魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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四章、隻眼の王と二つの指輪

69、オレ様は天才ってことだ!

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 夕食の後でツリーハウスに引き上げて、魔術で身を清めて僕たちは眠ることにした。

「明日は泉で遊びたいよな」
 一緒にベッドに寝そべるロザニイルは、遊びにきたみたいなノリだ。手足を伸ばして、寛ぎまくっている。
 僕はそんなノリにもなんだか慣れてしまって、並んでおなじように手足をぐーっと伸ばした。

「そうだ。前言ってた話だけどさ」
「うん?」
「聖杯器官をなくす薬をつくるって話」

 心臓がどきっとする。
 そういえば、そんな話をしていた。

 僕が視線を向けると、ロザニイルの新緑色の瞳が明るい感情にキラキラしていた。

「オレ、理論立てできたよ。あとは材料を集めて調合して……」
「できたの? すごい!」
「ああ、ああ! その名も【退行薬】さ!」

 ロザニイルははしゃぐように僕にじゃれついて、自分と似た色の赤毛をわしゃわしゃと撫でた。

「退行薬……」
「ああ。名前の通り、退行させる効果が期待できる。他の臓器を退行させたら大変だから、投薬時に魔術を併用しないといけないと思うんだが」
「それって、若返りの薬みたいなもの?」
「ふふん! 改良したら、そういうスゲー薬もできるかも! なんにせよ、オレ様は天才ってことだ!」

 ロザニイルは明るく笑って、「最近は変な夢も観なくなったんだぜ」と安心したような声色で教えてくれた。

 ――よかった。

 僕は心からそう思ってロザニイルに抱き着いた。
 両腕をするっと伸ばして背中に手を回せば、ロザニイルはやり返すみたいに抱き着き返して、動物同士がするみたいに頬をすりすりとさせた。
 
「夢、観なくなったんだ。よかったね……!」
「おう! いやあ、思い出したくもない悪夢だったぞ、あれ」
「そ、そうみたいだね」

 今まで思い出してきた僕の曖昧な記憶によると、ロザニイルは過去二回の世界で、聖杯になったのだ。

 魔物や狂妖精が暴れ出し――魔王などという生き物も出てきて、滅亡を回避したかった僕は、王族と聖杯に目を付けた。聖杯の体液や性交が王族の魔力を増強するという特質に。

 最初の世界、僕は開拓王リサンデルが暗殺された後に新国王として即位したノウファムに「王族の魔力を増強しましょう」と進言した。
 ノウファムは「俺は抱かない」と僕の献策を退け続けた。
 けれど、情勢がいよいよ終末に近付いた絶望の中、カジャはノウファムの代わりにロザニイルを抱くようになった。
 しかし、その頃には世の中の負の感情は恐ろしい勢いで増え続けるようになっていて、魔力の増強をしても魔王の力には及ばず、僕とカジャはその世界を諦めた。

 二回目の世界でも、ロザニイルは聖杯になった。
 僕は二回目の世界でも――最初の世界の時よりも過激に、王族に魔力の増強を薦めた気がする……。

「僕、ロザニイルには幸せになってほしいや!」
 全力で心から言えば、現在のロザニイルはニカッと歯をみせた。
「なんだよ。お前、前は『みんなが幸せそうだった』って言ったじゃんか? オレはもちろん、幸せになるさ! ……お前もみんなも、一緒にな!」
 
 あれこれと他愛もない話をして、いつの間にかうとうとと眠って……深夜に差し掛かる頃、僕は自然と目が覚めた。

 ロザニイルは隣で気持ちよさそうに寝ていて、嫌な夢にうなされる様子もない。
 僕はそれに安心して、同時にキューイと寝ているであろうノウファムが心配になった。


【そういえば、二回目の世界でノウファムが暴君になった時も、不眠症を患っていなかっただろうか?】
 
 
 僕はなんとなくじっとしていられない気持ちになって、そーっとそーっとベッドを抜け出した。
 そして、壁に立て掛けてあった箒を手に取って窓からふわりと飛び上がった。


 ――こういう時、ノウファムが持っているという【姿隠しの秘薬】があったら便利なのに。


 そんなことを思いながらコソコソと木の陰を飛び回り、ノウファムの小屋に近付けば――なんと、護衛の兵士たちは全員眠っていた。
 
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