魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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四章、隻眼の王と二つの指輪

67、僕がついているから、怖くないよ

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 結局、僕たちは森妖精の集落で一晩過ごすことになった。

 樹木の途中に転々と小屋を設けた、いわゆるツリーハウスが2~3人に一棟ずつ貸し切り状態で貸し出される。
 
「わあ、枝の上に建ってる。ちょっと怖いね」
 ネコ騎士のネイフェンと一緒に縄梯子で樹木をのぼれば、小屋が立っている枝の上は結構な高さだ。
「ええ、ええ。震えてしまいますな」
 ネイフェンは猫耳をぴこぴこっとさせて、紳士的に僕に手を差し出した。
「坊ちゃん、手を繋いでくださいますかな? 怖くて心細いのです……にゃぁ」
 お道化た感じで言ってパチっとウインクするネイフェンは、全然怖くなさそうで、僕はニコニコした。
「ふふ、いいよ。僕がついているから、怖くないよ」
 肉球をぷにぷに感じながら小屋を覗けば、外から見た印象よりも広い。

「中にいたら、木の上ってことを忘れちゃいそうだね」
「さようでございますな」
 寛げそうなソファとテーブルセットがある部屋と、用を足す魔導具が設置された部屋と。寝室はベッドが一台……。

「僕、良いことを思いついたよ。今夜はネイフェンを抱っこしていい子いい子してあげる!」
 ふかふかの僕のネコ騎士をぎゅーって抱っこして寝るんだ!
 僕はそれを思いついて、ふわふわした気持ちになった。しかし、ネイフェンはびっくりした顔で首を振るではないか。

「ぼ、坊ちゃん。最近、他の方と同衾する事に慣れていらしたご様子ですが、私はあくまで騎士でございますぞ。眠らずの護衛をする予定でございますから」
「ええっ」
「ええっ、ではございませんぞ! あまり軽はずみに同衾してはなりません……坊ちゃんの品格、名誉にかかわることでございます」
 ネイフェンは良識を説くような声になり、くどくどと続けた。
「ノウファム殿下がモイセス卿やアップルトン殿と同衾なさっていたら、おかしいと思われるでしょう?」
「そ、そ、それはそう」
 
 ……これはダメそうだ。
 僕は枕を抱っこして諦めムードになった。と、その耳に賑やかな会話が聞こえてくる。窓から覗いてみると、木の下でノウファムとロザニイルがぎゃあぎゃあと言い争っていた。
 
「何故いっしょに寝てはいけない? ハネムーンなのだが?」
「お前、あれ本気で言ってたの? 最近おかしいぜ、お前は段々おかしくなってる! 正気に戻れ!」
 ロザニイルは短杖ワンドをサッと振ってノウファムの頭をポカッと叩き、縄梯子をするするとのぼってくる。こっちに来るみたいだ。

「エーテルはオレと寝るから、お前は王様だか王兄様だかよくわからないけどリーダーってことで一人寂しく護衛に囲まれて寝てろ!」
「……仕方ない。譲ってやろう」
「おお、おお! ちゃんと寝て正気に戻るんだぞ! 戻らないと絶交してやらあ!」 
 
 どうやら、僕と一緒に寝るのはロザニイルに決まったらしい。
 僕はちょっとだけホッとした。

 だって、出発前にカジャがあんな命令をしていて、ノウファム自身がハネムーンとか言ってたんだもの。
 一緒に寝るってなったら、ちょっと「するのかな」って覚悟しちゃうではないか……!
 
「お、……お兄様」
 窓から遠慮がちに呼びかけて、僕は木の根元で小屋を見上げるノウファムに手を振った。

 耳飾りに魔力を籠めてキューイを抱き枕サイズで呼び出し、「きゅう?」と鳴く愛らしいぷにぷにのキューイをふわーっと下に飛ばせば、ノウファムはちょっと戸惑いがちに手を広げた。

「きゅぅ~!」
「な……なんだ……?」

 ――その反応を見る限り、どうもノウファムはキューイを見るのは初めてなんだな?
 
 僕はそう思いながら、微笑んだ。

「抱き枕として、僕の使い魔をお貸しします。キューイという子で、とってもふかふかであったかです」

 ノウファムは青い隻眼に困惑の色を浮かべつつ、頷いた。

「ありがとうエーテル。ではこれをお前の代わりに抱く……」

「なんっか言い方がやらしいんだよなあ!!」

 ――ロザニイルが茶々を入れる中、ノウファムはキューイを両腕で抱えて自分の小屋に向かっていった。
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