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二章、未熟な聖杯と終末の予言
15、十字架、王兄殿下をお楽しみください(軽☆)
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『皆様よくご存じの悲劇の王兄殿下は、悪逆非道の奸臣勢に誑かされ、我らが敬愛するカジャ陛下に剣を向けてしまわれました』
感情の抑揚豊かなアナウンスが、この見世物の主役である王兄ノウファムを物語る。観客を煽り、盛り上げようとしているのだ。
『ですが! それは過去のこと――弟陛下の慈悲により、ただいま殿下は美しく険しい償いの道の中におられます! 一度悪に堕ちた魂の更生は容易くはありませんが、弟陛下ならびに皆様のあたたかな愛に見守られ、今日も王兄殿下は困難な道を進まれるのです!』
「ひ、ひどいアナウンスだ……」
僕は眉を寄せつつ、視線をノウファムにじっと注いだ。
王兄は、美男子だ。
燦燦と注ぐ陽光に艶めく肌色が、オニキスを溶かして流したような髪が、涼やかで理知的な目元が……衆目を虜にする。
筋肉質で均整の取れた身体付きを身分に似合う佳麗な戦装束で引き立てられている。苦難と実戦に磨きあげられた刃のような雰囲気が、少し危うい。
あれは誰の趣味だ――格好良いじゃないか。
「気に入ったかい」
「っ!」
カジャがふわふわと微笑んで、僕のまなじりにキスをした。
あやしげな動きの指先が首筋をなぞり、鎖骨のかたちを辿る。
「お前のお兄様だね、エーテル。お前のお兄様は格好良いね、エーテル?」
ふわふわとした声には、煽るような意地悪さがあった。
「……っ、は……っ」
衣装の上から布越しに胸を探られると、すこしずつおかしな気になってくる。
普段は意識しない箇所への微弱な、けれど執拗な刺激。
それが――むずがゆいような、甘く痺れるような、じわじわと熱を高められるような感じなのだ。
「い、いやだ……」
これは、いやだ。
僕がイヤイヤと身を捩ると、カジャはウンウンと笑った。
「気持ちいいね、エーテル。触れられるのは気持ちいいね」
苛めるようにちゅくちゅくと耳元で濡れたリップ音を奏でて、カジャは手を放した。
「私に触れられて気持ちいいなら、お兄様に触れられたらもっと悦いのではない? 想像してごらん、エーテル」
「……!!」
膝を撫でる手が、するっと内側にもぐりこむ。
膝裏のやわらかい場所をふにふにと押して、胎の方向へ熱を導くように指先が内股を滑っていく。
いやらしい動き。官能を……劣情を煽る刺激だ。
意識しないようにしても、意識が触れられる感触に持っていかれてしまう。
お腹の中が熱くなって、股の間がもどかしくて切ない感じになる。これは、危険だ――いけない。これ以上は、だめだ。だけど、自分ではどうしようもできない。
「……、や」
いやだ。
首を横に振り、もう一度言おうとしたとき、その動きが止まった。
「けれど、今はここまで……」
「……ふぁっ……?」
数人の兵がカジャの合図で僕の両手を縛って抱え上げ、どこかへと連れて行く――連れて行かれる。
耳には、アナウンスの続きが聞こえていた。
『本日のテーマは――【お姫様の救出】! かの有名な魔女家の【聖杯】を魔獣から救い出す王兄殿下をお楽しみください!』
お姫様――魔女家の聖杯。
「僕、嫌な予感がする……」
当たるんだ。だいたい僕の予感は。
兵たちが僕を大きな十字架にくくり、戦いの舞台に運んで「見栄えが良いように」とか「もう少しドラマチックに視えるように」とかコソコソ言いながら十字架を設置する。
両腕をあげる姿勢で舞台に少し傾いた角度で立つ十字架にくくられた僕は、角度のおかげでぎりぎり足が床に着いた。兵士さんたち、グッジョブだ。
足がつかないとたぶん、すごくつらい姿勢だと思うんだ……。
「【聖杯】を魔獣に襲わせるとは、さすがカジャ陛下。正気ではない」
「しっ、聞こえるぞ……」
「それにしても、見ろ。お美しい――ああして縛られていると陛下が苛めたくなるお気持ちもわかるというものだ」
