムは、突然気配を急変させた。
「ア!」
 地面に引き倒されて、ぐい、と両腕を上にあげさせられて――光の輪みたいなもので両手首を拘束されるまでが、一瞬だった。

 無言で地面に縫い留めるみたいに覆いかぶさってきて、僕を抱きすくめる体温は熱くて、煽情的な眼差しには執着めいた感情が浮かんでいた。

「……っ」
 胸のうちで、鼓動が早鐘のように騒いでいる。
 記憶に溺れたノウファムの心が僕をみている。僕に――欲情している。
 それが肌で感じられて、高揚した。

「ノウファム様……、ノウファム」

 良い匂いがする。
 僕の大好きな匂いだ――それが、こんなに近い。

 ああ、腰が熱くなる。
 胸がときめく。
 頭がくらくらする。

「僕が、わかりますか」
 
 願望を、欲求を籠めて、眼差しを送る。
 魔力を籠めて、支配の念を注ぐ。

【僕をみて】

 睫毛を切なく伏せると、唇に濡れた吐息を感じた。
 優しくやわらかなキスはなんだか切なくて、胸が苦しくなる。

 ああ、美味しい。もっと激しく貪ってほしい――、
【僕を求めて】 
 瞳で訴えるようにすれば、雄の気配が濃くなって、啄むようなキスが繰り返される。
 僕は興奮の吐息を零した。

「僕、ノウファムを探しにきたんだ、よ……」
 キスの合間に喉を震わせれば、ノウファムの右手が僕の右耳のあたりから頬にかけてを包み込むように撫でた。
 あったかい。
 
「死んでほしくなかったんだ……、いつも。いつも」
 一生懸命に話しかけながら、返ってこない言葉に泣きそうになってしまう。

「ん……、ん、ンぅ」
 動物が本能のままにするみたいに口付けが深くされて、舌が絡められて、くぐもった声で乱れてしまう。
 口の中の敏感なところをびちゃびちゃと愛撫されると、じゅわっと唾液が溢れて、股座が熱くなる。
     
 ――もっと触れ合いたい。
 僕の手で、抱きしめたい。

 ああ、目の前のノウファムは喋ってくれないけれど、記憶の中の声が聞こえる。
 
「嫌だ、……嫌だよぉっ……!!」
 僕の計らいで発情させられたロザニイルが、泣いている。
 ノウファムはそれを繰り返し、毎回同じように発情に耐えて、ロザニイルを励ましている。
「安心しろ、ロザニイル。俺は抱かない……」
 つらそうな顔で、うんざりだって顔で、背中を向けて同じ台詞を繰り返す。
「……俺は他に好きな奴がいるんだ……」
 
 切ない声色に、僕の情緒がぐらりと揺れた。

「ノウファムには、他に好きな人がいた……?」
 そんなの、知らない。
 恋愛なんてしたことがない、恋愛の仕方がわからない、僕が知っているノウファムは、そんな王様だった。
 自分でも不思議なほどショックを受けていると、現実世界の、僕を愛撫するノウファムが一瞬唸るみたいに声を発した。
 
「……いた」
「っ!」
 
 ノウファムは首筋に頭を埋めて、ちゅくちゅくと音を立てながら鎖骨や顎にキスが繰り返される。
 腿に硬い勃起したものの当たる感触を感じて、息を乱して腰を揺らしてしまう。

「……ぁ、……っ?」
 勃起を感じると、僕のショックがちょっと和らいだ。

 ――この人、僕に欲情してる!

 それが、嬉しい。
 名前も知らない誰かに勝ったような気分になる。

 あげない。
 譲らない。
 僕の彼なんだ。僕が抱かれるんだ――抱いてもらうんだ。

 そんな想いで、頭がいっぱいになる。
 僕はむくむくと湧き上がる想いで頬を熱くさせて、おねだりした。

「ぼ、僕は、嫌じゃないんだ、よ……、ノウ、ファム……っ」
 
「ン……」
 
 身を捩っていると、大きくて厳ついノウファムの手が身体の線を辿り、ゆっくりすぎるもどかしい手付きで焦らすように愛撫をしてくる。

「嫌じゃないのか?」
 意外そうな声が、しっかりとした芯みたいなものを取り戻しつつある。
 ……正気を取り戻しかけている?

