魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

文字の大きさ
上 下
42 / 158
三章、悪役の流儀

41、船上パーティ「私はあの国を滅ぼす」(軽☆)

しおりを挟む
 北西の遺跡から帰った僕のもとには、東方の国主を歓待する船上パーティへの招聘しょうへい状があった。
 丁重なようでいて拒否権のないそれは、具体的には主催であるカジャにお供せよという内容であった。
 
「僕、嫌な予感がするんだ」
 ――そして嫌な予感はだいたい当たるんだ……。



 船上パーティが催される場所は、王都の東南エクノ地方にある多島海。気温が高め、暑い地方だ。
 土地が沈降し、海水が陸地に浸入した海岸付近には、たくさんの小さな島が散らばっている。

 華やかに着飾った王侯貴族の乗り込む客船は、名前が『ラクーン・プリンセス』といって、とても大きい。
 外装は白を基調としていて、青い海景色に爽やかに映えている。
 2000人ほどが乗り込める豪華客船で、海の上に出ている階層が四層もある――建物風にいえば四階建てだ。
 
 それぞれの階層には客室と共有スペースがあり、共有スペースは例えばカジノ、バーやスパ、オーシャンビューの展望浴場、食事会場、ダンスフロア。
 客室は大きなバスタブにラグジュアリー・ベッド、プライベート・バルコニーも完備された薄い黄色の灯りに明るく照らされて、上品かつ温かみを感じる居心地の良い空間だ。

「やあ、王国の聖杯エーテル。体調が良さそうじゃないか。そういえばお薬をやめていたんだったか」
 久しぶりに会う国王カジャは、絢爛な衣装と王冠を纏っていると純粋に美しい――ついつい、見惚れてしまうほど。
 狂者だとか暴君だとか言われる彼は恐ろしい存在で、あり得ないほどの魔力を持つ強者だ。けれど、外見だけは月の化身や精霊のよう。
 
 王兄であるノウファムも色合いは大分違うがやはり美形なので、血筋なのだろうか。
 
「ポエムはできたかい。お兄様にご披露する前に、私がチェックしてあげようね」
「本人にポエムを披露するんですか……」
「当然じゃないか」

 恐ろしいことを言いながら、カジャはパーティ会場の席に座った。
 そして、膝の上に僕を抱きかかえると、愛玩動物を愛でるみたいに頬を撫でて耳元で猫なで声を発する。ちらちらと送られる周囲からの視線が気になって仕方ない。恥ずかしい。

「エーテル、こちらに向かってくるお客様が視えるね。あれは東の獣人国の国主だよ」
 僕は小さく頷いた。
 挨拶のために近付いてくる集団の中に、それらしき獣人がいる。
 獅子型と思しき獣耳と尾が生えている、筋骨隆々とした武人っぽい獣人だ。
 
 僕たちの住む王国の東側には、小さな国がいくつかある。
 獣人国は、そのうちのひとつだ。山岳地帯にある国で、森妖精たちの国、大森林地帯に隣接している。

「私はあの国を亡ぼす。いいね」

 ――いいね、って言われても。

 僕が返答しかねていると、カジャの片手が自然な仕草で僕の上着の隙間に入り込んできた。
「っ!」
 妖しげな手付きで胸元を探られると、動揺が背を奔る。 

 挨拶する貴人が下卑た視線を送ってくる。
 羞恥心に頬を染めながら、僕は睫毛を伏せた。

「これはこれはカジャ陛下、そちらが噂の王配の聖杯殿下というわけですかな」
「まだ婚姻していないけどね。このエーテルはこうやって撫でてあげないと淋しがって泣いてしまう甘えん坊なんだ」

 ――誰が淋しがって泣いてしまう甘えん坊だっ!
 
 カジャの指先が意地悪するみたいに乳輪をなぞり、不埒な感覚を芽生えさせようとする。
 微弱なくすぐったさが少しずつ官能の甘さを呼び起こして、脚の間に落ち着かない熱を感じ始める。
 腰を揺らして甘ったるい吐息を零してしまいそうで、僕は唇を噛んで息を殺した。

「く、ぅ……っ」 
 他者から見ても、性感を煽られているのは丸わかりだろう。
 和やかに談笑するカジャにふつふつと反抗心が湧く一方で、もどかしい指の動きから意識が離せない。
  
「……っ、」
 感じていると周囲に思われたくなくて、僕は必死に呼吸を繰り返した。

「情欲に耐えるお姿は色めいていて、そそりますな」
 獅子の王が舌なめずりするような気配で――獲物を前にした肉食獣の声で僕を見ている。
 それが感じられて、僕は鳥肌をたててカジャの腕にしがみついた。

「……お貸ししましょうか」
 愉しげに哂うカジャの声がする。何を言っているのか一瞬理解し損ねていると、カジャはあっさりと僕を獅子の王に渡してしまった。

「カジャ陛下は、気前がよくていらっしゃる!」
 獅子の王は大喜びで僕を抱きかかえ、燥いだ様子で頬にキスをしてきた。そして、どこかへと連れて行こうとする――連れて行かれる。


「へ……陛下。陛下?」

 遠ざかるカジャは華やかな笑顔を浮かべて、ひらひらと手を振っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

処理中です...