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一章、狂王子と魔女家の公子(オープニング)
3、僕、コソコソ話を全部聞いているよ
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「敷地内を散歩してたのか。俺も一緒に行こう」
ノウファムは汗をぬぐい、散歩についてきた。
結局、僕はノウファムの邪魔をしてしまったわけだ? そう思いつつ、僕は右手にネイフェン、左手にノウファムと手をつないで上機嫌で手を揺らした。
「公子様はノウファム様に突然懐かれたご様子で」
ノウファムの護衛らしき黒騎士が黒ローブの魔術師と囁く声が聞こえる。僕は耳が良いみたいで、コソコソ話がよく聞こえるのだ。
「前は人見知りなさっておいででしたが人懐こくていらっしゃるようで。ご記憶を無くされると人見知りが治ったりするのでしょうか?」
僕は人見知りだったらしい。
何も聞こえてませんって顔で曲がり角を曲がると、大きな建物が見える。僕はなんとなくその建物に親しみを覚えた。きっとお気に入りの場所だったんだ。
「エーテル様、あの建物は図書館でございますぞ。エーテル様は本がお好きで、ご年齢に見合わぬ分厚い本をたくさん読んでおられたのです」
ネイフェンが我が子を自慢する父親みたいな顔で語っている。
「偉ぶってるだけのどこぞの王族連中とは大違い!」
「そのご発言は微妙でござるな」
「前々から思っていましたが、魔女家は王族に対して不敬すぎませんか」
黒騎士と黒魔術師が、ネイフェンに剣呑な気配をのぼらせている。
魔女家は王族に対して不敬……。
黒騎士と黒魔術師は、魔女家の身内ではないらしい。
僕はその事実を覚えておこうと思った。
「お前たち、不穏な空気になるのはやめないか。我々は魔女家に助けて頂いているのだぞ」
「ええ、ええ! 我々はいつ貴方たちを狂王子に突き出しても良いのですからね!」
「――この猫野郎!」
ノウファムが従者二人を取りなして、ネイフェンが煽り、従者二人が殺気立つ。
なるほど、なんとなくこの人たちがわかってきたかもしれないよ。僕は「ふむふむ」と情報を咀嚼しながら、いかにも「僕は子供でえす」って声で口を挟んだ。
「ケンカはいけないんだよ」
図書館の扉をくぐると、外から見るよりも立派な本棚の群れがずらりと並ぶ、本好きであれば宝の山と称するような空間が広がっていた。
天井にはカラフルな絵画が描かれていて、雅やかだ。
「わぁ、本がたくさん。僕、ここが好き」
僕は頬を林檎みたいに紅くして呟いてから、ネイフェンを見上げた。
「ネイフェン」
「はっ」
ネコの騎士は、僕が何を言うかわかったのだろうか?
ちょっとネコヒゲをしおしおさせて畏まっている。
「お客さまに失礼なことを言うのは、だめなんだよ」
「失礼いたしました……」
あどけない声で言えば、視線が集中するのを感じる。ちょっとむずがゆい感じだ。
「ちなみに、何か思い出されたので?」
そろそろと問いかけられて、期待の気配を感じながら僕は頭を横に振った。
「ぜんぜん」
そう言った瞬間、期待ががっかりに変わるのがわかる。ちょっと申し訳ない感じだ。
「エーテル公子は、なにやら記憶を失う前より大人びたご様子では?」
黒騎士と黒魔術師が囁きを交わしている。
僕は魔術師が先ほどからコソコソ話をする時に防諜の術を使っていることに気づいた。相手と自分以外に声が聞こえなくなる高等魔術だ。
君たちのコソコソ話は全部聞こえてるよ、と言ってやったらどんな反応をするだろう?
