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三章、悪役の流儀
61、世界の半分を俺が貰ってやろう。
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白ローブの男がノウファムをじろじろと見つめているのが、遠目にも感じられる。
「殿下、軽はずみなご発言はなりません、なりませ、むぐっ」
「モイセスは少し静かにしていてくれ」
モイセスが黙らされている。
白ローブの男は、ステントスと名乗った。
「旧い言葉で、大声の主という意味だね」
僕が呟くと、傍にいた子供が「他国の言葉? ぼく、お勉強中なんだよ」とちょっと誇るような声を発してお母さんに「こら」と言われている。可愛い。僕は緊迫した空気の中で、親子にほっこりと癒された。
「ふふ、そうだね。すごく昔にあったと言われている国の言葉なんだ」
しゃがみこんで視線をあわせると、子供は目をキラキラさせた。
「今はないの?」
「うん。国ってね、なくなったりするんだよ」
僕の耳には、海上の不穏なやりとりが聞こえていた。
「地上の王よ、手を組まないか。我はこの世界を滅ぼすつもりであったが、もし王が我と手を組むならば世界の半分をお前にやろう」
ステントスが不気味なことを言っている。
すごく嫌な感じだ。
すごくヤバイ感じだ。
「お兄ちゃん、だいじょうぶ? 具合わるい?」
子供が心配してくれている。
僕は表情を取り繕って立ち上がった。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんは、元気さ」
――お兄ちゃんって、こんな気分なんだな。
と、そんなことを思いながら。
視線を海へ向けた時、ノウファムの淡々とした声が届いた。
「構わないぞ。世界の半分を俺が貰ってやろう」
「殿下ぁぁああッ!?」
近くにいる配下の皆さんが大合唱している。
僕はそれにつられて「殿下ぁぁああッ!?」と叫びたくなるのを辛うじて堪えて、ぷるぷる震えた。
「お兄ちゃん、だいじょうぶ? 寒い?」
「だ、だ、だ、だ、だだだいじょうぶさ……」
今ちょっと耳を疑うような発言があっただけだから――!!
僕が呆然と見つめる先で、信じられないやり取りは穏やか~な空気で続いた。
続いてしまった。
「話が早くて結構だ。お前は見所がある」
「そうだろう。俺も自分で自分のそういうところが気に入っているんだ」
ステントスとノウファムが和やかに握手なんか交わしている。
僕の頭がずきずきと痛んだ。
今までになく、ものすごく痛んだ。
待って。
ノウファム。
僕、そのステントスについて思い出しそう――お、思い出しちゃうぞ。もう思い出しちゃうからね……っ!?
ちょっと前に「記憶が戻ったら壊れてしまう」とか「思い出したくない」とか考えていたのを後悔するぐらいに、僕は余裕をなくしていた。
その人。
その狂妖精。
世界中の怨念を搔き集めて力を強めていって、最終的に本物の「魔王」になって世界を滅ぼす人です、殿下ぁっ!!
「すすすすすみません。箒、もう一回借ります」
箒をぶん取るようにして、空に浮き上がる。
飛翔する耳に、恐ろしい会話が聞こえた。
「では、契約の印にお前の左眼を頂こうかな」
「構わないぞ」
……昼飯にこれ食おうかな。いいね。みたいな軽いノリですっごい会話してるぅぅぅ!!
「で……」
最高速度で空を翔けて、僕は絶叫した。
過去一番、生まれてから最高の音量の必死な絶叫だった。
「殿下ぁああああああぁ!!」
僕が息を切らせて小舟に降り立った時、ステントスはもう姿を消していた。
振り返って僕を見たノウファムは、左眼から大量の血を流して無表情に布でそれを押さえていて――僕を見つめて、顔をしかめた。
「安静にしろと言ったじゃないか」
声はお兄さんぶった家族の温度で、保護者みたいで、全く自分の負傷を気にする様子もなければ、ステントスと契約を交わしたことも悪びれる気配がなかった。
「あ、あ……」
眼が。
繰り返し、同じ運命を辿るみたいに、また。
……ノウファムの左眼が!!
