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四章、隻眼の王と二つの指輪
73、この剣のように折れぬ志を持って俺についてこい
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迷宮の入り口は、近づいてみると確かに目に視えない結界のようなもので閉ざされていた。
ノウファムはここで王国の兵士たちを半分に分け、半数を迷宮探索・浄化隊として、半数を待機させると言った。
僕はネイフェンやアップルトンと一緒に、待機組だ。
「宣誓ー! オレたち、お前たちは! このクソッタレなムッツリについていくぅ~!」
「おー!」
ロザニイルが溌剌とした声を響かせると、迷宮探索・浄化隊に選出されたメンバーたちがロザニイルと一緒になって拳を振り上げ、やる気を見せた。
「下品だな」
ノウファムはポツリとそんな感想を零しつつ、見送りに立つ僕の頭を撫でた。
「夜に可愛がってやるから待ってろ」
「どっちが下品なんだよ!」
ああ、ロザニイルが目を吊り上げてノウファムを引っ張っていく……。
「ネイフェン、僕……心配だな。大丈夫だろうか」
結界に近付く二人の背中をソワソワと見守っていると、ネイフェンが頷いてくれる。
ヒゲをそよそよさせながら、日常を思わせるのんびりとした声で。
「ノウファム殿下ですからなぁ……」
黒魔術師アップルトンも、一歩引いた立ち位置から同意するみたいに呟いた。
「ノウファム殿下ですからねぇ……」
見守る視界に、魔力の光が迸る。
神聖な儀式のように、ノウファムが剣に魔力を漲らせ、視えない結界に叩きつけるみたいに豪快に剣刃を奮う。
硬い物体同士が衝突して戦うような音が一瞬、全員の鼓膜を痺れさせる。
剣がバキッと派手に折れ、折れた部分から順に粉々に砕け散っていく。
同時に――硝子がひび割れてパリンと破砕するような音をたてて結界が破られたのが、全員にわかった。
「殿下、新しい剣でござる」
黒騎士モイセスが恭しく新しい剣を差し出せば、ノウファムは折れた剣に頓着なく新しい剣を受け取り、その切っ先を天に突き上げるように掲げて喉を震わせた。
「そなたらは、この剣のように折れぬ志を持って俺についてこい」
「折れぬ志……」
「折った直後なんだよなぁ」
「あの新しい剣をみても折れるイメージしかない」
「オレも」
なんとも言えない顔で全員が呟き、完全に心をひとつにした様子で、一行が迷宮に突入していく……。
「ノウファム殿下ですからなぁ……」
「ノウファム殿下ですからねぇ……」
ネイフェンとアップルトンは、揃ってそう口にした。
夜が来て、迷宮の入り口を気にしながら眠りにつく。
朝が来て、箒で迷宮に飛んでいく。
迷宮には不思議な力が働いているようで、飛翔して上空を侵犯することはできないようだった。
また夜が来て、僕はウィハルディ王子と一緒に食事をとり、ネイフェンに見守られながら床に就く。
……彼らは、三日経っても帰ってこなかった。
ノウファムはここで王国の兵士たちを半分に分け、半数を迷宮探索・浄化隊として、半数を待機させると言った。
僕はネイフェンやアップルトンと一緒に、待機組だ。
「宣誓ー! オレたち、お前たちは! このクソッタレなムッツリについていくぅ~!」
「おー!」
ロザニイルが溌剌とした声を響かせると、迷宮探索・浄化隊に選出されたメンバーたちがロザニイルと一緒になって拳を振り上げ、やる気を見せた。
「下品だな」
ノウファムはポツリとそんな感想を零しつつ、見送りに立つ僕の頭を撫でた。
「夜に可愛がってやるから待ってろ」
「どっちが下品なんだよ!」
ああ、ロザニイルが目を吊り上げてノウファムを引っ張っていく……。
「ネイフェン、僕……心配だな。大丈夫だろうか」
結界に近付く二人の背中をソワソワと見守っていると、ネイフェンが頷いてくれる。
ヒゲをそよそよさせながら、日常を思わせるのんびりとした声で。
「ノウファム殿下ですからなぁ……」
黒魔術師アップルトンも、一歩引いた立ち位置から同意するみたいに呟いた。
「ノウファム殿下ですからねぇ……」
見守る視界に、魔力の光が迸る。
神聖な儀式のように、ノウファムが剣に魔力を漲らせ、視えない結界に叩きつけるみたいに豪快に剣刃を奮う。
硬い物体同士が衝突して戦うような音が一瞬、全員の鼓膜を痺れさせる。
剣がバキッと派手に折れ、折れた部分から順に粉々に砕け散っていく。
同時に――硝子がひび割れてパリンと破砕するような音をたてて結界が破られたのが、全員にわかった。
「殿下、新しい剣でござる」
黒騎士モイセスが恭しく新しい剣を差し出せば、ノウファムは折れた剣に頓着なく新しい剣を受け取り、その切っ先を天に突き上げるように掲げて喉を震わせた。
「そなたらは、この剣のように折れぬ志を持って俺についてこい」
「折れぬ志……」
「折った直後なんだよなぁ」
「あの新しい剣をみても折れるイメージしかない」
「オレも」
なんとも言えない顔で全員が呟き、完全に心をひとつにした様子で、一行が迷宮に突入していく……。
「ノウファム殿下ですからなぁ……」
「ノウファム殿下ですからねぇ……」
ネイフェンとアップルトンは、揃ってそう口にした。
夜が来て、迷宮の入り口を気にしながら眠りにつく。
朝が来て、箒で迷宮に飛んでいく。
迷宮には不思議な力が働いているようで、飛翔して上空を侵犯することはできないようだった。
また夜が来て、僕はウィハルディ王子と一緒に食事をとり、ネイフェンに見守られながら床に就く。
……彼らは、三日経っても帰ってこなかった。
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