45 / 158
三章、悪役の流儀
44、俺はバターミルクパンケーキが食べたかったわけじゃない(軽☆)
しおりを挟む
「臣従の指輪は……」
ノウファムの声を聞きながら、僕は夢中で緑葉野菜を咀嚼した。
新鮮な野菜の苦味が美味しい。こんな状態でも、味は一応わかるようだった。
「とても力の強い魔術師がつくった。これは、まだ今の俺には抗えない。外せない――すまない」
申し訳なさそうな声が、僕の情緒を揺らす。
この負け続けてばかりの王兄がしょんぼりしていると、僕はなんだか居たたまれなくなってしまう――そんな風に申し訳なさそうにしないでって言いたくなるのだ。
「い、いい。続けて――」
食事の定義ってなんだろう。
どれくらい食べたら食事したと言えるんだろう。
そんなことを考えながら、僕は喘いだ。
「……ハァッ」
息が熱い。
胸から発生した熱が、少しずつ全身に広がるようだった。
「エーテル、アムリエートを食べるか」
「な、なんでもいい。それでいい……」
スプーンにひとくちサイズがすくわれて、口に運ばれる。
綺麗な明るい黄色のアムリエートは、半熟だ。
「……エーテル、あーん」
「ふぁ……っ」
促されるがまま口を開けると、スプーンが開いた隙間から挿しこまれて、舌先にアムリエートを届けてくれる。
「美味しいか? 新鮮な巨鳥モアの卵が使われている。栄養価も高い」
生真面目なノウファムの声は、気を紛らわそうとしてくれているのだろうか。
それとも、「仲よく楽しむ」を実行するために会話を試みているのだろうか。
「美味いか」
卵はふわっふわで、舌の上でとろとろに蕩ける。優しい食感だ。
「お、おいし……です……っ」
へにゃっとなんとか微笑みもどきを表情に浮かべると、ノウファムは変な生き物をみるような眼で眉間にしわを寄せている。
「……」
コメントに困ったらしく無言になりながら、ノウファムは黙々とスプーンでおかわりを運んでくれた。
まるで雛鳥になったみたいに口を開けてはくはくしていれば、シナモン風味のくたっとした生暖かい果実煮が舌に置かれる。
「んぅ……」
甘いぃ。ぬるっとしている――なんか、脇のあたりにぞわぞわと落ち着かない熱が渦巻く。
美味しい。
けれど、くちくちと咀嚼していると、口の中で柔らかい口腔をくすぐる生暖かくてとろっとしたものがなんだか今の身体には、性感を煽る刺激に感じられるのだ。
「シナモン風味の林檎煮だ。料理長の得意料理らしい。俺も好ましいと思う味付けだな」
冷静なノウファムの声に頷きながら、僕は未知の感覚に慄いていた。
「ふ、……ふっ、……ふ、ぅ」
内股がふるふる震えて、力を入れて耐える。
「エーテル? 辛いのか?」
様子を窺うノウファムの声が、僕の羞恥心を煽る。
「く、……っ、も、もう、食事はいいっ……」
涙目で言えば、バターミルクパンケーキを切り分けていたノウファムはちょっと動揺した様子で手を止めて手元のナイフに視線を落とした。
「バ、バターミルクパンケーキが食べたかったんですか、殿下……っ?」
「……お兄様と呼んでくれないか」
葛藤を感じさせる声が低く訂正する。
「そ……そんな葛藤するほど、バターミルクパンケーキが食べたいんですか、お兄様……っ」
――僕は今、それどころじゃないんですよ!
じんじん、びりびりでゼエゼエしてるんです!