「安静にできるかぁ……っ!!」
――僕は心の底から悲痛な声をあげて、気を失った。
「殿下、軽はずみなご発言はなりません、なりませ、むぐっ」
「モイセスは少し静かにしていてくれ」
モイセスが黙らされている。
白ローブの男は、ステントスと名乗った。
「旧い言葉で、大声の主という意味だね」
僕が呟くと、傍にいた子供が「他国の言葉? ぼく、お勉強中なんだよ」とちょっと誇るような声を発してお母さんに「こら」と言われている。可愛い。僕は緊迫した空気の中で、親子にほっこりと癒された。
「ふふ、そうだね。すごく昔にあったと言われている国の言葉なんだ」
しゃがみこんで視線をあわせると、子供は目をキラキラさせた。
「今はないの?」
「うん。国ってね、なくなったりするんだよ」
僕の耳には、海上の不穏なやりとりが聞こえていた。
「地上の王よ、手を組まないか。我はこの世界を滅ぼすつもりであったが、もし王が我と手を組むならば世界の半分をお前にやろう」
ステントスが不気味なことを言っている。
すごく嫌な感じだ。
すごくヤバイ感じだ。
「お兄ちゃん、だいじょうぶ? 具合わるい?」
子供が心配してくれている。
僕は表情を取り繕って立ち上がった。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんは、元気さ」
――お兄ちゃんって、こんな気分なんだな。
と、そんなことを思いながら。
視線を海へ向けた時、ノウファムの淡々とした声が届いた。
「構わないぞ。世界の半分を俺が貰ってやろう」
「殿下ぁぁああッ!?」
近くにいる配下の皆さんが大合唱している。
僕はそれにつられて「殿下ぁぁああッ!?」と叫びたくなるのを辛うじて堪えて、ぷるぷる震えた。
「お兄ちゃん、だいじょうぶ? 寒い?」
「だ、だ、だ、だ、だだだいじょうぶさ……」
今ちょっと耳を疑うような発言があっただけだから――!!
僕が呆然と見つめる先で、信じられないやり取りは穏やか~な空気で続いた。
続いてしまった。
「話が早くて結構だ。お前は見所がある」
「そうだろう。俺も自分で自分のそういうところが気に入っているんだ」
ステントスとノウファムが和やかに握手なんか交わしている。
僕の頭がずきずきと痛んだ。
今までになく、ものすごく痛んだ。
待って。
ノウファム。
僕、そのステントスについて思い出しそう――お、思い出しちゃうぞ。もう思い出しちゃうからね……っ!?
ちょっと前に「記憶が戻ったら壊れてしまう」とか「思い出したくない」とか考えていたのを後悔するぐらいに、僕は余裕をなくしていた。
その人。
その狂妖精。
世界中の怨念を搔き集めて力を強めていって、最終的に本物の「魔王」になって世界を滅ぼす人です、殿下ぁっ!!
「すすすすすみません。箒、もう一回借ります」
箒をぶん取るようにして、空に浮き上がる。
飛翔する耳に、恐ろしい会話が聞こえた。
「では、契約の印にお前の左眼を頂こうかな」
「構わないぞ」
……昼飯にこれ食おうかな。いいね。みたいな軽いノリですっごい会話してるぅぅぅ!!
「で……」
最高速度で空を翔けて、僕は絶叫した。
過去一番、生まれてから最高の音量の必死な絶叫だった。
「殿下ぁああああああぁ!!」
僕が息を切らせて小舟に降り立った時、ステントスはもう姿を消していた。
振り返って僕を見たノウファムは、左眼から大量の血を流して無表情に布でそれを押さえていて――僕を見つめて、顔をしかめた。
「安静にしろと言ったじゃないか」
声はお兄さんぶった家族の温度で、保護者みたいで、全く自分の負傷を気にする様子もなければ、ステントスと契約を交わしたことも悪びれる気配がなかった。
「あ、あ……」
眼が。
繰り返し、同じ運命を辿るみたいに、また。
……ノウファムの左眼が!!
「安静にできるかぁ……っ!!」
――僕は心の底から悲痛な声をあげて、気を失った。
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