魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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一章、狂王子と魔女家の公子(オープニング)

7、臣従の指輪と誓いのキス

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「僕のだよ」
 僕は反射の速度で言い返していた。
「『俺はお前のお兄さんだ』って言ってくれたんだ」

 その言葉を引き出したのだ。
 そう誇るように言う自分が、なんだかみじめに思えるのが不思議だった。
 これ、どういう心理? ……自分でもよくわからない。

「クッ、……エーテル。お前……歪んでる……ハハ、アハハ!」
 カジャが僕すらも知らない僕の心を見透かしたようにケラケラと笑いだしたから、僕は林檎みたいに真っ赤になった。
 すごく恥ずかしい気分だった。きっとカジャは僕よりも僕のことをわかってる。それで、カジャの眼から見て僕は恥ずかしいことをしてるんだ。そんな気持ちがブワッと湧いた。

「お莫迦ばか。おまぬけ。二人揃って、ああ、救いがたい!」

 カジャはふわりと距離を詰めて、警戒する暇もなく僕の手を取った。後ろでロザニイルが悲鳴をあげて、壁のあたりに飛ばされて拘束されている。
 僕ときたら、ロザニイルの悲鳴がちょっと「悪くない」と思ってしまって自己嫌悪を覚えてしまった。
 
 感情は、理屈じゃない。
 理由もなく、ふっとそんな気が湧いてしまうのだ……。
 
 ……反応を返す暇もなく、指に指輪がめられる。
 小さな指輪は、銀色で精緻せいちな装飾がびっしりとほどこされていた。僕は、この指輪を知っている――、

「臣従の指輪だ」
 カジャが美しく微笑んだ。
 大切な何かを手放してしまったような異様な美だ。
 見ているだけで不安になるような、痛々しい綺麗さだ。
 
「お前の兄さんにも填めてやった。これで、お前たちは私の命令に逆らえない……試してみようか? 可愛いエーテル」

 カジャは赤毛を愛でるように僕の頭を撫でて、こめかみに小鳥がついばむようなキスをした。
 そして、恐ろしく冷たい目になって命令を発した。

「ノウファム、《この子に誓いを》」

 連なる言葉と従うノウファムに、僕は呆然ぼうぜんとした。

 
「殿下!」
「エーテル様……!」
 
 部屋の外からバタバタと足音が続いて、大人たちが外から駆け付ける。
 負傷しているネイフェン、黒騎士モイセス。
 白くて長い髭に立派な杖を持った魔女家のお爺様。
 それに続くローブ姿の魔術師たち、騎士たち……、
 
 
 大人たちの視線が集まる中、狂王子が見守る中、臣従する二人による義兄弟の誓いが成される。
 
「家族のように、盟友のように、心を同じくして助け合い、生死を共にする――」
 
 ノウファムがうつろな声で言葉を響かせる。

【嬉しいだろう?】
 カジャの目が笑っていた。

 指にはそろいの臣従の指輪が填められていて、一度指輪同士の表面をこすり合わせるようにしてから、ノウファムは僕に顔を近づけた。

 いい子、いい子と小さな子を愛でるような温度感で、頬が撫でられる。
 きっとよくわかっていない。
 吐息が肌をくすぐって、動物の同士が匂いを確かめ合うみたいに鼻先が触れて、唇がちょっとだけ接触して、何もなかったようにすぐに離れた。
 
 言われるまま、自分の意志ではなく命令に従うだけのキスは、ひんやりとしていた。
 むなしくて、淋しい感じがした。


「立ち合い人も多くてなによりだね」

 呆然とする大人たちを振り返り、カジャが楽し気に笑う。
 魔女家の爺さんが杖を振り、赤い魔力が波のように空間を奔る。
 

「エーテル、《私を守れ》」

 
 ――カジャの命令が聞こえる。
 僕はその言葉を耳にするやいなや、反射の速度で身を躍らせて赤い魔力の波に全身を差し出した。

 衝撃が全身を打ち、灼熱の炎が外側の肌を焼き、自分のモノと思えぬ獣めいた悲鳴があがる。
 
 
「――あ゛うっ!!」 

 
 一瞬の苦痛の後、意識がふつりと闇に堕ちる――僕は身をていしてカジャを守り、倒れたのだった。
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