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二章、未熟な聖杯と終末の予言
36、みんなを幸せにするんだ。僕が。
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温泉から上がり、部屋に引き上げるとノウファムが分厚い本を読んでいた。
「お前、まさか脳筋呼ばわりされたからって知的アピールしてるのか?」
ロザニイルが失礼極まりないことを言っている。
「ロザニイルは、お兄様に無礼だと思うんです」
ロザニイルを嗜めつつ、僕はノウファムに温泉を薦めた。
「お兄様、温泉はぽかぽかで、石の隙間からぶくぶく湧いていて、足を置くと楽しいのです」
ノウファムは本のページから視線を移して、頷いてくれた。
「そうか。よかったな」
「お前も入ってこいって言ってるんだよ」
ロザニイルは本当に敬意がない。
「さてはオレたちが二人で遊んできたから、拗ねてるな」
「俺は拗ねてない」
友人同士の温度感で言って、ノウファムは「魔術で清めたから風呂はいい」と言って読書を続けるようとした。
「オレたち、寝るけど」
「ああ」
「ああ、じゃねえよ。雑魚寝で川するって計画ができないだろ」
ロザニイルはベッドの右側をタシタシと叩いて、ノウファムに寝台入りを強制した。強い。
「エーテルは真ん中なんだ。そしてオレ様が左側でこうやって抱っこする」
僕を真ん中に寝かせたロザニイルは、左側に寝そべって腕を伸ばしてきた。
明るい声、楽しそうな表情。目を瞑った顔は邪気がない。
「……僕、そういえば言い忘れたけど」
オチビなロザニイルを想像しながら、僕はロザニイルをよしよしと撫でた。
「僕も、夢をみたことがあるよ」
何気なく言えば、二人分の視線を肌に感じる。
モイセスが言っていたノウファムについての話を思い出して、浴場で感じたロザニイルの不安を思い出して、僕は夢見るように明るい声を紡いだ。
預言者のように。
あるいは、なにも怖いことのない無邪気な子供のように。
「僕たちみんな、十年後も平和な世界で仲良くしてた。みんなして賑やかに……」
その言葉が真実、そうなるのだと信じることができるように、自信を滲ませて。
僕は笑った。
「……みんなが幸せそうだった」
そう言って目を閉じると、胸の奥からこんこんと熱い想いが湧いてくる。
――みんなを幸せにするんだ。僕が……。
ああ、僕はそれをずっと胸に抱いていた。
そのことを、とても長い間忘れていた。
……この時、僕はそう思った。
「おやすみ」
僕の左と右に、仲間がいる。
その気配を感じながら大切に呟けば、左右から別々の声が同じ言葉を返してくれた。
「おやすみ、エーテル」
「おやすみ」
僕はふんわりとあったかな気分になって眠りのふちに意識を遊ばせ――微睡みの中で一瞬だけ「ノウファムは眠れるだろうか」という心配を覚えた。
けれど、朝になってみると僕はすやすやと熟睡するノウファムにがっちりホールドされる形で抱き枕みたいに抱きすくめられていて、ロザニイルが「途中で取られた」と悔しがっていたのだった。
「お前、まさか脳筋呼ばわりされたからって知的アピールしてるのか?」
ロザニイルが失礼極まりないことを言っている。
「ロザニイルは、お兄様に無礼だと思うんです」
ロザニイルを嗜めつつ、僕はノウファムに温泉を薦めた。
「お兄様、温泉はぽかぽかで、石の隙間からぶくぶく湧いていて、足を置くと楽しいのです」
ノウファムは本のページから視線を移して、頷いてくれた。
「そうか。よかったな」
「お前も入ってこいって言ってるんだよ」
ロザニイルは本当に敬意がない。
「さてはオレたちが二人で遊んできたから、拗ねてるな」
「俺は拗ねてない」
友人同士の温度感で言って、ノウファムは「魔術で清めたから風呂はいい」と言って読書を続けるようとした。
「オレたち、寝るけど」
「ああ」
「ああ、じゃねえよ。雑魚寝で川するって計画ができないだろ」
ロザニイルはベッドの右側をタシタシと叩いて、ノウファムに寝台入りを強制した。強い。
「エーテルは真ん中なんだ。そしてオレ様が左側でこうやって抱っこする」
僕を真ん中に寝かせたロザニイルは、左側に寝そべって腕を伸ばしてきた。
明るい声、楽しそうな表情。目を瞑った顔は邪気がない。
「……僕、そういえば言い忘れたけど」
オチビなロザニイルを想像しながら、僕はロザニイルをよしよしと撫でた。
「僕も、夢をみたことがあるよ」
何気なく言えば、二人分の視線を肌に感じる。
モイセスが言っていたノウファムについての話を思い出して、浴場で感じたロザニイルの不安を思い出して、僕は夢見るように明るい声を紡いだ。
預言者のように。
あるいは、なにも怖いことのない無邪気な子供のように。
「僕たちみんな、十年後も平和な世界で仲良くしてた。みんなして賑やかに……」
その言葉が真実、そうなるのだと信じることができるように、自信を滲ませて。
僕は笑った。
「……みんなが幸せそうだった」
そう言って目を閉じると、胸の奥からこんこんと熱い想いが湧いてくる。
――みんなを幸せにするんだ。僕が……。
ああ、僕はそれをずっと胸に抱いていた。
そのことを、とても長い間忘れていた。
……この時、僕はそう思った。
「おやすみ」
僕の左と右に、仲間がいる。
その気配を感じながら大切に呟けば、左右から別々の声が同じ言葉を返してくれた。
「おやすみ、エーテル」
「おやすみ」
僕はふんわりとあったかな気分になって眠りのふちに意識を遊ばせ――微睡みの中で一瞬だけ「ノウファムは眠れるだろうか」という心配を覚えた。
けれど、朝になってみると僕はすやすやと熟睡するノウファムにがっちりホールドされる形で抱き枕みたいに抱きすくめられていて、ロザニイルが「途中で取られた」と悔しがっていたのだった。
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