けれど、そうしたら彼らは僕の近くでコソコソ話をするのをやめてしまうだろうから、僕は黙っておくことにした。
心の中で情報をまとめながら。
つまり、魔女家はとっても権力があるお家で、王族に不敬。ノウファムたちは狂王子と敵対関係にある。魔女家はノウファムたちを――たぶん、匿っているんじゃないだろうか? ……と。
ノウファムは汗をぬぐい、散歩についてきた。
結局、僕はノウファムの邪魔をしてしまったわけだ? そう思いつつ、僕は右手にネイフェン、左手にノウファムと手をつないで上機嫌で手を揺らした。
「公子様はノウファム様に突然懐かれたご様子で」
ノウファムの護衛らしき黒騎士が黒ローブの魔術師と囁く声が聞こえる。僕は耳が良いみたいで、コソコソ話がよく聞こえるのだ。
「前は人見知りなさっておいででしたが人懐こくていらっしゃるようで。ご記憶を無くされると人見知りが治ったりするのでしょうか?」
僕は人見知りだったらしい。
何も聞こえてませんって顔で曲がり角を曲がると、大きな建物が見える。僕はなんとなくその建物に親しみを覚えた。きっとお気に入りの場所だったんだ。
「エーテル様、あの建物は図書館でございますぞ。エーテル様は本がお好きで、ご年齢に見合わぬ分厚い本をたくさん読んでおられたのです」
ネイフェンが我が子を自慢する父親みたいな顔で語っている。
「偉ぶってるだけのどこぞの王族連中とは大違い!」
「そのご発言は微妙でござるな」
「前々から思っていましたが、魔女家は王族に対して不敬すぎませんか」
黒騎士と黒魔術師が、ネイフェンに剣呑な気配をのぼらせている。
魔女家は王族に対して不敬……。
黒騎士と黒魔術師は、魔女家の身内ではないらしい。
僕はその事実を覚えておこうと思った。
「お前たち、不穏な空気になるのはやめないか。我々は魔女家に助けて頂いているのだぞ」
「ええ、ええ! 我々はいつ貴方たちを狂王子に突き出しても良いのですからね!」
「――この猫野郎!」
ノウファムが従者二人を取りなして、ネイフェンが煽り、従者二人が殺気立つ。
なるほど、なんとなくこの人たちがわかってきたかもしれないよ。僕は「ふむふむ」と情報を咀嚼しながら、いかにも「僕は子供でえす」って声で口を挟んだ。
「ケンカはいけないんだよ」
図書館の扉をくぐると、外から見るよりも立派な本棚の群れがずらりと並ぶ、本好きであれば宝の山と称するような空間が広がっていた。
天井にはカラフルな絵画が描かれていて、雅やかだ。
「わぁ、本がたくさん。僕、ここが好き」
僕は頬を林檎みたいに紅くして呟いてから、ネイフェンを見上げた。
「ネイフェン」
「はっ」
ネコの騎士は、僕が何を言うかわかったのだろうか?
ちょっとネコヒゲをしおしおさせて畏まっている。
「お客さまに失礼なことを言うのは、だめなんだよ」
「失礼いたしました……」
あどけない声で言えば、視線が集中するのを感じる。ちょっとむずがゆい感じだ。
「ちなみに、何か思い出されたので?」
そろそろと問いかけられて、期待の気配を感じながら僕は頭を横に振った。
「ぜんぜん」
そう言った瞬間、期待ががっかりに変わるのがわかる。ちょっと申し訳ない感じだ。
「エーテル公子は、なにやら記憶を失う前より大人びたご様子では?」
黒騎士と黒魔術師が囁きを交わしている。
僕は魔術師が先ほどからコソコソ話をする時に防諜の術を使っていることに気づいた。相手と自分以外に声が聞こえなくなる高等魔術だ。
君たちのコソコソ話は全部聞こえてるよ、と言ってやったらどんな反応をするだろう?
けれど、そうしたら彼らは僕の近くでコソコソ話をするのをやめてしまうだろうから、僕は黙っておくことにした。
心の中で情報をまとめながら。
つまり、魔女家はとっても権力があるお家で、王族に不敬。ノウファムたちは狂王子と敵対関係にある。魔女家はノウファムたちを――たぶん、匿っているんじゃないだろうか? ……と。
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