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三章、悪役の流儀
53、三回目だ。
しおりを挟むカジャは僕が達した後、腹や脚を濡らす蜜液を大切に舐めとった。ひとしきり美味しそうに啜ってから、浄化の魔術を使って身を綺麗にしてくれた。
「魔力……」
ぼんやりとした自分の声が、夢と現実の狭間に迷うよう。
「その魔力は、ロザニイルを抱いて増強したものなんだ。そうだね、カジャ」
「気持ちよかったね、エーテル? 次はこのお薬が必要かな?」
わかっている、といった顔で微笑んで僕を抱きしめて口元にすすめてくるのは、ロザニイルがつくった対抗薬だった。
「そ、それ……」
「ロザニイルが作ってくれたんだね」
にこりと微笑む顔は、何もかもわかってるって感じだ。
動揺を胸に押し隠しつつ、僕は対抗薬を飲んだ。実際、それは僕に必要なものなのだ。
カジャと並んで寝台に横になると、カジャは目を閉じて無防備な姿をさらした。
背が伸びて、目を開けて笑っていると傍若無人で何をしでかすかわからない危険物みたいな真っ白な暴君は、そうしているとなんだかとても疲れているように視えた。
僕はカジャの隣で半身を起こし、そっと寝台を抜け出した。
そして、淫らな行為の中で奔流した記憶の断片に意識を向けた。
――記憶に意識を向けたくない。思い出したくない。
そんな思いが反発するように沸く中で、目を閉じる。
自分の中の自分が、真実をもう掴んでいる。
【三回目だ】
そうだ。
僕は、記憶を自分の中に迎え入れた。
【僕とカジャは、記憶を持ったまま二度滅亡を経験している……】
……そんな記憶を、思い出した。
【けれど、ロザニイルは? 彼は夢で、以前の自分を観たようだった】
疑問が湧く。
【ノウファムは? ノウファムも、記憶があるのでは?】
それが、不思議なのだ。
僕たちは初めて時を戻した時から、ずっと自分たち二人だけ記憶を引き継いできた――カジャは魔力も引き継ぐことができたようだけど。
前回、世界の滅亡を迎えた時、僕たちはロザニイルやノウファムには、記憶を引き継ぐ術を施してこなかったのだ。
ノウファムにもらった耳飾りに触れると、外側がひんやりと冷えて、内に籠った魔力は渦巻いて外に出たがっているように思われた。
カジャの気配を気にしながら、僕はそっとバルコニーに出て、耳飾りに自分の魔力を籠めた。
時計の針が時を刻むのを意識しながら、静かに密やかに魔力を籠めれば、耳飾りは僕に応えた。
ほわりとした華やかな赤い光が周囲を一瞬、明るく照らす。
――次の瞬間、僕の手のひらには小さくて真っ白でふわふわの赤ちゃんアザラシみたいな妖精が召喚されていた。
真っ白でまるい妖精は愛嬌がある顔立ちで、つぶらな瞳をしている。
「……きゅぅ!」
愛らしく鳴く声は僕のこころをほんわかと和ませてくれて、僕は状況を忘れて頬をゆるゆると緩めてしまった。
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