魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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二章、未熟な聖杯と終末の予言

21、恋愛ポエムをつづりなさい、ロザニイルは箒に乗って

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「そうそう、カジャ陛下から例によって手紙が……」
 ひとしきり僕に癒しの時間を提供してから、ネイフェンが手紙を渡してくる。
「空腹ではいらっしゃいませんかな? お食事をお持ちしましょう」
 そう言っていそいそと部屋の外に出たネイフェンを見送り、僕はカサカサと手紙をひらいた。
 
「カジャ陛下は、暇なのかな」
 手紙にはありきたりな見舞いの文言が並んでいて、最後のほうに「これは命令ではないけれど、せっかくだから返答の手紙にはお兄様への恋愛ポエムをつづりなさい」などと酷いことが書かれていた。

「れ、れ、恋愛ポエム……?」
 羞恥プレイだ。
 カジャは絶対、楽しんでいる――僕は(あるいは、ノウファムも)カジャの玩具なのだ。

 手紙がもたらした憤りを持て余していると、コンコンと窓が叩かれる。

 視線を向けると、そこには場違いなほど陽気な笑顔を浮かべたロザニイルがいた。
 籠を片手にさげて、箒にまたがって飛んでいる。

「な、何をしてるんだ……」

 ロザニイルと僕は、別に親しい仲ではない。
 同じ魔女家で、従弟同士で、共に聖杯候補だった。僕が聖杯に選ばれて、ロザニイルは伸び伸びと発育し、体格も良い立派な青年となって魔術の天才ぶりを発揮している。
 僕は体調を崩しがちで寝込みがちなので、会う機会といえばこうしてたまーに相手がやってきてちょっかいを出してくる時くらいなものだ。
 
「よーう、エーテル。次期当主間違いなしのお兄様が見舞いにきてやったぞ! 天才のお兄様が会いにきてやったぞ! お土産もあるぞっ!」
 生命力旺盛な真夏の森みたいな緑の瞳をキラキラ輝かせて、溌剌とした声でロザニイルが笑う。
 ロザニイルはこんなタイプだったかな? 僕は夢と現実の狭間でちょっとだけ戸惑った。
 いや、こんなタイプだった。男らしくなって、自信に溢れていて、微妙に才能を鼻にかけているというか、お調子者って感じだ。
 
 ――僕は「こんなタイプだったかな?」なんて、どうして思ったんだろう。これがロザニイルだ。

 ……でも、「そうじゃなかった」という気持ちもなぜか頭のどこかにあるのが、不思議だ。
 
「窓からじゃなくて、扉から訪ねておいでよ……きてください、次期当主間違いなしの天才のロザニイル様」
「あぁっ、惜しいっ。そこはお兄様って呼んでくれないと」

 ニコニコしながら、ロザニイルは籠を差し出した。
 ブラックウィローの編み籠の中には、赤や紫の葡萄が入っている。
 メッセージカードが二枚入っていて、ぱらりと手に摘まんだ僕の心臓がどきりとなったのは、一枚がノウファムの文字で綴られていたからだ。

「あー、あいつも気にしてたぞ」
 さりげなく自分が書いたカードをつまんで「それよりオレのカード見て」と目の前でぷらぷらアピールしつつ、ロザニイルが教えてくれる。
「心配してた」
 
「……ありがとう、ロザニイル」
 あまり会うことのない僕よりも、ロザニイルのほうがノウファムと距離が近い。
 二人は、仲の良い友人なのだ。

 自分の指に填まった臣従の指輪を意識しながら、僕は葡萄をサイドテーブルに置いた。
 ふと目についた小瓶に、吸い寄せられるように手が伸びる。
 
「じゃ、届けてくれたお礼にこれをあげるよ」
 代わりに取ったのは、透明な小瓶。
 中に入っている薄紅の錠剤を一粒取って手のひらに置き、ロザニイルに差し出せば、ロザニイルはぎょっとした様子で目を丸くした。

「おいおい、そりゃ聖杯化の秘薬だろ。オレに寄こしてどうすんだ。オレに聖杯化しろってか?」
「ふふ……いらないならいいよ」
「……まあ、くれるっていうなら一粒もらっていくけどよ。成分とか気になってたし。とっておきの秘薬だもんな」

 ――ロザニイルならそう言うと思ってた。
 
 僕はどうしてかわからないけれど、心の中でそう呟いた。

「おっ、どした? 機嫌がよさそうな顔じゃねえか。さてはオレ様に会えて嬉しいんだろ。かーわいい奴め!」

 秘薬を懐にしまい込んだロザニイルが手を伸ばしてくる。
 僕が払いのけるより先に部屋の扉がひらいて、ネイフェンがロザニイルを睨みつけた。

「ロザニイル様!」
「ハアイ! オレよ!」
 
 ――ロザニイルは全く悪びれることなく明るく挨拶して、部屋の主みたいな顔をして騎士を出迎えた。
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