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二章、未熟な聖杯と終末の予言
14、円形闘技場、残念でしたね(軽☆)
しおりを挟む王都に建設された円形闘技場は、四層構造の円形の観客席が戦いの舞台をぐるりと囲んでいる。
天井はひらけていて、青空と陽光が眩しい。
招待状を手に連行されたのは、国王が座する特別観覧席だ。
移動中、好奇の視線がうんざりするほど感じられる。
「ご覧になって、魔女家の……」
「国王陛下の……」
暴君の呼び声高き国王カジャは、この数年で随分と背丈が伸びて大人びた。呆れるほど激動の数年間を過ごしてきたのに、僕と違って寝込んだりもせず健康そうだ。
このカジャという王が倒れる姿は、僕には全く想像できない。
自然の世界にただ一人不自然に生まれ落ちた――そんな絶対的な王者が、目の前にいる。
長い睫毛に彩られた銀色の瞳が瞬いて、カジャの視線がこちらを見る。
動きに合わせてさらりと流れる髪は、綺麗だ。
視線はいつも冷えていて、無機質。唇が動くと、濡れた舌がちらりと赤い色をのぞかせて、妖しい感じがする。
「エーテル、髪を切ったのか。もったいないな」
柔らかな声は愉し気なようでいて、本当は全然楽しくもなんともないって感じの虚しい気配だ。いつも。
「しかし、短いのも似合う」
白い手が伸びてきて、前に抱える姿勢で同じ椅子に座らされる。
距離が近い。耳元に吐息がかかる。
「今日はお薬を飲んだのかい、王国の聖杯」
「義務ですから……、っ」
カジャの手が獣を愛でるような温度感でするりと動き、僕の腹のあたりを撫でた。
何気ない動き。
それが、皮膚の内側に言いようのない感覚を生んで僕は身を固くした。
「どれどれ。味見をしてみよう」
悪戯っ子のように艶やかに笑み、カジャが僕の耳たぶをぺろりと舐める。
ぞわり――熱く濡れた感覚と吐息に、肌が粟立つ。
濡れた個所にカリッと歯を立てられると、痛みがビリッと走った。
「んっ……!」
咄嗟に口を手で押さえて声を堪えると、カジャは「えらいえらい」と揶揄うように呟いた。
そして、血が滲む皮膚に唇をつけ、ちゅぅ、と吸う――小動物を愛でるみたいに、片手で僕の顎を撫でながら。
「……っ、ぅ……」
声なんて、出すものか。
ふるふると肩を震わせて耐える耳には、残念そうな吐息がかけられた。
「イマイチだ。薄い。未熟だな、あまり魔力増強効果が期待できないぞ」
言葉の震動が皮膚を敏感にさせて、意識が集中したところにヌルりと舌が挿し込まれる。
「んっ」
耳の内側が舌先でくすぐられるようにされると、肩をあげて反応してしまって――頬が火照る。
「……はぁっ、……」
皮膚への刺激に心が乱されて体温があがるようで、平静をうまく装えない。
僕は気を紛らわせるように思考した。
魔女家の秘薬で体質を変じた【聖杯】の体液は、王族の魔力を向上させることができるのだ。
……『味見』で摂取した血液は、期待外れだったらしい。
「……陛下、残念でしたね、……っ」
「エーテル、そこは『僕が未熟でごめんなさい』と言うべきかな」
生意気だ、と笑い――けれどカジャは許してくれるようだった。
『さて、本日の剣闘会は特別な趣向を凝らしてお送りします!』
会場に拡声魔導具によるアナウンスが響いている。
カジャの手が傍に置かれた皿から真っ赤なヨツヅミの果実をつまみ、僕の口元に運んでくる。
「《お食べ》」
命じられるまま口を開けると、しゃりしゃりとした酸味のある果実の味がする。素朴な味だ。
『さあお待ちかね! 王兄殿下のご登場です!』
戦いの舞台に登り、声援を受けるのは、カジャの兄――王兄であるノウファムだ。
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