魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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一章、狂王子と魔女家の公子(オープニング)

8、聖杯ってなんだっけ

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 ――

 微睡まどろみの中で、僕はぐるぐるとそんな思いに駆られていた。
 
 塔が折れた日、魔女家は結界を破られて大空と陸地と内部から侵攻を受けたらしい。世の中の情勢はわからないけれど、僕はなんとなく魔女家がしくじって、カジャにめられたのだと理解した。
 
 重傷を負った僕は、数か月間をベッドの上で過ごした。
 せっかく部屋の外を歩けるようになったばかりだったのに。

 しかも、日夜カジャに嘲笑われる悪夢にうなされるオプション付きだ。
 
【アッハハハ! エーテル、お前は恥ずかしい奴だなぁ! ッハハハ!!】
 カジャはいつも笑っている。狂ったように笑って僕を莫迦ばかにする……。
【いいよ! やるよ! そいつ、お前の兄さんにしてやるよ!!】
 
 現実でそんなことを言ったのかはわからないが、ノウファムはカジャに連れて行かれることもなく、魔女家に残っているようだった。おおやけの扱いがどのようになっているのかは、病床で情報が獲得しにい僕にはよくわからないけれど。 

「坊ちゃん、ご体調はいかがですか? お兄様方がいらしてますぞ」
 二足歩行のネコ騎士、ネイフェンがベッド脇にて見舞い客を教えてくれる。
 
 ノウファムとロザニイルが肩を並べて訪れると、僕はちょっとだけ窓の外に視線を逸らした。
 灰色めいた空から、白い雪がふわふわと降っている。
 外は、寒そうだ。
 
「僕、元気が有り余ってるよ。どこももう痛くないし……外に出たいな」
「お外は寒いですから」
「うん」 
 
 この二人は、僕が寝ている間にちょっと仲良くなっている。
 年齢も近いし、ピンチを共にしたから絆が深まるとか、そういうのがあったりするんじゃないだろうか?

「眺めているだけで楽しい絵本をもってきたぞ。お前、本が好きだろう?」
 
 ノウファムがそう言ってカラフルな絵本のページを広げてくれる。グリフォンやドラゴンが出てくるお話は、冒険心をくすぐる内容でワクワクした。
 
「兄さんとチェスするか?」
 隣でロザニイルがチェス盤をサイドテーブルに置いてくれた。
 
「ロザニイルは兄さんじゃない」
「可愛げのないオチビさんだな、なんだよこっちが歩み寄ってるのに」
「僕もそう思う」
 チェスの駒を取り合っていれば、ノウファムが勝負を見守りながら【聖夜祭】の話をしてくれる。

「【聖夜祭】は、パーティに一緒に出ような。ご馳走が食べられるぞ」
「ノウファム様はご馳走ばかり楽しみになさってるんだ」

 機嫌よく語るノウファムの言葉をロザニイルが茶化す。

「プレゼント交換とか、魔術比べとか、ダンスとか、花火とか、飛竜騎士が竜に乗せてくれたりとか。楽しいぞ!」
「そうそう、楽しいんだ!」

 年長者の気配を濃く漂わせて、二人が「楽しいぞ、楽しいぞ」とワクワク感を煽るようなことを言っている。

「兄さんたち、子供っぽい」
 僕はくすくすと笑った。
「楽しみにしてるね」

 平穏を装う日常の雰囲気の中、僕の耳には防諜魔術による黒魔術師アップルトンのコソコソ話が聞こえていた。

「狂王子は、次期【聖杯】をロザニイル様ではなくエーテル様にするように魔女家に圧力をかけているようで……断れるものではありますまい」

 【聖杯】ってなんだっけ。
 記憶を探りつつ、僕は差し出されたホットドリンクのマグを傾けた。

 中身はとろりとしたチョコレートドリンクで、ちっちゃな白いマシュマロが浮かべてあって、甘々だ。
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