「俺はそう思わん。ただただお可哀想でならぬ……」
ざわめき、どよめき、驚きと好奇心と――下劣な視線の集中する中、檻から魔獣が放たれた。
――悪趣味な見世物が、始まる。
感情の抑揚豊かなアナウンスが、この見世物の主役である王兄ノウファムを物語る。観客を煽り、盛り上げようとしているのだ。
『ですが! それは過去のこと――弟陛下の慈悲により、ただいま殿下は美しく険しい償いの道の中におられます! 一度悪に堕ちた魂の更生は容易くはありませんが、弟陛下ならびに皆様のあたたかな愛に見守られ、今日も王兄殿下は困難な道を進まれるのです!』
「ひ、ひどいアナウンスだ……」
僕は眉を寄せつつ、視線をノウファムにじっと注いだ。
王兄は、美男子だ。
燦燦と注ぐ陽光に艶めく肌色が、オニキスを溶かして流したような髪が、涼やかで理知的な目元が……衆目を虜にする。
筋肉質で均整の取れた身体付きを身分に似合う佳麗な戦装束で引き立てられている。苦難と実戦に磨きあげられた刃のような雰囲気が、少し危うい。
あれは誰の趣味だ――格好良いじゃないか。
「気に入ったかい」
「っ!」
カジャがふわふわと微笑んで、僕のまなじりにキスをした。
あやしげな動きの指先が首筋をなぞり、鎖骨のかたちを辿る。
「お前のお兄様だね、エーテル。お前のお兄様は格好良いね、エーテル?」
ふわふわとした声には、煽るような意地悪さがあった。
「……っ、は……っ」
衣装の上から布越しに胸を探られると、すこしずつおかしな気になってくる。
普段は意識しない箇所への微弱な、けれど執拗な刺激。
それが――むずがゆいような、甘く痺れるような、じわじわと熱を高められるような感じなのだ。
「い、いやだ……」
これは、いやだ。
僕がイヤイヤと身を捩ると、カジャはウンウンと笑った。
「気持ちいいね、エーテル。触れられるのは気持ちいいね」
苛めるようにちゅくちゅくと耳元で濡れたリップ音を奏でて、カジャは手を放した。
「私に触れられて気持ちいいなら、お兄様に触れられたらもっと悦いのではない? 想像してごらん、エーテル」
「……!!」
膝を撫でる手が、するっと内側にもぐりこむ。
膝裏のやわらかい場所をふにふにと押して、胎の方向へ熱を導くように指先が内股を滑っていく。
いやらしい動き。官能を……劣情を煽る刺激だ。
意識しないようにしても、意識が触れられる感触に持っていかれてしまう。
お腹の中が熱くなって、股の間がもどかしくて切ない感じになる。これは、危険だ――いけない。これ以上は、だめだ。だけど、自分ではどうしようもできない。
「……、や」
いやだ。
首を横に振り、もう一度言おうとしたとき、その動きが止まった。
「けれど、今はここまで……」
「……ふぁっ……?」
数人の兵がカジャの合図で僕の両手を縛って抱え上げ、どこかへと連れて行く――連れて行かれる。
耳には、アナウンスの続きが聞こえていた。
『本日のテーマは――【お姫様の救出】! かの有名な魔女家の【聖杯】を魔獣から救い出す王兄殿下をお楽しみください!』
お姫様――魔女家の聖杯。
「僕、嫌な予感がする……」
当たるんだ。だいたい僕の予感は。
兵たちが僕を大きな十字架にくくり、戦いの舞台に運んで「見栄えが良いように」とか「もう少しドラマチックに視えるように」とかコソコソ言いながら十字架を設置する。
両腕をあげる姿勢で舞台に少し傾いた角度で立つ十字架にくくられた僕は、角度のおかげでぎりぎり足が床に着いた。兵士さんたち、グッジョブだ。
足がつかないとたぶん、すごくつらい姿勢だと思うんだ……。
「【聖杯】を魔獣に襲わせるとは、さすがカジャ陛下。正気ではない」
「しっ、聞こえるぞ……」
「それにしても、見ろ。お美しい――ああして縛られていると陛下が苛めたくなるお気持ちもわかるというものだ」
「俺はそう思わん。ただただお可哀想でならぬ……」
ざわめき、どよめき、驚きと好奇心と――下劣な視線の集中する中、檻から魔獣が放たれた。
――悪趣味な見世物が、始まる。
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