魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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四章、隻眼の王と二つの指輪

68、ツリーハウス、ご飯が美味しい

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「風呂がないのが残念だよな。泉はあるらしいけど」
 ツリーハウスに入ってきたロザニイルは、夕食までの時間潰しにとほうきをみせた。

「勝手にその辺を飛んで、弓矢で射られたりしないかな?」
「射られてもこのオニイサマが守ってやるよ! 行こうぜ!」
 
 ネイフェンを見ると、ちょっと心配そうにしつつ弁えた感じで畏まっている。
「私はモイセス卿と護衛の打ち合わせをしにまいりますゆえ」
「夕食はいっしょに食べようね」
 僕が小指を立ててネイフェンに向けると、ネコの指先がちょこんと触れて約束の仕草をしてくれる。ふわふわだ。

「お前はほんっとにあの騎士がお気に入りだなあ」
 ロザニイルが微笑まし気に目を細めて、僕を箒に同乗させて窓枠を蹴る。
 
「そんじゃ、大森林観光、しゅっぱーつ!」  
 箒に二人乗りして木々の間を飛翔すれば、森妖精たちが目を剥いて「なんだあれ」って顔をしている。

 大きな木々のあちらこちらに建つ小屋と小屋の間をすいすい飛び回って、「お客人、あまり広範囲を好き勝手動かれませんように」と注意が飛んできた頃。

 ロザニイルは「注意されたから最後に高いところまで飛んで景色見て終わりにするか」とあんまり反省していない顔で笑って、上昇した。
 大きな木の葉冠の隙間をくぐるように抜けて夕焼け空にのぼると、それ一本でちょっとした都市みたいなサイズの世界樹と、その周辺に広がる幻想的な迷路が見えた。

 燃えるような茜色が世界を染めようとしている中、ロザニイルと僕の赤毛が世界と同じ色をして同じ方向になびいている。
 
 
 ……ああ、僕たちは今、一緒に未知の景色を観てるんだ。

 ちょっと寒い高い空の上でロザニイルの体温を感じながら絶景を観ている。
 僕はその時間がなんだかとても価値のある時間に思えて、ゆっくりと瞬きをしながら周りの景色を目に焼き付けた。

 この時間がずっと続けばいいのに――そう思いながら。

 
「世界樹のまわりは、迷路になってるんだ。そんで、四方を森妖精の中でも力の強い氏族がそれぞれ守ってるんだぜ」
 ロザニイルは得意げに知識を披露して、高度を下げた。

 風に乗って、食欲を刺激する匂いが運ばれてくる。

「森妖精の食べるものっていうからあんまり期待してなかったけど、良い匂いするじゃねえか!」
 ロザニイルは嬉しそうに言って、集落の広場に飛んで着地した。

 広場にはたくさんの木製椅子とテーブルが並べてあって、みんな揃っている。

 木目が素朴な印象のテーブル上の料理を僕はざっと眺めた。

 レモン色のクリームが綺麗なスプレッド塗り物
 真っ白なミルクスープに浮かぶ、珈琲色がつやつやしているキューブ状のゼリー。
 甘そうなエッグベネディクト。
 熱そうに湯気をあげているのは、中がくりぬかれてチーズとキノコを詰めた状態で焼かれた赤いトマト。

 料理は肉をつかったものが少な目で、けれど皆無ではなかった。
 森妖精も狩りをして肉を食べるらしい。

「こっちはイエガーシュニッツェル。キノコ入りの白いクリームソースだな」
 ロザニイルが早速料理を楽しんでいる。
「僕は野菜のテリーヌが気に入ったよ」
 カラフルな野菜を目でも舌でも楽しみながら、僕は料理している森妖精を想像して新鮮な気持ちになった。

「デュカをバゲットに合わせるのも美味しいですぞ」
 森妖精たちに混ざって給仕していたネイフェンが皿を近くに置いてくれる。

「ローストしたカシューナッツにヘーゼルナッツ、ピーカンナッツ、コリアンダーにクミン……などをブレンドしておりまして、オリーブオイルをかけてあわせると風味が豊かになるのでございます」

 おすすめされた料理に舌鼓をうち、ポテトとビーツのクリームスープをスプーンで混ぜていると、色がピンク色に変わっていく。
 ……楽しい!
  
「エーテル、カヌレはどうだ。美味しいぞ」
「きゅ!」
 
 ノウファムと、彼に抱っこされたキューイが隣に座ってカヌレをおすすめしてくる。

 森林の中でワイワイと食べる夕食は、……とても美味しかった!
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