魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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三章、悪役の流儀

47、魔物が襲ってくるのは明日なんだ。

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 気付けば、僕はナイトローブを着せられて部屋のベッドにいた。
 さらにいうなら、ノウファムの腕の中で抱き枕みたいになっていた。

 カンタータの宿でそうだったみたいに――けれど今は、ロザニイルがいない。
 二人だけだ。

「あ、……」
 眠たげな青い瞳と目が合って、僕は口ごもった。

「へ、陛下のところには、戻らなくてもいいのでしょうか?」
 カジャは怒ったりしないのだろうか。
 そう思って尋ねれば、ノウファムは眉を寄せた。

「いい」
 顔が近づいてくる。
 整った顔は、男らしくて、情欲の残滓を漂わせていて、色っぽい。
 頬に一瞬だけ掠めるような唇の感触をおぼえると、僕はふわっとした心地になった。

「後のことは、特に命令されてない」 
 
 良い匂いがする。
 僕は温もりを欲しがる子供みたいに腕を伸ばして、がっしりした身体に抱き着いた。

「僕、ここで寝ていいの」
 甘えたがりの子供みたいに囁けば、優しく頭が撫でられる。 
「俺は弟を抱えて寝るつもりだったが」
 秘密を打ち明けるみたいに囁きを返されると、くすぐったい感じがして、首筋がむずむずした。
 
 抱き着いた肌があたたかくて、とくん、とくんと生きている音がする。
「殿下は……」
 
 腕を当たり前に伸ばせる立場が、快い。
 
「僕が弟だと、嬉しいですか」
 肯定の頷きが、幸せな感じで僕の胸をきゅうきゅうといっぱいにする。


【僕はこうしてノウファムに引っ付いていてもいいんだ】
 
 
【僕は、ノウファムに甘えられる立場なんだ】

 
 優しくてあたたかな温もりを手放さないようにぎゅうっと抱きしめて、ふわふわと僕は眠りにおちていった。




 そして、夢をみたのだった。



「恋愛ポエムを提出することっ、いいですね!」
 本気が半分、八つ当たりみたいな意地悪半分で、僕がノウファムに課題を出す夢だった。

「なぜポエム……」
「フン。情操教育です!」
「今から情操教育されても」
「うるさいですよ。ほら、スキンシップ――肉体的接触も忘れずに!」
「おいっ」
 
 
 僕は嫌がるロザニイルをノウファムの腕に押し付けて、意地悪な顔で笑って背を向けた。

 その胸のうちを嫉妬心でぐずぐずに焦がしながら、悟られまいと強がって足早に立ち去って――、



 眼が覚めると、警報みたいなものがビイビイ鳴り響いていて、ノウファムが煩そうに顔をしかめていた。

「せっかくゆっくり寝てたのに」

 不満そうな顔は、とても落ち着いていた。

「あの……何か緊急事態なのでは、ないでしょうか?」
 僕が恐る恐る言うと、ノウファムは余裕の表情で首を振った。
「魔物がちょっと近くで発見されただけだ。今はまだ襲ってこない」

 腕がするりと伸びてきて、起き上がろうとする僕を引き寄せる。
 魔術を使う気配があって、煩く鳴り響いていた音が静かになる――音が遮断されたのだと僕は感じた。
 
「二度寝しよう。俺はもう少し寝ていたい……」
「――殿下。警報は危険を知らせているのです。それを遮断して無視するなんて」

 いくらなんでも、ダメではないか。
 僕が慌てて諫めると、褐色の長い指が唇にあてられる。
 
「お兄様、だ。エーテル」

 眠そうに眼を閉じて、ノウファムは寝言のように自信満々に言葉を続けた。

 
「魔物は今日は姿を見せて脅かしただけで、襲ってくるのは明日なんだ……」

 ――僕が目を瞬かせているうちに、ノウファムはすやすやと規則正しい寝息を立てて眠ってしまった。
 
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