魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

文字の大きさ
上 下
16 / 158
二章、未熟な聖杯と終末の予言

15、十字架、王兄殿下をお楽しみください(軽☆)

しおりを挟む
『皆様よくご存じの悲劇の王兄おうけい殿下は、悪逆非道の奸臣かんしん勢にたぶらかされ、我らが敬愛するカジャ陛下に剣を向けてしまわれました』

 感情の抑揚豊かなアナウンスが、この見世物の主役である王兄ノウファムを物語る。観客をあおり、盛り上げようとしているのだ。

『ですが! それは過去のこと――弟陛下の慈悲により、ただいま殿下は美しく険しいつぐないの道の中におられます! 一度悪に堕ちた魂の更生は容易たやすくはありませんが、弟陛下ならびに皆様のあたたかな愛に見守られ、今日も王兄殿下は困難な道を進まれるのです!』 

「ひ、ひどいアナウンスだ……」
 僕は眉を寄せつつ、視線をノウファムにじっと注いだ。
 
 王兄は、美男子だ。
 燦燦さんさんと注ぐ陽光に艶めく肌色が、オニキスを溶かして流したような髪が、涼やかで理知的な目元が……衆目をとりこにする。
 筋肉質で均整の取れた身体付きを身分に似合う佳麗かれいな戦装束で引き立てられている。苦難と実戦に磨きあげられた刃のような雰囲気が、少し危うい。
 
 あれは誰の趣味だ――格好良いじゃないか。

「気に入ったかい」
「っ!」

 カジャがふわふわと微笑んで、僕のまなじりにキスをした。
 あやしげな動きの指先が首筋をなぞり、鎖骨のかたちを辿る。

「お前のお兄様だね、エーテル。お前のお兄様は格好良いね、エーテル?」
 ふわふわとした声には、あおるような意地悪さがあった。
 
「……っ、は……っ」
 衣装の上から布越しに胸を探られると、すこしずつおかしな気になってくる。
 普段は意識しない箇所への微弱な、けれど執拗しつような刺激。
 それが――むずがゆいような、甘くしびれるような、じわじわと熱を高められるような感じなのだ。

「い、いやだ……」
 これは、いやだ。
 僕がイヤイヤと身をよじると、カジャはウンウンと笑った。
「気持ちいいね、エーテル。触れられるのは気持ちいいね」

 苛めるようにちゅくちゅくと耳元で濡れたリップ音を奏でて、カジャは手を放した。

「私に触れられて気持ちいいなら、お兄様に触れられたらもっといのではない? 想像してごらん、エーテル」
「……!!」
 
 膝を撫でる手が、するっと内側にもぐりこむ。
 膝裏のやわらかい場所をふにふにと押して、胎の方向へ熱を導くように指先が内股を滑っていく。
 いやらしい動き。官能を……劣情を煽る刺激だ。
 意識しないようにしても、意識が触れられる感触に持っていかれてしまう。
 お腹の中が熱くなって、股の間がもどかしくて切ない感じになる。これは、危険だ――いけない。これ以上は、だめだ。だけど、自分ではどうしようもできない。
 
「……、や」
 いやだ。
 首を横に振り、もう一度言おうとしたとき、その動きが止まった。  

「けれど、今はここまで……」
 
「……ふぁっ……?」
 
 数人の兵がカジャの合図で僕の両手を縛って抱え上げ、どこかへと連れて行く――連れて行かれる。
 
 
 耳には、アナウンスの続きが聞こえていた。

『本日のテーマは――【お姫様の救出】! かの有名な魔女家の【聖杯】を魔獣から救い出す王兄殿下をお楽しみください!』


 お姫様――魔女家の聖杯。
「僕、嫌な予感がする……」
 当たるんだ。だいたい僕の予感は。
 

 兵たちが僕を大きな十字架にくくり、戦いの舞台アリーナに運んで「見栄えが良いように」とか「もう少しドラマチックに視えるように」とかコソコソ言いながら十字架を設置する。
 両腕をあげる姿勢で舞台に少し傾いた角度で立つ十字架にくくられた僕は、角度のおかげでぎりぎり足が床に着いた。兵士さんたち、グッジョブだ。
 足がつかないとたぶん、すごくつらい姿勢だと思うんだ……。

「【聖杯】を魔獣に襲わせるとは、さすがカジャ陛下。正気ではない」
「しっ、聞こえるぞ……」
「それにしても、見ろ。お美しい――ああして縛られていると陛下が苛めたくなるお気持ちもわかるというものだ」
「俺はそう思わん。ただただお可哀想でならぬ……」 

 ざわめき、どよめき、驚きと好奇心と――下劣な視線の集中する中、檻から魔獣が放たれた。


 ――悪趣味な見世物が、始まる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...