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二章、未熟な聖杯と終末の予言
23、飛竜のシンディとちび竜のレラ、大空は誰のもの
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探索行を控えて、僕は張り切って準備を進めた。
安全だというけれど、未知の探索って心が躍るじゃないか。
小さくて軽いナイフ、ちょっと大きめの短剣に赤紫樹を素材としたお気に入りの短杖、ランタン、光源石に魔力石、まっさらの記録帳にマッピング用の地図、ロープに魔導具、呪符も持って……水筒に食べ物だって忘れちゃいけない。いざという時に役立ちそうな魔術をメモした自作の魔術書も持って行こうか。
「エーテル坊ちゃん、張り切っていらっしゃいますな。このご様子ですと、当日は羽目を外し過ぎませぬようにと申し上げておかねばなりませんかな」
ネイフェンがネコヒゲをぴんっとさせて笑っている。
薬を中断してから、体調もとても良い。
ネイフェンはそれが嬉しいみたいだった。
「シンディ、当日はよろしくね」
遺跡までは、空の旅になる。
僕を運んでくれるシンディは、以前聖夜祭でもお世話になったおっとりした性格のメスの飛竜だ。
三年前におおきな卵を産んで、ちび竜が孵って、子育て中でもある。
ちび竜はレラという名前で、まだ飛べないけれどコロコロしていて、ちょっと太っていて、とっても可愛い!
「レラ、お母さんを借りるからね。お父さん竜といっしょにお留守番、ちょっとだけ我慢してね」
「くるるぅ!」
元気いっぱいに鳴くちび竜のレラをよしよしと撫でて、僕はふと違和感に気付いた。
「変な痣が……染みかな、何かある。これ、なんだろ」
レラのお腹のあたりだ。
「見て、ネイフェン。ここ」
ネイフェンに見せると、ネイフェンは不思議そうに眼を眇めたり瞬きをしたりした。
「な、なにかございますかな、坊ちゃん? わかりませんが……?」
まさか。
見えないのだろうか?
「これだよ? わからない?」
僕は恐る恐る指でそこをなぞった。
ちいさな黒い染みみたいな、蚯蚓がのたくったみたいな――触れると、なんだか嫌な感じがする。あまり良いものではない――穢れだ。これは、そういった類の汚れだ。
それも……、
「……これ、文字だ」
僕は息を呑んだ。
文字は、旧い言葉だ。妖精語だ。
「エィアン……イミル……ラァーレ……」
――【大空は誰のもの】?
「……この仔、呪われてる!!」
驚いた様子でひとが集まってくる。
妖精語の呪いは、視える者と視えない者がいた。
魔力量が影響しているようだった。
竜厩舎にいる他の飛竜も調べてみれば、身体の一部に呪いの文言を刻まれた飛竜が次々と見つかった。
「早めに気付けてよかったです。呪いが広がる前に呪われた個体を隔離し、解呪しましょう。他の竜宿舎にも知らせないと……」
飛竜たちは、どこで呪われたのだろう。
僕はそれが気になりつつ、隔離されるシンディとレラを見送った。
「呪いが本格的に悪さを始める前に気付くことができたのは、よかったな。お手柄だぞ」
ロザニイルが隙有れば兄貴風を吹かせてくる。
「えらい、えらい!」
大きな手が犬でも可愛がるみたいに僕を撫でて、ネイフェンが「フーッ」と威嚇している。
なんだか、不穏なのに平和だ。
僕は毒気を抜かれた気分で肩のちからを抜いて、へらりと笑った。
……ロザニイルのこと、そんなに嫌いじゃないかもしれない。なんだか、近くにいると雰囲気が明るくなるのだもの。
そもそも、嫌いだと思っていたのだって理由のはっきりしない、得体の知れない感覚が原因なんだ。
そんなので嫌っていたら、ロザニイルに申し訳ないや。
僕はその日、そう思ったのだった。
安全だというけれど、未知の探索って心が躍るじゃないか。
小さくて軽いナイフ、ちょっと大きめの短剣に赤紫樹を素材としたお気に入りの短杖、ランタン、光源石に魔力石、まっさらの記録帳にマッピング用の地図、ロープに魔導具、呪符も持って……水筒に食べ物だって忘れちゃいけない。いざという時に役立ちそうな魔術をメモした自作の魔術書も持って行こうか。
「エーテル坊ちゃん、張り切っていらっしゃいますな。このご様子ですと、当日は羽目を外し過ぎませぬようにと申し上げておかねばなりませんかな」
ネイフェンがネコヒゲをぴんっとさせて笑っている。
薬を中断してから、体調もとても良い。
ネイフェンはそれが嬉しいみたいだった。
「シンディ、当日はよろしくね」
遺跡までは、空の旅になる。
僕を運んでくれるシンディは、以前聖夜祭でもお世話になったおっとりした性格のメスの飛竜だ。
三年前におおきな卵を産んで、ちび竜が孵って、子育て中でもある。
ちび竜はレラという名前で、まだ飛べないけれどコロコロしていて、ちょっと太っていて、とっても可愛い!
「レラ、お母さんを借りるからね。お父さん竜といっしょにお留守番、ちょっとだけ我慢してね」
「くるるぅ!」
元気いっぱいに鳴くちび竜のレラをよしよしと撫でて、僕はふと違和感に気付いた。
「変な痣が……染みかな、何かある。これ、なんだろ」
レラのお腹のあたりだ。
「見て、ネイフェン。ここ」
ネイフェンに見せると、ネイフェンは不思議そうに眼を眇めたり瞬きをしたりした。
「な、なにかございますかな、坊ちゃん? わかりませんが……?」
まさか。
見えないのだろうか?
「これだよ? わからない?」
僕は恐る恐る指でそこをなぞった。
ちいさな黒い染みみたいな、蚯蚓がのたくったみたいな――触れると、なんだか嫌な感じがする。あまり良いものではない――穢れだ。これは、そういった類の汚れだ。
それも……、
「……これ、文字だ」
僕は息を呑んだ。
文字は、旧い言葉だ。妖精語だ。
「エィアン……イミル……ラァーレ……」
――【大空は誰のもの】?
「……この仔、呪われてる!!」
驚いた様子でひとが集まってくる。
妖精語の呪いは、視える者と視えない者がいた。
魔力量が影響しているようだった。
竜厩舎にいる他の飛竜も調べてみれば、身体の一部に呪いの文言を刻まれた飛竜が次々と見つかった。
「早めに気付けてよかったです。呪いが広がる前に呪われた個体を隔離し、解呪しましょう。他の竜宿舎にも知らせないと……」
飛竜たちは、どこで呪われたのだろう。
僕はそれが気になりつつ、隔離されるシンディとレラを見送った。
「呪いが本格的に悪さを始める前に気付くことができたのは、よかったな。お手柄だぞ」
ロザニイルが隙有れば兄貴風を吹かせてくる。
「えらい、えらい!」
大きな手が犬でも可愛がるみたいに僕を撫でて、ネイフェンが「フーッ」と威嚇している。
なんだか、不穏なのに平和だ。
僕は毒気を抜かれた気分で肩のちからを抜いて、へらりと笑った。
……ロザニイルのこと、そんなに嫌いじゃないかもしれない。なんだか、近くにいると雰囲気が明るくなるのだもの。
そもそも、嫌いだと思っていたのだって理由のはっきりしない、得体の知れない感覚が原因なんだ。
そんなので嫌っていたら、ロザニイルに申し訳ないや。
僕はその日、そう思ったのだった。
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