魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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一章、狂王子と魔女家の公子(オープニング)

5、やっぱりフラグだったんだ!

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「従弟のロザニイル様です。年長者ですが畏まる必要はありませんぞ。お立場はエーテル様の方が格上でございますゆえ、ふんぞり返っておやりなさい」
 
 ネイフェンがそっと耳打ちしてくれる。
 ネイフェンの助言はちょっと過激な気がするのだけど、大丈夫だろうか?
 僕は心配になりつつ、頷いておいた。

「ロザニイル、ちゃんとお医者さまにてもらってね。頭って大丈夫そうにみえて大丈夫じゃなかったりする……」
「オレの頭がおかしいって?」
「うーん。悪口みたいに聞こえた? 僕、そんなつもりじゃなかったんだ……」

 言葉ってむずかしい。
 というか、僕は一応、年下だぞ。結構、年離れてるぞ。ロザニイル、ノウファム兄さんを見習ったらどうだ。
 僕は眉を寄せた。

「ロザニイルは、僕と同レベルに幼いらしい」
「なにっ!」
「あ、口に出てた」

 大人たちが図書館の内側でも外側でも慌ただしく走り回っている。
 大きな地震だったからだろう。みんな、大丈夫だろうか。僕はなんとなく現実から気持ちを逸らすように視線を本に向けた。
 
 いや、だって。ちらっと窓の外に見ない方がいい現実が視えた気がしたんだ。
 さっきネイフェンが自慢していた魔塔が一個折れてた……なんて、気のせいだよね。
 

「お坊ちゃんたち、ちょっと移動しましょうか! お菓子を用意させましたから、ティータイムにしましょう。ねっ! 名付けて『ぐらぐら怖かったねティータイム』です!」 
 黒魔術師がそう言って、僕たちは『避難』することになった。ロザニイルもいっしょだ。

 ティータイムとか言ってるけど、僕は絶対これ『避難』だと思う。
 だって、城中に大きな音で警報みたいなのが鳴って武器を持った人たちが走り回っているもの……。

 ちなみにこの『避難』の最中に知ったのだけれど、黒魔術師はアップルトンという名前で、黒騎士はモイセスというらしい。
 
 ちょっと足早に連れていかれた先は、地下だ。
 避難するなら地下だよね。わかる。

 行ってみると、元々用意していたからだろうか――地下の一室にティータイムって感じのテーブルセットが整っていた。
 頑張ったらしい。

 広々とした部屋の外側は、物々しく武装した兵たちがピリピリした気配で守っている。

 しかし内側は、甘ったるいお菓子の匂いと紅茶の香りで別世界だ。
 
 茶色い素朴な木製テーブルに白レースのテーブルクロスがかけられて、薄紅の花を活けた花瓶が飾られて。
 人数分のチョコレートドリンクに、紅茶。
 
 粒状のトッピング菓子――銀のアラザンが真珠みたいにキラキラしている、パステルカラーのクリームがのったデコレーションカップケーキが食欲をそそる。
 ラズベリークリーム、ピスタチオクリームといった味わい深いクリームに、花のかたちの白チョコレートが添えられていて、華やかだ。
 グラス入りの無色透明のクリアなミントジュレは爽やかな香りを控えめに発していて、美味しい。
 
 サクサクに焼き上げたシュー生地には小さな旗が立てられている。
 中は、イチゴ味のホイップクリームがたっぷりだ。甘い。酸っぱい。甘酸っぱい。

 クルミとナッツがいっぱいのキャラメルタルトも表面がつやつやしていて、美味しそうだなあ……。

「美味しいね」
「あ、ああ……」
 年長組が顔を合わせて不安そうにしている。二人もわかっているのだろう、今なんかヤバイぞって。
  
 いいんだ。現実逃避しても。
 だって、僕たち子供だし。
 何もできないじゃないか。大人しく「お菓子おいしい」って言ってたらいいと思うんだ――ネイフェンと黒騎士が部屋の外に出たきり戻ってこないけど、大丈夫かな? お、お菓子は美味しいなぁ……大丈夫かなぁ……。

 
「へえ、さぞ震えているだろうと思いきや、優雅にティータイムなんてしてるじゃないか」

 
 現実逃避していた僕の耳に、面白がるような高い声が聞こえた。
 同じくらいの年頃の少年の声。男の子――【カジャ】。
 声を聞いた瞬間に脳裏にその名前が閃いて、僕は硬直した。

「下々が必死に防衛しているのに、ご主君はお菓子に夢中、と――ふふ、悪いご主人様だね」


 視界の隅で、部屋の中にいた大人たちが眠るように倒れていくのが見える。
 アップルトンがくたりと壁際で倒れ込むのがとてもゆっくり認識できて、僕はその【同年齢の王子】を視た。


 真っ白だ。

 肌も、髪も、瞳も。
 
 白皙の肌は、雪のよう。
 髪は、煌めく銀色だ。とても繊細で、綺麗だ。
 瞳も不思議な銀色で、美しい。

 唇は、赤かった。
 自然な血色に色づいていて、蠱惑的だ。

 あと、ちっちゃい。

 お子様だ。
 僕と同じ年齢だもの。

 けれど、小さい彼は誰もが無視できない圧倒的な存在感を放っていた。
 不穏で、胸がざわざわして怖くなる。そんなオーラがあった。

 笑顔は綺麗で、それが凄く恐ろしい。



 ――【狂王子】。


 人は彼をそう呼んでいるのだ。
 ……そう呼ばれる彼が、僕の眼の前に訪れたのだ。
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