「僕、好き……」
 脚に擦りつけるように教えられるノウファムの陰茎が、硬い。大きい。はち切れそう――熱い。
 着衣の下で主張する股間の怒張を意識して全身を火照らせながら、僕は必死にノウファムに呼びかけた。
「あ――貴方が、好き。僕は、好き……っ」

「……俺が」 
「うん……うんっ!」
 夢をみるような声が呟いて、性急な手つきでズボンと下穿きが脱がされる。意図は明確だった。
 自分も脱いで肌をさらけ出すノウファムは、水を浴びた獣がするみたいにふるふると首を振った。

「エーテル?」
 露出したノウファムの下半身は鋼のように逞しい筋肉を魅せていて、怒張は雄々しく、天を衝くように勃ちあがって臨戦態勢だった。
 脈動を感じて、僕の喉がごくりと鳴る。
「う――うん」

 獣の衝動と理性の狭間に彷徨うような隻眼が、熱っぽく僕を求めている。
「発情しているのか?」
「あっ……」 
 きざしていた僕の昂りが、優しく摩られる。気持ちいい。気持ちいい。
 僕は腰をゆらして、甘ったるく喘いだ。

「あ、は、発情は……、」
「気持ちよさそうだな」
「ん、んっ……」 
 
 声が悦んでいる。
 恥ずかしさよりも、喜びと興奮が勝ってしまう。おかしい。おかしくなっていく。

 記憶のノウファムが、カジャと会話する声がきこえる。
「いっそお前が好きなんだと告白なさったら、わかってもらえるんじゃないですか。兄上」
 ――カジャは、ノウファムの好きな相手を知っていたんだ?
 僕はまたショックを受けた。

「う、うぅっ……」
 情緒が乱れて情けない声をあげると、感情の変遷を感じたらしきノウファムがギクリとする。その気配が普段のノウファムに近くて僕はちょっと安心した。
「急にどうした、エーテル」 
「す、好きなひとがいるって……」
 僕の言わんとしていることを理解したのか、ノウファムが「ああ」と視線を泳がせる。
「し、し、しらなかっ……僕、しらなかっ……」
「ああ――」
 泳がせていた視線が、僕をみる。

「お前だぞ」

「っ?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 短く吐き出された吐息は蕩けるように熱くて、僕はくらくらした。

「俺が好きなのは、お前だと言った」
「へ……」

 眦を情欲の色に染めて、ノウファムの手が僕の腰をさする。
 ぞくぞくとした気持ち良さがそこから湧いて、僕は泣いてしまいそうになった。
 
「お前も、俺が好きなのか?」
「あっ……、ふ、ふ……っ」 
 包み込むように握られて、先走りを溢れさせる先端を指でくちくちと愛でられると、射精感が高まった。
「エーテル?」
「す、すき……っ」
 甘ったるく告白すると、指先が鈴口を広げるようにして、とぷっと勢いよく官能の蜜が溢れる感覚が背筋を震わせる。
 連鎖するみたいに、堰を切られたみたいに、そのまま全部洩らしてしまいそう。
 我慢できなくなってしまいそう。
  
「あぁんっ、だめ!」
 僕は狂おしく悶えながら首を振った。
「だめ?」
 頬を寄せる近さで、ノウファムが柔らかに吐息を零す。
「どうして? 出したいだろう?」
 声は子供をあやすように優しかった。
 
 触れ合った胸が忙しない鼓動を伝えていて、情緒が乱れる。告げられた事実と、与えられる気持ち良さで、わけがわからなくなりそうだ。
「ぼ、僕だけイくのが、だめ」

 僕はうるうると目を潤ませて、足を暴れさせた。
 
「だ、だ、抱いて、ください。僕、を……っ」
 
 記憶の映像で、いつかの僕がノウファムに杖を向けている。
「恐れながら、陛下は不能でいらっしゃるのでしょうか?」
 ……いつかの僕が、すごいことを言っている。
 
 ノウファムは記憶と現実のギャップを愉しむような眼になって、嬉しそうに僕の後ろに指を滑らせた。

「俺のエーテルは、可愛いな」
 愛し気に囁かれて探られる後ろは、聖杯器官から溢れた蜜でとろとろになっている。

 濡れた窄まりや縁の部分をふにふにと揉まれると、僕のお腹の中で欲しがりな器官がきゅんきゅんとなって、僕は動物みたいにハァハァと発情の吐息を繰り返すことしかできなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...