魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

文字の大きさ
上 下
25 / 158
二章、未熟な聖杯と終末の予言

24、大空は竜のものに決まってるじゃないか。狂妖精?

しおりを挟む
 出発の朝。

「飛竜は浮気に厳しい生き物ですからな。相棒に乗れぬからと、別の飛竜を借りるわけにも参りません……それに、シンディが心配なのもあり……」 
「うん、わかるよ。気にしないで」
 シンディが解呪中のネイフェンは、迷った末にお留守番することになった。
 
殿、御乗りください」 
 黒騎士モイセスが飛竜の背にエスコートしてくれる。彼が僕を乗せてくれるのだ。

 黒騎士モイセスの竜は、ノウファムの飛竜カレナリエンと兄弟だ。
 名前はグエルリンデ。
 兄弟竜は、揃って黒檀こくたん色をしている。
 瞳はあかね色で、宝石みたいにキラキラだ。

「殿下の敬称はじゃないかな」
 カジャとつがったらその敬称がつくこともあるかもしれないが、僕はまだ『殿下』ではない。
 そう呟くと、黒騎士は慌てた様子で頭を下げた。
「失礼いたしました、公子様」
「そ、そんなにかしこまって謝るようなことでもないですよ」

「気を付けていってらっしゃいまし!」
 黒魔術師アップルトンがひらひらと手を振っている。
 ネイフェンがその隣で今生の別れみたいな顔で目を潤ませている。大袈裟だ。

「ネイフェン、いい子にしておいで。お土産をあげるからね!」
 なんだか、カジャみたいな言い方だな――自分でおかしく思いながら、僕は笑って手を振った。

「公子様、飛翔いたします。手を放されぬよう」
 僕を乗せてくれる竜騎手、黒騎士モイセスが僕を抱えて手綱を操る。

 前方で、ノウファムとロザニイルが乗る飛竜カレナリエンがバサリと羽搏はばたき、上昇する。

 その後に続くかたちで僕たちの飛竜エルリンデが飛翔すると、地上がぐんぐんと遠くなった。
 左右で大きな竜翼が力強く上下して、ふわり、ふぁさりと竜が飛ぶ。竜の群れが、隊列をなして飛んでいく。

 ちいさな鳥たちが同じように群れで隊列をつくって飛んでいて、それをあっという間に追い越して、白い雲も地上の景色も輪郭をぶらしながらどんどん後ろに流していく。
 竜騎手に同乗する魔術師たちが短杖ワンドをふるい、速度をあげたり騎乗者の居心地がよくなるように空調を整えたりしている。
 僕もタダ乗りはすまい――短杖ワンドを振って風を操れば、モイセスが礼儀正しくお礼を伝えてくれる。

「ありがとうございます、公子様」
「エーテルでいいです」
 公子様、だと、該当する人物が同行者の中に他にもいるから紛らわしいじゃないか。
 僕が伝えると、モイセスは素直に頷いた。
「それでは、エーテル様と」
「うん。モイセス卿には、沢山お世話になります」
「……敬語は必要ないかと」
「お互いに?」
「いえ」
 
 ぎこちない会話の中、太陽がいつもより近く感じる。

 高速の蒼穹そらの旅は、とても気持ちよかった。
 
「前方に狂妖精の群れが発見されましたが、駆除したので問題ありません」
 伝令の声が響いて、モイセスが頷いた。

「狂妖精?」
 首をかしげると、モイセスが教えてくれる。
「ここ数年、出没が確認されている狂暴な妖精です。理性がなく、攻撃性が高く――」

 世の中は物騒だ。
 けれど、考えてみればこの世界、もうすぐ滅ぶと預言されているのだ。
 物騒にもなるよね。

【大空は誰のもの】――呪いの言葉を思い出して、僕は当然のように思った。
 ――大空は竜のものに決まってるじゃないか。 

「王子様が狂うのだもの。妖精だって狂うよね」
  
 僕は悟りみたいなものをひらきつつ、神妙な顔で頷いたのだった。

 その発言が「狂王子」と呼ばれたカジャのことを言ったのだとわかったのだろう。モイセスはびっくりしたような顔をして、そおっと周囲を窺った。
 カジャ陛下に対して無礼過ぎる発言だ。とても危険だ。そう思ったのだろう。

「……そのご発言は、あまり大声でお話なさらぬほうがよろしいかと」

 ためらいがちにいさめてくれたから、僕はこの黒騎士が良い人だなと思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶
BL
幼い頃はその美貌で誰からも愛されていた主人公は、顔半分に大きな傷をおってしまう。それから彼の人生は逆転した。愛してくれていた親からは虐げられ、人の目が気になり外に出ることが怖くなった。そんな時、王太子様が婚約者候補を探しているため年齢の合う者は王宮まで来るようにという御触書が全貴族の元へと送られてきた。主人公の双子の妹もその対象だったが行きたくないと駄々をこね…… ※本編完結済みです ※ハピエン確定していますので安心してお読みください✨ ※途中辛い場面など多々あります ※NL表現が含まれます ※ストーリー重視&シリアス展開が序盤続きます

【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は? 最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか? 人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。 よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。 ハッピーエンド確定 ※は性的描写あり 【完結】2021/10/31 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ 2021/10/03  エブリスタ、BLカテゴリー 1位

処理中です...