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二章、未熟な聖杯と終末の予言
19、陛下、ロザニイルを抱くのです。
しおりを挟む――ゆらゆらと揺られて、逞しい腕に運ばれている。
ノウファムが僕を運んでくれているのだ。触れ合う部分から伝わる体温が気持ちいい。嬉しい。
ノウファムはどうだろう。聖杯の僕は好みだろうか。成長した僕は彼好みに育つことができているだろうか――、
……僕は何故、そんなことを考えるのだろう。
まるで、恋でもしているみたい。
まるで、彼の心を欲しているよう。
そんなことにはならないのに。
【欲しがりなエーテル】
カジャの声が脳裏に蘇る。
寝台に寝かされながら、夢をみる――、
夢の中は、どんよりとした薄暗い視界で、太陽の日差しが遠かった。
それもそのはずで、空を見上げれば一面に何かが飛翔して上を覆っている。天を支配している。そこを伸び伸びと飛んでいたのは、数年前までは飛竜という生き物だったのに。
風は水気を含んでいて、潮と泥の匂いがした。
僕は高いところにいた。
塔の上だろうか。
見下ろす下界は、水没していた。
手には、杖があった。
赤竜の杖だ――僕はそう思った。
少し離れた場所に、ノウファムがいた。
現在よりももう少し年を重ねたノウファムは、硬質な金属鎧をかっちりと身に纏い、ゆったりとしたマントを背に揺らしていた。
左眼が眼帯で覆われている。右眼は、誰の言うことも聞かないというような頑なな意思の輝きを宿していた。
王様だ――僕は思った。
ここにいるのは、王様のノウファムだ。
王様のノウファムは剣を抜いた。
僕はその剣に眉を寄せる。
「陛下、これが最後です」
自分の声が別人のよう。
天から雨が降り注ぐ。少しずつ、確実に勢いを増して――地上が冷えていく。水に飲み込まれていく。そんな恐ろしい未来が予想できた。
「陛下、……ロザニイルを抱くのです」
僕の視線の先で、王様は首を振った。それは、はっきりとした拒絶だった。
――意識が覚醒していく。
夢だ。
夢だったのだ。
僕はベッドの中でぼんやりとそう思った。
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