僕がハァハァしながら睨めば、ノウファムはナイフを置いてバターミルクパンケーキとお別れしてくれた。
今度ゆっくり食べさせてあげよう――、
「俺は別にバターミルクパンケーキが食べたかったわけじゃない」
歩けなくなった僕を抱きかかえて移動するノウファムは、憮然とした声で言い訳するみたいに呟いていた。
ノウファムの声を聞きながら、僕は夢中で緑葉野菜を咀嚼した。
新鮮な野菜の苦味が美味しい。こんな状態でも、味は一応わかるようだった。
「とても力の強い魔術師がつくった。これは、まだ今の俺には抗えない。外せない――すまない」
申し訳なさそうな声が、僕の情緒を揺らす。
この負け続けてばかりの王兄がしょんぼりしていると、僕はなんだか居たたまれなくなってしまう――そんな風に申し訳なさそうにしないでって言いたくなるのだ。
「い、いい。続けて――」
食事の定義ってなんだろう。
どれくらい食べたら食事したと言えるんだろう。
そんなことを考えながら、僕は喘いだ。
「……ハァッ」
息が熱い。
胸から発生した熱が、少しずつ全身に広がるようだった。
「エーテル、アムリエートを食べるか」
「な、なんでもいい。それでいい……」
スプーンにひとくちサイズがすくわれて、口に運ばれる。
綺麗な明るい黄色のアムリエートは、半熟だ。
「……エーテル、あーん」
「ふぁ……っ」
促されるがまま口を開けると、スプーンが開いた隙間から挿しこまれて、舌先にアムリエートを届けてくれる。
「美味しいか? 新鮮な巨鳥モアの卵が使われている。栄養価も高い」
生真面目なノウファムの声は、気を紛らわそうとしてくれているのだろうか。
それとも、「仲よく楽しむ」を実行するために会話を試みているのだろうか。
「美味いか」
卵はふわっふわで、舌の上でとろとろに蕩ける。優しい食感だ。
「お、おいし……です……っ」
へにゃっとなんとか微笑みもどきを表情に浮かべると、ノウファムは変な生き物をみるような眼で眉間にしわを寄せている。
「……」
コメントに困ったらしく無言になりながら、ノウファムは黙々とスプーンでおかわりを運んでくれた。
まるで雛鳥になったみたいに口を開けてはくはくしていれば、シナモン風味のくたっとした生暖かい果実煮が舌に置かれる。
「んぅ……」
甘いぃ。ぬるっとしている――なんか、脇のあたりにぞわぞわと落ち着かない熱が渦巻く。
美味しい。
けれど、くちくちと咀嚼していると、口の中で柔らかい口腔をくすぐる生暖かくてとろっとしたものがなんだか今の身体には、性感を煽る刺激に感じられるのだ。
「シナモン風味の林檎煮だ。料理長の得意料理らしい。俺も好ましいと思う味付けだな」
冷静なノウファムの声に頷きながら、僕は未知の感覚に慄いていた。
「ふ、……ふっ、……ふ、ぅ」
内股がふるふる震えて、力を入れて耐える。
「エーテル? 辛いのか?」
様子を窺うノウファムの声が、僕の羞恥心を煽る。
「く、……っ、も、もう、食事はいいっ……」
涙目で言えば、バターミルクパンケーキを切り分けていたノウファムはちょっと動揺した様子で手を止めて手元のナイフに視線を落とした。
「バ、バターミルクパンケーキが食べたかったんですか、殿下……っ?」
「……お兄様と呼んでくれないか」
葛藤を感じさせる声が低く訂正する。
「そ……そんな葛藤するほど、バターミルクパンケーキが食べたいんですか、お兄様……っ」
――僕は今、それどころじゃないんですよ!
じんじん、びりびりでゼエゼエしてるんです!
僕がハァハァしながら睨めば、ノウファムはナイフを置いてバターミルクパンケーキとお別れしてくれた。
今度ゆっくり食べさせてあげよう――、
「俺は別にバターミルクパンケーキが食べたかったわけじゃない」
歩けなくなった僕を抱きかかえて移動するノウファムは、憮然とした声で言い訳するみたいに呟いていた。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる